#生き方 #起業 #本

海外で起業し、何度失敗しても挑戦を続ける人は、何を支えに前へ進むのでしょうか?

書籍『シリコンバレーによろしく お金もコネも英語力もない僕のアメリカ起業 (内藤聡) 』には、事業アイデアの見つけ方やお客さんへの向き合い方に、そして何よりも、結果が見えない中で挑み続けるための考え方が描かれています。

今回は、著者の内藤聡 (ないとう さとる) さんが歩んだ 10 年間をたどりながら、マーケティングと事業づくりへの学びを見ていきます。

本書の概要

本書は、何者でもなかった日本の若者が、シリコンバレーで起業し、泥くさく戦い続けた記録です。

華やかな成功だけを描いた話ではありません。事業の失敗、資金難、方向転換、社員の解雇までを含め、「成功する保証がなくても、なぜ挑戦を続けるのか」 という問いに向き合ったノンフィクションです。

映画をきっかけにシリコンバレーへ

著者の内藤聡さんは、立教大学在学中に映画『ソーシャル・ネットワーク』を見て衝撃を受けます。Facebook 創業者のマーク・ザッカーバーグを主人公にした映画です。

学生時代には、現地のスタートアップや起業家を紹介するブログ 「シリコンバレーによろしく」 を始めました。本書のタイトルは、このブログ名に由来します。

ブログを通して人とのつながりや仕事の機会を得た内藤さんは、大学卒業後、単身でアメリカへ渡ります。当時は、お金もコネも十分な英語力もなく、社会人経験もありませんでした。

準備が整うまで日本で待つのではなく、先に挑戦する場所へ身を置いたのです。

最初の失敗から、起業する理由を見つける

内藤さんは 2015 年に会社を設立しますが、最初の事業は失敗します。

流行していたサービスを組み合わせ、売れそうな事業を考えたものの、内藤さん自身が心から欲しいサービスではありませんでした。お客さんが抱える問題も、十分には理解できていなかったのです。

行き詰まる中で、内藤さんは 「なぜ自分は起業するのか」 と自問します。

転機になったのが、メンターから薦められた内村鑑三の『後世への最大遺物』でした。内藤さんは 「死後も残るような事業をつくりたい」 という、自分なりの起業の理由にたどり着きます。

自分自身の不便から 「Anyplace」 を生み出す

次の事業を探す中で、内藤さんはアイデアを机の上で考えるのではなく、自分の生活にある未解決の問題へ目を向けます。

アメリカで何度も引っ越した内藤さんは、長期の賃貸契約、家具の購入と処分、電気や水道、Wi-Fi の手続きに負担を感じていました。そこから生まれたのが、家具付きの部屋やホテルを柔軟な期間で借りられるサービスです。

サービス名は当初、ホテルに住むという意味を込めた LiveHotel (リブホテル) でした。しかし、アメリカ人には 「ライブホテル」 と読まれ、ホテルからライブ配信をするサービスのように誤解されることがあったそうです。

そこで、場所を選ばずどこにでも住めるという意味を持つ Anyplace へ名前を変更します。

泥くさい実践で事業を前へ進める

Anyplace の立ち上げでは、簡単なウェブサイトで利用者の反応を確かめながら、地道に顧客を増やしていきました。積み重ねた実績が評価され、内藤さんは著名な投資家から出資を受け、Anyplace を全米へ広げました。

それでも、本書は華やかな場面で終わりません。パンデミックや資金調達環境の悪化によって、Anyplace は何度も存続の危機に立たされます。

終盤では、資金が尽きかける中で大規模な解雇を決断し、内藤さん自身が社員一人ひとりに伝える場面も描かれます。

本書から特に学んだこと

本書からは、新しい事業を生み出し、育て、挑戦を続けるための姿勢と考え方を学べます。

挑戦を支える起業の 「Why」 

本書の背骨のようになっているのが、内村鑑三の著書『後世への最大遺物』から得た思想です。

事業を後世に残せるかどうかは、自分だけではコントロールできません。市場環境や競争、資金など、自分の意思では動かせない要素があるからです。

一方、困難な状況でも挑み続けるかどうかは、自分で選べます。

内藤さんは、成功という結果より、自分が選べる挑戦の姿勢に軸を置きました。失敗や資金難、パンデミック、大規模な解雇に直面しても進み続けられたのは、自分なりの Why があったからでしょう。

長く挑戦するには、目標の達成とは別に、なぜ自分はこれをやるのかという理由が必要です。成功する保証がない中でも前へ進む内藤さんの生き方に、強く心を動かされました。

良いアイデアは、問題に気づくことから生まれる

本書では、良いアイデアほど、最初は良く見えないことがあると語られます。

誰が見ても有望なアイデアなら、すでに誰かが始めている可能性があります。多くの人がまだ重要性に気づいていない問題の中に、新しい事業の機会があります。

ただし、奇抜なアイデアをひねり出せばよいわけではありません。内藤さんが影響を受けた考え方は、「アイデアを考えるな。問題に気づけ」 というものでした。

Anyplace も、会議室で生み出した斬新な発想ではありません。内藤さんが何度も引っ越す中で感じていた不便から生まれました。

良い事業アイデアを探すときは、流行するサービスを組み合わせるより、自分や身近な人が繰り返し経験している未解決の問題へ目を向けることが重要です。「自分が欲しくて、まだ世の中にないもの」 という基準は、シンプルですが本質的です。

商品ではなく、お客さんが実現したい状態を捉える

Anyplace の事例で印象に残ったのは、表面的な商品と、本当の顧客価値の違いです。

Anyplace は、表面的にはホテルや家具付き住宅に長期間住めるサービスです。しかし、お客さんが欲しいのはホテルではありません。

家具を買わなくてよい。長期契約を結ばなくてよい。電気や水道、Wi-Fi を一つずつ契約しなくてよい。新しい場所ですぐに生活を始められる。お客さんにとっての価値は、生活を始めるまでの負担から解放されることです。

その商品によって、どの負担が減り、どのような状態を実現できるのかまで捉える必要があります。

Anyplace が生まれる過程は、マーケティングの 「顧客インサイト」 や 「ジョブ理論」 を、実際の事業づくりでどう使うかを示す例としても読めます。

最初はスケールしない非効率さを重視

もう一つ印象に残ったのが、"Do things that don't scale" 、つまり 「スケールしないことをやれ」 という考え方です。

事業を大きくしようとすると、最初から効率化や自動化を進めたくなります。しかし、顧客価値がわからない段階で効率化しても、価値のないものを効率よく届ける仕組みができるだけです。

内藤さんたちは、顧客と一緒に物件を内見し、ホテル利用者に洗濯やコーヒーを提供しました。さらに、住まいを探す人を集めるための Facebook グループを自分たちで運営し、参加者を 10 万人規模まで増やしました。

人力で属人的な活動ですが、非効率だからこそ、お客さんが困る場面や喜ぶこと、お金を払う価値、利用をためらう理由が見えてきます。

手作業でお客さんに深く関わることは、価値を届ける活動であると同時に、顧客理解を深める調査でもあります。

小さくつくり、お客さんの反応を見る。そこから学び、提供価値を修正した後に、仕組みを整えて事業を広げます。効率化やスケールは最初の目的ではありません。お客さんに価値を届けられると確かめた後に考えるものです。

挑戦の結果ではなく、挑み続ける姿勢を描いた本

本書は、特別な才能や恵まれた環境があったから挑戦できたという話ではありません。

内藤さんは、何も十分に持っていない状態で、先に挑戦する場所へ飛び込み、失敗や危機を経験しながら歩み続けました。

もちろん、挑戦すれば必ず成功が約束されているとは限りません。それでも、自分が何のために挑むのかを定め、自分で動かせることに集中することはできます。

『シリコンバレーによろしく』は、起業の方法だけを教える本ではありません。結果が見えない中で、なぜ挑戦を続けるのか。その問いに、一人の起業家が 10 年間の実践を通して、自分なりの答えを見つけていく本です。

事業づくりの学びとともに、自分は何を残したいのか、どのような生き様を選びたいのかを考えさせられる内容でした。

まとめ

  • 書籍『シリコンバレーによろしく お金もコネも英語力もない僕のアメリカ起業 (内藤聡) 』は、何者でもなかった内藤聡さんがシリコンバレーへ渡り、事業の失敗や資金難、方向転換を経験しながら、起業家として 10 年間挑戦を続けた記録
  • 事業づくりでは、自分や身近な人の未解決の問題に気づき、お客さんが実現したい状態まで掘り下げる。初期段階では、非効率で泥臭いスケールしない手作業を通して、顧客価値を確かめることが重要
  • 挑戦を長く続ける支えになるのは、自分がなぜ取り組むのかという理由。結果を完全にはコントロールできなくても、失敗や危機の中で挑み続ける姿勢は自分で選べる