投稿日 2025/02/19

肩こり改善デバイス 「コリコランワイド」 。 "使い方" から始める商品開発とマーケティング

#マーケティング #お客さんの使い方 #顧客価値

お客さんは商品を選ぶとき、どんな基準で選んでいるでしょうか?

もし 「効果的な使い方」 や 「使いやすさ」 がしっかりわかりやすく提示されれば、お客さんはもっと選びやすくなるはずです。

この文脈で今回ご紹介したいのはパナソニックの 「コリコランワイド」 という肩こり改善デバイスです。コリコランワイドは、ユーザーの生活シーンに寄り添った使い方を提案し、顧客体験を重視するマーケティングを展開しました。

ヒット商品事例から学べることを、ぜひ一緒に深めていきましょう。

肩こり改善デバイス 「コリコランワイド」 


パナソニックの 「コリコランワイド」 は、従来のパナソニックの高周波治療器 「コリコラン」 を改良した、肩こりをやわらげてくれる装着デバイスです。


両肩にかけるようなデザインと機能になったことで、長時間にわたって着用できるのが特徴です。

12個の高周波デバイスが肩コリのポイントにフィットして、コリの原因である血行を促進します。薄くて軽いのに、広範囲のコリに効きます。

コリコランワイドの値段は4万円弱と決して安くない価格ながら、1週間に4000個を売り上げる週も記録しました。売れ行きは計画比約5倍 (対象期間: 2023年12月 ~ 2024年3月) と好調です (参考記事) 。

製品の特徴と進化

以前のコリコランでは、肩こりに直接作用するよう、両面テープでピンポイントに貼り付ける方式を取っていました。ただ、両面テープだったことから体に装着したり貼り直し、取れやすさという問題点がありました。装着して使えるのも 1 ~ 2 時間程度でした。

一方の新しいコリコランワイドには、パッドに高周波デバイスが12個配置され、肩に羽織るだけで装着できる設計を採用しています。装着感も目立たないよう薄さやフィット感にこだわり、長時間着用しても違和感が少ない構造です。

従来の低周波治療器が筋肉への刺激を感じるものである一方、コリコランワイドは高周波による 「無刺激・無痛」 となるつくりです。

高周波治療は低周波と異なり、コリの根本に作用し、血行を促進することで肩や腰の痛みを改善しますが、効果を発揮するには長時間の使用が必須です。そこでパナソニックは、コリコランワイドの開発では装着性と利便性を追求することで、利用場面に応じた使いやすさを実現しました。

見た目のデザインの工夫

コリコランワイドは、治療器に見えないデザインです。

ブラックやグレージュなどの複数のカラー展開から、ストール感覚で装着できるよう工夫されています。重さのバランスを保つようデザインされていることで軽量感をもたらし、装着時の肩からのずれも防ぎます。

12時間の連続使用ができるため、1日中装着したままという使い方も可能です。

ユーザーは仕事でのデスクワークや移動中でも肩こりが和らぎ、また、まわりからも気づかれることがないので 「ただいま治療中」 とバレず、デバイスを装着している気恥ずかしさなく快適に過ごせます。

コリコランワイドを朝出かけるときから夜に家に帰るまでずっと装着したまま一日を過ごすという使い方もできます。

学べること


では、肩こり改善デバイス 「コリコランワイド」 から、学べることを掘り下げていきましょう。

コリコランワイドは製品の魅力を機能だけにとどまらず、ユーザーの使い方まで考慮した設計になっています。ユーザーの利用シーンまでを考慮し、追求した商品開発とマーケティングという観点で示唆が得られます。

効果を最大限に発揮する 「使い方」 を明確化する

商品が 「その最大の効果を発揮する使い方」 を見極めることが重要です。

コリコランワイドは、高周波による肩こりの改善を促進します。従来の 「コリコラン」 が採用していた低周波と異なり、高周波を一定時間にわたって患部に当て、コリの根本原因に作用し、血行を促進することで肩や腰の痛みをなくすというアプローチです。

パナソニックはコリコランワイドの利用を想定して、自社調べからコリの症状が重度の人が、約4 ~ 5時間ほどでコリ改善効果を実感したと説明しています (公式ページ) 。

製品が最も効果を発揮する利用シーンや条件を具体的にすることによって、お客さんに 「どのように使えばベストな結果が得られるか」 までを打ち出せるわけです。

使いやすさに徹底的にこだわる

今回のコリコランワイドの事例から汎用的な学びとしたいのは、お客さんが商品を使っているときに不便に感じる点を把握し、機能やデザインから使いやすさを改善する重要性です。

コリコランワイドでは、従来のテープ装着から肩にかけるデザインに変えたことで、装着の手間を減らしました。また、装着していることがわからないような設計になっていることも特徴です。

装着や取り外しという物理的なお客さんの 「不」 、そして使用時に感じる周囲への恥ずかしさやバレてほしくないという感情的な 「不」 の両方を解決するのが新しいコリコランワイドです。

このように、商品を誰が・どこで・どのように使ってほしいかといったユーザーの利用シーンを具体的に想定し、これまでユーザーが感じていた不便さや不快感を解消することにより、利用頻度や顧客満足度の向上につながります。

自然な生活シーンを想起させる

利用シーンを具体化することは、商品開発だけではなく、マーケティングコミュニケーションにも活かせます。

商品の訴求では、商品そのものだけにとどまらず、商品の使い方までをセットにして描写するとより効果的です。

コリコランワイドでは、仕事中でも外出時でも、また家の中でも肩に羽織るだけで使え、服の下に着用しても気づかれないというユーザーにとってうれしいポイントを強調します。消費者が自分の日常生活の中で自然に使えるシーンを想像できれば、購入意欲や利用意欲を引き出しやすくなります。

得られる教訓

コリコランワイドの事例は、商品の使い方を起点にした商品開発とマーケティングを展開した成功例です。

コリコランワイドは、長時間での使用が求められる高周波治療の特性に合わせた製品設計がされ、既存の 「ユーザーの "不" 」 を解消する訴求を効果的な使い方とともに提案することで人気商品となりました。

旧製品からの単なる製品改良ではなく、商品特性を最大限に発揮する 「使い方」 を見出し、その使い方を実際にユーザーに使いにくさや恥ずかしさなどの邪魔をする要素を取り除き、自然と効果を最大化したことがヒットの秘訣です。

まとめ


今回は、パナソニックの肩こり改善デバイス 「コリコランワイド」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 商品の効果を最大限に発揮する 「使い方」 を明確にする。具体的な利用シーンを打ち出すことで、お客さんは最適な利用方法を知ることができ、商品からの顧客価値を得られる

  • ユーザーの 「不」 を徹底的に解消する。使うときの手間や使用時の恥ずかしさといった物理的・感情的な障壁を取り除くことにより、ユーザーの利用頻度や顧客満足度を高められる

  • 日常生活やビジネスでのさまざまな場面での使用をイメージさせる訴求を行い、顧客体験や顧客価値を伝えることによって、お客さんからの購買意欲を促せる

  • 商品の特徴を活かす 「お客さんの使い方」 を起点とする商品開発とマーケティングにより、商品は顧客文脈とその文脈で生じるニーズに合致し、お客さんから選んでもらえる存在になる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。