#マーケティング #使い方提案 #顧客文脈

商品の機能や価格が似てくるほど、「自分ならどう使えるか」 を具体的にイメージできることが、選ぶ理由のひとつになります。使い方まで具体的に提案すれば、商品の魅力をお客さんの生活に結びつけられます。

富士フイルムのスマホプリンター 「instax mini Link+」 は、「好きなものを集めて飾る」 という使い方を前面に出し、スマホプリンターの役割を広げました。

この事例をもとに、使われる場面をどう見つけ、そこで生まれる顧客価値をどのように言葉にし、商品の魅力につなげるかを紐解きます。

自社の商品やサービスの使い方を広げたいときに使える、3 つの問いもご紹介します。

富士フイルムのスマホプリンター 「instax mini Link+」 

出典: 日経クロストレンド

富士フイルムは 2026 年 1 月、スマホプリンターの新モデル 「instax mini Link+」 を発売しました。チェキの 「mini Link」 シリーズの上位モデルにあたるプリンターです。

これまでの mini Link は丸みを帯びた明るい色使いで、女性ユーザーを主な対象にしていました。一方の新しいモデルは、直線基調のメタリックなブラックボディに刷新され、20 代男性も新たな想定ユーザーに加えられています。

興味深いのは、外見の変化以上に商品の役割まで描き直されていることです。同じスマホプリンターでも、使われる文脈を書き換えれば別の商品になります。

マーケティングでの 「使い方提案」 の重要性

お客さんが商品を買う目的には、その商品を使って得られる体験や時間、誰かとの関係性があります。

一言で言えば顧客価値です。プリンターであれば、印刷したものを飾った部屋の雰囲気や、誰かに渡したときの相手の笑顔まで価値に含まれます。

機能や仕様だけの説明では、便利な道具としての理解にとどまり、お客さんは自分の生活でどう使うのか、どこに置くのかまで具体的に思い描きにくいでしょう。使い方を具体的に示せば、「自分にも当てはまるかも」 と感じやすくなり、選ぶ理由が生まれます。

富士フイルムの枠組み 「コンテンツプリント」 

コンテンツプリントとは、撮った写真に加え、オンライン上にある好きなコンテンツも集めて印刷し、ファッションアイテムのように楽しむ考え方です。★240Pinterest との連携も、この使い方を支えるために用意されました。

富士フイルムは、コンテンツプリントを掲げて商品の役割を 「写真を出力する道具」 から 「好きなものを集めて飾る道具」 へと広げています。プリンターを、暮らしを彩るアイテムとして位置づけ直しました。

顧客文脈の発見から始まった

コンテンツプリントというコンセプトは、ユーザー調査で見つかった違いをもとにつくられています。

同じチェキシリーズでも、カメラを使う人は 「これから何を撮ろうか」 と探していくのに対し、プリンターを使う人は 「これをプリントしたい」 と最初からプリントしたいものが明確でした。さらに、カメラユーザーは女性比率が高く、プリンターユーザーは男性比率が比較的高いという傾向も見えてきました。

ユーザー調査で見つけた違いが、デザインの刷新、モードのつくり分け、Pinterest との連携につながっています。お客さんがどんな場面や目的で商品を使うのかを理解するところから、使い方の提案が具体化していきます。

商品の役割を書き換える 2 つの利用シーン

富士フイルムが提案する使い方の中で、商品の役割を描き直している中核的な要素は 2 つあります。「部屋に飾る」 と 「Pinterest から集めてプリント」 です。

[利用シーン 1] 部屋に飾る

もっとも基本となるのが、プリントしたものを部屋に飾るという使い方です。

富士フイルムは、プリンターをインテリアの一部としても楽しめる商品にしています。従来は写真を出力するところまでがプリンターの主な役割でした。印刷したものを飾るところまで使い方に含めると、プリンターは 「部屋づくりに参加するアイテム」 になります。

スマホプリンターによってお客さんが得るのは、部屋の印象がぱっと明るくなる感覚や、自分の好きなものに囲まれる満足感です。さらに、自分らしい部屋づくりというライフスタイルと結びつき、好きなものに囲まれた空間で過ごす時間も豊かになります。

[利用シーン 2] Pinterest から集めてプリント

もうひとつの中心となる利用シーンが、アプリと Pinterest を使った新しい使い方です。

富士フイルムの専用アプリでは、プリントしたい候補画像を集約できます。さらに 「額縁で飾る」 「スマホの裏に入れる」 「壁に貼る」 といった活用イメージをシミュレーションし、複数枚を一気にプリントできる機能も用意されました。

プリント前の時間まで商品体験に含まれている点も特徴です。従来のプリンターは、印刷ボタンを押してからが主な役割でした。Link+ では、好きなものを集め、組み合わせを考え、飾り方をシミュレーションする時間まで楽しめます。

お客さんにとっては、「集める → 選ぶ → 飾る」 という一連のプロセスも楽しい時間になります。プリントには、出力作業に加えて、自分の感性で好きなものを選び、組み合わせる楽しさが加わります。

補助的な使い方 「持ち歩く」 と 「手渡す」 

今のメインの使い方に加え、補助的な使い方としてふたつあります。

ひとつは、透明のスマホケースにプリントを挟んで持ち歩く使い方です。家の外でも好きなものを身近に感じられます。プリントが持ち物になり、自分の好みや個性を表すものに変わっていきます。

もうひとつは、撮った写真や好きな画像をその場でプリントして友人に手渡す使い方です。デジタルが全盛だからこそ、紙のプリントを手渡される体験には特別感があります。プリンターは、人と人との関係を温める道具にもなります。

2 つの使い方は、中核となる 「飾る」 「編集する」 という体験を、外出シーンや人との時間にまで広げています。

使い方提案の本質

使い方提案では、プリンター本体の価値から、飾る・編集する・持ち歩く・手渡すという使い方へと視野を広げ、商品を使った後の暮らしや人との関係まで考えます。お客さんの生活の中で得られる価値を具体的に描くほど、商品を選ぶ理由も明確になります。

富士フイルムが価値を広げられた理由

富士フイルムでは、顧客文脈の発見からデザイン・画像処理モード・アプリ機能・周辺アイテム (フォトフレームなど) まで、コンテンツプリントというコンセプトに沿ってそろえています。個々の機能やアイテムがばらばらに存在せず、商品を使う一連の体験としてつながっている点がおもしろいです。

コンテンツプリントという一語に世界観をまとめているのも特徴です。お客さんにも意味が伝わりやすく、社内の関係者も同じ方向を共有しやすくなります。

機能訴求では届かない場所

仮に富士フイルムが 「高画質スマホプリンター」 という機能訴求だけで売り出していたら、性能の良さは伝わっても、「どう使えるか」 「自分の生活でどんな意味があるか」 までお客さん自身が考える必要があります。使い道がはっきりしなければ、部屋の片隅にしまわれる可能性もあったでしょう。

飾る・編集する・持ち歩く・手渡すと具体的に提案されるため、お客さんは買ったあとの使い方や顧客価値をすぐにイメージできます。

マーケティングへの学び

学びのポイントは、自社の商品が 「お客さんのどんな時間をつくるのか」 「どんな関係性を生むのか」 まで描けているかという問いです。

機能や仕様に加え、利用する場面と、そこから生まれる価値を直接的な変化から暮らしや関係性まで段階を追って描けているかが問われます。

使い方提案を考える 3 つの問い

1 つめは、どんな場面で使われるかです。今回のケースでは、「部屋の壁」 「スマホの裏」 といった具体的な状況まで描いています。

2 つめは、そのとき何が良くなるかという直接的な顧客価値です。「部屋が明るくなる」 「会話のきっかけになる」 など、お客さんがその場で感じる変化を言葉にします。

3 つめは、その積み重ねでどんな暮らしや関係性になるかです。ライフスタイルのレベルまで描けると、お客さんにとって商品の意味が深まります。

 「選ばれる理由」 をつくるということ

同じ価格、同じスペックの商品が並んだとき、人は何を基準に選ぶでしょうか?

暮らしの中での意味が具体的に描かれていると、「この商品があると、自分の生活はこう変わる」 と想像しやすくなります。それが選ぶ理由になります。

たとえ商品カテゴリーは同じでも、使う文脈を書き換えれば別の意味合いの商品になります。富士フイルムの事例は、使う文脈の書き換えを商品開発の中心に置いた例です。

まとめ

  • 使い方提案では、商品を使った後の暮らしや人との関係まで価値を広げて考える
  • 顧客文脈の理解が、使い方提案とコンセプトづくりの土台になる
  • 使い方を具体的なシチュエーションで描くと、人は商品を自分ごととして考えやすくなる
  • 暮らしやライフスタイルの中でどんな意味を持つかまで描けている商品は、お客さんにとって選ぶ理由が明確になる