投稿日 2025/12/05

ジャパネットたかたに学ぶ 「売れる伝え方」 。二段階ベネフィット訴求でハッピーな未来を描く

#マーケティング #顧客理解 #価値訴求

商品やサービスの魅力をどう伝えれば、お客さんの心に届くのでしょうか?

売れる伝え方には工夫が必要になります。今回ご紹介するのは、テレビ通販でおなじみのジャパネットたかたが実践する 「二段階のベネフィット訴求」 です。

商品の機能説明からさらに一歩踏み込み、お客さんの生活や感情がどう変わるかまで提案することにより、買いたくなる気持ちをつくり出しています。

思わず 「これが欲しかった!」 と感じる、価値の伝え方の秘訣に迫ります。

ジャパネットたかた


出典: 日経

テレビ通販の雄として存在感を放つ 「ジャパネットたかた」 。

なぜジャパネットの商品は魅力的に見え、多くの人が思わず買ってしまうのでしょうか?

強さの秘密は、ただ単に話術が巧みだからというだけではありません。核心にあるのは、商品の価値を視聴者に自分ごととして感じさせる、価値の見せ方と伝え方です。

* * *

では、ジャパネットたかたの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

ジャパネットたかたが、商品によるベネフィット (便益) を二段階掘り下げている点に着目して掘り下げます。

二段階の価値訴求


マーケティングにおいて、商品の魅力を伝えるためには 「便益 (ベネフィット) 」 の訴求が欠かせません。

ジャパネットたかたは、商品の機能を伝える一次ベネフィットだけでなく、そこから生じる生活や気持ちの変化という二次ベネフィットまで丁寧に掘り下げて訴求しています。

これにより 「商品 → 使い方 → うれしさ」 という流れができ、お客さんは自分ごと化された価値を理解したり、共感しやすくなるのです。

[一次ベネフィット] 商品の 「直接的な利点」 を明確に伝える

まずは商品の機能や特徴がもたらす直接的な利点、一次ベネフィットを見ていきましょう。

一次ベネフィットは、その商品が持つスペックや性能から生まれる、わかりやすい便益です。ジャパネットでは、まずここを専門家として端的に示し、商品の基本的な強みを視聴者に理解してもらいます。

例えば大画面テレビでは、くっきりと大きな映像、映画館のような迫力です。

シャワーヘッドの場合は、ヘッドスパ機能で頭皮を刺激、節水で水道・ガス代の削減しカットできます。レイコップ (布団クリーナー) であれば、強力な吸引力に加えて UV ライトでダニ・花粉を除去できることです。

これらは商品が持つ客観的なベネフィットがあり、消費者が購入を検討する上での土台となります。

ジャパネットの真骨頂は、一次ベネフィット訴求の先にあります。

[二次ベネフィット] 顧客の 「ハッピーな未来」 を提案する

商品がお客さんにもたらす価値は一次的な便益だけではありません。

商品の便益が生活や感情にどのような変化をもたらすかを、「商品を手に入れたことや使うことで得られる新しい体験や気持ち」 を訴求することによって、お客さんの心をさらに動かすことができます。

ジャパネットたかたは、機能的な価値などの一次ベネフィットが誰のどんな生活を変えるのかを、具体的な TPO (Time, Place, Occasion) でありありと語ります。

例えば大画面テレビでは、リビングに家族が集まり、同じ時間を共有する温かな団らんが生まれるというようにです。一次ベネフィットで迫力の大画面をアピールし、二次ベネフィットでは家族の絆が深まる生活を伝えるわけです。

他にもシャワーヘッドの場合は、毎日のバスタイムがスパのようなリラックス空間になり、美容と節約を両立できることを強調します。一次ベネフィットで美容・節水機能、二次ベネフィットでは心地よく賢いライフスタイルを訴求します。

レイコップにおいては、布団を清潔に保つことで、アレルギーに悩むお子さんもぐっすり眠れることを打ち出します。一次で除菌・吸引機能を、二次では家族の健康と安心な毎日を強調します。

このように、機能ではなく体験と感情にまでフォーカスすることで、消費者は購入後の 「ハッピーな未来」 を鮮明に想像できます。商品は、その未来を実現するための手段として魅力的に映ることでしょう。

二段階でのベネフィット訴求がもたらすメリット


ここまで見てきた一次と二次での二段階でベネフィットを訴求する方法には、いくつかのメリットがあります。

ジャパネットたかたが消費者から支持を得ている理由もここに隠されています。

共感を引き出す

一次ベネフィット、例えば布団クリーナーの 「吸引力が強い」 といった機能的価値だけでは、競合製品とのスペック競争に陥りがちです。

一方の二次ベネフィットはお客さんの具体的な生活シーンや、こうなったらいいなという生活者の願いに寄り添うため、感情的な共感を呼び起こします。「うちも子どももアレルギーで大変…」 、大型テレビなら 「家族でテレビを見る時間が減ったな…」 といった消費者一人ひとりの困りごとに響きます。

ライフスタイルを提案する

二次ベネフィットの訴求は、商品説明を超えて、商品を使ったり保有することで得られる理想のライフスタイルを提案することにつながります。

お客さんにとって商品購入は、自分の生活をより良くするための価値ある選択へと変わるわけです。商品をライフスタイル実現のパートナーのような存在に位置づけることにより、価格以上の価値を強く感じてもらえるようになります。

ブランドイメージを向上させる

お客さんの生活や悩みを理解し共感し、解決策として商品を提案する姿勢は、自分のことを考えてくれているというお客さんからの信頼をつくり源になります。

顧客ファーストな姿勢が繰り返し伝われば、「この企業だから安心」 、「この会社が薦めるなら間違いない」 といった信頼感や価値への約束などのブランドイメージが形成されます。

汎用的な学び


では最後のパートでは、今回の内容からのマーケティングへの汎用的な学びについて整理します。

顧客文脈の掘り下げ

ベネフィットを訴求する際に必要なことの1つ目は、お客さんの置かれた状況と状態 (心理状態や身体的状態) の深掘りです。

例えば、ジャパネットたかたの事例で言えば、布団クリーナーのレイコップを売る際に、ただ 「ダニや花粉を除去できます」 と言うだけではありません。その先にいる視聴者の具体的な生活をしっかりと想像しています。

具体的には、「アレルギーに悩むお子さんを持つご家庭では、梅雨の時期や花粉の季節に布団を外に干せず、衛生面に不安を感じているのではないか」 、「共働きで日中布団を干す時間がないという方も多いかもしれない」 、「お子さんが咳き込むたびに、親御さんは心を痛めているのではないか」 といった、お客さん一人ひとりが抱えているであろうリアルな状況や心理状態です。こうした顧客文脈を捉えているのです。

だからこそ、「このレイコップがあれば、天気を気にせずいつでも布団を清潔に保てて、お子さんもぐっすり眠れますよ」 という機能説明を超えた、生活に寄り添う提案が生まれます。

このような具体的なリアルな状況から顧客文脈まで理解していくことが大事です。

ハッピーな未来描写と提案

2つ目の二段階でのベネフィットの訴求に必要な要素は、商品ではなくより高い次元での、例えばライフスタイルがより良くなるという、お客さんにとってハッピーな未来を提案することです。その商品があることで実現する、一段上の豊かな生活を提示します。

一日の終わりに、自宅のバスルームがまるで高級スパのような癒やしの空間に変わる。柔らかなミストを浴びながら深呼吸すれば、心も身体も解き放たれていく。贅沢なリラックスタイムを毎日過ごしながら、気づけば水道代やガス代もしっかり節約できている。そんな賢く豊かな毎日が手に入ります、と。

シャワーヘッドの例では、高い節水効果と美容効果があるという一次ベネフィットを伝えるだけでなく、その先にある未来を描写するわけです。「毎日のバスタイムがスパのようなリラックス空間になり、美容と節約を両立できること」 という理想の未来を描きます。

このようにベネフィットを二段階まで掘り下げることによって、商品の説明や機能的な特徴だけに終始せず、お客さんにとって自分ごと化できる提案につながります。お客さんはその未来の物語の主人公として、商品を 「私のためのものだ」 と感じてくれることが期待できます。

お客さんの状況と状態、その状況下で生じている顧客ニーズに寄り添い、新たな価値を提案する方法は、お客さんに選ばれるために欠かせないアプローチです。機能で比較検討する "頭" ではなく、理想の未来に共感する "心" を動かす。数多ある選択肢の中から 「あなたから買いたい」 と思ってもらえます。

二段階のベネフィットを訴求するポイント

整理すると、二段階のベネフィット訴求を活用するには次のことがポイントです。

  • 一次ベネフィットの特定: 商品の機能や特徴を洗い出し、それがもたらす直接的な利点を明確にする

  • 二次ベネフィットの深掘り: 一次ベネフィットがお客さんの気持ち、生活、ライフスタイルにどうポジティブな影響を与えるかを再解釈する

  • ストーリーで訴求する: 一次ベネフィットから二次ベネフィットへとストーリーで結びつけ、消費者がお客さんが商品を手にして使った後の 「ハッピーな未来」 を具体的にイメージできるように伝えていく


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。