投稿日 2025/12/03

セブンティーンアイスの顧客起点のマーケティング 4P

#マーケティング #4P #顧客起点

時代の変化とともに、お客さんが持つ自社商品・サービスへのイメージと、商品の実態との間には、売り手が気づかぬうちに溝が生まれているものです。

このギャップはビジネスの機会損失になってしまいます。

江崎グリコの 「セブンティーンアイス」 は、この問題を乗り越え、40年以上の歴史がありながら過去最高の売上を更新しました。成功の裏には、お客さんを起点にしたマーケティング 4P を緻密に再構築した戦略にありました。

今回は、セブンティーンアイスの事例から 「顧客起点のマーケティング 4P」 を解説します。

セブンティーンアイス



江崎グリコの 「セブンティーンアイス」 は、1983年に誕生し、自動販売機で買えるアイスです。

スイミングスクールやボウリング場といったレジャー施設などの場所で楽しむアイスというイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。

セブンティーンアイスはここ最近、2023年と2024年で過去最高の売上を2年連続で達成しています (参考情報) 。

成熟期を迎えるようなブランドが、なぜ成長を続けられるのか。その背後には、時代の変化を捉えたロケーション戦略の転換や、注力顧客とのコミュニケーションがありました。

* * *

では、セブンティーンアイスの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

成熟期に入ったと思われるブランドでも、お客さんのことを深く知り、顧客理解からマーケティングの基本である 4P (Product, Price, Place, Promotion) を構築し直せば、まだまだ成長の余地があることを、セブンティーンアイスの事例は教えてくれます。

セブンティーンアイスのマーケティング 4P


セブンティーンアイスで注目したいのは、マーケティング 4P の各要素が連動し、顧客中心のアプローチをとっている点です。

  • Product が体験価値そのものになり
  • Price で 「手頃 × ちょっと背伸び」 という後押し
  • Place で日常の動線に溶け込み
  • Promotion で注力顧客の心に刺さる物語を共創を実現


では順に詳しく見ていきましょう。

[Product] 「また買いたい」 を生む商品設計

商品そのものが魅力的でなければ、お客さんに選ばれ続けることはありません。

セブンティーンアイスは、顧客の体験価値を最大化する商品設計を追求しています。

■ 利用シーンを考慮した商品設計

セブンティーンアイスは、屋外や施設といった自宅以外の場所で食べられることを前提にした商品です

香りが飛びやすい屋外でもしっかりとアイスの味を実感できるよう濃厚なフレーバーを採用したり、食べ進めても飽きないように味に変化を持たせたりする工夫がされています。

また、移動中でも片手で食べやすい円錐形のパッケージも、屋外での喫食シーンを考慮した商品設計です。

■ 顧客理解によるヒット商品の進化

セブンティーンアイスの 「クッキー & クリーム」 は、シリーズ売上1位を誇る人気商品です。


 「クッキー & クリーム」 の人気の裏には、お客さんの声に真摯に耳を傾ける姿勢があります。江崎グリコは購入者インタビューを通じて、「クッキー & クリーム」 が支持される理由は味わいのギャップにあると突き止め、リニューアルではこの点を強化しました。

ひと口目にはクッキーのビターな風味が、続いてバニラの甘さが広がるような味わいにすることで、お客さんの期待を超える味わいを目指しています。

■ 共創が生み出す新しい価値とカテゴリー拡張

セブンティーンアイスは注力顧客との共創も積極的に行っています。

具体的には、学生と一緒に開発した 「カラフルチョコ <ミルク> 」 は、Z 世代の "好き" という気持ちを形にし、新たなヒット商品となりました。

また、増加する訪日外国人観光客の顧客ニーズに応えるため、宇治抹茶や北海道ミルクといったフレーバーを開発。インバウンド需要の取り込みにも成功しています。

セブンティーンアイスの担当者が重視する 「お客さまを見に行く」 という現場観察が、定量データだけでは拾いきれないリアルな顧客価値の磨き込みを可能にしています。

セブンティーンアイスは、商品自体が楽しい記憶やワクワクする体験を喚起するきっかけになっているのです。

[Price] "手頃" かつ "ちょっと背伸び" という価格設定

商品の価格設定は、お客さんの購買意思決定に直接影響を与える要素です。

セブンティーンアイスは、メインターゲットである学生のお財布事情を考慮しつつ、体験価値を損なわない価格としています。

■ 2つの価格帯による幅広いニーズへの対応

セブンティーンアイスには2つの価格帯があります。

バニラやソーダフロートといったベーシックなフレーバーは180円前後と、学生が部活帰りなどでも気軽に買える手頃な価格です。スペシャルセレクションや期間限定のリッチ系フレーバーは200円から300円ですが、ちょっとしたごほうび感や贅沢感を演出する価格設定もあります。

■ 絶妙な価格設定と選択肢の提供

セブンティーンアイスは、学生のお小遣いの範囲でちょっと背伸びできる価格の上限を見極めています。安さを追求するばかりではなく、品質や体験価値で納得感のある上位価格帯の商品も用意することにより、平均単価を引き上げつつ、お客さんに選ぶ楽しさを提供しています。

■ Place との補完関係

セブンティーンアイスは自動販売機での販売が中心であるため、スーパーやコンビニのように直接的な価格競争が起こりにくいという特徴があります。

買う場所と値ごろ感が相互に補完し合い、セブンティーンアイスは独自のポジションを築いています。

[Place] 自販機ネットワークでいつでも買える状態を実現

どこで商品に出会えるかは、消費者やお客さんの購買機会を左右します。

セブンティーンアイスは、自動販売機という独自のチャネルを最大限に活用し、お客さんとの物理的な接点をつくっています。

■ 特別な場所だけではなく身近な生活圏内への拡大

セブンティーンアイスの自販機が置かれていたのは、かつてはスイミングスクールやボーリング場、水族館、動物園、ショッピングセンターといったレジャー施設で、子どもや家族の集まる場所が中心でした。

その後、現在では駅や学校など、より日常生活の圏内へと自販機設置を拡大しています。全国で約2万台のセブンティーンアイスの自販機が稼働しており、以前の 「特別な場所でのアイス」 から、「日常の中で身近にあるアイス」 へと変わりました。

■ 学校設置における関わりの深化

セブンティーンアイスは自販機を置くだけでなく、学校現場との連携を深めている点もユニークです。

学校でアイスを販売する上での生徒たちによる運用ルールの策定をサポートしたり、SDGs やマーケティングに関する授業を行うなど、江崎グリコは教育的な支援も積極的に行っています。


自販機が設置された場所だけでなく、学校などのコミュニティに入り込み、他のブランドにはない生徒や学校・先生との関係を築いています。

■ アプリ連動による利便性向上

2023年にリリースされたセブンティーンアイスアプリは、最寄りの自販機を簡単に検索できる機能やポイントシステムを用意しています。お客さんが自販機の場所を探す手間を省き、セブンティーンアイスのついで買いやリピート購入を促します。

セブンティーンアイスが生活動線に溶け込み、消費者が意識せずともセブンティーンアイスの自販機が視界に入り、それがブランドを思い出すきっかけとして機能します。物理的な買いやすさが、思い出しやすさとの相乗効果を生み出しているのです。

[Promotion] 「17歳のリアル」 をコンセプトにした共創コミュニケーション

セブンティーンアイスのプロモーションは、メインの注力顧客である17歳の学生たちとの 「共創」 という共に価値をつくることがキーワードです。

■ 学生共創が生み出すリアルな響き

商品のキャッチコピー募集や文化祭でのコラボレーション、チョコミントスクエアのような参加型イベントなどから、学生たち自身がセブンティーンアイスの 「ブランドの語り部」 となる仕掛けを展開しています。

学生からの等身大の言葉は、同世代の若者たちの間で自然と共感を呼び、SNS などで発信がされれば UGC (ユーザー生成コンテンツ) として拡散されます。

■ 教育支援型プロモーション

学校に自販機を設置する際には、SDGs やマーケティングに関する授業と連動させる取り組みはプロモーションとしても機能します。

セブンティーンアイスのことを、学びのツールと位置づけ、学校公認のおやつとしてのイメージが醸成されます。

■ 継続的エンゲージメント

セブンティーンアイスアプリでは、フレーバー診断コンテンツや、ポイントを貯めてオリジナルグッズ (日傘など) が当たる抽選キャンペーンなどを展開しています。

注力顧客である学生たちは、ブランドを共に創り上げる仲間のように捉えることで、広告を一方的なメッセージではなく、お客さんが主役となる魅力的なコンテンツへと昇華させることを狙います。

17歳という十代の多感な時期に形成された 「セブンティーンアイスを買った楽しい体験」 は、その後に大人になってからもセブンティーンアイスのブランドへの愛着や親近感となって残り、LTV (顧客生涯価値) を最大化することが期待できます。

* * *

セブンティーンアイスはマーケティング 4P の各要素を 「顧客起点」 で貫きながら、特に学生との共創でブランド体験をアップデートし続けています。

成熟期ブランドであっても、4P を有機的に再構築すれば成長の余地はまだまだある――。そんなマーケティングの可能性を示している事例です。

まとめ


今回は、江崎グリコのセブンティーンアイスを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 顧客の利用シーンを深く理解して商品設計 (Product) する。実際の使用環境や顧客体験を想定し、そのシーンで最適な機能や価値を提供できる商品を開発する

  • 価格設定 (Price) は顧客心理と財布事情の両方を考慮する。セブンティーンアイスは注力顧客が 「手の届く範囲でのちょっとした贅沢」 を感じられる価格帯を設定している

  • 顧客の生活動線や事業プロセスに自然に溶け込む販売チャネル (Place) を構築する。特別な場所だけでなく、日常の中で自然に商品と出会える顧客接点を増やし、購買機会を最大化する

  • コミュニケーション (Promotion) では一方的な広告ではなく、顧客との共創でブランド体験をつくる。顧客自身がブランドの語り部やつくり手となり、自然な共感と拡散を生み出す

  • 戦略を顧客中心に据え、一貫性のあるブランド体験を創出する。Product, Price, Place, Promotion の各要素を個別に最適化するだけでなく、常に 「顧客にとって何が価値か」 という視点から全体を設計する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。