#マーケティング #パーパスブランディング #変わらない軸

ブランドが商品の種類やカテゴリーを広げると、世界観は薄まってしまうのではないか――。マーケティングでは、長くそう考えられてきました。

ところが、拡張するほど強くなっているブランドがあります。

今回は、サントリーの 「BOSS」 を取り上げ、なぜブランドの軸を保ったまま領域を広げられるのかを、パーパスブランディングの観点から紐解きます。

拡張が続く BOSS ブランド、しかし軸はぶれない

まずは BOSS の歩みを簡単に振り返ります。

BOSS は、1992 年にサントリーが発売した飲料ブランドです。

出典: 日経クロストレンド

BOSS は、パイプをくわえたおじさんのロゴでおなじみの缶コーヒーとして始まりました。「働く人の相棒」 を掲げ、建築現場やタクシー運転手、外回り営業の人たちに支持を広げました。

転換点は、2017 年に発売した 「クラフトボス」 です。500 mL のペットボトルに入ったコーヒー飲料は、従来の BOSS のイメージを広げ、若年層や女性にも支持されました。ここからブランド拡張が本格化します。

出典: 日経クロストレンド

その後も、紅茶、スープ、果汁飲料、希釈タイプへとカテゴリーを広げています。

2018 年には自販機限定のスープ 「ビストロボス」 、2019 年には 「クラフトボス TEA」 、★140 2025 年には初の果汁飲料 「クラフトボス ベリー & アサイー」 が登場しました。

一見すると、ここまでカテゴリーを広げればブランドの印象が薄まりそうです。それでも BOSS が愛され続ける理由を、パーパスブランディングの観点から見ていきます。

パーパスブランディングの考え方

この記事で使う 「パーパス」 と 「パーパスブランディング」 を整理します。

パーパスとは、企業が社会や相手にどんな存在価値を提供するかを定義したものです。何を売る会社かよりも、相手にとってどんな存在でありたいかを示します。この視点が、商品カテゴリーを超えてブランドを育てる土台になります。

ポイントは、主語を 「私たち」 よりも 「相手」 に置くことです。BOSS の 「働く人の相棒」 も、その考え方で定義されています。主語は BOSS ではなく働く人です。働く人にとって、どんな存在でありたいかという視点から言葉がつくられています。

パーパスブランディングは、パーパスに 「信頼」 や 「感情移入」 を伴わせ、指名で選ばれるブランドをつくる取り組みです。言葉で定義するだけでは相手の心は動きません。ブランドならではの人格や世界観を通じて伝えることで、パーパスが生活者にとって意味のあるものになります。

では、BOSS がこの考え方をどうブランドづくりに生かしてきたのかを見ていきましょう。

ブランドの軸を、商品ではなく相手の文脈に置く

BOSS のブランドづくりで最初に見ておきたいのが、軸の置き方です。

1992 年の誕生時から定義された 「働く人の相棒」 

BOSS は発売当初から、自らを 「働く人の相棒」 と定義していました。この定義の仕方が、その後 30 年以上にわたるブランド展開を支えています。

BOSS を単なる缶コーヒーブランドと定義していれば、紅茶やスープへの展開はブランドとの矛盾を生んだでしょう。

 「働く人の相棒」 という軸なら、提供する商品の形を柔軟に変えられます。働く時間に寄り添えるものであれば、缶でもペットボトルでも、コーヒーでも紅茶でも構いません。

主語を顧客 (相手) にする

ブランドの軸を商品に置くと、存在意義もそのカテゴリーに縛られます。缶コーヒー市場が縮めば、缶コーヒーとしてのブランドも縮小していくしかありません。

一方で、顧客の文脈を軸にすれば、相手の変化に合わせて形を変えられます。働く人がいる限り、BOSS は相棒であり続けられます。商品を時代に合わせて変えても、生活者に届ける意味は変わらず、ブランドの軸もぶれません。

BOSS の商品ジャンルの拡張が、「節操のなさ」 よりも 「自然な進化」 として受け取られる理由です。商品の共通点よりも、働く人に寄り添うという意味がブランドをつないでいます。

ブランドの人格と振る舞いが感情移入を生む

パーパスは、言葉だけで生活者の心に届くものではありません。ブランドの人格や振る舞いに表すことで、感情移入や信頼につながります。BOSS は、その表現にも一貫性があります。

 「がんばれ」 と言わず、ただ寄り添うという人格

BOSS のコミュニケーションを象徴するのが、2006 年から続くトミー・リー・ジョーンズ主演の 「宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ」 です。「このろくでもない、すばらしき世界。」 というメッセージにも、働く人を静かに見つめる姿勢が表れています。

宇宙人ジョーンズは、働く人の隣に立ち、その世界を眺めます。「がんばれ」 と強く励ましたり、背中を押したりはしません。急かすことなく、ただ 「わかっているよ」 と寄り添う存在です。

BOSS が目指すのは、働く人の相棒です。相棒とは、すぐそばにいて、同じ目線からその人の毎日を見てくれる存在です。BOSS は、このパーパスを 「寄り添う」 という人格と振る舞いに落とし込んでいます。

仮に BOSS が 「働く人よ、目標に向かってがんばれ!」 と強く背中を押すブランドなら、今とは違う人格になっていたでしょう。

変わらない人格が、信頼と感情移入を育てる

BOSS の 「寄り添う人格」 は、30 年以上にわたり変わっていません。

商品は缶コーヒーから果汁飲料やスープまで広がり、見た目は大きく変わりました。それでも生活者が抱く 「働く人に寄り添うブランド」 という印象は保たれています。

人格と振る舞いに一貫性があるため、商品が変わっても信頼や感情移入が続きます。長年積み重ねた印象が土台となり、新商品も 「BOSS らしい」 と受け入れられます。

生活者の変化に合わせて、提供する喜びを進化させる

BOSS は、変わらない軸と人格を保ちながら、生活者の変化に合わせて提供する喜びを進化させています。

現場観察から生まれたクラフトボス

その象徴が、2017 年に発売された 「クラフトボス」 です。

当時は缶コーヒー市場が縮小し、コンビニコーヒーが台頭していました。サントリーは、新しい働く人たちの現場を徹底的に観察します。

そこで見つけたのが、IT 系ワーカーの働き方と飲み方の変化でした。長時間デスクに向かう人が増え、短い休憩でコーヒーを一気に飲み干すより、仕事をしながら少しずつ飲む人が増えていました。現場で 「ちびだら飲み」 と呼ばれる飲み方です。

さらに聞き込みを進めると、手描きの日記や革の手帳など、アナログなものを好む人が多いことも分かりました。デジタルな仕事をしながら、身の回りには温もりを求めていたのです。

こうして、ガラスのような質感を持つ透明の 500 mL ペットボトルが生まれました。味わいも、長時間かけてゆっくり飲めるよう、軽やかで飽きにくく設計されています。クラフトボスは、従来の缶コーヒーをあまり飲まなかった若年層や女性にも支持を広げました。

開発では、働く人の変化に応えることを基準にしました。ブランドの軸が 「働く人の相棒」 にあるため、働く現場が変われば、BOSS の姿も自然に変わります。

想定する顧客像と価値観はアップデートし続ける

BOSS のブランド担当者は、お客さまを引っ張るよりも、消費者の変化にいち早く気付き、相棒として呼応する順番で開発していると語っています (参考情報) 。

パーパスという軸を持つことは、顧客像を一度決めて固定することではありません。軸は進む方向を示し、顧客理解は時代に合わせて更新していきます。

BOSS の顧客も、建築現場やタクシー運転手などの 「体を動かす働く人」 から、デスクワーカー、若年層、女性へと広がりました。働き方や飲む場面の変化を捉え、BOSS もそれに応じています。

変わらない軸があるからこそ、顧客像や商品の形を柔軟に変えられます。ブランド拡張の成否は、商品の広さよりも軸の置き方で決まります。

まとめ

サントリーの BOSS ブランドから、パーパスブランディングについて学びました。

学びのポイントをまとめます。

  • ブランドの軸を、顧客を主語にした相手の文脈に置く
  • パーパスをブランドの人格と振る舞いで表し、感情移入と信頼につなげることがパーパスブランディング
  • ブランドへの信頼は、一貫性から生まれる
  • 変わらない軸があるからこそ、商品や顧客像を時代の変化に合わせて柔軟に更新できる
  • ブランド拡張の成否は、商品の広さよりも軸の置き方で決まる