#組織 #経営 #本
会社での会議や確認が増え、意思決定に時間がかかる。戦略は「あれもこれも」と総花的になり、社内のルールや手続きは年々複雑になる――。
こうした変化は、多くの会社で少しずつ起こります。
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経営学者の沼上幹 (ぬまがみ つよし) さんは著書『組織戦略の考え方 - 企業経営の健全性のために』で、組織が徐々に動きにくくなる状態を「疲労」、さらに人と制度が悪い方向へ作用し合う状態を「腐敗」と捉えました。
なぜ、普通に働く人たちが集まった組織でも疲労し、やがて腐敗していくのでしょうか?
今回は「人の行動」と「制度」の両面から組織が機能しなくなるその過程を読み解きます。そして、組織がおかしくなり始めたときに表れるシグナルと、自分の職場をチェックするための具体的な視点をご紹介します。
組織は、なぜ「疲労」するのか
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本書でいう「組織の疲労」とは、人々がそれぞれ仕事をしているのに、意思決定や実行が進みにくくなり、組織としての仕事遂行力が落ちていく状態です。
興味深いのは、特別に悪い誰かがいなくても疲労が起こることです。フリーライド、決断不足、情報収集や分析のやりすぎ、権力関係のゆらぎなど、会社で日常的に起こる現象が少しずつ組織を重くしていきます。
組織の疲労は、さまざまな小さな行動から生まれる
たとえば決断不足です。
経営には、限られた人材・予算・時間の中で何を選び、何を諦めるかという判断がつきまといます。選択によって誰かが不利益を受けたり、反対意見が出たりするため、決断には負荷がかかります。
決断を避けると、商品企画では「価格も安く、性能も高く、品揃えも豊富に」と要求が増えます。戦略でも、売上、利益率、ブランド、新商品、対象地域など、あらゆる目標を同時に追う総花的な計画になりやすくなります。
どれも反対しにくい目標です。ただ、使える資源には限りがあります。何を優先するかが決まっていなければ、現場は多くの要求を同時に背負うことになります。
情報収集や分析も同じです。意思決定の精度を高めるためにデータを集め、関係者に確認し、資料を作ることは必要です。
ただ、情報収集、分析、確認、説明が増え続けると、本来決断をする人の時間が削られます。周囲が熱心に働くほど、意思決定者がボトルネックになり、会社全体の判断が遅くなるわけです。
フリーライドが、組織の力を少しずつ削っていく
組織では、成果の多くをメンバー全体で共有します。
会社の業績が良くなれば、直接その成果を生んだ人以外も、給与や福利厚生、会社の信用、雇用の安定といった恩恵を受けます。すると、「自分ひとりくらい頑張らなくても大きな影響はない」という考えが生まれる余地があります。
これがフリーライドです。
一人のフリーライダーがいるだけなら、組織は大きく揺らがないかもしれません。ただ、同じ行動を取る人が増えると、実際に仕事を引き受ける人へ負担が偏ります。
フリーライドを人の性格だけで説明すると、その人が置かれている状況を見落とします。自分が頑張っても評価が変わらない、誰かがやってくれる、責任を負うほど損をすると感じる環境なら、普通の人でも行動を変えるからです。
組織の疲労を見るときには、人が置かれている状況や、そこで合理的だと感じる行動まで目を向けることが大事です。
権力の使われ方が、判断や行動を歪める
組織には役職や権限があります。一方、実際の会社では、正式な権限とは別の力も動きます。
本書で印象的なのが「キツネの権力」です。「虎の威を借る狐」という言葉の通り、自分自身が強い権力を持っていなくても、力を持つ「トラ」の権力を借りて影響力を持ちます。
たとえば顧客から「もう少し安いとうれしい」と言われた営業担当者が、社内では「顧客は大幅な値下げを求めている」と強く伝える。顧客という「トラ」の力を借り、自分の意見を通しやすくするわけです。
「専務がそう考えている」「社長はこの方向を望んでいる」といった言葉も同じ構造を持ちます。社長や専務など、社内で実際に権力を持つ「トラ」の威を利用するわけです。発言した本人と直接話す機会がなければ、周囲は反論や確認を控え、権力者の意向を先回りして行動するようになります。
キツネの権力を成立させるのは、狐役の人だけではありません。「話を荒立てたくない」「わざわざ専務に確認するほどでもない」と周囲が黙れば、その力はさらに強まります。
決断の先送り、フリーライド、過剰な情報収集、権力の使われ方。起きている現象は違っても、人の判断や行動に余計な制約を生み、組織の意思決定と実行を少しずつ重くしていく点は共通しています。
疲労が積み重なると、なぜ組織は「腐敗」するのか
「組織の腐敗」も、本書ならではの強い表現です。
生モノが時間とともに内側から腐っていくように、組織でも人の行動と制度が悪い方向へ作用し合い、自ら機能不全を生み続ける状態が起こります。
疲労している組織には、まだ一時的な問題も含まれます。腐敗が進むと、問題を生む行動がルールや手続き、評価、仕事の進め方に深く入り込み、組織の中で繰り返されるようになります。
人の行動の歪みが、ルールや制度として積み重なる
会社で問題が起きると、再発防止のために新しいルールができます。
確認項目を増やす。承認者を増やす。チェックシートを作る。関係部署への事前相談を必須にする。どれも、その時点では理由があります。
難しいのは、新しいルールが追加される一方で、古くなったルールをなくす機会が少ないことです。
過去の問題に対応したルールが残り、新しい問題が起きれば別のルールが追加されます。さらに例外対応が生まれ、細かいルールも加わります。年月がたつほど、ルールや手続きは複雑になります。
制度が複雑になると、社内ルールに詳しい人の価値が上がります。「この案件は先にあの部署へ話を通した方がいい」「正式な申請の前にこの人へ説明しておく」といった社内事情を知る人が頼られるようになります。
人もその環境に適応します。顧客や競争相手について詳しい人に加えて、社内の手続きや力関係をうまく扱える人が評価されるようになり、能力の使い道が少しずつ内側へ向かいます。
「成熟事業部の余分な仕事」が、内向きの仕事を増やす
もう一つ、本書が組織腐敗の要因として挙げるのが「成熟事業部における余分な仕事」です。
事業が成熟すると、社員は仕事に慣れます。経験がたまり、以前より短い時間で同じ仕事をこなせるようになれば、本来は余力が生まれます。
ところが、優秀な人ほど手を止めている状態を好みません。仕事が少なければ、新しい仕事を考えます。
会議を増やす。資料を詳しくする。顧客ニーズをさらに細かく分類する。商品を少しずつ改良し、品揃えを増やす。新しい管理指標を作る。
個々の仕事には、それぞれもっともらしい理由があります。積み重なると、仕事に習熟して生まれたはずの余力が社内の新しい仕事で埋まり、組織は再び忙しくなります。
顧客の細かな要望に対応し続ければ、商品数が増え、在庫や管理の負担が大きくなることもあります。顧客志向という言葉のもとで、採算の合わない仕事まで増えます。
ここで、人と制度の循環が始まります。
人が新しい仕事やルールを作り、複雑になった制度が人の行動を内向きに変えます。社内事情に詳しい人が評価されれば、その人たちがさらに社内向けの仕事や手続きを増やしていきます。
組織が自ら機能不全を生み、その状態を自分たちで強めるようになる。生モノが内側から腐るような「腐敗」という表現は、こうした状態を指しています。
健全な組織が疲労し、腐敗していくシグナルは何か
組織の腐敗は、ある日突然始まるわけではありません。
会議が増えた。承認者が増えた。以前より判断に時間がかかる。戦略が総花的になった。「顧客が言っている」「上が言っている」という説明をよく聞くようになった。
このような日常の小さな変化として表れます。
腐敗の兆候は、日常の小さな変化に表れる
会議が多い会社を見て「腐敗している」と決めるのは早いでしょう。ルールや承認にも、それが必要になった理由があります。
大事なのは、目に見える現象の数より、その仕事や制度が人の行動をどう変えているかを見ることです。
たとえば、次のように問いかけてみます。
- このルールは、なぜ作られたのか
- 作られた当時の問題は、今も残っているか
- この確認や承認は、何を防いでいるのか
- その会議や資料は、どの意思決定に使われているか
- この仕事は、いつ、なぜ増えたのか
- 本来は誰が決めるべきことなのか
長く続いている仕事ほど、「昔からそうしているから」という理由だけで残っている場合があります。仕事が生まれた理由までさかのぼると、今も続ける意味があるかを判断しやすくなるはずです。
人と制度の「悪循環」が始まっていないかを見る
人の側にもシグナルがあります。
「顧客が言っている」「部長が言っている」と他人の名前を使う場面が増えていないか。選ぶ必要があるのに全部を取ろうとしていないか。分析や確認を増やすこと自体が仕事になっていないか。
制度の側では、古いルールが残ったまま新しいものだけが増えていないか。社内手続きに詳しい人ばかりが頼られていないか。生産性が上がって生まれた余力が、新しい社内業務を増やすために使われていないかを確認します。
人の行動は制度を変え、制度は人の行動を影響を与えます。この往復が悪い方向へ回り始めると、組織の疲労は腐敗へ近づいていきます。
組織を見るときには、誰か一人を問題人物として切り出したり、目についたルールだけを変えたりする前に、「人と制度の間で、どんな悪循環が生まれているか」を確かめたいです。
フリーライドする人が増えたなら、なぜその行動が本人にとって合理的になっているのか。決断が遅いなら、誰が決めるのか、その人の時間を何が奪っているのか。社内調整が増えたなら、どんなルールや評価がその行動を促しているのか。
組織は、働く人の行動と制度が毎日の仕事の中で影響し合って動いています。小さな疲労の段階で人と制度のつながりに目を向けることが、腐敗のシグナルに気づく手がかりになります。
まとめ
- 組織の「疲労」は、決断不足、フリーライド、情報収集・分析のやりすぎ、権力の使われ方など、日常の小さな行動が重なって起こる
- 疲労が続くと、確認・承認・手続きがルールとして増え、古い制度の上に新しい制度が積み重なっていく
- 成熟した組織では、余った時間や能力が会議・資料・細かな企画などの内向きの仕事を増やし、一見すると忙しそうに見える人の評価が高まったりする。人と制度の悪循環が強まる
- 疲労や腐敗の兆候として、「人の行動がどんな制度を生み、その制度が人の行動をどう変えているか」を見ることが、腐敗のシグナルを見抜くポイントになる
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