#マーケティング #価値創造 #バイアスブレイク
うちの商品は、どうすればもっと売れるんだろう…。
もしかしたら、業界の 「当たり前」 や消費者の 「思い込み」 の裏に、新たな成長のヒントが隠されているかもしれません。
今回取り上げるのは、一見、矛盾しているようなコンセプトで、発売から約1年で出荷本数を10倍に伸ばした 「UMAMI COLA (うまみコーラ) 」 です。成功の裏には、従来の常識を疑い、逆転の発想で新たな価値を生み出す 「バイアスブレイク」 という思考法がありました。
UMAMI COLA がいかにして清涼飲料業界の固定観念を打ち破り、消費者の心をつかんだのかを紐解きます。
UMAMI COLA
コーラであって、コーラを超える存在。
エナジードリンクでありながら、完全無添加。
どこか矛盾するようなコンセプトを掲げ、清涼飲料業界に新しい風を吹き込んでいるのが 「UMAMI COLA (うまみコーラ) 」 です。発売から約1年で出荷本数10倍を記録しました (参考情報) 。
UMAMI COLA は、代表の山田貴久氏が急性膵炎で入院した自身の経験がきっかけになって生まれました。病によりアルコールを断念せざるを得なくなった際、代わりとして自然な清涼飲料を探しますが、添加物や人工甘味料に頼った製品が多いことに気づきました。この体験から 「体に良いものを作ろう」 という決意を固めたとのことです。
注目したのがコーラでした。コーラ本来の歴史を読み解くと、実は漢方や薬膳がコーラの起源で、健康的な効能が追求されていたことを知りました。 「だったら、日本ならではの素材で、完全無添加のコーラを再定義しよう」 と考えたそうです。
誕生した UMAMI COLA の味のベースには麹甘酒 (こうじあまざけ) を使っています。甘酒の優しい甘みを活かし、ハーブやスパイスを10種類ほどブレンド。カフェインレス・完全無添加を実現しつつ、エナジードリンクの爽快感も得られる新感覚のコーラです。
UMAMI COLA は缶のデザインも特徴的です。上下逆さまのロゴが目を引きます。
逆に表示しているのは 「常識をひっくり返す」 というメッセージ性に加え、沈殿したスパイスを飲む前に自然に混ぜ合わせる役割も兼ね備えています。
では、UMAMI COLA の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
従来の常識や消費者の固定観念を逆にしたという点にヒントが詰まっています。
バイアスブレイク
UMAMI COLA が挑戦したのは、エナジードリンク市場に根強く存在した 「バイアス (無意識的な思い込みや固定観念) 」 です。
多くの消費者は、エナジードリンクに対して、「人工的な成分で即効性があるもの」 や 「強い刺激と引き換えに健康面では妥協が必要なもの」 といった固定観念を抱いていました。UMAMI COLA は、この当たり前に疑問を呈し、新たな可能性を提示したのです。
ここで注目したいのが 「バイアスブレイク」 という思考法です。
バイアスブレイクとは、凝り固まった常識や思い込み (バイアス) を意識的に打ち破り、新しい視点やアイデアを生み出すための手法です。
バイアスブレイクは、大きく3つのステップで構成されます。
- 言語化や可視化によってバイアス (偏った思考) に気づく
- その固定観念とは逆を考えバイアスブレイクをする
- バイアスがない状態でアイデアを考え強制的に発想する
3つをそれぞれ補足すると、1つ目のステップは 「バイアス (偏った思考) を言語化・可視化する」 というものです。
自分たちの業界や市場における固定観念や先入観を可視化します。当たり前すぎて今さら考えないようなことに意識的に目を向け、何が常識とされているのかを明確に言語化することがバイアスを壊すための第一歩です。
ステップの2つ目が 「固定観念とは逆を考えバイアスブレイクをする」 です。
バイアスを可視化できたら、意図的にその逆に振って考えてみたり、今の思考の枠組みの外側に目を向ける (Out of the box) ことにより、新たな視点や発想を得ます。このときに 「もし○○でなかったら?」 「全く逆の価値を提供するとしたら?」 といった問いかけが有効です。
そして3つ目の段階が 「バイアスがない状態で強制的にアイデアを発想する」 です。
バイアスを取り除いた、いわばゼロベースの状態で、具体的なアイデアを自由に発想していきます。従来の制約や常識にとらわれず、全く新しい組み合わせや価値提案を模索します。
UMAMI COLA が実践したバイアスブレイク
ここで UMAMI COLA の事例に話をつなげます。UMAMI COLA は、バイアスブレイクのプロセスを体現しています。
[Step 1] バイアスの可視化
UMAMI COLA 創業者の山田さんは、自身の闘病体験をきっかけに清涼飲料市場と向き合ったとき強い問題意識を持ちました。既存の製品が添加物や人工甘味料に溢れ、 「偽物であふれている」 という現状、それが業界の当たり前になっていることです。
これが最初のバイアスの可視化です。
- エナジードリンク市場のバイアス: 体に良い影響を与えるドリンクが少ないのではないか?という疑問
- コーラ市場のバイアス: コーラは人工甘味料による清涼飲料水の代表的な存在。しかし本来コーラは、漢方など体に良いものから作られたのではなかったかという原点への問い
- 飲料市場全体のバイアス: 本物感が謳われていても、実際には主要な原材料に含まれていない飲料商品があるという不信感
当たり前とされ今さら深く考えないこと着目し、疑問を投げかけ、言語化・可視化したことが、UMAMI COLA 誕生の出発点となりました。
[Step 2] 逆に考えるバイアスブレイク
次に、UMAMI COLA はこれらのバイアスに対して、意図的に逆を考えることにより新たな発想を取り入れました。
エナジードリンクの人工的なイメージに対してはナチュラルに振り、完全無添加・麹甘酒ベース・天然素材という、従来のエナジードリンクとは真逆の要素を追求しました。
また、コーラの体に悪いという認識に対しても、体に良いコーラ本来の姿にもっていきました。コーラの原点である体に良い飲み物というコンセプトに立ち返り、ここに日本ならではの素材を取り入れました。
他には、缶のデザインについてはメッセージ性や洗練度合いを求め、あえて飲み口を下にし文字のロゴを逆さまに見せるデザインで 「常識をひっくり返す」 というメッセージを込めました。
[Step 3] バイアスフリーなアイデア発想
これらのバイアスブレイクを経て、新たな価値をつくります。UMAMI COLA は既存の枠組みにとらわれない、全く新しいコンセプトのコーラを生み出しました。
UMAMI COLA は 麹甘酒をベースに、ヨーロッパで "万病の薬箱" とされるエルダーフラワー、ストレス軽減などに効果があるというトゥルシー (ホーリーバジル) 、コーラではおなじみのカルダモン、クローブなど、約10種類もの天然素材をブレンドした独自に仕上げました。
カフェインフリーで完全無添加、優しい甘さとハーブの香りが特徴の "うまみ" を感じさせる味わいを実現したのです。
UMAMI COLA のことをナチュラルエナジードリンクでありながら、クラフトコーラでもあるという、カテゴリーを横断する新しい飲み物と位置づけました。健康に気を配りつつ、リフレッシュや元気を得たいと思う人や、添加物を避けたいエナジードリンクユーザーといった、これまで満たされていなかった消費者層のニーズに応えることができます。
上下逆さまの UMAMI COLA のデザインは、飲む際に缶を上下をひっくり返すことでコーラの成分に入ったスパイスが自然に混ざるという機能も果たし、消費者の記憶に残る体験を提供します。
UMAMI COLA の飲料のくすんだピンクと黒、シルバーの配色は従来の飲料の常識を覆す存在感を放ち、店頭でも目立ちます。
バイアスブレイクがもたらした成功
UMAMI COLA のアプローチは、エナジードリンク市場にインパクトを与えました。
- 明確な差異化: ナチュラルで体に優しいエナジードリンク / コーラという独自のポジションを確立する
- 新たな顧客層の開拓: 健康志向の高い人や、従来のエナジードリンクやコーラを敬遠していた層からの支持の獲得が期待できる
- 実績と成長性: 2023年9月ごろから、自社店舗とサイトを中心に月2000本出荷ペースで販売を開始。2024年2月から小売店舗での本格販売を始め、2024年9月以降は、前年の2023年9月の販売開始当初の10倍を超える月に約2万5000本の出荷を記録
UMAMI COLA の事例は、業界の常識や消費者の固定観念を疑い、それを逆手に取るバイアスブレイクを図ったことで、消費者への新しい価値をつくりだしました。
固定観念にとらわれず、常に新しい可能性を模索することの重要性を教えてくれる事例です。
まとめ
今回は、UMAMI COLA の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- バイアスブレイクは固定観念の可視化から。業界・市場、社内の当たり前とされている常識や先入観を意識的に言語化し、明確にする
- 次に逆転の発想へ。可視化したバイアスに対して 「もし ○○ でなかったら?」 「全く逆の考え方をするとしたら?」 と意図的に逆に振ってみる
- 制約なしでアイデアを創出する。バイアスを取り除いたゼロベースの状態で、従来の枠組みにとらわれない自由な発想を行う
- 逆転の発想は 「矛盾の融合」 がカギになる。UMAMI COLA のように 「コーラでありながら健康的」 など、一見矛盾する要素をかけ合わさることで独自性のある価値が生まれる
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