投稿日 2025/02/06

リサーチラボノート。市場選定・顧客選定・用途選定での戦略的な 「捨てる」 選択

#マーケティング #戦略 #ニッチ

自社が提供する商品やサービスは、すべての人に受け入れられる必要があると思うでしょうか?多くの企業が、幅広いニーズに応えようとしていますが、それは本当に効果的なのでしょうか?

もしかすると、特定の顧客層にフォーカスし、さらにお客さんの利用用途まで絞り、顧客ニーズに応えることを追求することのほうが成功への近道かもしれません。

今回は、コクヨの 「リサーチラボノート」 の事例から、ニッチなニーズに徹底的に絞り込むことで、ビジネスを成功させる戦略について解説します。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

リサーチラボノート


出典: KOKUYO

リサーチラボノートは、コクヨが研究者の人たち向けに開発したユニークなノートです。2005年から販売が開始されています。


注目すべき機能は 「改ざん防止機能」 です。研究活動の記録が不正に変更されたり一部が抜き取られたりしても、その改ざんが一目で分かるように工夫されたつくりになっています。


具体的には、各ページに通し番号が印字されているほか、ノートの断面にアルファベットの英語の文字やマークが入っています。もしページの一部が抜き取られると、断面の不整合やページ番号の飛びがすぐにわかる仕組みです。

リサーチラボノートの改ざん防止機能により、研究活動の内容を整理・記録・保存することができ、第三者による確認を取る際にも重宝します。また、知的財産保護の際の重要な証拠資料としての用途もあります。

リサーチラボノートは大きさや枚数が異なる複数のタイプが用意されています。価格帯は1800円から3600円と、一般的なノートに比べると高いものの、毎年約10万冊が安定的に売れています (参考記事) 。

学べること


では、コクヨのリサーチラボノートから学べることを掘り下げていきましょう。

ビジネスにおいて、すべての人に受け入れられる製品をつくることは難しいどころか、効果的ではないことがあります。むしろ、特定の顧客層に深く刺さる製品を作ることで、お客さんから本当に望まれている製品にできます。

この点を見事に示しているのが、コクヨのリサーチラボノートです。

誰が何のために使う製品かを絞る

コクヨはリサーチラボノートを一般的な消費者ではなく、研究者をターゲットにして開発しました。

ここで重要なのは、誰が (研究者) 、何のために (研究内容の正確な記録と保護) 、ノートを使うかを明確に絞り込んでいる点です。

リサーチラボノートは、研究活動の記録を改ざんされないように保護する機能が備わっており、研究データの信頼性を確保するために機能します。裏を返せば、一般的なノートのような日常のメモ用には適さない特殊なノートです。

絞ることで求められるニーズが見えてくる

ターゲット顧客と利用シーンを明確にすることで、お客さんから求められるニーズが見えてきます。

コクヨは研究者というターゲット顧客と、研究内容の記録と保護という利用用途にフォーカスすることで、研究者が持つノートへのニーズを見つけ出しました。

研究所では、記録が改ざんされたり、データが誤って書き換えられないことが大事です。そこでコクヨは、ページに通し番号を振り、ノートの断面に英語の文字を入れるという独自の改ざん防止機能を入れました。

捨てるという選択

お客さん、さらに用途までを絞るということは、絞らなかった領域は捨てるということを意味します。

コクヨは、一般のオフィスワーカーや学生向けの市場は既に飽和状態であり、価格競争も激しいことを認識していました。研究者向けのノートは、一般のノート利用者や日常のメモ用には過剰な機能となるので適さないノートだとして、あえてこの市場を捨てたわけです。

ここに戦略の肝があります。何かを意図的に捨てる戦略をとることで、やることが明確になります

あらゆる人のすべてのニーズに応えようとすると、製品の特徴や価値がぼやけてしまい、結果として誰にも強い印象を残さないものになってしまいます。コクヨはリサーチラボノートを研究用という特殊な市場に特化した製品にしたのです。

捨てたからこそ得られる果実

リサーチラボノートの成功の背景には、どこを攻め、どこは攻めないかという明確な 「戦場の選択」 があります。

コクヨは、一般向けのノート市場ではなく、研究者というニッチな市場に狙いを定めました。さらに、研究活動の信頼性を確保するために使うノートという用途に特化し、それ以外の日常のメモやビジネス用途などは攻めていません。

コクヨの選択は、「どこを攻めるか、どこは攻めないか」 、「誰をお客さんにするか、誰をお客さんにしないか」 、「どんな用途を狙うか、どの用途は対象外にするか」 という戦略的な決断の結果によるものです。

これにより、顧客ニーズを深く理解し、顧客文脈におけるニーズにしっかりと応える製品を開発することにつながりました。コクヨは、研究記録という特殊な使い方に絞ることによって、高機能・高付加価値の研究用ノートを提供し、高価格帯でも安定した販売数を上げています。

戦略をつくる意味

リサーチラボノートの事例から学べるのは、市場選定、顧客選定、用途選定のそれぞれで明確な 「戦略」 をつくることの重要性です。市場選定、顧客選定、そして用途選定の各ステップで、明確な 「やらないこと」 を決めることが大事なのです。

戦略の肝は、何をやるかよりも 「何をやらないか」 にあります。やらないことにこそ、戦略への覚悟が宿るのです。

リサーチラボノートは、研究というニッチ市場をターゲットにし、研究者が求める利用方法に絞ることにより、高い付加価値を実現しました。

この事例は、ニッチ市場であっても顧客ニーズを深く理解し、的確に応える製品をもたらすことで、安定した事業を構築できることを示しています。

ビジネスにおいては、すべてのニーズに浅く応えることよりも、特定のニーズに徹底的に応えることのほうが、成功への近道となります。コクヨのリサーチラボノートは、この考え方を見事に体現した製品です。

まとめ


今回は、研究者向けに特化されたコクヨの 「リサーチラボノート」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 誰が何のために使う製品かを絞る。誰がお客さんかだけではなく、何のために商品・サービスを使うかまで明確にする

  • ターゲット顧客と利用シーンを明確にすることによって、お客さんから求められるニーズが見えてる。利用用途やシチュエーションから顧客文脈を理解し、お客さんが本当に望んでいる顧客価値を定義する

  • すべてのニーズに応えるよりも、特定のニーズに徹底的に応えることのほうが、成功への近道となる

  • 戦略の肝は 「何をやらないか」 。何かを意図的に捨てる戦略をとることで、やることが明確になる。市場選定、顧客選定、用途選定のそれぞれで 「やらないこと」 を明確にし、戦略をつくることが大事


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。