#マーケティング #ジョブ #価値実現
高額な商品をフリマアプリで買うとき、「本当に本物だろうか?」 と不安になったことはないでしょうか?
実際、「新品のはずが中身がすり替えられていた」 といったトラブルは後を絶ちません。偽物の品質も向上し、素人目では判断がつかないケースもあるようです。
ご紹介したいスニーカー特化型フリマ 「スニーカーダンク」 は、この問題を解決しようとしています。今回は、事例を通して、マーケティングのジョブ理論から急成長を遂げるフリマアプリの人気の要因を紐解きます。
スニーカーダンク
「スニーカーダンク (スニダン) 」 は、スニーカーやトレーディングカード、アパレルなどの CtoC 取引プラットフォームです。
2018年にスニーカー特化メディアとしてスタートし、2019年にマーケットプレイスへ転換。現在では月間600万人が利用する巨大プラットフォームに成長しています。
特徴は、出品者と購入者の間にスニダンが介在し、専門の鑑定士による真贋判定を行うことにあります。X 線やマイクロスコープなどの最新機器を駆使し、99.96% という驚異的な鑑定精度を実現しています。
一般的なフリマアプリでは 「偽物が届いた」 「注文と違う商品が送られた」 といったトラブルが相次ぐ中、スニダンは徹底した鑑定システムで利用者の不安をなくそうとしています。偽物と判定された場合は全額返金される仕組みで、安心して高額商品を売買できる環境をつくります。
では、スニーカーダンクの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
マーケティングの 「ジョブ理論」 に学びが得られます。
ジョブ理論
ジョブ理論は消費者や顧客の 「ジョブ」 に焦点を当てるマーケティング理論のひとつです。
ジョブとは
ジョブの定義は、「ある特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 です。
ジョブは英語では "Jobs to Be Done (JTBD) " といいます。日本語に直訳すれば 「片付けたい用事」 や 「済ませたい仕事」 という意味です。ジョブにもう少し意訳を入れると、ジョブという進歩とは、人が置かれた状況において達成したい目的、解決したい問題、対処したい課題を指します。
ジョブには 「人が置かれた状況をどう変えたいか・より良く進歩したいか」 という視点が含まれます。
商品・サービスはジョブを完了させる 「ワーカー」
ジョブ理論で特徴的なのは、商品やサービスのことをジョブを終わらせるために 「雇うもの」 ととらえることにあります。お客さんが商品を働き手である 「ワーカー」 として雇い、ワーカーに働いてもらうことでジョブが完了し、顧客の状況が進歩するという考え方です。
お客さんが商品を買って期待するのは進歩であって、商品そのものではありません。この認識が大事です。
ジョブが生じる 「状況」 の理解
ジョブを捉えるためには、ジョブがどのような 「状況」 で生じているかを理解することが大事です。状況という原因があってジョブという結果が表れるという因果関係です。
お客さんが心から雇用したいと思い、そして繰り返し雇用したくなる働き手である 「ワーカー」 となるためには、お客さんの片づけるべき 「ジョブの文脈」 まで深く理解することが重要です。
代わりに 「何が解雇されるか」 という視点
ジョブを完了させるためのワーカーには、通常は複数の雇用候補がいます。
よって、「当社の商品が新たにワーカーとしてお客さんに雇用されるためには、今雇用している何が解雇されなければいけないか?」 という競合を捉える視点が大事になります。
既存の他のワーカーでは解決されていない未充足なジョブを捉え、自分たちが新たにワーカーになり、その代わりに何が解雇されるかというリプレイス (置き換え) の視点を持ちます。
お客さんにとっての最適なワーカーを目指す
ジョブ理論を活用すると、自社の商品やサービスが 「どんな状況にいるお客さんの、どのようなジョブを解決しようとしているのか」 を、より具体的かつ多面的に考えられます。
- お客さんは誰か [顧客定義]
- お客さんはどんな状況でどんな進歩を求めているか [状況とジョブの理解]
- 既存の商品や方法では何が解決しきれていないのか [未充足ニーズ]
- どのような設計であれば、よりスムーズにジョブを終わらせられるか [ジョブスペックの開発]
商品をお客さんにとっての最適なワーカーになることを目指します。
スニダンの顧客の状況とジョブ
ジョブ理論では、注力顧客が置かれた状況と、その状況でのジョブ (達成したい進歩) を理解することが重要です。
スニーカーダンクの事例に当てはめて詳しく見ていきましょう。
状況
スニーカー愛好家たちが置かれている状況はこうです。フリマアプリで高価なスニーカーやブランド品を購入したいが、「偽物が届くかもしれない」 「注文した商品とは別のものが送られてくるかもしれない」 という不安を抱えています。特に偽物の品質は向上しており、素人目での判断は難しいという状況です。
実際に 「注文したら全く違うものが届いた」 「中身がすり替えられていた」 などの被害報告もあり、限定品や人気モデルほど偽物が出回りやすく、価格も高額なため、失敗した時のダメージは大きいことでしょう。
ジョブ
このような状況で、顧客が片付けたいジョブは次の4つに集約されます。
1つ目は、安心して本物のスニーカーを購入することです。偽物の可能性がなく、確実に本物を手に入れるという進歩です。
2つ目は適正価格での取引です。市場価値に見合った適切な価格で売買したいという気持ちからです。
3つ目のジョブは商品の状態を正確に把握できることです。新品か中古か、傷や汚れの程度など、実物の状態を事前に知れるかどうかは大きいことでしょう。
4つ目はトラブルなくスムーズに取引が完了することです。お金を払ったのに商品が届かない、偽物だったなどのトラブルを避けたいという望みです。
既存のワーカーでは満たせなかった未充足ニーズ
こうしたジョブを解決するために、スニーカー愛好者はこれまでどんな 「ワーカー (商品・サービス) 」 を雇っていたのでしょうか。
代表的な存在は、メルカリなどの一般的なフリマアプリです。しかし、このワーカーには、ジョブを完璧に遂行できないという利用者にとっての 「未充足ニーズ」 がありました。
多くのフリマアプリは CtoC (個人間取引) であり、基本的にはプラットフォーム運営は取引に直接介在しないため、偽物やすり替えの可能性を 100% は防ぎきれないという点です。
また、フリマ運営側に専門の鑑定機能がなかったり提供をしていないため、届いた商品が本物かどうかは購入者の自己責任に委ねられます。トラブルが発生しても、解決は当事者間に委ねられる場合があり、購入者は商品が手元に届くまで 「本当に大丈夫だろうか」 という不安を抱えながら待つしかないわけです。
これでは 「安心して本物を取引する」 というジョブは、いつまでも片付きません。
最強の "スペシャリストワーカー" のスニーカーダンクの登場
スニダンは鑑定という強力な武器を持つスペシャリストワーカーとして登場しました。
スペシャリストを目指す
一般的なフリマアプリは、日用品から衣類まで幅広く扱う 「ジェネラリスト」 です。
それに対し、スニダンはスニーカーという特定領域の鑑定に特化することにより、既存のワーカーを 「解雇」 させ、自らを 「雇用」 させることに成功します。
スニダンがスニーカー愛好者のジョブをいかに解決しているか、スニダンの 「ジョブスペック」 を見てみましょう。
1つ目は高精度な鑑定です。専門の鑑定士が、X 線やマイクロスコープなどのテクノロジーを駆使し、99.96% という高い鑑定精度を実現しました。スニーカー内部のエアクッションのような外から見えない構造まで 3D データ化して確認するなど、その鑑定は徹底しています。
2つ目のジョブスペックは徹底した検品プロセスにあります。商品本体はもちろん、外箱や包装紙に至るまで 「包装紙の破れは何センチ以内」 といった自社基準を設け、詳細なマニュアルで検品を実施します。
3つ目は安心の保証です。万が一、商品が偽物と判断された場合は、購入者に全額が返金されます。
これらの仕組みによって、スニダンは 「偽物かもしれない」 という利用者の不安を解消し、安心して購入できるという進歩を助けるワーカーという存在になれます。
顧客のジョブを見抜き、最強のワーカーになる
スニーカーダンクの事例は、ジョブ理論を実践する上で大切な示唆を与えてくれます。
それは、お客さんの不安や不便などの困りごと、顧客文脈となる 「状況」 を深く理解し、注力顧客が本当に 「遂げたい進歩 (ジョブ) 」 は何かを見抜くことの重要性です。
既存の商品やサービス (他のワーカー) では満たされていない、お客さんが抱える 「未充足ニーズ」 を発見し、ジョブをより的確に解決できる 「最適なワーカー」 として、自社の商品・サービスを設計します。
競合他社をただ模倣するのではなく、目を向けるべきは顧客です。お客さんのジョブに真摯に向き合うことこそが、お客さんから選ばれ続けるための、最も確かな道筋です。
まとめ
今回は、CtoC 取引プラットフォームの 「スニーカーダンク」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ジョブとは 「特定の状況において人が遂げたい進歩」 。消費者や顧客が本当に求めているのは商品そのものではなく、使うことで得られる 「進歩」 であると捉える
- 商品・サービスはジョブを解決する 「ワーカー」 。人はモノを所有するためというより (それもあるが) 、ジョブを片付けるために商品・サービスを雇う
- ジョブを理解するには顧客文脈を掘り下げる。お客さんの感情・望み・不安・未充足な期待を含む 「状況」 を深く読み解くことで、ジョブが見えてくる
- 選ばれるためには既存ワーカーの解雇を狙う。自社が新たに雇用されるためには、従来の方法では満たされなかったニーズを解決するジョブスペックが必要になる
- 顧客のジョブを最も効果的かつスムーズに完了できる 「最適なワーカー」 として、自社の商品やサービスを設計する。お客さんの状況と抱えるジョブに集中することが、結果として選ばれる理由をつくる
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