#マーケティング #顧客価値 #思い出マーケティング
自社の商品やサービスは、お客さんにとってただの選択肢で終わっていないでしょうか?
商品が単に売れるだけでなく、思い出に残る存在になることで、商品の存在意義は高まります。
富士フイルムの 「チェキ」 は、この課題に対するヒントを提示しています。チェキがどのように 「思い出マーケティング」 を実現しているのか、そしてあなたのビジネスにどう活かせるのか?ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
富士フイルム 「チェキ」 のスマホプリンター
富士フイルムは、若者に根強い人気を誇るチェキシリーズの新商品として、スマホプリンター 「instax mini Link3」 を2024年9月に発売しました。
instax mini Link3 の特徴
instax mini Link3 は、スマートフォンで撮影した写真をプリントして印刷できるというものです。また、リニューアルされたプリンター専用アプリとも連携できます (アプリ名は instax mini Link です) 。
このアプリでは、撮影時に AR (拡張現実) を利用して、背景を変えたり、ハートなどのエフェクトを追加できる 「instax AiR Studio」 や、フォトブースのように連続撮影を行い、コラージュプリントを作成できる 「Click to Collage」 といった機能が搭載されています。
ちなみに Click to Collage には、フランス発の SNS の 「BeReal (ビリール) 」 と似た要素があります。撮影をスタートをすると短いカウントダウンが始まり、撮影の準備がまだ整わない状態でもなかば強制的に撮影が行われます。自然な表情が引き出され、写真撮影を友人とのコミュニケーションの一環として楽しむことができます。
このように、instax mini Link3 のプリンターやプリンター用の専用アプリを使うことで、ユーザーは写真を撮影するプロセスも楽しむことができ、チェキは若者世代が求める 「その場でしかできない楽しみ」 や 「リアルな瞬間を共有する」 というニーズに応えています。
狙い
富士フイルムがスマホで撮影した写真をプリントできる instax mini Link3 を新たに発売したり、アプリとの連携を強化する狙いは、新規顧客の獲得です。
アナログなチェキの魅力に加え、デジタルの要素を効果的に取り入れることで、チェキのカメラを持っていない若年層にも受け入れられやすい商品を目指しています。
アプリのエフェクトは、1万通り以上の組み合わせができるなど、カスタマイズ性を高める工夫もされています。ユーザーが自分だけの特別な写真を作り上げる楽しみが増えます。
また、スマホで撮影した写真を自分の手で加工したり現像してもらい、スマホケースに入れて持ち歩くなど、物理的な形で思い出を残せる機会を用意することで、SNS などのデジタル上では得られない顧客価値を提供しようというものです。
思い出マーケティング
ではチェキの事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
マーケティングにおいて、商品やサービスがお客さんの中で 「思い出に残る存在」 になるためには、いかにしてプロセス全体を楽しい体験にするかが重要です。
チェキのプリンター 「instax mini Link3」 とアプリは、まさにこの 「思い出マーケティング」 を体現する事例です。順を追って見ていきましょう。
デジタルとアナログの融合
チェキは、スマートフォンで撮影した写真を専用プリンターで印刷するという点で、デジタルとアナログの橋渡しする役割を果たします。
新しい instax mini Link3 では、AR エフェクトができる instax AiR Studio 機能を専用アプリの中に導入しました。
スマートフォンで撮影した写真を、専用アプリを使ってプリントするプロセスは、デジタル技術の利便性とアナログ写真の手触り感をもたらします。
デジタルの自由度とアナログの温かみを両立させ、実際に手に取ることができる形ある思い出となり、ユーザーに他の写真撮影にはない新鮮な体験を提供します。
デジタルとアナログの融合は、現代の消費者が求める 「便利さ」 と 「本物感」 の両方を満たすアプローチです。このように、自社商品やサービスにおいて、デジタルの利便性とアナログの質感をどのように組み合わせられるか、検討する価値はあるでしょう。
プロセス自体を楽しんでもらう設計
チェキの新商品では、プロセス自体を楽しむための工夫が随所に見られます。
たとえば、AR によって背景を自由に変えられる instax AiR Studio です。また、Click to Collage は、撮影のプロセスを楽しいイベントに変えます。カウントダウンに合わせて連続撮影することで、準備する時間が十分でない中での自然な表情や、少し慌てた様子が写り込むこともあるでしょう。
若者にとって、写真撮影はただ記録に残す行為ではなく、その瞬間を友人や大切な人と共に楽しむためのイベントです。写真撮影の瞬間を楽しい思い出に変える仕掛けが、チョキならではのユーザー体験をつくり出します。
商品やブランドとお客さんとの接点において、目的達成までの道のりをどのように楽しいものにできるか。これは商品開発だけでなく、サービス設計やカスタマージャーニー全体を考える上で大切な視点となります。
コミュニケーションを生む仕掛け
チェキには、撮影中だけではなく、写真加工のとき、さらにはプリントした後も友人とのコミュニケーションを促進する要素もあります。
具体的には、チェキで撮影した写真を友人とシェアしたり、スマホケースにお気に入りの写真を挟んだりすることで、自然と会話のきっかけが生まれます。チェキを使っているときだけでなく、その後も継続的に思い出として共有され、話題になる機会をつくります。チェキは若者の日常に溶け込み、コミュニケーションのハブとして機能するのです。
このように商品やサービスを通じて、どのようにお客さん同士のコミュニケーションを促進できるかは、口コミによる情報拡散の効果を高めるだけでなく、商品自体の価値向上にもつながります。
以上のようなアプローチによって、チェキは写真プリンターと専用アプリから、思い出をつくる体験のもたらす存在になろうとしています。
ビジネスにおいて、商品そのものだけでなく、お客さんがその商品を使うことで体験する全てのプロセスをどう設計するか。これがお客さんから選ばれ続けられるかどうかを左右します。
まとめ
今回は富士フイルムの 「チェキ」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 思い出マーケティングは、商品やサービスによりお客さんの心に残る体験を生み出すアプローチ
- チェキの事例では、デジタルとアナログの融合、プロセスを楽しむ設計、コミュニケーションを促す仕掛けの3つの要素がある
- デジタルとアナログの融合により現代の消費者が求める 「便利さ」 と 「本物感」 を同時に満たす
- また、商品・サービスを使うプロセス自体を楽しいものにする工夫が、顧客体験をより豊かにする
- 商品やサービスがユーザーのコミュニケーションの中心的な存在になることで、口コミ効果が高まり、商品価値の向上にも寄与する
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