#マーケティング #ブランド #信頼の可視化
自社のブランディング活動が、一過性のキャンペーンで終わってはいないでしょうか。
お客さんとの間に生まれた 「共感」 や 「感動」 も、時が経てば忘れられてしまう。記憶の風化は、ブランド担当者が抱える根深く解決すべき問題です。
その一瞬の輝きをブランド資産に変え、お客さんとの継続的な絆を築くためには、どうすればいいのでしょうか?
そのひとつのヒントとして、今回は大塚製薬の 「ポカリスエット インハイ NFT」 の事例を取り上げます。NFT で体験と信頼を可視化し、ファンを育てる新しいブランディングについて見ていきましょう。
ポカリスエット インハイ NFT
大塚製薬が展開する 「ポカリスエット インハイ NFT」 は、インターハイを支える高校生ボランティアの活動を NFT で証明するというおもしろい取り組みです (リリースはこちら) 。
高校生の努力を可視化したい
2025年の 「開け未来の扉 中国総体 2025」 において、大会の企画・運営に携わる 「高校生活動」 や 「大会サポート活動」 に従事した高校生を対象に、その活動の証としてデジタル証明書を発行しました。2024年から開始された 「インハイエールプロジェクト」 の一環として、今回で2回目の実施です。
背景にあるのは、選手以外の高校生の努力を可視化したいという思いです。
高校生ボランティアの活動は選手のように記録が残るわけではありません。しかし、選手もサポーターも同じ汗をかいた仲間同士。インターハイボランティアの 「高校生活動」 参加者と 「大会サポート活動」 参加者のそれぞれに NFT が贈られます。活動に応じて異なるデザインが用意され、どちらも大会シンボルとポカリスエットのロゴがあしらわれています。
NFT は、指定の二次元コードから LINE の 「大塚製薬 公式 NFT プロジェクト」 アカウントを通じて入手します。
「ポカリスエット インハイ NFT」 は、見えない汗を形として残します。課外活動の証明書とすることで、将来的には大学の AO 入試や企業への就職活動での活用も期待されています。
「君はきっと、誰かの太陽」
今年は人気漫画・ TV アニメ 「アオのハコ」 とのコラボレーションも実現しました。
NFT 保有者限定で、アオのハコ限定描き下ろしイラストや、メインキャラクターである鹿野千夏から学生への特別応援ボイスメッセージが配信されるなど、高校生にとって特別な価値があります。
今回のキーコピーは 「君はきっと、誰かの太陽」 です。
キーコピーが示すのは、汗をかくことの楽しさや、流した汗はきっと誰かが見ていて、気づかないうちに良い影響を他者に与える。そして汗をかいた人は、周囲を照らし、いつしか他者にも汗をかきたいとを思わせる太陽のような存在になる。
こんな思いが込められています。
では、ポカリスエット インハイ NFT の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例からはブランディングに示唆があります。まずはブランドについて詳しく見ていきましょう。
NFT を使ったブランディング
ブランドの定義をおさえた上で、ポカリスエットの事例を見ていきましょう。
ポカリスエットというブランドの深化
ブランドとは、一言で言えば 「お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業」 です。
好ましいとは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ちで、こうした感情が深いほど商品やサービスは強いブランドです。
「ポカリスエット インハイ NFT」 に話をつなげると、この取り組みは直接的な商品の宣伝ではありません。
大会を支えるボランティアという、これまで光が当たりにくかった存在に注目し、その努力をたたえる姿勢を示すことによって、多くの人が大塚製薬やポカリスエットに対して 「共感」 や 「応援したい」 という好ましい感情を抱くことを期待しての活動です。好ましい感情の醸成が目的なのです。
これにより、社会的な価値を創造する企業としてのブランドイメージを強固にします。
重要になるのが、「らしさ」 の強化とストーリーの要素です。
ポカリスエットは長年、「汗をかくすべての人を応援する」 というメッセージを発信してきました。今回の NFT の取り組みは、そのメッセージを選手の汗だけでなく、「それを支える人の汗も等しく尊い」 というレベルにまで深め、ブランドが持つ独自の価値観やストーリーをより豊かなものにしています。
こうした 「すべての汗を肯定する」 という姿勢が、他社には真似のできないポカリスエット特有の "らしさ" となります。消費者が数ある飲料の中から 「ただの水分補給」 としてではなく、理念に共感して 「ポカリスエット “が” いい」 と選ぶ理由をつくり出しているのです。
そして、この文脈で NFT が活きてきます。
NFT の本質は 「信頼の可視化」 にあります。ブロックチェーン内に行動や成果などを刻むことにより、信頼という目に見えないものが可視化されるわけです。
今回の事例では、縁の下の力持ち的な存在である大会ボランティアの参加と活動を NFT で証明し、ボランティア生徒の信頼を NFT で可視化するという取り組みです。
ポカリスエットの 「らしさ」 が、選手だけでなくボランティアの汗も等しく価値があると認める行動として具現化されているのです。
NFT の役割
NFT があることで、ボランティアに参加した高校生にとって、仲間と汗を流した経験、選手や来場者から感謝された経験は、かけがえのない思い出になりえます。
配布された NFT は、その記憶をいつでも鮮明によみがえらせる強力なトリガーとして機能するわけです。将来、自身のデジタルウォレットにある NFT を見るたびに、当時の充実感や誇りを思い出すことでしょう。
自己実現という好ましい感情も生み出します。
NFT は、自身の貢献が公的に証明された証です。
今回のケースで言えば、かけがえのないボランティア活動の証とともに、「社会に貢献できた」 「新しい自分になれた」 という自己実現の感情につながります。深いレベルでのポジティブな感情が、ポカリスエットというブランドと強く結びつけられます。
ブランドができる流れ
ブランド体験の流れを順に見ていきましょう。
高校生たちはインターハイの現場で強烈なユーザー体験をします。
会場の熱気を肌で感じ (視覚) 、飛び交う歓声や応援の声を聞き (聴覚) 、暑さの中で仲間と協力して活動し汗をかく (触覚) 。活動の合間に飲むポカリスエットの味も、特別な記憶となるでしょう (味覚・嗅覚) 。五感をフルに使った体験です。
次に、このリアルな体験によって感情移入が起こります。
大会を支えているという自尊心や誇り、仲間との一体感、やり遂げた達成感と充実感、そして自分たちの 「見えない汗」 が肯定される感覚。これらが一体となり、深い感情的な結びつきが生まれます。
そして、価値イメージが形成されます。
インターハイへのボランティア活動の参加の証として、ポカリスエットから公式の NFT が贈られます。高校生の心の中には 「ポカリスエットは、私たちの価値ある活動を理解し、未来まで応援してくれる存在だ」 という価値イメージが生まれるのです。
NFT という形で 「信頼の可視化」 が実現され、活動の証が永続的に残るという価値、将来への可能性として大学入試や就活での活用という実利的価値も生まれます。
ブランディングへの示唆
ブランド体験から生まれる価値を、いかにして持続させるかがブランディングの役割です。
NFT とブランディング
ポカリスエットの事例における NFT はブランディング活動そのものです。ボランティア活動というユーザー体験によって生まれた 「価値」 や 「気持ちのいい記憶」 を、生徒たちが忘れないようにするための具体的な仕掛けが NFT なのです。
重要なのは、ユーザー体験がない中でブランディングを行っても機能しないという点です。
もし大塚製薬が、何の体験もない高校生にただ NFT を配布したとしても、それは意味を持ちません。あくまで 「インターハイでのボランティア」 という体験があるからこそ、体験価値を思い出させる NFT を使った一連のブランディング施策が機能するからです。
ポカリスエットの NFT は、ボランティア生徒がブランドから離れてしまったり、貴重な体験を忘れたりするのを防ぐ、永続的な絆となります。
もたらされた価値
「ポカリスエット インハイ NFT」 は、NFT による 「信頼を可視化」 という社会貢献的な側面と、ブランドの 「らしさ」 を深め、消費者との間に消えない 「気持ちのいい記憶」 を刻むというブランディングを同時に実現した事例です。
これにより双方に価値をつくり出しました。
ボランティア生徒への価値として、まず活動の証明という信頼の可視化があります。さらに 「新しい自分になれる」 という自己実現の感情、そして将来への投資価値という実利的な側面も生まれています。
一方、ポカリスエットへの価値として、「汗を応援する」 という理念の具現化が実現しました。高校生という若年層との新たな接点をつくり、若い世代との関係性を深め、ポカリスエットブランドへの親近感や愛着という長期的な関係構築という成果も得られます。
ポカリスエットは若者の努力と成長を NFT によって実績や信頼を可視化し、未来につなげる存在として自らを位置づけています。
「ポカリスエット インハイ NFT」 は、ブランドが 「気持ちいい記憶」 をつくるだけでなく、記憶を社会的価値を持つ資産として提供するというブランディングの新しい可能性を拓く取り組みです。
まとめ
今回は、大塚製薬の 「ポカリスエット インハイ NFT」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドとは、お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業。好ましいとは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ち
- 強いブランドは、他社にはない特有の 「らしさ」 を持っている。らしさが顧客にとっての価値となり 「これがいい」 と選ばれる理由になる
- NFT による信頼の可視化。「ポカリスエット インハイ NFT」 はブロックチェーン技術を活用し、高校生ボランティアの活動実績をデジタル証明として永続的に残す取り組み
- ブランディングは、お客さんが良い商品体験で感じた価値を思い出したり忘れないための活動。顧客の離反を防ぐ役割も果たす
- ブランディング施策としての NFT は、顧客体験価値を思い出すトリガーとなる。ブランドとの関係維持と離反防止を担う
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