#経営 #組織変革 #八段階の変革プロセス

今回は京都の 「よーじや」 を取り上げます。倒産の危機に直面した老舗企業が、全社的な変革によって復活した事例です。

よーじやの歩みから、組織変革を進める方法を掘り下げます。

よーじやの変革

京都のよーじやは、1904 年に 「國枝商店」 として創業した老舗企業です。

当初は舞妓さんにおしろいなどを販売し、やがて歯ブラシで人気を集めました。当時、歯ブラシは全国的に 「楊枝」 と呼ばれていたことから、「楊枝を売る店」 という意味で 「楊枝屋 (よーじや) 」 と呼ばれるようになりました。

1920 年代には、映画関係者から 「顔のテカリをなんとかしたい」 と相談を受け、あぶらとり紙を開発します。1960 年代に手鏡をのぞく女性のイラストをロゴマークに採用し、テレビドラマに商品が映ったことをきっかけに、京都土産の定番として一大ブームになりました。

その後、あぶらとり紙の売上は 20 年で 4 分の 1 にまで落ち込み、「知ってはいるけど普段は買わないブランド」 になっていました。

コロナ禍では京都から観光客が消え、1 日の売上がゼロになった店舗もありました。倒産が現実味を帯びる中、國枝昂 (くにえだ こう) さんが 29 歳で入社し、5 代目代表に就任。翌年に社長へ就任します。

國枝さんが掲げた方針は、観光客の売上に頼りすぎない 「脱・観光依存」 でした。ロゴマークの変更、飲食事業への参入、観光地以外への出店などを進め、よーじやは V 字回復を実現しました。

この変革は、コッターの 「八段階の変革プロセス」 に沿って読み解くことができます。

八段階の変革プロセス

八段階の変革プロセスは、ハーバード・ビジネス・スクールの名誉教授であるジョン・P・コッターが提唱した理論です。

企業変革の成功と失敗を分析し、変革を進めるためのステップを八段階にまとめています。

  1. 危機意識を高める
  2. 推進チームをつくる
  3. ビジョンと戦略を立てる
  4. ビジョンを周知する
  5. メンバーが行動しやすい環境を整える
  6. 短期的な成果を生む
  7. さらなる変革を進める
  8. 新しい方法を文化として根づかせる

詳しくは、書籍 「企業変革力 (ジョン・P・コッター) 」 に書かれています。

ペンギンを主人公にしたビジネス寓話 「カモメになったペンギン」 でも、八段階のプロセスがわかりやすく紹介されています。要点を短時間で知りたい方におすすめです。

よーじやの変革プロセス

よーじやの変革を八段階のプロセスに当てはめて見ていきましょう。

[第一段階] 危機意識を高める

変革は、「このままではまずい」 という危機感を共有するところから始まります。

2018 年、よーじやのメインバンクから國枝さんに 「会社が危ない」 という連絡が入りました。多くの商品の売上が右肩下がりで、銀行からは追加融資が難しくなる可能性も伝えられます。

一方、社内には危機感がほとんどありませんでした。創業 100 年を超える老舗の看板が、「まさかうちが潰れるはずがない」 という安心につながっていたのでしょう。

國枝さんは従業員一人ひとりと向き合い、会社の状況を伝えました。さらにコロナ禍で観光客が消え、売上がゼロになる店舗も出たことで、改革に賛同する声が増えていきました。

[第二段階] 推進チームをつくる

変革を進めるには、リーダーを支える推進チームが必要です。

國枝さんの就任当時、社内はあぶらとり紙を扱う 「オリジナル派」 と、化粧品を扱う 「コスメ派」 に分かれていました。EC サイトも制服も別々で、部門ごとに動いている状態でした。

國枝さんは 1 年目に制服を統一し、EC サイトも一本化します。反発を受けながらも組織を一つにまとめました。

さらに年功序列を廃止し、商品開発は若手中心のチームに任せました。年齢や経験よりも、変革を進める力を重視した人材配置へ切り替えたのです。

[第三段階] ビジョンと戦略を立てる

変革を前に進めるには、目指す姿と具体的な進め方を示す必要があります。

國枝さんが掲げたビジョンは 「脱・観光依存」 でした。よーじやは約 85 年間、地元の人に支えられてきましたが、あぶらとり紙ブーム後は 「京都土産の店」 というイメージが強まり、観光客への依存が高まっていました。

コロナ禍でその弱さが表面化し、ビジョンは 2 つの戦略に落とし込まれます。

1 つは京都以外への出店です。日常使いの商品を展開し、繰り返し買うお客さんを増やす方向へ舵を切りました。

もう 1 つは飲食事業への本格参入です。京都の食材を使った蕎麦店やカフェを展開し、地元に貢献するブランドを目指しました。

[第四段階] ビジョンを周知する

ビジョンは、組織全体に繰り返し伝えることで行動につながります。

國枝社長が 「脱・観光依存」 を宣言すると、観光客向けの商売に慣れていた社内から反発が起こりました。國枝さんは方針を掲げる理由を丁寧に説明し、行動でも示していきます。

象徴的だったのがブランドロゴの刷新です。

出典: PR TIMES

60 年続いた手鏡の女性のロゴマークを刷新し、コーポレートロゴをシンプルな文字ロゴへ変更しました。

社外から多くの叱責を受けましたが、「もう過去には戻らない。新しいよーじやをつくる」 という覚悟が社内にも伝わりました。ロゴの変更によって、「脱・観光依存」 に本気で取り組む姿勢を示したのです。

[第五段階] メンバーが行動しやすい環境を整える

社員が動くには、行動を妨げる古い仕組みやしがらみを取り除く必要があります。

制服と EC サイトの統一によって、「オリジナル派」 と 「コスメ派」 の壁が薄れ、社員が一つの会社として動きやすくなりました。

年功序列も廃止します。以前は、頑張りと評価や昇進の関係がわかりにくいという不満がありました。挑戦や成果を評価する仕組みに変えたことで、若手もアイデアを出しやすくなります。

入社 2 年目の社員は、以前は年 1 回あるかないかだった新商品開発の頻度が大きく変わったと語っています。組織の分断と評価制度を見直したことが、社員の行動を後押ししました。

[第六段階] 短期的な成果を生む

変革を続けるには、目に見える成果を早い段階でつくることが大切です。

よーじやでは、観光地以外への出店が早期の成功事例になりました。東京や福岡の店舗で、850 円のハンドクリームなどの日常使いの商品が売れ、何度も訪れるお客さんが生まれています。

飲食事業でも、十割そば大盛り 500 円の蕎麦店に行列ができ、カフェもほぼ満席になりました。来店客の多くは地元京都の人たちです。

こうした成果によって、社員は 「脱・観光依存でやっていける」 という手応えを得ました。

[第七段階] さらなる変革を進める

初期の成功を足がかりにして、改革をさらに広げます。

店舗数は全国 20 店舗に拡大しています。商品ラインナップも約 170 アイテムに増えました。

飲食では、蕎麦店の夜営業として 「26 ダイニング」 を始めました。

出典: 26 ダイニング

店名の 「26」 は、京都府内の 26 市町村を指します。各地の食材を使った創作料理を提供し、地元農家と直接つながりながら京都の食の魅力を発信しています。

新キャラクターの 「よじこ」 も、ブランドイメージの刷新を後押ししました。

出典: PR TIMES

かつて売上の 8 割を占めたあぶらとり紙は 2 割弱となり、主力商品の入れ替えが進みました。売上もコロナ禍の落ち込みから V 字回復しています。

[第八段階] 新しい方法を文化として根づかせる

最後は、新しい行動や考え方を組織の日常に定着させます。

國枝さんの就任から約 7 年で、離職率は 30% から 10% に下がりました。蕎麦店の社員は、先を見据えてお客さんに喜んでもらう方法を考えるようになり、会社が 180 度変わったと語っています。

開発担当の若手も日常的にアイデアを出し合っており、よーじやは 「挑戦する集団」 へ変わりました。

國枝さんは、30 年後も成長するために挑戦心を持ち続ける必要があると語っています。

「脱・観光依存をずっと続ける」 という方針をぶらさず、新しい取り組みを重ねたことで、挑戦し続ける姿勢が企業文化として根づいています。

よーじやは、ロゴの変更で 「脱・観光依存」 への覚悟を示し、派閥や年功序列を見直して社員が動きやすい環境をつくりました。観光地以外の店舗や飲食店で成果を出し、その成功を次の改革へ広げています。

八段階の取り組みをつなげ、挑戦し続ける文化まで定着させたことが、持続的な成長につながっています。

まとめ

京都の 「よーじや」 の社内変革の事例を取り上げました。

学びのポイントとして、八段階の組織変革のプロセスでまとめます。

  1. 危機意識を高める: 現状のままでは将来立ち行かないという現状の課題を共有し、変革の必要性を組織全体で認識する
  2. 推進チームをつくる: 権限・専門性・人望を持つメンバーを集め、変革をリードするチームを編成する
  3. ビジョンと戦略を立てる: 目指す姿を明確にし、実現するための戦略を描く
  4. ビジョンを周知する: わかりやすいメッセージと行動で、組織全体に繰り返し伝える
  5. メンバーが行動しやすい環境を整える: 古い仕組みや心理的な壁を取り除き、挑戦しやすい環境をつくる
  6. 短期的な成果を生む: 目に見える成果を早期につくり、組織とメンバーに自信を与える
  7. さらなる変革を進める: 初期の成果を横展開し、改革を加速させる
  8. 新しい方法を文化として根づかせる: 変革で得た行動や仕組みを組織の日常に定着させる