#マーケティング #地方創生 #新規事業

地方の過疎化や空き家問題を、ビジネスの力で解決できるとしたら――。

今回、ご紹介したい本は、楡周平 (にれ しゅうへい) さんの小説『サンセット・サンライズ』です。

この本からは、地方創生と新規事業のつくり方を学べます。

本書の概要

この小説は、地方創生エンターテインメント小説です。

コロナ禍のリモートワークを機に東北の三陸のある港町へ移住した青年が、地元の人たちとの交流を通して 「過疎化」 「空き家問題」 「震災の傷跡」 と向き合い、社会課題をビジネスの力で解決していくというストーリーです。

2025 年 1 月には菅田将暉さん主演、宮藤官九郎さん脚本で映画化もされました。

物語の舞台は、新型コロナウイルスによるパンデミックで世界中が混乱し、リモートワークが普及し始めた 2020 年です。

東京の大手電気機器メーカー 「シンバル」 で働く 36 歳の独身サラリーマン・西尾晋作は、大の釣り好きです。

完全テレワークになったことを機に、宮城県と岩手県の県境にある三陸の港町・宇田濱 (うだはま) で、「築 9 年、3LDK 、家具家電付きで家賃 8 万円」 という神物件に飛びつき、お試し移住を始めます。

移住先で晋作は、物件の持ち主である町役場職員の関野百香と出会います。

一癖も二癖もある地元の人たちとの距離感ゼロの交流に戸惑いながらも、晋作は持ち前のポジティブさと行動力で少しずつ溶け込んでいきます。そのなかで、地方が抱える課題を目の当たりにしていくのです。

物語の後半で晋作は、企業と地方の双方にメリットをもたらす空き家活用の新規ビジネスをシンバルの大津社長に提案し、プロジェクトとして本格的に動き出します。

学べるテーマ

この小説から注目したいポイントを 3 つ取り上げます。

震災後の地方が抱えるリアルな課題

人口減少、空き家の増加、高齢者の孤立といった地方の喫緊の課題が、主人公たちの日常のやり取りを通じてリアルに伝わってきます。

宇田濱町は東日本大震災の被災地という設定です。晋作が借りた家は、実は百香たち家族が震災前に建てた新居でした。震災で大切な人を失った百香は、その家に引っ越すことができないまま 10 年近くもそのままにしていたのです。

この物語設定が象徴するように、本作では被災した人たちの悲しみは、時間が経っても心の中に残り続けるという現実がていねいに描かれています。町の人たちは表面上は明るく暮らしていても、震災の記憶という 「現在の痛み」 を心の奥に抱えているのです。

しかし同時に、晋作のような 「しがらみのない他所から来た明るいエネルギーを持つ外部の人間」 が入ってくることによって、悲しみで止まっていた時計の針が再び動き始めるきっかけになる場面も描かれます。地元の人たちだけでは踏み出せなかった一歩を、よそ者の存在が後押しするのです。

人と人とのつながりの中で少しずつ 「前に進む力が生まれる」 という、出会いによる心の再生の描き方が、この物語に奥行きを与えています。

コロナ禍そのものも、過疎化や震災後の問題と並ぶ物語のメインの要素として組み込まれている点が本作の特徴です。

コロナによるリモートワークの普及があったからこそ晋作は移住でき、移住したからこそ地方の課題に出会い、課題に出会ったからこそビジネスの種を見つけました。社会の変化と個人の行動が連鎖していく構造になっています。

地方創生を 「行政任せ」 から 「ビジネスモデル」 へ

人口減少、限界集落、空き家問題といった地方の課題に対し、ビジネスとして成立する解決策が提示されます。

町役場で空き家問題を担当する百香が語るのは、空き家は年々増え続けているのに、所有者の事情や法的な制約もあり、行政だけでは打ち手が限られるという現状です。聞かされるほど、晋作は 「ならば別のアプローチがあるのではないか」 と考え始めます。

晋作が打ち出したのは、「企業の資本と過疎地でのリモートワーク」 というふたつを掛け合わせたビジネスモデルでした。

コロナ禍で都会に住む必然性が薄れた今、条件のよい空き家をリフォームし、テレワークで働く都会の人材に貸し出します。企業にとっては社員の多様な働き方を支援でき、地方には人口と経済の流入が生まれます。

この発想のポイントは、事業として収益が成り立つ形にしていることです。

空き家の所有者は賃料を得られ、自治体は人口減少に歯止めをかけられ、利用者は豊かな自然環境での暮らしを手に入れます。企業側も使用料や仲介手数料という収益源を確保できます。

つまり、関わる全員にメリットがある仕組みだからこそ、持続可能な事業になりうるのです。

補助金で一時的に人を呼び込んでも、切れると元に戻ってしまうのが行政主導でよく見られるパターンです。本作が提示するのは、利益が出る構造をつくることにより自走する仕組みにするアプローチです。

この視点は、地方に限らず社会課題に取り組む事業に通じる考え方ではないでしょうか。

また、晋作が外部のサラリーマンであることもポイントです。地元の人には見えにくくなっていた地域資源の価値、たとえば新鮮な海の幸や自然環境の豊かさ、人情の厚さを、よそ者の目線で再発見し、ビジネスの文脈で描き出しています。

この 「外部の目が内部の価値を引き出す」 という構造は、マーケティングにも重なるところがあります。

新規事業のつくり方

晋作が空き家活用ビジネスを構想していく過程を追うと、新規事業の立ち上げに必要な思考のステップが浮かび上がります。

事業の種

まず注目したいのは、事業の 「種」 が見つかるまでの過程です。

百香の話は正論であり、否定的な見解に聞こえる内容ばかりでした。しかし、そこで思考を止めなかったことが晋作の転機になります。

背景にあったのは、シンバルの大津社長がことあるごとに社員に説いていた姿勢です。正論、定説、常識を疑え、それを覆すことができれば大きなビジネスをつかめると。

とりわけ注目したいのは、「挑戦を嫌う人間は新しいことをやろうとするとまず最初に問題点をあげつらう。しかし問題点がわかっていることは、すでに解決すべき課題が見えているということだ」 という発想です。

社内では 「知恵を絞っても解決策がないから実現できないんだ」 という声もあります。それでも大津社長が伝えたいのは、とことん知恵を絞り、考え抜く姿勢です。今は策が見つからなくても、時間の経過とともに、あるいは何かの拍子に問題が解決できる環境が整うこともあります。だからこそ、問題を前にして思考を止めるなというメッセージです。

晋作の場合、コロナ禍によるリモートワークの普及がその 「環境の変化」 でした。

以前であれば、都会の企業人を地方に呼び込むのは現実的ではありませんでした。しかし働く場所の制約がなくなり、空き家と都会の人材をつなぐビジネスが成り立つ土壌が生まれたのです。大津社長が説いていた考え方が体現された場面です。

事業の判断基準

次に興味深いのは、事業の 「筋のよさ」 を判断する基準です。

晋作の提案を聞いた大津社長は、このビジネスのポイントを明快に語ります。立地がよく、リフォーム費用も許容範囲内で、借り手が見込める家賃に収まる物件に投資する。収益が上げられると判断できる空き家だけに絞って投資する。これはビジネスだと言い切ります。

ここには、社会課題の解決であっても事業としての採算を冷静に見極める姿勢があります。投資に見合うリターンが見込めるかを判断する規律があるからこそ、持続可能なビジネスになります。

そして、大津社長がこの事業の最大の強みとして強調するのが、「携わる者全員に Win-Win の関係が成立すること」 です。

空き家の所有者にも、自治体にも、利用者にも、そして企業にもメリットがあってデメリットがない。関わるすべての人にとっての Win があります。

大津社長の言葉を借りれば、「売る側、買う側。サービスを提供する側、される側。どんなビジネスでも、携わる者全員が満足するものでなければ成功しないし、長続きしない」 ということです。

この考え方は、ビジネス全般の本質を突いています。

新規事業をつくるときに、社会課題の解決と経済的な持続性をどう両立させるか。この小説は、「常識を疑う姿勢」 「環境変化をとらえるタイミング」 「全員が Win になる設計」 という 3 つのヒントを、物語の形で見せてくれます。

まとめ

小説『サンセット・サンライズ (楡周平) 』を取り上げ、学べることを見てきました。

学びのポイントをまとめておきます。

  • 外部の視点が、内部では気づきにくくなっていた価値を再発見するきっかけになる
  • 否定的な見解の中に事業の種がある。問題点がわかっていることは、解決すべき課題がすでに見えていること
  • 環境変化のタイミングをとらえて動く。課題はずっとあっても、解決の条件がそろう瞬間を見逃さない
  • 善意だけでなく事業として利益が出る構造をつくることで、社会問題への解決と課題の対処は持続する
  • 携わる全員が Win-Win になる設計が、ビジネスを長続きさせる条件