#マーケティング #新しい問題 #提供価値
市場が変われば、私たちのお客さんも変わります。そして、その変化にどれだけ迅速に対応できるかが、ビジネスの成否を分けます。
今回は、ハウス食品の 「クロスブレンドカレー」 の事例から、市場の変化を読み解き、潜在的なニーズを掘り起こすマーケティングの秘訣を紐解きます。
ハウス食品 「クロスブレンドカレー」
日本の家庭用カレールウ市場は年間500億円超で、市場シェア 60% を誇るのがハウス食品です。
ハウス食品の 「X-BLEND CURRY (クロスブレンドカレー) 」 は、2023年に新しく発売されました。バーモントカレーなどの既存ブランドがある中 、発売からわずか1年足らずで1000万個を売り上げる異例のヒットを記録しています (参考記事) 。
クロスブレンドカレーは、既存のハウス食品のカレーの3大ブランドである 「バーモンドカレー」 「ジャワカレー」 「こくまろカレー」 の売上に影響を与えることなく、つまりハウス食品にとって新規のお客さんを獲得することに成功しました。
クロスブレンドカレーは、従来のカレールウが満たしていなかった消費者ニーズにおいて、スパイスによる辛さではなく、香りやうまみを強調しつつも、子どもでも楽しめる味わいが特徴です。
開発の背景になったのは、近年の家庭料理におけるスパイスの普及と、子どもたちの刺激のあるスパイスを苦手としない 「大人化した舌」 に対応した商品設計です。パッケージデザインは大人を意識したもので、親が商品を手に取りやすいよう工夫されています。
マーケティング視点での注目点
クロスブレンドカレーの事例で注目したいのは、生活者環境や市場の変化を察知し、適応したことです。
市場の変化に対応する柔軟性
ハウス食品はバーモントカレーなどの既存ブランドでカレールウ市場をリードしていましたが、消費者の嗜好やニーズが変化していることに注目し、クロスブレンドカレーを新たに投入しました。
クロスブレンドカレーは従来の辛さを強調したカレーとは異なり、スパイスの香りやうまみを重視し、それでいて子どもでも楽しめる味わいに仕上げています。
具体的には、クロスブレンドカレーは数十種類のスパイスを絶妙に配合し、スパイス感がありながらも子どもが食べたくなる味です。これにより、ハウス食品はバーモントカレーなどの既存の主力ブランドの成功に甘んじることなく、新たな消費者ニーズに応えられるのです。
お客さんの潜在的な不満や未充足ニーズの発見
クロスブレンドカレーの成功は、生活者環境の変化によって生じた新たなニーズに応えた事例です。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、家庭内での食事が増えたこともあって、家庭料理におけるスパイスの使用が一般化しました。また、子どもの舌もスパイスに対して慣れたことで 「大人化」 してきました。
こうした変化により、従来の甘口カレーでは物足りないと思う子どもや、カレーにスパイス感を求める親のニーズも生まれました。とはいえ、いつもと違うスパイスの効いたカレーを自己流で作ると失敗してしまうのではないかという懸念から、スパイスの効いたカレーは結局は挑戦しないという状態で、ここに未充足ニーズが足元に残り続けていたわけです。
このような状況で、クロスブレンドカレーは親の求めるスパイス感と子どもでも食べられる味を両立させたことで、まだ満たしきれてはいないニーズに応えたのです。
学べること
では、クロスブレンドカレーの事例からの学びを汎用化してみましょう。
まとめると、次のようなフレームに整理ができます。
- 新しい事象の発生
- それによる新しい問題の顕在化
- その問題を解決する商品開発 (ソリューション構築)
- 問題を解決することでの顧客価値の提供
ではこのフレームに沿って解説します。
新しい事象の発生
生活者環や市場動向の変化といった 「新しい事象」 が発生します。これには、社会的・経済的な変化、技術の進化、価値観の変容などが含まれます。
例えば、新型コロナウイルスの影響で、多くの人々が自宅で過ごす時間を増やし、家庭内での食事の機会が増えるという事象が起こりました。
新しい問題の顕在化
新しい事象は、生活者やお客さんの中で 「新しい問題」 を引き起こします。既存の商品やサービスでは満たされないニーズや不満、期待に関連するものです。
例えば、家庭内での食事の頻度が増える中で、消費者は従来よりもスパイス感の強い料理もたまには取り入れたいと思うようになります。しかし、既存のカレールウではこのニーズを十分に満たすことはできませんでした。
カレーを作る親にとっては、自分はスパイスの効いたカレーを食べたいと思っても、せっかく挑戦しても家族から 「いつものカレーのほうが良かった」 と言われてしまったり、子どもが嫌がり食べずカレーが大量に余ってしまうことへの躊躇から、結局は 「いつもの我が家のカレー」 が毎回選ばれ作られるという状況です。
親は心のどこかで 「親の味の好みに子どもが合わせてくれないだろうか」 とは思いつつも、すぐにそのモヤモヤの気持ちを打ち消し、いつものカレーを作っているが現状でしょう。
こうした家庭内では、「もっとスパイス感のある料理が食べたいが、家族全員に合う味にするのが難しい」 という問題が生じているのです。
問題を解決する商品開発
企業は、「新しい事象」 が起こることで生まれた 「新しい問題」 に対してソリューションを提供することで存在意義を見出せます。
お客さんの潜在的なニーズや不満を深く理解し、問題を解決するための商品やサービスの開発です。
ハウス食品はクロスブレンドカレーを新たに開発し、スパイス感を強調しつつも、子どもでも楽しめるカレーを実現しました。家庭内の親と子の家族全員が満足できることを目指したカレーです。
問題を解決することでの顧客価値の提供
そして、問題を解決する商品を提供することで、企業はお客さんに価値をもたらします。商品の機能や品質にとどまらず、お客さんの生活や体験を向上させるというものです。
顧客価値とは、お客さんが商品やサービスを使い問題が解決されることで、はじめてもたらされるものです。クロスブレンドカレーは、家庭内でのカレーの食事体験を向上させたことで、お客さんに新たな価値を提供できました。
既存ブランドの売上に影響を与えることなく新ブランドが短期間で成功を収めたというのは、これまで捉えきれていなかった市場ニーズを満たせたということです。
汎用化の学びのまとめ
まとめると、ここまで見てきたフレームは以下でした。
- 新しい事象の発生 (例: 生活者環境の変化による起こったこと)
- それによる新しい問題の顕在化
- その問題を解決する商品開発 (ソリューション構築)
- 問題を解決することでの顧客価値の提供
新しい事象の発生から始まるこのフレームは、企業が市場の変化に対応し、新たな機会をつかみ、お客さんに価値を提供するプロセスそのものです。
新しい事象が引き起こす問題を見逃さない。その問題に対して適切なソリューションを構築する。そしてお客さんに価値を提供する。これがビジネスでの持続的な成功につながります。
まとめ
今回はハウス食品のクロスブレンドカレーを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 新しい事象の発生 (例: 生活者環境の変化による起こったこと)
- それによる新しい問題の顕在化
- その問題を解決する商品開発 (ソリューション構築)
- 問題を解決することでの顧客価値の提供
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