#マーケティング #見過ごされてきた不満 #発想の転換
「これは仕方ない」 「もともとそういうものだ」 と、消費者やお客さんが半ばあきらめている当たり前に、実はビジネスチャンスが潜んでいるかもしれません。
既存の常識を疑い、今までの枠を超えた発想でアプローチを変えることにより、今まで見過ごされてきた課題が解決の糸口になることもあります。お客さんが気づいていない潜在的なニーズに応え、新しい使い勝手や利用シーンを創出できれば、商品価値は高まります。
ミツカンの 「無限さっぱりスパイス by 味ぽん」 は、消費者があきらめていた問題の発見がヒット商品の糸口になった事例です。
当たり前の打破から生まれる価値創造のヒントについて、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
無限さっぱりスパイス by 味ぽん
ミツカンから登場した粉末タイプの調味料が 「無限さっぱりスパイス by 味ぽん」 です。
おなじみの液体調味料の 「味ぽん」 のさっぱりとした味わいを、粉末という新しい形で実現した商品です。
先行発売ではわずか4日間で完売し、SNS でも話題になり一時販売休止になるほどの反響ぶりでした。生産体制を整え販売が再開されましたが、依然として品薄状態が続く人気商品となっています。
では、「無限さっぱりスパイス by 味ぽん」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
「当たり前」 の奥に隠れていた問題
ヒットの裏側には、消費者があきらめていた不満の発見がありました (参考情報) 。
消費者が 「仕方のないこと」 とあきらめていた不満
唐揚げや天ぷらなどの揚げ物、あるいは焼き餃子。サクサク、カリッとした食感を楽しみたい料理はたくさんあります。
しかし、こうした料理に味ぽんのような液体調味料をかけると、どうしても水分で食感がしんなりしてしまいます。液体調味料が揚げ物等の食感を損ねるという問題です。
ただし、これはもはや 「当たり前」 であり、多くの消費者は 「味を変えるためには仕方のないこと」 「味ぽんとはそういうものだ」 と受け止め、特に不満として声を上げることはありませんでした。食感か味の変化かのどちらかを優先すれば、もう一方はある程度犠牲になるというトレードオフを無意識に消費者は受け入れていたわけです。
顕在化しにくい不満は気づかれないまま
消費者が口に出さない、あるいは自分自身でも明確に認識していない不満の裏には潜在ニーズがあったりします。「もっとこうだったら良いのに」 と思ったとしても、具体的な解決策と結びつかないため、表面化しにくい望みです。
作り手や売り手である企業側も、クレームや要望として挙がってこない限り、こうした潜在的な不満に気づくのは簡単ではありません。既存のやり方、社内や業界の常識にとらわれていると、見過ごしたままということが多いのです。
不満を発見し、新しい価値をつくる
ミツカンは当たり前の中に隠れていた問題点に光を当て、見過ごされがちな問題をビジネス機会と捉え、新しい価値の創造に挑みました。
ニーズの深掘り
ミツカンは、揚げ物などを食べる際に液体調味料を使うと食感が損なわれるという事実にあらためて注目しました。
この際、ただ単に水分が問題だとするのでなく、もっと奥にある 「本来の食感を損なわずに、さっぱりとした味を楽しみたい」 という消費者の潜在ニーズを深く掘り下げました。
消費者が半ばあきらめていた 「仕方のないこと」 の中にこそ、新しい価値提案のヒントが隠されていると考えたわけです。
コンセプトへの落とし込み
消費者ニーズを捉えた上で、次に行ったのは具体的なコンセプト開発です。
液体の味ぽんを粉末にするだけでは、消費者に新しい価値として響かない可能性がありました。そこで、「味ぽんらしさ」 を粉末でどう表現するかに加え、「食感の楽しさ」 や 「やみつき感」 といった付加価値をどう高めるかを追求しました。
その結果、顆粒醤油や酢のチップ、柑橘で味ぽんの風味を再現しつつ、胡椒・ガーリック・唐辛子といったスパイスを追加。より多くの料理に合い、食欲をそそるスパイスさを打ち出せました。商品名を 「パウダー」 ではなく 「スパイス」 としたのも、調味料としての特徴や魅力を的確に伝えるためという判断からでしょう。
実現手段の具体化
商品コンセプトが決まれば、次はコンセプトを形にするための技術的な挑戦です。
液体の味ぽんを粉末にするために、細部にわたる工夫を施しました。味ぽんの味のバランスを粉末で再現することはもちろん、スパイスの配合比率の検証、さらには原料の顆粒の粒度をあえて不均一にすることで、スパイス自体の食感も楽しめるようにするなどです。粉末タイプなので常温保存や携帯性といった利便性も、液体では実現できなかった特徴です。
ミツカンは企画から発売まで2年以上を要したという試行錯誤のプロセスは、長らく見過ごされてきた潜在ニーズに応え、消費者の期待を超える体験価値を提供しようという強い意志の表れです。
潜在ニーズが顕在化したときのインパクト
見事に消費者の潜在ニーズを捉えた 「無限さっぱりスパイス by 味ぽん」 は、消費者にインパクトを与えました。
SNS での拡散
PPIH グループのドン・キホーテなどで限定での先行発売が始まると、SNS では「揚げ物が水っぽくならない!」 「サクサクのまま味変できる」 「これは便利」 といった驚きや称賛の声が瞬く間に広がりました。
多くの人が心のどこかで感じていたけれど、言葉にできなかった不満が解消されたことへの共感、あの液体の味ぽんがスパイスの効いた粉末になったという驚きが口コミを生んだわけです。
トレンドに敏感な若年層が多く利用するドンキでの展開が、SNS での拡散を後押ししました。ミツカンが大々的な広告を打つ前に、消費者自身が商品の顧客価値を発見し、広めていくという理想的な状況が生まれました。
新しい利用シーンの誕生
味ぽんが粉末になったことにより、液体では難しかった利用シーンも生まれました。
常温保存ができ、手軽に持ち運びやすいので、キャンプやバーベキューといったアウトドアでの活用がされるようになりました。自宅での食事だけでなく、商品の利用シーンが広がったこともヒットの要因となったことでしょう。
液体タイプの味ぽんでは使うイメージのなかったフライドポテトやスナック菓子にかけるといった新しい使い方も新たに見出され、粉末の味ぽんの可能性をさらに広げています。当初2ヶ月間の販売計画がわずか4日間で完売したという人気ぶりは、潜在ニーズが顕在化した際の需要の大きさを物語っています。
学びの汎用化
では最後のパートでは、今回の事例から得られる学びを整理してみましょう。
消費者や顧客から 「当たり前」 と思われている部分を見直すことによって、ビジネスでの商品・サービス展開においてヒントになります。
見過ごされていた問題に光を当てる着想
事例から学べるのは、消費者や顧客、あるいは売り手も 「当たり前」 や 「仕方ない」 と受け入れていることの中に、ビジネスチャンスが眠っている可能性があるということです。
お客さんの声に耳を傾けることは重要ですが、それだけでは表面化していないニーズを捉えることはできない場合もあります。お客さん自身も不満や不便さを言語化できていなかったり、そういうものと受け入れているため、伝えようと思わないからです。
だからこそ、日々の消費者の生活の中や企業のビジネスシーンの中にある小さな不便や、実はあきらめていることに目を向け、「本当にそうだろうか?」 「もっと良くできるのではないか?」 と問い続ける姿勢が、新しいアイデアの源泉となります。
従来の常識にとらわれない発想
ミツカンが 「ポン酢は液体である」 という常識や固定観念にとらわれず、「粉末」 という新しい形態に挑戦したことも示唆があります。
汎用化して捉えれば、既存の製品カテゴリーや技術の枠組みの中で考えるだけでなく、時にはそれを意図的に壊し、従来の思考の箱の外に出ようとする "Out of the box" の発想が大事です。
ゼロベースで全く新しいアプローチを模索することがブレークスルーを生み出します。
潜在ニーズの掘り起こしが生み出す新たな顧客価値
ミツカンの 「無限さっぱりスパイス by 味ぽん」 の事例が示すように、ずっとあきらめられていた不満を発見し、奥にある潜在ニーズを的確に捉え、解決する商品やサービスを提供できれば、消費者は大きな価値を感じ、熱狂的な支持につながります。
あきらめていたことが解決する、もっとこんなことができるという感動や喜びを伴い、お客さんは商品・サービスを使うことで顧客価値を得ることができます。
起点になるのは顧客理解です。
消費者やお客さんの置かれた状況、とっている行動や習慣、心理、何に価値を見出すかの価値観を少しでも深く理解しようとする姿勢。常識を脇に置きまっさらな頭で発想を変えてみる。顧客文脈の洞察することで、新たな成長の道筋を見つけ出すことができます。
まとめ
今回は、ミツカンの粉末調味料 「無限さっぱりスパイス by 味ぽん」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 消費者や顧客が 「当たり前」 や 「仕方ない」 と受け入れていることに、新たなビジネスチャンスが潜んでいる可能性がある
- 既存の常識や思い込みを疑い、「本当にそうか?」 と問い続ける姿勢が重要。従来の製品カテゴリーや発想の枠にとらわれず (Out of the box) 、新しいアプローチを模索することがブレークスルーを生む
- 顧客自身も気づいていない潜在的なニーズを発見し解決し、さらに使い勝手や新しい利用シーンの創出まで考えることにより、商品価値を最大化できる
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