#マーケティング #ブランディング #顧客体験
商品は愛用されているのに、ブランド名が認識されない。リピートされているのに、いつ他社製品に乗り換えられるかわからない。
そんな不安定な状況を、花王はある画期的なアイデアで打破しました。
プロモーション費用ゼロ、たった3人のチームで開発。それなのにわずか4日で新規受付を停止するほどの大反響。「Kao コレモ!」 が仕掛けた事例から、マーケティングに学べることを紐解きます。
Kao コレモ!
花王の 「Kao コレモ!」 は、2025年2月にベータ版として提供が始まったスマートフォンアプリです (予定していた上限数に達したため新規のアプリ提供をすでに終了) 。
わずか 4日で新規ダウンロードを停止するほどの反響を呼びました。
サービスの仕組みと特徴
「Kao コレモ!」 は、自宅にある花王商品のバーコードをスマホで読み取るだけで、無料で花王商品がもらえるシンプルなアプリです。
アプリユーザーは家の中を歩き回り、キッチンや洗面所、お風呂場にある商品を探してバーコードをスキャンします。
スクラッチくじでポイントが貯まり、好きな花王の商品を3つ選ぶと自宅に届くという仕組みです。
届く商品がサンプルサイズではなく、店頭で売っているものと全く同じフルサイズ商品です。ユーザーの期待を上回る報酬設計が、SNS でも話題になりました。
花王が抱えていた課題
花王は洗剤、化粧品、シャンプー、生理用品など多様な商品カテゴリーで高いシェアを持ちます。
しかし、消費者からは、家にある様々な日用品が 「花王の商品」 としては認識されていませんでした。日用品という低関与商材の宿命として、消費者は商品を使っていても、メーカー名を意識することがほとんどなかったのです。
研究開発力を強みとする花王にとって、この状況は機会損失でした。どれだけ優れた商品を開発しても、「花王だから買う」 という消費者からの購買動機につながらなかったからです。
約70回の仮説検証で生まれた仕組み
わずか3人のチームで開発された 「Kao コレモ!」 は、約 70回もの効果検証を経て完成しました (参考情報) 。
当初は、アプリユーザーへの無料特典には既にユーザーが持っている花王の商品を送る仕組みを考えていましたが、検証の結果、まだ持っていない商品のほうが喜ばれることが判明。育成ゲームやスタンプカード形式も検討しましたが、最終的にランダム性のあるスクラッチ形式に落ち着きました。
ターゲットユーザーも検証を重ねて絞り込みました。
一人暮らしではなく3人以上の世帯に焦点を当て、忙しすぎる層は除外。大手メーカーという顧客接点を活性化させるため、幅広い層にアプローチできる設計にしました。
では、花王の 「Kao コレモ!」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
花王の事例の本質は、自社商品は使われているが、商品名が知られていないという問題を解決する秀逸な仕組み化にあります。
指名されるブランドへ
企業が直面する 「無名の便利グッズ化」 という課題。花王はこれを逆手に取り、消費者の能動的な発見を促す体験設計で解決しました。
無名の便利グッズ状態
商品自体は生活者や企業に使ってもらえ、利用者の日常の中で浸透しているものの、ブランド名や商品名が意識されていないケースというのが 「無名の便利グッズ状態」 です。
お客さんは自社商品を繰り返し使っていても、特定の名前で認識していないというわけです。これは日用雑貨品でよく見られる例です。
日常的に使用される洗面所やお風呂まわりにある歯磨き粉、石けん、シャンプーなどは、自分のお気に入りのずっと使っているブランドが常に置いてあるものの、生活者は 「いつも使っている "あれ" 」 としか認識していなく、何のシャンプーを使っているかと聞かれても商品名を答えられない状態です。
商品自体は実用的で評価され、ずっとリピートをしつづけてもらっていますが、何かのきっかけで他の商品に代替されやすいリスクもあります。
ブランド認知をつくる仕組み化
花王も多品目の製品を展開するがゆえに、消費者からは自宅にあるいつも使っている商品が花王のものであると気づかれず、製品とメーカー名が結びついていないという問題を抱えていました。
一つひとつの商品は愛用されていても、それらが束となって花王という大きなブランドの信頼を築くには至っていなかったわけです。
この状況を打破するために生まれたのが 「Kao コレモ!」 でした。
アプリの仕組みは至ってシンプルです。自宅にある花王商品のバーコードをスキャンするとポイントが貯まり、無料で好きな花王の現品がもらえるというもの。
このシンプルな体験の裏には 「無名の便利グッズ」 を 「指名買いされる花王ブランド」 へと昇華させる、計算し尽くされた仕掛けが隠されています。
アプリの 「Kao コレモ!」 では、登録された商品をもとに、ユーザーの家には無い商品をお勧めし、実際に届けるという設計も組み込まれていました。アプリ上で選べるプレゼントの選択肢からは、既に登録された商品が除外されており、自然と新たな商品との接点が生まれるようになっているわけです。
「Kao コレモ!」 の真髄は、こうした花王製品との出会いや獲得のために、ユーザーに能動的な発見を促す点にあります。
テレビ CM で 「ビオレもアタックも花王です」 と一方的に伝えられるのとは、体験の質が全く異なります。
消費者は、まだ持っていない商品が無料で送ってもらえるというインセンティブ (動機づけ) のために、自ら家の中を歩き回り、キッチン、洗面所、お風呂場にある商品を手に取ります。アプリでバーコードをスキャンする中で、「あ、いつも使っているこの洗顔料、花王だったんだ」 、「この洗剤も、あの生理用品も…!」 という体験を何度も経験するわけです。
ちょっとした宝探しのようなプロセスにより、消費者の頭の中では、バラバラに存在していた 「いつもの "あれ" 」 という点と点が、花王という一つの線で結ばれていきます。これまであまり意識していなかった花王という企業が、自分の生活の様々なシーンを支えてくれている身近な存在として再認識されるのです。
学ぶべき 「Kao コレモ!」 のマーケティング
この事例から学べるのは、お客さんとの既存の接点を再定義し、ブランド価値を能動的に発見してもらえる仕組みをつくることの重要性です。
花王は、最大の資産でありながら、その価値を伝えきれていなかった 「各家庭に存在する自社商品」 という存在に目をつけました。ここにアプリというツールを使って、消費者の家での商品との顧客接点を 「ブランドを自分ごと化してもらえる体験装置」 へと生まれ変わらせたわけです。
これにより、花王は以下のことを実現しました。
1つ目は 「代替可能な無名の便利グッズからの脱却」 です。
自分の身の回りにこんなに花王の製品があるというあらためての消費者の気づきは、次に何かを買おうとする時に 「花王の製品を買おう」 という、指名買いのような購買行動を生み出します。
2つ目のポイントは 「ブランドスイッチングの防止」 です。
消費者の生活にどれだけ自社が貢献しているかを体験によって理解してもらうことにより、他社製品への乗り換えを防ぐ心理的障壁を築けることが期待できます。
花王の事例は、自社商品やサービスが、お客さんの日常に溶け込みすぎて 「無名の便利グッズ」 になっている状況には、お客さんとの絆を深めるチャンスが眠っていることを教えてくれます。
まとめ
今回は、花王の 「Kao コレモ!」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 無名の便利グッズ状態とは、商品は日常で使われているが、ブランド名や商品名が意識されていない状態
- 顧客は 「いつも使っている "あれ" 」 としか認識せず、商品名を答えられない。実用的で評価されリピートされるが、他商品に代替されやすいリスクがある
- すでに存在する自社商品との接点を、ブランドを自分ごと化してもらえる体験の場に変えるといい。既存の顧客接点を体験装置として再定義する
- 「これもこの会社の製品だったんだ!」 という驚きや、商品の知られざる魅力にお客さん自身が気づく瞬間をつくり出すことで、強い記憶とポジティブな感情を喚起する
- 点在する商品群を一つのブランドとして結びつける。バラバラに存在していた 「いつもの "あれ" 」 を、企業ブランドという一本の線でつなぐ。この会社は自分の生活を支えてくれているという全体像がブランドイメージになることを目指す
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