投稿日 2025/02/12

睡眠時間サポートイヤホン 「Soundcore Sleep A20」 。未開拓の利用シーンからの市場創造

#マーケティング #利用シーン #選ばれる理由

自社商品がお客さんに使われるシチュエーションを、どれくらい把握できているでしょうか?

既存の利用シーンにとらわれ、新しい顧客ニーズや市場の変化に気づいていない可能性はないでしょうか?

もし今まで見過ごしていた利用場面を発見し、対応できれば、新しいお客さんを取り込むチャンスが広がり、また、既存のお客さんにももっと使ってもらえるかもしれません。

今回は、業界の常識を覆し新しい利用シーンに焦点を当てた商品事例を取り上げ、新しい市場開拓のヒントを探ります。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

睡眠時間サポートイヤホン 「Soundcore Sleep A20」 


出典: Anker

Anker (アンカー) が、Soundcore ブランドから新モデル 「Soundcore Sleep A20」 をリリースしました。

イヤホンと耳栓のいいとこ取りをしたような睡眠時間サポートイヤホンです。

快適な装着感

Soundcore Sleep A20 は片耳約 3g の超軽量設計です。

イヤーチップとイヤーウイングには柔らかいシリコン素材が採用され、長時間の装着でも圧迫感が少なく、寝返りを打っても外れにくいイヤホンとなっています。横向きで寝る人にとっても快適に使用できるよう設計です。

長時間再生

Bluetooth モードでは最大10時間、さらに睡眠モードでは最大14時間の連続再生が可能です。

睡眠モードでは、イヤホンにあらかじめ転送したスリープミュージックが再生されます。スマホとの接続を必要とせず使えるので、睡眠中にスマホの電池切れを心配することなく使えます。

充電ケースを使用すれば最大80時間の再生が可能です。

ノイズマスキング機能

Soundcore Sleep A20 の睡眠モードでは、周囲のノイズ (外の騒音, いびきなど) にスリープミュージックを重ねることでノイズを低減させ、音に邪魔されない睡眠環境をつくります。

環境音に応じて音量が自動で調整され、多少の騒音があっても快適に眠りにつけます。

専用アプリとの連携

専用アプリでは、イヤホンを探す機能や、睡眠モニタリング機能が搭載されています。日々の睡眠状態や就寝時の身体の姿勢を知ることができます。

また、イヤホン内アラーム機能を使用することで、家族を起こさずに自分だけ目覚ましを設定できるのも便利なポイントです。

Soundcore Sleep A20 から学べること


では、睡眠時間サポートイヤホン 「Soundcore Sleep A20」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

ビジネスを成長させるためには、既存のお客さんだけでなく、新しいお客さんをどう取り込むかが大事です。

アンカーの 「Soundcore Sleep A20」 は、その一例として示唆に富みます。イヤホンをつけたまま寝るという、これまでのイヤホン市場におけるホワイトスペースを狙っているからです。

利用シーンを増やすことの意味

イヤホンという製品カテゴリーは、音楽鑑賞や動画視聴時、音声コンテンツ、あるいは通話、会議など、ほぼ全てが日中の活動時間における利用が主流でした。一方の Soundcore Sleep A20 は、この常識を覆します。夜の就寝時というこれまでイヤホンにとってほぼ未開拓で、いわばノーマークだった時間帯に焦点を当てたわけです。

今までのイヤホンを使わないシチュエーションを積極的に開拓することで、アンカーは2つの効果を狙っています。

1つ目は、これまでイヤホンを使用していなかった新規顧客層の獲得です。寝付きが悪いのが習慣化してしまったり、夜間の物音や騒音に悩まされているなど、睡眠の質を向上させたい人にとって、睡眠サポートイヤホンの Soundcore Sleep A20 は魅力的な選択肢となります。

また2つ目は、新規のお客さんだけではなく、すでにイヤホンを日中に使っている既存ユーザーに対しても、イヤホンを使う機会や頻度が増えることが期待できます。

つまり、アンカーは、就寝時というイヤホンの空白シーンを狙うことで、新しいお客さんを増やし、既存のお客さんの使用頻度も高めるというダブルでの成長を見込んでいるのです。

新たな市場での競争相手

新しい利用シーンに参入するということは、これまでの利用シーンでの競合とは異なる新しい競争相手が存在するということです。

睡眠用イヤホンという新たなカテゴリーでは、従来の音楽用イヤホンが競合するのではなく、主な競合は 「耳栓」 や、就寝時は耳に何も装着しない 「無消費」 が今までは対峙していなかったライバルとなります。また、耳まわりとは異なるアプローチを取る睡眠計測デバイス、例えばスマートウォッチやスマートバンドも競合となるでしょう。

Soundcore Sleep A20 の競争優位性

このような多様な競合に対し、Soundcore Sleep A20 は独自の特徴を持っています。

耳栓と比べての優位性は、快適な装着感、スリープミュージックの長時間再生、ノイズマスキング機能 (別の音を同時に発生させてノイズを抑え込む機能) 、睡眠モニタリング機能、専用アプリとの連携です。これらは耳栓にはない、Soundcore Sleep A20 ならではの優位性です。

また、睡眠計測のウェアラブルデバイスに対しては、スリープミュージックの長時間再生、ノイズマスキング機能が比較優位です。

Soundcore Sleep A20 の専用アプリとの連携による睡眠モニタリング機能は、一般的なイヤホンにはない総合的な睡眠サポートデバイスへという存在になります。

個別のニーズに対応できる柔軟な使い方ができるようになり、よりパーソナライズされた睡眠体験を提供するので、他のデバイスとは一線を画します。ユーザーは睡眠の質を改善するためのデータを得られ、快適な入眠環境を実現できます。

学びの汎用化


では、Soundcore Sleep A20 からの学びを汎用化してみましょう。

新しい利用シーンをつくる

今回の事例から得られる示唆は、自社商品・サービスでこれまで捉えきれていなかった 「新しい利用シーン」 をつくることで、新規顧客の獲得と、既存顧客の利用頻度を増やすことができるという点です。

自社の商品やサービスが既に存在する特定の利用シーンで消費されていると考えがちですが、アンカーの Soundcore Sleep A20 のように、まだ満たされていないニーズや未開拓の利用シーンを見つけ出し、そのシチュエーションで使いやすく適応させることによって、ビジネスチャンスを生み出せます。

そのためには、商品やサービスを開発するにあたっては、お客さんが今まで使っていなかった時間帯や場面などの 「新しい利用シーン」 に焦点を当てることが重要です。

今回のケースでは、イヤホンであれば、通勤中や運動時、仕事中、自宅での家事をやっているときなど日中の起きているときが一般的な利用シーンですが、アンカーは就寝時という見落としていたシチュエーションに着目しました。

このように、「お客さんがまだ使っていないシーンはどこか?」 という問いを立てることが、新しい市場や潜在的なニーズの発見につながります。

新しい利用シーンには、新たな競合がいる

新しく利用シーンをつくったり、これまで自社が参入していなかったシチュエーションには、新しい競争相手が必ずと言っていいほど存在します。

競合には、同じカテゴリーの商品・サービスだけにとどまらず、自分たちから見た異なる領域にいた競合も含まれます。

Soundcore Sleep A20 の場合、耳栓という耳に装着する競争相手だけではなく、睡眠状態を計測したりより良くするスマートウォッチも新たに競争相手となりました。これまでの日中に装着するというイヤホン市場とは異なる競争環境に直面したわけです。

新たなライバルに勝てる比較優位はあるか

今までとは違う競争環境においてポイントになるは、新しい市場特有の環境を理解し、何が勝ち筋になるか、自社商品の強みをどう打ち出すかです。

環境と競争相手という比較相手が変われば、「お客さんから選ばれる理由」 も変わります。

自社の商品やサービスが持つ特徴を市場環境や顧客文脈にもとづいて再解釈・再評価し、新たな競争相手に対してどのように勝っていくか、すなわちお客さんからいかに選ばれる状況をつくるかを戦略的に考え、取り組む必要があります。

新しい市場に参入する、今回の文脈で言い換えれば新しい利用シーンをつくるためには、その競争環境において自社商品が他の選択肢 (お客さんから選ばれる戦いをしている競争相手) と比べて、どのような顧客価値を提供できるかが大事です。

お客さんに価値をもたらす自分たちの強みを明確に、お客さんの文脈にフィットするような訴求をすることで、お客さんに選ばれる理由をつくることができるのです。

まとめ


今回は、アンカーの睡眠時間サポートイヤホン 「Soundcore Sleep A20」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 商品が消費される既存商品の未開拓な 「利用シーン」 を探り、ニーズに対応できれば、新規顧客の獲得や既存顧客の利用頻度を増やすことができる

  • 新たな利用シーンに参入すると、従来とは異なる競合がいる。新しい競争環境や市場での勝ち筋を見極める必要がある

  • 環境が変われば、お客さんの選択候補や選ぶ理由も変化する。自社にとっては新しい顧客文脈を理解することが大事になる

  • 自社商品の特徴を新たな顧客文脈で再解釈し、顧客価値を打ち出す。価値 (強み) をお客さんの文脈に合った形で訴求する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。