#マーケティング #差異化 #POPとPOD
マーケティングにおいて、ただ機能や特徴をアピールするだけでは差別化はできません。
必要なのは、他社と共通する価値 (POP) と、自社だけの独自価値 (POD) の両方をお客さんにもたらすことです。
この2つをどう組み合わせるかが、お客さんに選ばれる理由をつくるカギとなります。
今回は、ネットカフェの 「快活 CLUB」 の新業態の事例から、お客さんへの価値をどうつくるかについて紐解きます。
快活 CLUB 渋谷センター街店 (KEY PLACE)
「快活 CLUB 渋谷センター街店 (KEY PLACE) 」 は、2024年7月に開業したネットカフェです。
快活 CLUB はネットカフェ業界が縮小する市場環境の中で新たな顧客層を取り込むため、既存のネットカフェ業態とは一線を画す店舗スタイルを打ち出しました。
新業態である 「快活 CLUB 渋谷センター街店」 の特徴は、鍵付き完全個室に加え、カフェラウンジを併設していることです。
ラウンジは一般のカフェチェーンのようなデザインで、特に女性を意識したかわいい内装とし、リラックスした雰囲気をつくり出しています。
また、個室ではまわりを気にすることなく休憩ができるので、利用者にとってはひとりでの時間を過ごす上でカフェ以上の快適さを感じられます。
「快活 CLUB 渋谷センター街店」 は予想以上の来店客を見せ、月1万2千人のお客さんが来店しているとのことです (参考記事) 。特に女性の利用者が目立ち、カフェラウンジの利用は平日も休日も好調です。
新しい快活 CLUB の開発背景と狙い
では、「快活 CLUB 渋谷センター街店 (KEY PLACE) 」 の新業態のお店が生まれた背景から見てみましょう。
既存のネットカフェ業態への課題感
快活 CLUB は全国に多数の店舗を展開し、便利なサービスが消費者に支持されてきましたが、ネットカフェ業界全体が縮小する中、新しい成長の道を模索する必要が出てきました。
快活 CLUB が都市型店舗を検討する中で、「従来通りの完全個室だけがあるネットカフェでは十分な集客が見込めないのではないか」 という問題意識が生まれました。「今までと同じ仕様で今後も新規店舗を展開していいのか」 という疑問から、新たなアプローチが検討され、既存のネットカフェの店舗フォーマットを見直す動きが始まったのです。
ターゲット顧客に合わせた新たなアプローチ
快活 CLUB は、ターゲット顧客を 「ひとりで隙間時間を過ごす人」 に定めました。現代の多忙な人々にとって、隙間時間をリラックスして過ごせる環境へのニーズが相対的に高まっているという見立てからです。
快活 CLUB は、個室という静かな空間を提供していることは、一般的なカフェよりも優位性があると見込んでいました。
しかし、快適な個室空間があるにもかかわらず、実際にはネットカフェである快活 CLUB がカフェに比べて、ふらっと立ち寄る雰囲気が欠けていることを解決すべき問題として捉えました。女性客を中心に、ネットカフェへの 「入りにくさ」 が、快活 CLUB の利用を阻む要因になっているという解釈です。
入りにくさを解消するために、いかにして快活 CLUB をカフェのように気軽に利用できる場所にするかが、新たな課題として浮上しました。
新たな店舗デザインのアイデア
そこで、快活 CLUB の新店舗開発チームは、思い切った施策として 「カフェラウンジ」 の導入を決定しました。
渋谷センター街の新店舗の入口は2階にありましたが、2階の店内フロアを全面オープンスペースにし、テーブルと椅子を配置して、来店客が自由に過ごせるカフェラウンジを用意したのです。
ラウンジはカフェと同じような雰囲気を目指し、一般的なネットカフェとは全く違うつくりにしました。そして、3階と4階は全て鍵付きの完全個室にすることで、ひとりで静かに過ごす空間もつくりました。
カフェラウンジと完全個室の二部構成という新しい業態が誕生しました。この構造は、お店への入りやすさと個室でゆっくりすごせる居心地の良さという、2つの異なる特徴を両立させることを狙ってのものです。
エモーショナルな価値の訴求
従来のネットカフェは、機能面に重きを置いてきました。具体的には、Wi-Fi 、電源、パソコン完備などです。
一方の新しい快活 CLUB はそれだけにとどまりません。
特に女性客に向けて 「雰囲気が良い」 や 「居心地が良い」 といった感性的なエモーショナルな価値を訴求することに重点を置きました。スターバックスのようなカフェが持つ感情的価値をもたらす要素を取り入れ、これまでのネットカフェにはない顧客体験を提供しようとしています。
マーケティングへの学び
快活 CLUB の事例からは、マーケティングでの差異化に示唆が得られます。
差異化の概念として POP と POD の2つを補助線にして掘り下げていきましょう。
POP と POD
順番に見ていくと、POP (Points of parity) は、あるカテゴリーにおいて商品やサービスが 「最低限として満たすべき基本的な要素」 を指します。POP は自社だけではなく競合も同じように満たすものです。
POP はお客さんがそのカテゴリーの商品・サービスを買うかどうかを考えるときに必須の条件となります。たとえば、自動車であれば安全性、食品であれば味が POP に該当します。
一方の POD (Points of difference) は 「自社商品を競合から差異化する要素」 です。その商品が市場においてユニークな特徴を持ち、お客さんにとって独自の価値になるので、お客さんから競合商品ではなく自社商品が選ばれる理由となります。
たとえば、他には決してないほどの高コスパ、高い技術に裏打ちされた使いやすさ、自分好みに合わせたカスタマイズ性です。
POP と POD を整理すると、次のようになります。
- POP (Points of parity) : カテゴリーにおいて、商品やサービスが最低限で満たすべき基本要素。他社には "負けない" こと
- POD (Points of difference) : 自社商品・サービスの差異化になり他とは違うユニークな価値になり得る要素。他社に "勝てる" こと
ここで快活 CLUB の新しい業態である 「渋谷センター街店 (KEY PLACE) 」 に話をつなげます。
POP (Point of Parity) と POD (Point of Difference) を当てはめることで、快活 CLUB の戦略がより明確に見えてきます。
[POP] 快活 CLUB の土台となる顧客価値
POP (Points of parity) は、他のネットカフェと共通する価値であり、快活 CLUB においては 「個室の静かさ」 や 「居心地の良さ」 が POP に当たります。
ネットカフェは、プライベートな空間でのリラックスや集中できる環境があることで利用者に支持されてきました。快活 CLUB は、この点において市場トップのポジションを築いており、機能的な面では Wi-Fi や電源の完備、ソフトクリームなどのドリンクバーを提供するなど、快適さにおいて抜かりありません。
このような他社には "負けない" 要素である POP の存在が、既存のお客さんに安心感を与え、一定の品質を保証しています。
[POD] これまでにはなかった新しい店舗業態
POD (Points of difference) は、競合にはない独自価値を生み出す要素でした。
快活 CLUB が今回の新業態で打ち出した 「入りやすさの改善」 や 「カフェラウンジの併設」 が POD に該当します。
一般的なカフェ店と同じような 「居心地の良さ」 や 「雰囲気の良さ」 を重視することで、快活 CLUB は従来のネットカフェが持っていたお店への 「入りにくさ」 の問題を解消しました。また、入口があるフロアにオープンな雰囲気のあるカフェラウンジを導入したことで、従来のネットカフェとは異なる、よりカジュアルで気軽に入れて利用できる空間をつくりました。
快活 CLUB の POD の要素は、エモーショナルな感情的価値も生み出します。これにより快活 CLUB を他のカフェチェーンと比べたときに、カフェ店舗にはない顧客体験を提供するという強みをつくっています。
快活 CLUB は、女性客を中心に新たな顧客層を取り込むことに成功しています。カフェにはない 「静かに過ごせる個室」 というネットカフェの特性に、カフェのようなリラックスした雰囲気を組み合わせたことで、快活 CLUB は独自の魅力をお客さんにもたらすのです。
POP と POD の相乗効果
快活 CLUB は、POP である 「静かな個室空間」 と、一般的なネットカフェにはない POD となる 「カフェラウンジ」 を融合させることで、「快活 CLUB 渋谷センター街店」 は既存のネットカフェが抱えていた課題に対処し、新しい業態として独自のポジショニングを築きました。
特に女性客が増加した点は、これまでのネットカフェ業界が解決できなかった 「入りにくさ」 という問題を乗り越えた結果でしょう。
POP が土台となる顧客価値を保証しつつ、POD からの他にない差異化を図ることで、快活 CLUB は一般的なネットカフェの枠を超えた、新しい顧客体験を提供しています。
まとめ
今回は 「快活 CLUB 渋谷センター街店 (KEY PLACE) 」 の事例から、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- マーケティングでは差異化の概念として POP と POD の2つがある
- POP (Points of parity) はカテゴリーにおいて、商品やサービスが最低限で満たすべき基本要素。他社には "負けない" こと
- 一方の POD (Points of difference) は、自社商品・サービスの差異化になり、他とは違うユニークな価値になり得る要素。他社に "勝てる" こと
- POP が土台となる顧客価値を保証しつつ、POD からの他にない差異化を図ることが大事。POP があってこその POD という差異化要素が生きる
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!