投稿日 2025/01/06

サントリーが挑む売場 DX 。広告と店頭をつなげる統合マーケティング

#マーケティング #コミュニケーション #広告と店頭展開

オンライン広告を打っても、なかなか売上に結びつかない。店頭プロモーションをやっても、効果が見えづらい。そんな課題を抱えている企業は少なくないのではないでしょうか。

サントリーが実践している最新のマーケティング手法は、この問題解決への示唆を与えてくれます。AI カメラを活用した店頭分析から、オンラインとオフラインの連携まで、サントリーの取り組みには学べる点が多いです。

では、具体的にサントリーはどんな手法を用いているのか――。ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。

サントリーが推進する売場 DX


サントリーがお店に設置した AI カメラを活用して、売場のデジタルトランスフォーメーション (DX) を積極的に進めています (参考記事) 。

背景

サントリーの狙いは、AI カメラを使って店頭でのショッパー (来店顧客) の購買行動を捕捉し可視化によって分析することで、マーケティング活動をより効果的に展開することです。

具体的には、来店客がお店の売場で商品を選ぶ際の行動を AI カメラで撮り、顧客分析にもとづいて最適なプロモーションにつなげようとしています。

AI カメラでの発見

サントリーが AI カメラを使って発見したのは、お客さんごとの売場の前での滞在時間の違いでした。

特定のブランドに対して愛着が強い心理ロイヤルティ、より多く買うような経済的ロイヤルティが高いお客さんは、売場での滞在時間が約9秒と非常に短い一方、複数のブランドの中から買う商品を迷ったり検討する人は商品棚の前に約45秒いました。なんと5倍もの時間をかけていることがわかったのです。

この結果へのサントリーの解釈は、短時間で商品を手に取る人 (ロイヤルティ顧客) には、店頭での情報提供はあまり意味を成さないことでした。一方の商品棚の前で長く滞在する人に対しては、適切な情報提供が購入を後押しするうえで重要なコミュニケーションになると理解しました。

空中戦とリアルの連携


もうひとつ、サントリーのマーケティングコミュニケーションで注目したいのは、オンラインとオフラインの連携です。

空中戦の展開

サントリーは、まずテレビ CM やネット広告を通じて広範な商品への認知を獲得し、お客さんの購買意欲を喚起することを目指しています。

ただし、それだけでは実際の購買につながるとは限りません。消費者は日々多くの情報に接触しているので、自社ブランドからの情報は埋もれやすい状況にあるからです。

リアルへのつなぎ

そこでサントリーは、広告などのマーケティングコミュニケーションで得た認知を商品購入に結びつけるために、オンラインからリアルな実店舗のお店でのコミュニケーションにバトンを渡し、全体でうまく連携がとれるようにしています。

ここで AI カメラが有効活用されています。サントリーは、AI カメラから見出した来店客の店頭での行動パターン (例: 商品棚の前での滞在時間 (買う商品の検討方法) ) を使い、そのパターンに応じたプロモーションを売場で展開します。

具体的には、スマートフォンへの広告配信や売場のサイネージの中で A/B テストを実施しながら、どのコンテンツが最も効果的なコミュニケーションになるかを検証しています。

顧客グループや行動パターンごとに変えたコミュニケーションの効果精度が向上し、売上に寄与したとのことです (参考記事) 。

さらに、サントリーは流通企業との協力を深め、欠品防止のための店舗運営の効率化や、商品の補充状況の可視化など、データにもとづくオペレーションの高度化を図っています。

統合されたマーケティングコミュニケーションを


では、サントリーの事例から得られる汎用化した教訓を考えていきましょう。

今回のサントリーの事例から見えてくるのは、オンラインとオフラインの統合されたシームレスなマーケティングコミュニケーションの重要性です。

生活者の情報接触状況

現代の生活者は、日々膨大な量の情報にさらされており、そうした状況の中で広告やブランドメッセージにも接しています。ブランドメッセージが生活者の心に響き、行動を促すためには、オンラインでの広告を流すだけでは十分とは言えません。

生活者は、インターネット上で製品情報や口コミを調べ、本当に買っていいものかを検討します。また、わざわざ事前に調べないような商品カテゴリー (最寄品) のものは、お店での買い物のときだけの短い判断で購買決定を下すこともあります。

ネットとリアルの一貫性

生活者がオンラインでブランドメッセージに接する状況を考えてみると、例えば、SNS 、動画広告、Web 広告を通じて新商品を目にすることがありますが、この時点では生活者は一瞬だけ興味を持つ程度にとどまることも多いでしょう。その後、実際に買い物をするとき、お店でもう一度その商品を見かければ 「商品を試したい」 「使ってみてもいいかも」 という気持ちや欲求が生まれます。

ここで重要なのは、オンラインで得た情報が、店頭での体験と矛盾せずにつながっていることです。

もしオンラインで得た感覚と店頭での感覚が一致しない場合、買ってもらえる機会を逃す可能性が高まってしまいます。だからこそ、オンラインとオフラインの垣根をなくし、シームレスな顧客体験を提供することが大事です。

サントリーの事例では、AI カメラを活用して、店頭でのお客さんの行動を詳細に分析し、洞察をもとに、最適な情報提供が行われています。たとえば買う商品をまだ決めていなく、どの商品を買おうかを迷っているお客さんに対しては、適切なタイミングで背中を押すようなメッセージを提供し、購買意欲を高めるというふうにです。

このプロセスは、オンラインでの広告から始まり、店頭での体験で完結する一連の流れになっています。生活者の心理や行動の変化を理解し、それに合わせた統合的なコミュニケーションを実行することで、ブランドとの接点を自然につくりだし、お客さんにとって一貫性のある体験となるのです。

サントリーの取り組みから学べるのは、デジタルとリアルの双方で得られるデータを活用し、お客さんの行動や心理を汲み取ったコミュニケーションを行うことの重要性です。

サッカーでたとえると

店舗でのコミュニケーションとオンラインでのコミュニケーションの役割をサッカーにたとえれば、店頭施策は最前線でゴールを狙う FW 、オンラインは FW にアシストをする MF の役割を果たします。

マーケティングコミュニケーションの要素のひとつである広告や SNS という空中戦にしか目が向いておらず、成果に一喜一憂している状況というのは、サッカーの中盤で MF のプレイヤーだけが自分たちの華麗なパス回しに酔いしれているようなものです。FW は蚊帳の外で、これでは観戦しているサポーターは興ざめしてしまうでしょう。

大事なのは、全員でのサッカーからゴールを入れて点を取ることです。MF から FW へボールをつなげてこそ、つまり認知や購入意向を上げる施策は、お客さんが商品を直接手に取り、買ってもらう店頭での購買行動につながるのです。

オンラインとオフラインがそれぞれ別々に活動するのではありません。大切なのは、両者が連携し、お互いにパスをつなぎ合わせてビジネス全体のゴールを目指すことです。お互いの役割を理解し尊重し合いながら共同で動くことで、部分最適ではなく全体最適が実現し、ビジネスに成功をもたらします。

まとめ


今回はサントリーの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • サントリーは、AI カメラを用いて店頭での顧客行動を分析。ロイヤルティの高い顧客と、買う商品を迷って比較検討する顧客の滞在時間の違いを発見した (9秒 vs 45秒) 

  • AI カメラから得られた顧客行動パターンをもとに、スマートフォン広告や店頭サイネージで A/B テストを実施し、最適なコミュニケーション方法を模索

  • サントリーは、テレビ CM やネット広告で獲得した認知を、実店舗での購買につなげる統合的アプローチを実践している。オンラインとオフラインの連携によるシームレスな顧客体験の創出を目指す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。