投稿日 2010/07/31

今さら電子書籍を考える

米アマゾンは7月28日、キンドルの新機種を発表しました。同社のベゾスCEOによると、ダウンロードと読書をさらに容易にすることで、アップルのiPadとの差別化を図るという考えを示しています。興味深いのは、ツイッターやFacebookとの連携機能が加わり電子書籍にもソーシャルの流れが見えてきたことです。また、日本語を含む複数の言語が新たに追加されたようです。

今回は、少し今さら感もありますが電子書籍について考えたことを記事にしてみます。


■電子書籍の所感

このパラグラフの前提として、現在の自分の電子書籍端末は、スマートフォン(iPhone)とPCだけです。本当はiPadなどのタブレットPCやキンドルなどの電子書籍専用端末から読んだ上で述べたほうがいいのですが、今の電子書籍に対する印象は概ね以下の通りです。

(1) 速読しづらい
本を読むということだけに特化すれば、紙の本が圧倒的に優れていると思います。ケータイ小説などは別ですが、ある程度の文量になると一定時間内に読める量では紙の本に分があります。また、ページをめくるという行為が紙のほうが繰りやすいことも関係していそうです。(紙の本は三次元で読書できるのに対して、電子書籍は二次元です)

(2) 紙のほうが頭に入りやすい(理解しやすい)
これは(1)とも関わってきますが、電子書籍で読んでいると内容が頭に入ってきにくい時があると感じます。電子書籍を読むということに慣れていないだけだといいのですが、本の内容にもよりますが理解度でも紙と電子書籍で差があるように思います。

(3) 電子書籍は読むより保存に向いている
(1)(2)も合わせて考えると、電子書籍の強みは「保存」と「検索」です。紙という物質で存在するのに対して、電子書籍はデータで保存できます。故に電子書籍端末に紙では持ち歩けないほどの量を入れておくことができ、データであることで検索との相性も良い。例えば、後からあらためて読みたい箇所を探すのは、紙の本では苦労することが多い一方で、電子書籍なら検索で一発で探せるはずです。


■日経電子版モデル

さて、今年に入り日経新聞が新たに電子版を創刊しました。電子版を読むには、電子版のみを購読するか紙+電子版をセット(Wプラン)で購買するかのどちらかです。

この紙+電子版をセットで売るというビジネスモデルは書籍にもあってもいいかもしれません。というのは、上記の電子書籍の3つの所感を踏まえると、紙と電子書籍は自分の中で役割が異なるので、であれば両方買うのはありだと思うからです。役割が異なる点を少し具体的にイメージしてみると以下のようになります。
 ・ 紙の書籍:基本読むのは紙のほうで
 ・ 電子書籍:旅行など紙を持ち運びづらい場合に紙の代用として。保存用

ちなみに日経Wプランは紙の新聞購読料金に追加1000円で紙と電子版の両方なので、だいたい25%プラスでお金を支払うイメージです。日経電子版は紙の新聞にはない情報が含まれていることを考えると、例えば本の定価のプラス20%くらいの値段で紙の本+電子書籍が買えるのではれば個人的に結構魅力です。あるいは、紙の本を先に買って内容がよければ後から電子書籍を買えば、電子形態で保存しておき、紙の本は売ってもよさそうです。

(もっとも、自分で本を「自炊」するという手間をかければいいという気もしますが)


■マトリクスから考える本との関わり

ここまで考えてきた電子書籍の役割を考慮し、位置づけを整理してみました(図1)。



横軸は自分にとってのストックかフローかどうか。フローは返却したり売ったりと、常に手元にはない状況を指しています。縦軸は上質か手軽かで分けていますが、上質は自分にとって思い入れのあるものであったり、貴重な資料など。今のところ、こんな具合で本との関係ができればなと思います。

こうしてあらためて見てみると、自分が読む本という形態が電子書籍だけになるという状況は当分はなさそうな気もします。技術が発達し電子書籍端末で紙並の読み方が可能になったり、電子書籍でしかできない体験(ソーシャル機能による本を通じた今までにない「つながり」)ができるようにならない限りは。


投稿日 2010/07/27

リバース・イノベーション

■カギはリバース・イノベーション

「これからの時代は先進国中心の研究体制では勝ち抜けない」。日経ビジネス2010.7.19の「賢人の警鐘」では、ゼネラル・エレクトリックCEO(最高経営責任者)のジェフリー・イメルトが抱く危機感から始まります。

では、どうするのか。カギは「リバース・イノベーション」だと言います。
投稿日 2010/07/25

「情報」と「情報入手媒体」を考える

前回の記事では、「新聞消滅大国アメリカ」という本から新聞やジャーナリズムについて取り上げました。今回の記事でも同じテーマをもう少し考えてみたいと思います。


■情報入手媒体という意味では新聞衰退は仕方ない

私は新聞は宅配でとっていますが、なぜ自分は新聞を買っているのかを考えてみると、(当然ですが)紙面に書いてある情報を手に入れるのが目的です。朝刊で言うと前の日の夜中までくらいの情報をその日の朝に得るためです。ただ、新聞以外にもテレビやネットを利用し情報を入手しているので、必ずしも新聞でなければいけないことはないのが正直なところです。

「新聞消滅大国アメリカ」に書かれいるように、新聞業界は縮小傾向にありこの流れはある程度は仕方ないのではないでしょうか。ただし、それは新聞という情報媒体についてであり、情報提供者である新聞記者や編集者がいなくなっていいというわけではないと思っています。

その理由は、新聞から得られる情報(ニュース記事等)は自分一人ではとても入手しきれない貴重な情報だからです。もちろん、ネット上には無料でニュース記事が多くありますが、それも元をたどると新聞記事がネットでも転用されたものだったりします。


■ジャーナリズムに期待すること

ここで、このニュースなどの情報についてあらためて考えてみると、大きくは2つに分けることができると思っています。すなわち、「事実」としての情報とその事実に基づく「分析や見解・意見」です。また、記者が情報を得る方法も例えば、「人に聞く」という取材と、「調べる」という2つを考慮すると、新聞やネットに掲載されている情報は下図のように整理できそうです(図1)。


マトリクスの各情報が今後も私たちが入手できること、これが報道やジャーナリズムにこれからも期待したいことです。


■情報入手媒体の整理から

ここまで、新聞等で掲載される情報について見てきました。情報について大事な点だと思うことにその伝達手段があります。受け手の側から言うと情報を何から得るかということ。ぱっと思うつく自分の情報入手する媒体を整理すると、以下のようなマトリクスで分けられました(図2)。なお、人から直接聞く情報や店頭などの現場からの情報は含めていません。


横軸は、ストック情報かフローかどうか。フローというのは、基本的には情報を蓄積せずに流れていくものです(もちろん、新聞や雑誌の切り抜き、ツイッターのアーカイブ、テレビの録画でストックすることはできます)。縦軸は静的な情報か動的なものかです。静的な情報の例としては文字などのテキスト情報が画像、動的な情報例は動画や音声情報も入れていいと思います。

こうして見ると、「新聞消滅大国アメリカ」の題材でもあった(紙の)新聞は、情報を入手する多くの手段の1つにすぎないことがわかります。となると、私たちにとってはこれら複数の選択肢がある状況においては、他の情報媒体と差別化された「強み」を持たなければいずれ消滅する可能性もあるのではないでしょうか。


■ずっと続く情報入手媒体の検討

私にとって紙の新聞は通勤時の情報入手媒体としては、読む・持ち運ぶという点で現時点で優れていると思っています。また、値段的にも、一日当たり120-150円ほどで、費用対効果もそれなりにあります。ただし、将来的も同じかと言われると、個人的にはやや悲観的な立場なのかもしれません。現在は値段的には決して高くはないと思っていますが、これからの技術革新による全く新しい仕組みができれば、もっと安いコストで情報が入手できることもあり得ます。そうなると、150円程度とはいえ無理に紙媒体の新聞を維持すると、無駄なコストが発生してしまいます。

「知的生産の技術」(梅棹忠夫著 岩波出版)という本には、情報にどう対処するかについて書かれた示唆に富む言葉があります。
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くりかえしていうが、今日は情報の時代である。社会としても、この情報の洪水にどう対処するかということについて、さまざまな対策がかんがえられつつある。個人としても、どのようなことが必要なのか、時代とともにくりかえし検討してみることが必要であろう。(p.15より引用)
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ちなみにこの本は、1969年に出版されたており当時はPCが全くPersonalな存在ではなかった時代ですが、この指摘は現在においても通じることだと思います。(紙の)新聞が自分の情報を入手する手段にとして必要なものなのかどうかを検討するのは、もしかしたらそう遠くはない将来なのかもしれません。


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。