投稿日 2018/05/24

行動科学マネジメントから考える、マーケティングのトライアル購入とリピート購入への示唆


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短期間で社員が育つ 「行動の教科書」 - 現場で使える行動科学マネジメントの実践テキスト という本は、「行動科学マネジメント」 というマネジメント理論について書かれています。

人に望ましい行動を繰り返してもらうにはどうすればよいかです。



今回の内容です。

  • 行動科学マネジメントの ABC モデル
  • 行動への 「きっかけ」 と 「継続」 のポイント
  • マーケティングへの応用


行動科学マネジメントのための 「ABC モデル」


行動を起こすためのマネジメントが、「ABC モデル」 です。ABC モデルについて、以下は本書からの引用です。

人に望ましい行動を繰り返してもらう仕組みについて、行動科学マネジメントでは 「ABC モデル」 という概念を用いて説明しています。

A (Antecedents) = 先行条件
B (Behavior) = 行動
C (Consequences) = 結果

(引用:短期間で社員が育つ 「行動の教科書」 - 現場で使える行動科学マネジメントの実践テキスト)

ABC モデルは、行動の前後に注目します。

行動のきっかけとなる 「先行条件」 、行動後に起こる状況変化などの 「結果」 の2つを考えます。行動科学マネジメントでは、それぞれが行動にどのような影響を与えたかを分析し、行動のマネジメントに活かします。


初めて行動を起こすきっかけは 「先行条件」


興味深いと思ったのは、「初めての行動を起こすきっかけ」 と 「その行動を継続する要因」 は異なることが、ABC モデルから説明できることです。

再び、本書からの引用です。

私たち人間が、最初に何かの行動を起こすのは 「A (先行条件) 」 によります。これは 「誘発刺激」 と言い換えることができます。

「白髪が気になった」 から髪を染めた。「どうぞとすすめられた」 から菓子を食べた。「友人に誘われた」 からハイキングに出かけた。こうした先行条件で、人はたしかに行動します。

しかし、それを繰り返すかどうかはわかりません。繰り返すには、その行動をとった結果どうなったかが重要になります。

髪を染めて、「若返ったと言われた」 ならまた染めるでしょう。でも、「似合わないと言われた」 らやめてしまうでしょう。すすめられたから食べた菓子を、もう1つ食べるかどうかは味次第です。

(引用:短期間で社員が育つ 「行動の教科書」 - 現場で使える行動科学マネジメントの実践テキスト)

初めての行動は、行動後にどうなるかの結果は経験していません。行動を起こすかどうかは、ABC モデルの 「先行条件」 、別の表現では 「誘発刺激」 がきっかけになります。


行動を継続するためには 「強化刺激」


行動を継続できるかは、誘発刺激とは別の要因が作用します。本書では 「強化刺激」 と表現されます。

強化刺激について、引用します。

私たちは、誘発刺激よりも強化刺激にずっと大きな影響を受けていますが、案外それを意識していません。眼鏡をかけている人に「なぜ眼鏡をかけているのか」と聞けば、たいてい 「目が悪いから」 という答えが返ってきます。このときの 「目が悪い」 というのは誘発刺激である先行条件です。

しかし、その行動をとり続けている理由は 「眼鏡をかけるとよく見える」 という結果を手にしているから、強化刺激を受けているからです。もし、よく見えなかったり、めまいがしたりということがあれば、眼鏡をかけ続けることはないでしょう。

野菜を食べない偏食家の人に、「このままでは病気なってしまうよ」 と諭すのは誘発刺激にはなります。ただし、食べ続けてもらうためには、「食べてみたら美味しかった」 とか 「翌朝からお通じがよくなった」 という強化刺激が必要です。

(引用:短期間で社員が育つ 「行動の教科書」 - 現場で使える行動科学マネジメントの実践テキスト)


誘発刺激と強化刺激のポイント


ここまでをまとめると、「誘発刺激によって行動を起こし、強化刺激で継続してもらう」 ということです。

誘発刺激と強化刺激を効果的なものにするためには、本書では次のポイントを挙げています。


誘発刺激

  • 自尊心を傷つけないこと
  • 負担感が少ないこと


強化刺激

  • 達成感が生まれる
  • 承認欲求が満たされる
  • 貢献度が実感できる
  • 成長度がわかる
  • 自己肯定感が高まる


誘発刺激と強化刺激をマーケティングに応用すると


行動科学マネジメントの誘発刺激と強化刺激は、マーケティングに応用できます。

ABC モデルの考え方は、初めて商品やサービスを買う 「トライアル購入」 と、再度買う 「リピート購入」 に示唆があります。

トライアル購入とリピート購入では、購入の理由が同じではありません。トライアル購入では、新規性やめずらしさでも買ってもらえます。例えば、新しいフレーバーが新発売されて買われることです。

しかし、一度買ってもらえたからといって、再び買ってもらえるとは限りません。ここに、売り手から見たリピート購入の難しさがあります。

トライアル購入には、「誘発刺激」 から買うきっかけをいかに生み出せるかです。リピート購入には 「強化刺激」 によって、買うという行動を継続してもらえるかです。

マーケティングの文脈で、誘発刺激と強化刺激の位置付けは次のようになります。

  • 誘発刺激:まだ経験していない買った商品やサービスの利用価値への期待。これを使えばこのような良いこと・うれしいことがありそうという期待。トライアル購入のきっかけになる
  • 強化刺激:利用したときに感じた実際の利用体験価値。リピート購入を促す


最後に


行動科学マネジメントは、管理職や経営層がどうすれば組織マネジメントをできるかを体系化したものです。

今回のブログエントリーに見たように、行動マネジメントはそれだけにとどまりません。個人のレベルでの習慣化やマーケティングでの購入という行動をどう起こすかなど、幅広く応用できます。

ご紹介した 短期間で社員が育つ 「行動の教科書」 - 現場で使える行動科学マネジメントの実践テキスト という本は、行動科学マネジメントをわかりやすく解説しています。事例も多く紹介され、サブタイトルにあるように 「実践テキスト」 として役に立ちます。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。