#マーケティング #顧客文脈 #ジョブ
お客さんの本当のニーズを、どれだけ捉えられているでしょうか?
この文脈で今回ご紹介したいのは、仏壇・仏具の老舗 「はせがわ」 の事例です。
自社開発のスマホ向けアプリで、年間6億円の売上を生み出すことに貢献したとのことですが、仏壇業界という一見するとデジタル化にはあまり馴染まないように思えます。しかし、はせがわは隠れた顧客ニーズを見事に掘り起こし、新しい形で応えることに成功しました。
この成功の要因は、「ジョブ理論」 というマーケティング手法を使うことで読み解くことができます。はせがわは、一体どのようにして成果を挙げたのか、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
仏壇のはせがわのアプリ
仏壇や仏具を扱う大手企業 「はせがわ」 がスマートフォン向けアプリを導入し、成功をあげています。
2022年6月にリリースされた 「はせがわアプリ」 ですが、わずか1年半で約23万ダウンロード、21万人の会員を獲得し、年間6億円以上の売上に貢献しています。
線香などの消耗品の売上をもたらすなど、全売上の 27 ~ 28% をアプリ会員が占めるまでになっているとのことです (参考記事) 。
アプリ導入の背景と目的
仏壇や墓石は、一生に一度買えば十分な "売り切り型" の商品です。はせがわにとって、どうやってお客さんと末永い関係を築くか大きな課題でした。
EC サイトを立ち上げたものの、やはりお客さんとの継続的な関係づくりには限界があるという問題意識に対して、はせがわが目をつけたのがスマホアプリです。お客さんの LTV (顧客生涯価値) を高めるために、アプリを活用したより良い顧客体験 (CX) を実現するというのが、アプリ提供の狙いでした。
アプリの機能
はせがわアプリには実店舗で使える会員証機能が搭載され、アプリは店舗や EC サイトへの送客を担います。
特徴は 「命日登録」 の機能です。ユーザーが故人の命日をアプリに登録すると、一周忌や三回忌、さらには毎月の月命日 (毎月の命日) まで、適切なタイミングで供養の情報をアプリに届けてくれます。これがお客さんからのアプリ利用の離反防止に寄与しています。
また、月命日の通知によって、年間で複数回の購入機会を生み出します。
はせがわは、アプリで提供する情報やコンテンツの品質にもこだわり、これらをすべて内製化しています。ノーコードで運用できるシステムを採用することで、コンテンツ制作や配信の継続性と品質を維持しています。
学べること
では、はせがわの事例から学べることを掘り下げていきます。
マーケティングの 「ジョブ理論」 を使って、仏壇・仏具のはせがわが実現したアプリ戦略の成功を紐解いていきましょう。
ジョブとは
ジョブ理論 (Jobs to Be Done Theory) では、ジョブの定義を 「特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 」 とします。
そして、商品やサービスは、ジョブを完了させるために 「雇われる」 存在だと捉えます。商品やサービスはお客さんのジョブを片付けてくれる 「ワーカー (働き手) 」 というわけです。人は特定のジョブを完了するために、商品・サービスをワーカーとして選び、雇い入れるわけです。
はせがわの顧客が抱えていた 「ジョブ」 とは?
ここではせがわの事例に話をつなげると、はせがわのお客さんは、供養に関する情報やマナーがわからず、どうすればいいか困っている状況にありました。
「しきたりやマナーに関して分からないことが多い。しかしネットで調べても、現代に合わせた情報が見つからない」 という状態です。特に、お盆や彼岸、一周忌などの仏事に関する正しいマナーや供養方法についてわからないというのが、置かれた状況です。
そして状況下で、次のようなジョブが発生していました。
- 供養に関して、分からないことが多いので相談できる相手がほしい
- お盆や彼岸、一周忌や三回忌などの法事でマナーや供養の方法を間違えたくない。供養に関する情報を正しく知りたい
- 購入した仏壇を使って、正しく故人を供養したい
適切なワーカー不在の問題
こうしたジョブを解決してくれる適切なワーカーは、それまでは存在していませんでした。
事実、はせがわの店舗では来店客から 「供養に関して、分からないことが多いのに相談できる相手がいない」 という声が頻繁に寄せられていたそうです (参考記事) 。
これはつまり、供養に関して知りたいと思ったときに、気軽に聞ける相手、すなわちジョブを済ませてくれる最適なワーカーが不在だったことを物語っています。お客さんとっては不便なことでした。
パーソナライズされた 「ワーカー」 の誕生
そこではせがわが取った戦略が、自社アプリの開発でした。
アプリの役割は商品購入ツールにとどまりません。お客さん一人ひとりに合わせてカスタマイズされた、供養についての情報や知識を提供する 「ワーカー」 になることを目指しました。
たとえば具体的には、故人の命日を登録するだけで供養のタイミングを知らせてくれる機能を備えています。お客さんのジョブを解決するための新たな手段となります。
アプリ導入の成果
はせがわの戦略は見事に成功を収めます。アプリは顧客接点を増やしただけでなく、店頭だけでは応えきれなかった商品購入のニーズにも応えることができ、年間6億円超の売上にアプリ貢献しました。
新規顧客の開拓と既存顧客の維持、両方に効果を発揮したというのは注目に値します。既存のお客さんを大切にしつつ、アプリによって新規のお客さんにもアプローチする。このバランスの取れた戦略が、成功のカギだったと言えるでしょう。
学びの汎用化
では、はせがわの事例から、私たちが学べることは何でしょうか?
結論から言うと、自分たちがまだ捉えきれていないお客さんの潜在的な 「ジョブ」 と、ジョブが生じている 「状況」 を発見することの重要性です。
ジョブとセットになる状況までお客さんのことをしっかりと理解することによって、状況という 「原因」 、ジョブという 「結果」 の因果関係まで把握できます。
そして、見出した状況とジョブに対して、自分たちは何によって、どのようにお客さんから雇ってもらうか (選ばれるか) という顧客視点で、商品開発やマーケティング活動を展開していきます。
これこそが、はせがわのアプリの成功の本質であり、私たちが学ぶべきポイントです。
まとめ
今回は、仏壇のはせがわのアプリを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ジョブとは、特定の状況で人が遂げたい進歩 (progress) 。商品やサービスはお客さんのジョブを片付けてくれる 「ワーカー (働き手) 」 となる
- ジョブとセットになる状況までお客さんのことを深く理解し、状況という 「原因」 、ジョブという 「結果」 の因果関係まで把握するといい
- 自分たちがまだ捉えきれていないお客さんの潜在的な 「ジョブ」 と、ジョブが生じている 「状況」 を発見することで新しいビジネス機会をつくれる
- 見出した状況とジョブに対して、自分たちは何によって、どのようにお客さんから雇ってもらうか (選ばれるか) という顧客視点で、商品開発やマーケティング活動を展開していく
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