投稿日 2025/01/13

電話代行サービス fondesk 。テレビ CM の失敗を顧客目線で解決。ジョブ理論で解説

#マーケティング #顧客価値 #状況とジョブ

マーケティング施策が思うような成果を上げられなかったとき、単刀直入に言えば施策が失敗に終わったとき、あなたはどうしますか?

多くの企業が直面するこの問題に、ある会社が見事に対処しました。

電話代行サービス 「fondesk」 は、最初のテレビ CM で失敗を経験しましたが、その失敗から学び次への教訓に変えました。fondesk はどのようにして失敗を捉え、顧客の真のニーズを理解し、そして成功への道を見出したのでしょうか?

今回は fondesk の事例から、失敗を成功に変える方法をマーケティングのジョブ理論を補助線にして解説します。

電話代行サービス fondesk のテレビ CM


まずは事例の背景から見てみましょう。

背景と課題感

コロナ禍におけるニーズの高まりを受け、サービス開始から急成長したのが電話代行サービスの fondesk です。しかし、コロナ禍が長期化してニーズも徐々に落ち着きを見せ、事業の成長スピードが鈍化していきました (参考記事) 。

fondesk は新たな成長を模索する中で、テレビ CM の実施を決めました。

一度目のテレビ CM の失敗

fondesk にとって初めてのテレビ CM (2022年夏) では、異なる職業のビジネスパーソンに焦点を当てた3つのパターンの CM を展開しました。ところが、CM に予算をかけたものの、新規クライアントからの商談化には想定していたほどは結びつかず、一度目の CM は失敗に終わりました。

そこで fondesk は失敗の原因を探るため、既存顧客へのインタビューを行いました。調査からわかったのは、CM で打ち出したメッセージと、既存のお客さんが感じる価値とのズレでした。

テレビ CM で fondesk が訴求したのは 「取れなかった電話にビジネスチャンスが埋もれているかもしれません」 という機会損失を強調するメッセージでした。一方、既存顧客が fondesk という電話代行サービスに求めていたのは 「オフィスの電話のストレスを緩和すること」 だったのです。

個人のスマホではなくフロアの代表などの固定電話にかかってきた際に、誰が対応するかがはっきりと決まっておらず、電話機の近くの社員同士で 「どちらが電話を取るか」 を無言で押し付け合うような状況になることでのストレスです。

電話を取っても相手が自分の担当企業でなければ、社内のその担当者に取り次ぐことになります。しかし電話転送の作業が煩雑であったり、そのときにやっていた仕事が強制的に中断されるなど、電話を取り次いだがゆえに業務効率を低下させてしまうわけです。

こうした電話を誰が取るのか見合ってしまう、出た電話の取り次ぎが面倒など、日々かかってくる電話で起こるストレスを緩和するために、fondesk が使われていたのです。

顧客理解を反映した二度目のテレビ CM

そこで次のテレビ CM (2023年1月) では、fondesk を使うことでの 「オフィスの電話のストレス解消」 を訴求しました。


二度目の CM では 「電話により発生しているストレスと解決」 をわかりやすく描く内容に変え、配信地域も関東圏に変更。結果として Web サイトのセッション数が 30% 増加し、商談受注率も向上したとのことです。また、社内にはテレビ CM を新たなマーケティング手法のひとつとして取り入れる土壌が生まれました (参考記事) 。

学べること


では、fondesk から学べることを掘り下げていきましょう。

ビジネスにおいて、一度失敗をしたとしてもその失敗を冷静に受け止め、そこから教訓に変え、次の成功につなげるかは重要なことです。

電話代行サービス fondesk が、最初のテレビ CM で想定通りにはならなかった失敗要因を調査から明らかにしたことで、二度目の CM で成功を収めた事例から、私たちが得られる学びを見ていきましょう。

顧客価値への理解のズレ

fondesk が初めて行ったテレビ CM では、「取れなかった電話にビジネスチャンスが埋もれているかもしれない」 というメッセージを打ち出しました。fondesk がビジネスの機会損失を防ぐという価値提案です。

しかし、一度目の CM は期待された成果には結びつきませんでした。訴求した内容が fondesk のお客さんからの本当のニーズとズレていたからです。

売り手と買い手の価値認識のズレを明らかにできたのは、既存顧客へのインタビューからでした。

お客さんが fondesk という電話代行サービスを選んだ理由は、売上の機会損失を防ぐためというよりも、「オフィスの電話についてのストレスをなくせること」 にありました。オフィス内で誰がフロア電話を取るのかという問題や、電話の取り次ぎの煩雑さから生じる日々のストレス、電話対応により仕事が生産的でなくなることを解決するために、お客さんは fondesk を導入していたのです。

ジョブ理論からの考察

fondesk の事例をマーケティングの 「ジョブ理論」 に当てはめると、理解がより深まります。

ジョブとは 「その特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 です。

お客さんは、自分 (たち) のジョブを完了させるために、商品やサービスを 「ワーカー (働き手) 」 として雇います。サービスがお客さんに雇われる理由は、お客さんのジョブを達成するためであり、置かれた状況で進歩を実現できることがお客さんにとっての価値となります。

fondesk がお客さんに雇われていた目的は、「固定電話にかかってきた電話に取れないことでの機会損失を防ぐため」 ではありませんでした。これは売り手である fondesk 側がそう思い込んでいたもので、実際にはお客さんはそれを fondesk には求めていなかったのです。

お客さんが fondesk を雇うことで期待していたのは、「社内での電話取り次ぎに発生するストレスの緩和」 にありました。このストレスをなくすことで、従業員が仕事に集中でき、職場内の人間関係を良好に保てることが遂げたい進歩です。このジョブを完了させるワーカーの役割を、お客さんは fondesk に求めていたわけです。

こうした洞察をもとに、fondesk は2回目のテレビ CM の訴求ポイントを変更しました。「オフィスの電話のストレス解消」 を強調したことで、Web サイトへのセッション数が 30% 増加し、商談受注率も上昇するという成功につながりました。

顧客視点での訴求ポイントの変更

今回の事例からの学びのポイントは、マーケティング施策の失敗理由について、たとえばお客さんのジョブによって顧客視点で理解し、得られた洞察を次に活かすことの重要性です。

fondesk は、お客さんの立場になって CM の訴求メッセージを変えました。お客さんが本当に求めていたのは何か、それを理解するために直接インタビューを行い、顧客ニーズと自社の訴求ポイント (想定していた顧客価値) の乖離をしっかりと理解したのです。

学びの汎用化

fondesk の事例から、マーケティングに汎用化できる学びがあります。

  • 失敗の要因を捉える
    fondesk は最初の CM の失敗を直視し、要因を詳細に分析しました。失敗から目をそらしたり隠すのではなく、そこから学ぼうとする姿勢が大事です

  • 顧客視点になる
    fondesk は失敗の原因をお客さんの立場から掘り下げることで、本当のお客さんの望みや期待することを理解しました。直接お客さんの声を聞くことで、実際の顧客ニーズと自社の強みをつなぐことができたのです

  • ジョブ (その状況で人が遂げたい進歩) の活用
    お客さんの置かれた 「状況」 と 「ジョブ」 を捉えることで、より効果的なマーケティングができます。製品やサービスの機能だけではなく、お客さんの 「状況」 と 「達成したいジョブ (進歩) 」 にフォーカスすることが重要です

  • 柔軟な戦略のアップデート
    失敗から学んだ教訓をもとに躊躇せずすぐに戦略を修正する柔軟性が、fondesk の二度目のテレビ CM の成功につながりました

  • 継続的な顧客理解
    市場環境や顧客ニーズは常に変化します。定期的な顧客調査やお客さんからの声を集めることで、最新の顧客理解の状態を維持することが大切です


これらの学びをマーケティングに取り入れることで、たとえ失敗をしたとしても次への成功の糧になり、より効果的なマーケティング活動を展開できるでしょう。マーケティングの成功は、顧客理解の深さにかかっています。

まとめ


今回は電話代行サービス fondesk から、学べることを見てきました。

最後にポイントとして、事例からの汎用的な学びをまとめておきます。

  • 失敗を恐れず挑戦し、失敗をしたとしてもその要因から教訓を獲得する
  • 顧客視点になっての継続的な顧客理解
  • ジョブ (その状況で人が遂げたい進歩) の活用
  • 柔軟な戦略のアップデート


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。