投稿日 2025/02/02

カラオケ革命 「サビカラ」 。タイパの申し子に学ぶ、思考の枠を外す方法

#マーケティング #顧客価値 #タイパ

業界や自社商品の 「当たり前」 を疑ったことはありますか?

 「お客さんが本当に楽しみたい部分はどこか?」 という問いかけが、今までの常識を覆し、お客さんに新しい価値を提供する糸口になります。

固定観念に気づき、とらわれから抜け出し、お客さんの潜在的な本当のニーズを探ることで、自社のビジネスも変わるかもしれません。

ユニークなカラオケサービスの事例から、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

サビカラ


出典: JOYSOUND

通信カラオケの JOYSOUND を展開するエクシングが、「サビカラ」 という新しいカラオケのサービスを展開しています。

サビのみのカラオケ

サビの部分だけがカラオケになったもので、1曲あたり1分前後、短いものでは30秒程度のものもあります。例えば、YOASOBI の人気曲 「アイドル」 のサビカラはわずか34秒です。

サビカラで提供する音源は、通常のカラオケとは別で用意されています。2021年冬のサービス開始以降、毎月10 ~ 20曲程度ずつ増えていて、現在は歌える曲は500を超えます。

曲のサビ部分だけを効率的にサクサクと歌えるということで、タイパ (タイムパフォーマンス) を重視する若者には人気です。

サビカラでの人気曲


出典: 日テレ

サビカラでよく歌われる曲のランキングを見ると、フル尺のカラオケランキングとは異なり、懐かしの平成や昭和の曲が上位を占めている点が興味深いです。

例えば、aiko の 「カブトムシ」 やポルノグラフィティの 「サウダージ」 などです。サビカラのランキング上位にくるこれらの曲は、サビ部分を歌っていて爽快感があり、皆が知っているため選ばれやすいのでしょう。

サビカラが利用されるシーン

では、サビカラをどんな時に使われるのでしょうか?

サビカラは、友人などの仲間で数カ月に一度くらいの頻度でカラオケに行くライトユーザーの利用が多そうです。サビだけをずっと高いテンションで歌い続けられ、手っ取り早く盛り上がれます。

家族や世代の違う人と一緒にカラオケに行った時に、お互いが相手の好きな曲に馴染みがない状況では、サビだけで歌い合うというのサビカラの利用のされ方もありそうです。

また、特定の状況でだけサビカラを使うというパターンも考えられます。具体的には、曲を選んでいるときに予約された曲がないと、その間は無音の時間でどこかもったいないように感じるものです。サビカラなら1分前後なので、次の曲の選定中の 「つなぎ役」 としてうまくハマりそうです。

他のサビカラの使い方としては、カラオケの終盤、残り時間が少ない時に重宝しそうです。残り時間が10分を切ったあたりからは、まだ少し歌い足りない場合は利用時間を延長することができます。しかし、ここでサビカラを使えば、10分以内でもまだ何曲も歌えます。終盤までは普通のカラオケをし、最後はサビカラを選ぶという使い方です。

いずれにも共通するサビカラの使い方には、時間を効率的に使い、カラオケの利用時間を最大限にいかに楽しみ尽くすかという消費者心理が見られます。


学べること


では、サビカラの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

今回の事例からは、これまでのカラオケにおける常識、具体的には 「カラオケは1曲をまるごと歌うもの」 という固定観念を覆し、ユーザーに新たな顧客価値を提供したという点で示唆的です。

既存の常識への挑戦が新たな価値を創出する

これまでカラオケは、曲のイントロからエンディングまで歌うというスタイルが主流であり、それが当たり前のこととされていました。最後の歌詞のない演奏部分だけをカットすることはあっても、最初のイントロ部分の始めは流す必要があります。

一方のサビカラは、この 「一曲まるごと」 という常識を打破し、曲の一部分の中でもサビというその曲で最も盛り上がる部分だけにフォーカスすることで、新たなカラオケの楽しみ方を打ち出しました。

この発想は、カラオケは曲全体を楽しむものだという前提に対し、「お客さんが本当に楽しみたい部分はどこか?」 という根源的な問いかけを投げかけてのことです。その答えとしてエクシングはサビ部分に注目したわけです。

業界の常識に疑問を持ち、お客さんの潜在的なニーズを探ることによって、新しいサービスや体験を生み出せるという教訓が導き出されます。

顧客体験の最適化による価値提供

サビカラは、従来のカラオケでの 「曲を始めから終わりまで全て歌う」 というスタイルを見直し、カラオケ利用者が最も楽しめる 「サビ」 に着目しました。

これにより、タイパを重視する Z 世代の若者層に、短い時間で満足感を得られるというカラオケでの新たな顧客体験をもたらしました。

ここで重要なポイントは、お客さんが価値を感じる瞬間をシャープに切り取り、その瞬間に集中したことです。カラオケの本質的な楽しみ (歌う喜び, 仲間との一体感) を損なうことなく、むしろ楽しみを強化する形で新しいサービスをつくりました。

このアプローチは、ビジネスでは商品やサービスの全体ではなく、お客さんが最も価値を感じる部分に焦点を当て、そこに最適化された体験を提供することが、顧客満足度を高めることを示唆します。

部分的な体験が全体よりも価値を持つこともある

サビカラは、曲のフル尺で歌うことがカラオケの当たり前という常識に対して、サビのみという部分的なカラオケを用意することで、満足感の高い体験を実現しました。

サビカラの事例は、部分的な体験が全体に勝ることがあるという教訓を与えてくれます。ビジネスではお客さんが本当に必要としている領域を見極め、強調することで、効率的に価値をお客さんに実感してもらえる可能性があることを示しています。

SNS やデジタルメディアの影響を受けた消費行動への適応

サビカラは TikTok やインスタなどの SNS 、YouTube などの動画視聴サイトがもたらす 「短尺動画文化」 とも関連性があります。

SNS の影響で、若者は 「サビしか知らない」 や 「サビしか歌えない」 といった現象が広がり、これがサビカラの人気を後押したことでしょう。

この事象から学べるのは、SNS やデジタルデバイスが人々の行動に影響を与えている中で、その影響を積極的に取り入れたサービス設計が求められるということです。SNS やデジタルプラットフォームのトレンドに適応し、顧客価値に変換することがポイントになります。

ライトな体験が新たな顧客層を取り込む

サビカラは、これまで1曲をフルで歌うカラオケを楽しんでいたヘビーユーザーに加え、カラオケのライトユーザーや利用する時間が限られた層にまでリーチします。

サビのみのカラオケサービスを別で用意し、サクッと短時間で効率よく楽しめる体験にすることで、従来のカラオケの市場の外にいた新しい顧客層を取り込むことができ、これは他の業界でも応用可能です。たとえば、複雑なサービスや製品を簡素化し、エントリーレベルの体験を提供することによって、新たな顧客層を獲得するというふうにです。

今の市場の外からお客さんを呼び込めないか考え、「Out of the box」 という思考の枠組みの外側に目を向ける発想を持つことにより、新しいビジネスチャンスを捉えることができます。

まとめ


今回は、サビのみを歌うカラオケサービスの 「サビカラ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • サビカラは 「カラオケは1曲をまるごと歌うもの」 という常識を覆し、サビ部分だけを歌える新しいカラオケサービス。「お客さんが本当に楽しみたい部分はどこか?」 という問いかけから生まれた

  • 業界の当たり前に疑問を投げかけ、お客さんの潜在的なニーズを探ることで、新たな顧客価値をつくり出せる。サビカラは、お客さんが最も楽しめる瞬間である 「サビ」 だけを歌うことで、短時間で満足感を得られる

  • ライトな体験が新たな顧客層を取り込む可能性をサビカラは示す。たとえば複雑なサービスや製品を簡素化し、エントリーレベルの体験を提供することで、新たな顧客を獲得できる。「Out of the box」 からの発想で既存市場の外に目を向けることで、新たなビジネスチャンスにつながる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。