#マーケティング #ブランディング
多くの商品が並ぶ中で、なぜあるブランドだけが熱狂的に愛されるのでしょうか?
強いブランドをつくるには 「好ましい感情」 と 「気持ちいい記憶」 がカギとなります。
今回は、超高級車 「ベントレー」 を例に、お客さんから 「これがいい」 と指名で選ばれ続けるブランドの本質を紐解きます。
ブランド
ブランドとは 「お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業」 です。
好ましいとは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ちで、こうした感情が深いほど商品やサービスは強いブランドです。
ブランドは商品やサービスを超えた、独自の価値観やイメージ、ストーリー、体験の総体を指します。ブランドは長年にわたる一貫した品質と信用の積み重ねによって、商品体験からつくられます。
そして、お客さんの心の中に根付いた信頼の証のようになります。ブランドはお客さんから 「これ "が" いい」 と選ばれる存在となるわけです。
"らしさ" を持つ
ブランドは特有の "らしさ" を持つことで他とは違うものだと認識され、かつその違いがお客さんにとって価値となります。
ブランドが持つ "らしさ" とは、ブランドが体現するブランドの理念や価値観、品質や価値へのイメージ、感情的な結びつき (例: 共感, 憧れ, 誇りなど) などで形作られます。
ブランドが持つ固有の "らしさ" は、競合他社には簡単に真似のできない、ブランド独自の資産です。
気持ちのいい記憶
ブランドは、ターゲット顧客にとっての 「気持ちいい記憶」 を思い起こさせる (想起させる) ものです。
ブランドロゴは、その商品の 「気持ちのいい記憶」 をよみがえらせるトリガーとして機能します。ブランドロゴを見ることにより、その人の中で、以前のブランドを使った経験がよみがえり、気持ちのよい記憶によって購買意欲が引き起こされます。
気持ちのよい記憶には、おいしさや便利さといった基本的な欲求に関することだけでなく、「新しい自分になれる」 という自己実現の感情も含まれます。
ベントレーというブランド
では、ここまでの話をイギリスの高級自動車ブランドのベントレーに当てはめて詳しくブランドについて見ていきましょう。
ベントレーが体現する 「好ましい感情」
ベントレーは、お客さんの中に段階的な感情を生み出そうとしています。
まず基本となるのが満足感です。ベントレーのドライバーの中には5 ~ 6時間のドライブをした後も 「まだ乗っていたい」 と口にする人もいるそうです (参考情報) 。これはベントレーという車の極上の快適さがもたらす満足感の表れです。
共感という感情もあります。ベントレーは10年以上前から工場の電力を 100% 自給し、敷地内で養蜂活動を行うなど、サステナビリティに取り組んでいます。また、見た目の豪華さより本質的な価値を重視する 「クワイエット・ラグジュアリー (静かな / さりげない贅沢) 」 という考え方も、共鳴を呼び起こすことでしょう。
さらに誇りという感情も重要です。世界で年間 1.5 万台しか生産されない希少性、限られた人だけがアクセスできるという特別感。これらがオーナーにベントレーを保有することでの誇りをもたらします。
憧れの感情も見逃せません。ベントレーの1919年から続く伝統と革新の歴史、シャネルやエルメスと並ぶラグジュアリーブランドとしての地位。これらがベントレーへの憧れを生み出します。
そして応援したい気持ちです。
ベントレーが重視する地域の生物多様性への貢献や、養蜂で作った蜂蜜をオーナーにプレゼントするなど、社会的な取り組みが、ブランドを応援したくなる気持ちを育みます。
「気持ちいい記憶」 の創造と想起
ベントレーは様々な方法で 「気持ちいい記憶」 を創造し、お客さんの心に刻もうとしています。
ベントレーが車の特徴として打ち出しているエフォートレス (顧客努力がいらないという意味) なドライブ体験があります。ベントレーのエフォートレスとは、意識せずとも最適な車内環境が保たれ、長時間のドライブも苦にならないというもので、この体験は記憶に刻まれることでしょう。
また、コンシェルジュサービスのような一対一の接客体験もあります。ベントレーオーナーの一人ひとりの要望や困りごとを丁寧に聞き取り、その人だけの特別な提案をする。人生に寄り添うパートナーとしての体験をもたらします。
さらには、ライフスタイル体験の提供もベントレーは行っています。
具体的には、ツーリングやプライベートディナーへの招待、ドライブに最適な音楽の提案、養蜂で作った蜂蜜のプレゼントなどです。これらはすべて、ベントレーとの関わりが日常生活の中に自然に溶け込むことを狙ってのものです。
他には、ベントレーレジデンス (高級コンドミニアム) 、ベントレーレコードルーム (ミュージックバー) 、ベントレーホーム (インテリア商品) なども展開しています。車を超えたライフスタイル全体でブランド体験を提供するのがベントレーです。
ベントレーが目指しているのは、オーナーがベントレーのブランド体験を通して 「新しい自分になれる」 という自己実現の感情を持ってもらえることです。
若い起業家やパワーカップル (高収入の夫婦世帯) がベントレーを選ぶのは、成功者としての新しい自分を体現する手段としてブランドを活用しているからでしょう。ベントレーは移動手段にとどまらず、なりたい自分になるための車として機能しているわけです。
これらの体験がオーナーにとっての 「気持ちのいい記憶」 となります。ベントレーのロゴである 「Flying B」 を見るたびに、過去の快適なドライブや特別なディナーなどの記憶が甦ります。そして再び、その体験を求める気持ちが高まるのでしょう。
ベントレーの "らしさ" の構築
ベントレーの "らしさ" は、「エフォートレスで本質を突き詰めたラグジュアリー」 という価値観に集約されます。
ベントレーのオーナーが何の努力 (エフォート) もせずに最高の体験を得るというブランドの流儀とも言えます。
たとえば、ベントレーの車には GPS と連動してトンネル進入前に自動で内気循環に切り替わるシステムや、PM2.5 を除去する高性能な空気清浄システムが搭載されています。これらはドライバーが意識することなく、常に車内では最高の環境が保たれます。
他にも自宅のソファと同じ革でシートを製作するといったベントレーのこだわりもあります。オーナーの生活空間と車内空間をシームレスにつなぐベントレーの車はエフォートレスを追求しています。
ベントレーの 「らしさ」 を形づくるのが、速さ・快適さ・美しさの三位一体の自動車設計です。ただ速いだけの車ではなく、長時間のドライブでも疲れない快適さ、速さの中にも優美さがあるというデザインです。この3つの要素が組み合わさり、ベントレー独自の世界観をつくり出します。
ブランディングとは
それでは次に、ブランディングについて見てみましょう。
ブランディングとは、お客さんが商品に感じた価値を思い出したり、忘れられないようにするための活動です。ブランディングにより、お客さんの商品からの離反や忘却を防ぎます。
ブランドは、商品のユーザー体験による価値評価があって初めて成り立ちます。ブランディングによってお客さんが商品の価値を思い出すきっかけ (ブランド連想) を提供するのであって、ユーザー体験がない中でブランディングを行っても、それは機能しないわけです。
ベントレーのブランディング活動
ベントレーは、顧客に 「気持ちいい記憶」 を持ってもらい、忘れないようにするためのブランディング活動を徹底しています。
顧客価値を思い出させる仕組み
ベントレーはお客さんとの接点をつくり、ブランド価値を継続的に思い出してもらえる仕組みを構築しています。
例えば、定期的な顧客接点として、新車情報やメンテナンスの案内があります。
形式的な事務的な連絡とはせず、ベントレーとの関係性を維持する大切なタッチポイントです。イベントへの招待やライフスタイル提案も、日常的にブランドを意識してもらう役割を果たします。
体験型イベントの実施もブランディングにおいて重要な施策です。
麻布台ヒルズのクリスマスマーケットでシャネルやエルメスと並んで展示されることで、ラグジュアリーブランドとしての位置づけが強化されます。
ブルガリホテル東京での試乗体験イベントでは、ホテルの贅沢な空間でゆっくりお茶を楽しみながらベントレーに触れることができます。プロドライバー同乗による心地よい運転の体験は、ベントレーというブランド価値を直接体感できる機会となることでしょう。
これらのブランディング施策は、いずれも過去のベントレーへの 「気持ちいい記憶」 を呼び起こし、お客さんの頭の中にベントレーというブランドを構築します。
ユーザー体験あってこそのブランディング
ベントレーは 「顧客満足度を最大限に引き上げた結果としての LTV 最大化」 を掲げます。「ユーザー体験による顧客価値があって初めてブランドが成り立つ」 というブランディングの本質を体現しています。
ベントレーはやみくもに販売台数を追わず、オーナーの一人ひとりの顧客体験の質を高め強いブランドを構築しようとしています。ブランドは商品体験からつくられるという姿の表れです。
ベントレーは 「気持ちのいい記憶」 を生む体験づくりと、忘れさせない仕組みとの両輪によって、世界でも稀少な 「ラグジュアリー・ライフスタイル・ブランド」 への進化を後押ししているのです。
まとめ
今回は、高級自動車ブランドの 「ベントレー」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドとは顧客が抱く好ましい感情が伴った商品やサービス。好き、満足、共感、誇り、憧れといった感情が深いほど、強いブランド
- ブランドには独自の 「らしさ」 がある。他にはない特有の理念や価値観、体験から生まれるもの。らしさは競合と差異化され、顧客から 「これがいい」 と指名で選ばれる理由になる
- ブランドは、顧客が過去に体験した 「気持ちいい記憶」 の総体。ロゴなどのブランド資産は、その記憶を呼び起こすトリガーとして機能し、思い出したり再購入へとつなげる
- ブランディングは、優れた商品体験を通じて顧客が感じた顧客価値を、時間が経っても思い出してもらい、忘れさせない活動
- ブランディングは、優れたユーザー体験があって初めて成り立つ。顧客が価値を感じる商品体験がなければ、いくらブランディング活動を行ってもその効果は限定的
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