#マーケティング #顧客ニーズ #ブランディング
せっかく開発した新商品なのに、思うように売れない…。
お客さんの本当のニーズがよくわからない…。
アイデアがこれまでとあまり代わり映えしない…。
これらの課題は、実は他の多くの企業で直面している共通の悩みかもしれません。
今回は、グンゼのインナーウェアブランドの 「アセドロン」 を取り上げ、先ほどの課題感へのヒントを紐解きます。グンゼの新ブランドの成功事例から、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
アセドロン
グンゼが2024年3月に発売した新ブランドが 「アセドロン」 です。わずか半年で85万枚を販売しました (参考記事) 。
アセドロンは、夏のインナーウェアに対する消費者の不満、特に汗による不快感に対処することを目指して開発されました。ちなみに汗による不快感は、グンゼが実施した調査からわかったことでした。
夏用インナーウェアの利用率は高いものの、実は満足度が低いことをグンゼは発見し、具体的には特に 「ベタつき」 への不満が多いことが判明しました。
珪藻土からヒントを得た独自構造を採用
新商品を開発するにあたり、グンゼは吸水性と拡散性に優れた素材を求めました。
試行錯誤から生まれたのが、珪藻土 (けいそうど) のバスマットをヒントにした独自の構造です。
アセドロンで開発された生地は、吸湿性の高いレーヨンとドライ感のあるポリエステルを混紡し、汗を素早く吸収して拡散させることで、ベタつきを軽減する効果を持っています。従来の製品と比べて約2倍の吸水性と 25% の吸放湿性向上を実現しました。
ファンクショナルブランディング
グンゼのアセドロンの成功は、商品の技術的な優位性だけではありません。マーケティングにも支えられています。
グンゼは従来のアプローチではなく、商品の機能そのものをブランド化するという 「ファンクショナルブランディング」 を採用しました。
アセドロンという商品名や、「汗をドロンと消し去る」 というキャッチコピーは、商品の特徴を端的に表現しています。機能そのものをブランド化することで訴求メッセージを強化し、認知度の向上につなげました。
SNS でのアセドロンへの口コミが生まれ、特に X ではアセドロンの購入者からの好意的な投稿が見られたようです (参考記事) 。SNS がきっかけでアセドロンの商品に対する関心が高まり、売上の増加に貢献しました。
学べること
では、グンゼのインナーウェアブランド 「アセドロン」 の事例から、学べることを掘り下げていきます。
この事例は、以下の3つがきれいにつながっており、マーケティングに汎用的な示唆をもたらしてくれます。
- お客さんの潜在ニーズの発見
- 問題を解決する独自アプローチによる商品開発
- 顧客価値を訴求するマーケティング
では順番に見ていきましょう。
お客さんの潜在ニーズの発見
成功する商品やサービスの開発は、お客さんのニーズを発見することから始まります。ニーズは必ずしもお客さん自身が明確に意識していたり言語化されているものではなく、日常の不満や不便さの中に隠れています。
アセドロンの事例では、グンゼはそれまでは捉えきれていなかったお客さんの本当のニーズを掘り起こしました。
お客さんが夏用インナーウェアに対して 「汗によるベタつき」 に不満を抱えていることを調査から突き止めました。ベタつきという切り口が新商品開発の重要なきっかけとなったわけです。
お客さんの声に耳を傾け、表面的な顕在ニーズだけでなく、潜在的な不満や欲求を深く掘り下げることが、新たな商品開発や既存商品の改善にもつながります。
お客さんの潜在ニーズを追求するアプローチは、他のビジネスでも応用可能です。商品開発やマーケティングにおいて、お客さんの潜在的な不満や未充足のニーズを発見することが、お客さんに価値を提供するための第一歩となります。
問題を解決する独自アプローチによる商品開発
顧客ニーズを理解した後は、そのニーズに応え、問題を解決するフェーズに入ります。
アセドロンの場合、バスマットに使われている珪藻土の構造が問題解決への突破口になりました。
既存技術をそのまま使うのではなく、珪藻土をヒントに新しい生地を作り出すという、従来のインナーウェアとは異なる斬新なアイデアが生まれました。
アセドロンの開発は、既存の技術や方法にとらわれず、異なる分野からインスピレーションを得ることの重要性を示しています。また、3年という長期間をかけてアセドロンの開発を行い、性能向上だけでなく、お客さんが体感できる効果の実現にこだわったことも、新製品の成功につながりました。
価値を訴求するマーケティング
新しい商品を市場に投入する際には、いかに良い商品だとしても、商品の顧客価値をお客さんに伝え、お客さんに自分ごと化してもらえることが大切です。逆に言えば、いくら良い商品でも顧客価値を伝えられなければ、お客さんに手にとってもらえることはありません。
グンゼは 「ファンクショナルブランディング」 という新しいアプローチを採用し、商品の機能そのものをブランドに引き上げました。
商品の機能をブランドとして強調し、直感的にその価値が伝わるようなネーミングやキャッチコピーにしました。アセドロンという名前は 「汗をドロンと消し去る」 というイメージを喚起し、お客さんへの商品のベネフィットを直感的に伝えます。また、キャッチコピーである 「ベタつき、瞬時にどこへやら」 は、商品の機能をわかりやすく表現し、お客さんの印象に残るものです。
他には SNS で口コミを生むプロモーションも効果的でした。
このようなブランドの方向性を明確にしてのマーケティングコミュニケーションは、商品の機能や特徴を明確に伝え、お客さんからの興味を引き、購買意欲を高めることが期待できます。
まとめ
今回は、グンゼのインナーウェアブランドの 「アセドロン」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客の潜在ニーズの発見: ニーズはお客さんが意識していない日常の不満に隠れていることが多く、グンゼは消費者の夏用インナーへの不満点として 「汗によるベタつき」 に着目。顕在化されたニーズだけでなく、潜在的な不満や欲求を深掘りすることで商品開発やマーケティングの機会を見出せる
- 独自のアプローチでの問題解決: グンゼは珪藻土バスマットの構造からヒントを得て新素材を開発。従来の枠や常識にとらわれず、異分野からアイデアを考えることで新しい着想が得られる
- 顧客価値を訴求するマーケティング: グンゼは 「ファンクショナルブランディング」 を採用し、商品機能そのものをブランド化。直感的なネーミングやキャッチコピーで商品価値を明確に伝え、SNS での口コミも活用した
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