投稿日 2025/12/02

デリ Oisix 。新しい事象が生み出す新しい問題。問題解決からの価値創出

#マーケティング #新しい問題 #価値創出

目の前の変化を、どうすればビジネスチャンスに変えられるでしょうか?

テクノロジーの進化や生活様式の変化は、これまでにない 「新しい問題」 を生み出します。その問題を見過ごせば脅威となりますが、いち早く解決策を提示できれば 「価値創出の機会」 になります。

今回は、世の中の変化からビジネスチャンスを見出すための方法を、4つのステップで紐解きます。

デリ Oisix


出典: Oisix

デリ Oisix は、オイシックス・ラ・大地が展開する冷蔵の 「調理済みおかず」 を定期宅配するサービスです。2 ~ 3人分が1セットになっており、週1食または週3食を選択できます。

商品の特徴は、2 ~ 3人分の主菜が約3分、副菜が約2分の電子レンジ調理だけで完成することです。従来のミールキットの Kit Oisix が10 ~ 20分の調理時間がかかることを考えると、デリ Oisix の簡便性は際立ちます。

2025年1月の本格展開からわずか7週間で登録者が7000人を突破するなど、想定を上回る人気となりました (参考情報) 。

特に、共働きで世帯年収1000万円以上のパワーファミリー層からの支持が厚く、デリ Oisix コースは共働き世帯の割合が 84% (Kit Oisix コースは 77%) 、世帯年収1000万円以上の世帯が 36% を占めます (Kit Oisix コースは 21%) 。

新しい問題を捉えての価値提供


では、デリ Oisix の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

この事例を、以下のフレームに沿って当てはめると、汎用的な示唆が得られます。

✓ 新しい問題を捉えての価値提供

  1. 新しい事象の発生 (例: 生活者環境の変化による起こったこと) 
  2. それによる新しい問題の顕在化
  3. その問題を解決する商品開発 (ソリューション構築) 
  4. 問題を解決することでの顧客価値の提供

新しい事象の発生

社会の変化が、デリOisix の成功の土壌を育みました。具体的に順番に見ていきましょう。

■ 働き方の変化とタイムパフォーマンス意識の高まり

新型コロナウイルス禍後のオフィスへの出社回帰により、ファミリー層の時間的制約がより大きくなりました。

在宅勤務が減り通勤時間が復活した一方で、家事や育児の負担は変わらず、むしろ帰宅後にも仕事を続ける人が珍しくない状況です。このような環境変化により、時間に対する意識がより一層シビアになっています。

■ 子どもの小学校入学などに伴う環境変化

いわゆる 「小1の壁」 と呼ばれる現象に代表されるように、子どもの成長に伴って共働き世帯にかかる負担は増大しています。

子どもの保育園や幼稚園から小学校への移行期には、学童保育の受け入れの時間制限や夏休みなどの長期休暇対応など、新たな問題や課題が次々と現れます。これまで以上に効率的な家事運営が求められる状況です。

■ 食の外部化トレンドと RTE 市場の成長

海外、例えばアメリカでは、ミールキットからさらに簡便な RTE (Ready To Eat という調理済み食品) 市場へのシフトが数年前から顕著でした。

日本国内でも、若年層向けの冷凍宅配弁当サービスが拡大するなど RTE 市場は成長しており、より手軽に調理をして食事を済ませたいというニーズが明確に高まっています。

新しい問題の顕在化

こうした新しい事象は、特にファミリー層において、食に関する具体的な問題を引き起こしました。

■ ミールキットすら作る時間がない

Oisix の人気商品であるミールキット Kit Oisix も、10 ~ 20分の調理時間が必要です。

しかし、忙しいファミリーにとっては、この時間すら負担となり 「Kit Oisix ですら、つくり続けるのが難しい」 という声が上がるようになりました。

共働き世帯では、平日の帰宅後に食事をして、その後にも仕事をするという人も少なくなく、料理時間を限りなくゼロに近づけたいという切実な問題が顕在化したのです。

■ 市販総菜への不満や罪悪感

コンビニやスーパーの総菜は充実してきているものの、味付けの均一さや揚げ物中心の茶色いメニューに対する不満があります。

また、栄養バランスや人工添加物への懸念から、市販の総菜に頼ることへの罪悪感を持つ人も少なくありません。たとえ手間をかけられなくても、少しでもフレッシュで健康的な食事を家族に提供したいというニーズが潜んでいました。

■ 「手間抜き」 と 「栄養・満足感」 の両立の難しさ

時間を節約しつつも、家族の健康を守り、食事の満足度を保ちたいという相反する要求をどう満たすかが消費者の課題でした。

特に子どもがいる世帯では、大人と子どもの両方が満足できるメニューを手軽に用意することの難しさが顕在化していました。

問題を解決する商品開発

デリ Oisix は、ファミリー層が抱えるこれらの問題を解決するために、細部まで計算された商品開発を行いました。

デリ Oisix が提供する冷蔵調理済みおかずは、主菜が約3分、副菜が約2分と、電子レンジで温めるだけで食事ができあがります。ファミリー世帯の 「料理時間をなるべくゼロにしたい」 という切実なニーズに応えます。

ただ早いだけでなく、管理栄養士がレシピを監修し、1食あたり5種類以上の野菜を使用しています。栄養バランスと彩りを考慮したメニューを開発することにより、市販総菜に抱きがちな栄養面での不安や罪悪感をやわらげます。

Kit Oisix のキッズメニュー開発で培ったノウハウを活かした工夫も凝らされています。具体的には、家族みんながおいしく食べられるように、子どもが食べやすい食材選びやカットの大きさ、スパイスを別添えにして親 (大人) と子どもで使い分けやすくするなどです。

また、野菜が豊富で子どもも食べやすいという商品特性から、献立を細かく比較検討する手間を省き、届いた商品を迷わず調理できるようパッケージ表記にも配慮するなど、メニューを考えることへの負担を減らす工夫も怠りません。

消費者の日々の食卓に変化と楽しみを提供するため、家庭的で安心感のある定番料理と、普段は自分ではなかなか作らない特別感のある料理をバランス良く組み合わせる、いわば 「ハレとケ」 を意識したメニュー構成も特徴です。

利用者の多様なライフスタイルに対応できるよう、週1日から3日分のコース選択に加え、不要な週のスキップも可能とし、Kit Oisix や単品の冷凍総菜、豆腐やプチトマトといった手軽な食材も追加注文できる柔軟性も備えています。冷蔵で最大3日間の保存を可能にするため、酢の配合を工夫するなど、保存料を極力使わない品質へのこだわりも、Oisix ならではと言えるでしょう。

問題を解決することでの顧客価値の提供

これらの取り組みにより、デリ Oisix は多面的な顧客価値を生み出します。

時間創出と精神的余裕をもたらします。調理時間がほぼゼロになることによって、ファミリー層は貴重な時間を確保できます。

その時間を子どもとのコミュニケーションや自身の休息、他には仕事に充てることができ、精神的な余裕も生まれることでしょう。時間の使い方を主体的に選択できるので、QOL (生活の質) の向上につながります。

また、罪悪感からの解放と食卓の質の向上も実現します。デリ Oisix は栄養バランスが考慮され、彩りも豊かな食事が手軽に用意できるため、市販の総菜に頼ることへの罪悪感が軽減されます。自分では作れないようなメニューも楽しめるため、食卓の質が向上し、家族の満足度も高まることでしょう。

家族みんなの満足と健康もお客さんにとっての価値です。子どもも喜んで食べる工夫がされているため、親にとっては家族の健康を守れているという満足感を得られます。栄養面での安心感と、家族全員が食事を楽しめるので、食卓がより豊かな時間になります。

デリ Oisix が冷蔵庫にあることで 「いざという時に頼れる」 という安心感も生まれます。

高いタイパ (タイムパフォーマンス) 、調理時間と思考負担の削減により、たしかに全て自分で料理する完全な自炊よりは費用は高くなるものの (1食あたり約2000円) 、得られる価値を考慮すれば、忙しいファミリーにとって十分に納得感のある価格設定です。

* * *

デリ Oisix は、社会の変化が生み出した 「新しい事象」 、そこからの 「新しい問題」 を捉え、それに対する解決策をもたらすことによって、消費者に 「時間」 「精神的余裕」 「健康」 「安心感」 といった多岐にわたる顧客価値を提供します。

この事例は、市場や消費者の変化を察知し、顧客ニーズに応えることの重要性を教えてくれます。

まとめ


今回は、デリ Oisix の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントとして、新しい問題を捉えての価値提供の流れです。

  1. 新しい事象の発生 (例: 生活者環境の変化による起こったこと) 
  2. それによる新しい問題の顕在化
  3. その問題を解決する商品開発 (ソリューション構築) 
  4. 問題を解決することでの顧客価値の提供


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。