投稿日 2025/01/24

競争から共創へ。ウクライナ難民支援のマスターカード 「Where to Settle」 に学ぶフレネミー戦略

#マーケティング #共創 #フレネミー

ビジネスの世界では、競争相手に勝つことを皆が目指します。しかし、競合との関係性を見直すことで、思わぬビジネスチャンスが生まれるかもしれません。

今回は、ポーランドでのウクライナ難民支援という社会課題に取り組むマスターカードの事例から、「フレネミー」 を活用するアプローチを考察します。

競争と協力のバランスを巧みに操る戦略が、どのように成功につながるのか?その可能性と実践方法を紐解いていきましょう。

ポーランド人とウクライナ人の架け橋となったアプリ


2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻により、数百万人ものウクライナ人が難民となりました。多くの難民の人たちがポーランドで新しい生活を始めています。

2022年にポーランドでは31万件の新たなビジネスの開業がなされましたが、10社に1社はウクライナ人によるものでした (参考記事) 。

ウクライナ人にとって異国の地であるポーランドでのビジネスを立ち上げるというのは困難であり、一方のポーランド人も新たなビジネスの競争相手としてウクライナ人を脅威に感じ始めていました。

マスターカードの解決策


出典: Mastercard

こうした状況を受けて、マスターカードが 「Where to Settle」 というアプリの提供を始めましました (公式リリースはこちら) 。

アプリがユーザーにとって便利なのは、新規ビジネスを立ち上げる際に、最も成功する確率が高い出店場所をユーザーに教えてくれるところです。推奨する出店エリアの根拠になっているのは、マスターカードが保有する匿名化された決済情報を含む様々なデータです。

出店場所の提示アルゴリズムには、周辺の店舗とのビジネス的な相性、たとえば、散髪屋とレストランが隣同士になっている場合という、お互いのビジネスは成功しやすいなどの情報も反映されます。

新たなビジネスオーナーの約 40% がマスターカードの 「Where to Settle」 のアプリを使ったとのことです (参考記事) 。

さらに、「ビジネスはお互いに競争し合うのではなく協力し合うもの」 という考えが広がり、ポーランド人とウクライナ人が協力して生活をともにしていくきっかけになりました。

共存への価値観を広めた

マスターカードが提供するアプリの 「Where to Settle」 は、ウクライナ難民に対する経済支援にとどまらず、ポーランド社会全体における異なる文化や背景を持つ人々が協力し合う環境作りに貢献しました。

新しくビジネスをはじめるときの手助けとなるだけではなく、ポーランド人とウクライナ難民の人たちの間での共存・協力の大切さを広めることができたという点で注目に値する施策です。

マーケティングへの示唆


では、今回のマスターカードの事例から学べることを掘り下げていきましょう。

あまり市民権を得ている用語ではないですが、マーケティングの概念に 「フレネミー」 というものがあります。

フレネミーとはフレンドとエネミーを足し合わせた造語です。仲間と敵の両方の意味を持ち合わせた存在です。ビジネスの観点で言えば、時と場合によって協力するパートナーにもなれば、同じお客さんを取り合う競争相手にもなりえるというのがフレネミーです。

 「Where to Settle」 に見るフレネミー

マスターカードの 「Where to Settle」 のアプリは、フレネミーの概念をうまく活用した事例と言えるでしょう。このアプリは、潜在的な競争相手同士を協力関係に導くことで、ポーランドでのビジネス環境全体の活性化を図りました。

フレネミーの概念を今回のマスターカードの事例に当てはめると、マーケティングへの汎用的な示唆があります。

順番に見ていきましょう。

協力が競争以上の価値を生む

マスターカードは、ウクライナ難民のビジネス支援を通じて、ポーランド人とウクライナ人が競争を超えて共存し、協力し合う道を提供しました。利害関係の調整で終わらず、両者にとって 「協力が競争以上の価値を生む」 という状況をつくり出します。

それにより、ポーランド国内の既存のビジネスとウクライナ難民の新規ビジネスが競争するのではなく、相互に補完し合う形が生まれることにつながります。例えば、散髪屋とレストランが近隣に出店すれば両方のお店へのお客さんが増え、ひいては地域全体が活性化するという好循環です。

データ活用による Win-Win 関係の構築

マスターカードは、自社の匿名化された決済データなどを有効活用することで、個々のビジネスの成功確率を高めると同時に、社会全体の経済活性化も目指しています。

企業が持つビッグデータを社会貢献に活用する新たなモデルを示唆しており、フレネミー間での情報共有による相互作用による発展の可能性を広げています。

イノベーションの加速

さらに期待を込めて言えば、異なる専門性を持つプレイヤー同士がつながり、「新結合」 が起こることで、イノベーションと呼べるような新たなビジネスの可能性も生まれるでしょう。

共創につながるフレネミーの存在意義

マスターカードのアプローチは、個々のお客さんのビジネスの成功をサポートするだけではなく、異なるビジネスオーナーの協力意識を高め、社会的な共存・共栄を促進する役割を果たします。このような 「競争と協力の両立」 という関係性が、まさにフレネミーの概念です。

マスターカードの事例から学べるのは、競争が必ずしも敵対関係を意味するわけではないということです。

まとめ


今回はマスターカードのボーランドでの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • マスターカードのアプリ 「Where to Settle」 は、ポーランドに逃れたウクライナ難民にビジネスの立ち上げを支援するために作られた。自社データをもとに最適な出店場所を提案し、ビジネスの成功確率を高める

  • Where to Settle はフレネミーの概念を活用している。フレネミーとは、競争相手でありながら協力も可能な存在を指す。ビジネスで競合関係にあるポーランド人とウクライナ人が協力する道を提供した

  • 異なる経験や専門性を持つビジネスオーナー同士の連携が 「新結合」 を生み、新たなビジネスの創出につながりイノベーションをもたらす可能性がある。Where to Settle は協業によって相互に補完し合う関係を築き、地域全体の経済活性化にも貢献する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。