#マーケティング #顧客価値 #ターゲット顧客
自社の商品は、本当にお客さんが求める価値を提供できているでしょうか?市場が成熟し競争も激しくなる中で、既存の商品カテゴリーにおいて新たな成長を見出すのは難しいと感じていませんか?
今回は、従来のおにぎりの常識を覆し、ターゲット顧客と提供価値を再定義することで独自の存在感を発揮している 「スゴおに」 の事例を取り上げます。
学べることとして、マーケティングにおける顧客価値の再定義の重要性を解説します。
ボリューム満点の 「スゴおに」
「スゴおに」 は、2021年6月に駅ナカのコンビニ NewDays (ニューデイズ) が発売したおにぎりシリーズです。3年間で約350万食を販売しました (参考記事) 。
もともとの 「スゴおに」 の開発背景ですが、コロナ禍での外出制限の状況で、日常の食事に楽しさを提供する目的で開発されました。スゴおにの特徴はユニークなコンセプトと、具材が海苔からはみ出すほどの通常のおにぎりの2倍近いボリュームがあることです。
たとえば 「のり弁にぎりました」 は、おにぎり1つで多くの種類の具材が楽しめる点が人気を博し、発売初週で約1000万円を売り上げました。
スゴおには、30 ~ 50代の男性を中心に人気があり (購買者の7割) 、その後もさまざまな新商品が月に1品のペースで投入されています。また、従来のスゴおにのボリューム感をやや抑え、より女性に人気のある食材を取り入れることで、女性顧客層を開拓することも意識したシリーズも展開されています。
スゴおにが再定義した顧客価値
今回の 「スゴおに」 の事例から学べるのは、お客さんが求める価値を再定義する重要性です。
従来のおにぎりの概念を超えた 「スゴおに」
一般的なおにぎりは、梅干しや鮭などの具材がおにぎりの中央部分に少量で入っており、手軽に食べられる軽食としての食べ物です。一方の 「スゴおに」 はおにぎりの概念を変えるものです。
おにぎりでお弁当の 「のり弁」 やお子様ランチを再現したり、麺類などの様々な食材を大胆に組み合わせることで、食べることへの新しい楽しみ方を提案しています。
例えば、第一弾の 「のり弁にぎりました」 では、おにぎりに含まれる具材の数を大幅に増やし、7種類もの具材 (白身フライ, タルタルソース, ちくわ天, 唐揚げ, 玉子焼き, きんぴら, おかか) をひとつのおにぎりの中に盛り込みました。
スゴおには、具材の多さとボリューム感を前面に押し出し、1個で多くの種類の具材が食べられるという価値をもたらしました。消費者は通常のおにぎり以上の満足感を得られ、さらに食べる楽しさという新たな価値も加わっています。
普通のおにぎりの範疇を超え、満足感、驚きや楽しさのあるものとして、スゴおにはおにぎりの価値を再定義したのです。
ターゲット層に合わせた価値提供
さらに、スゴおには、具材や形状をターゲット層に合わせてつくり、多様なニーズに応えています。
当初は30 ~ 50代の男性をメインターゲットとし、男性が求める 「ボリューム感」 や 「満足感」 を提供することでヒットしました。加えて、女性向けには 「至福のスゴおに」 シリーズを展開し、ボリュームを抑えつつも満足感を維持した商品を用意しました。
例えば 「至福のスゴおに 生ハム & チーズ」 では、通常のスゴおにに比べてボリューム感を抑えつつ、女性に人気のある食材である生ハムとクリーミーなチーズを組み合わせ、上品な味わいを実現しています。ボリュームよりも素材の質やバランスを重視する女性に向けて、食事としての満足感を維持しながら、手軽に楽しめるおにぎりです。
商品の見た目にも配慮し、プラスチックケースに入れることで、カバンの中に入れても型崩れしないようにするなど、持ち運びやすさと見た目の美しさも考慮されています。
このように女性向けのシリーズは、ターゲット層のライフスタイルに合わせることで、新たな顧客層を開拓しています。
これらの取り組みが意味するのは、従来のおにぎりに対する 「軽食」 としての価値を見直し、新しいコンセプトや満足感を付加することで、顧客の価値観を再定義したということです。
ターゲット顧客と価値提供の変化がもたらす競争ダイナミクス
では、今回の 「スゴおに」 の事例からの学びについて、汎用化して整理してみましょう。
ターゲット顧客 (Who) と提供価値 (What) を再定義することで、競争環境にどのような影響を与えたのでしょうか?
提供価値の再定義とライバルの変化
普通のおにぎりならお客さんから選ばれる争いをする競争相手は、コンビニの他のおにぎりになるでしょう。
それに対し、スゴおにの最初のころの主なターゲット顧客は30 ~ 50代の男性層は、ボリューム感や満足感を求めています。つまり 「スゴおに」 はボリュームのある食事や満足感を提供する競争環境に身を置いているわけです。
スゴおには提供価値として、従来のおにぎりの 「手軽さ」 や 「携帯性」 ではなく、 「驚き」 や 「楽しさ」 、さらに 「満腹感」 へと顧客価値を再定義しました。
そうなると、スゴおにはボリューム感で競合と対抗したり、食べていて楽しめる食事が競争相手になるため、異種格闘技戦のような混戦模様を呈します。
おにぎりだけではなく、例えばボリュームのあるサンドイッチやカップ麺などが選ばれる争いをする相手になるでしょう。さらには SNS 映えする食べ物など、スゴおにはより広いライバルと競合するようになります。
つまり、消費者は 「今日はどのおにぎりにしようか?」 ではなく、もっと前の段階での 「今日は何を食べようか?」 という競争ステージで食事全般との戦いにスゴおにはは入っているわけです。
女性向け商品の戦場と競争
さらに 「至福のスゴおに」 シリーズが登場したことで、ターゲット顧客が20 ~ 30代の女性にも広がりました。これにより、競争環境は変化します。
若年の女性ターゲット層は、ボリューム感よりもおしゃれさやヘルシーさを重視することでしょう。競争相手もヘルシー志向のサラダや軽食、女性向けの低カロリー食品などに変わります。
スゴおには、食事としての競争に加え、ライフスタイルに合わせた食事ができる価値をもたらす争いをすることになるのです。
競争領域の拡大と顧客選択のダイナミクス
ここまで見てきたように、ターゲット顧客 (Who) と提供価値 (What) が今までと変わることで、スゴおにはおにぎり市場にとどまらず、食事全般の市場、さらにはライフスタイルに対応する食品市場へと競争領域を広げました。
これを顧客視点で見れば、スゴおには 「おにぎりを買う」 だけにとどまらず、「ボリューム感のある食べ物でお腹を満たすために買う」 や、さらには 「楽しさを得るために買う」 や 「健康的な選択をするために買う」 など、様々な理由で選ばれる可能性が生まれます。その結果、スゴおにと競合する商品も多様化します。
以上のように、ターゲット顧客や提供価値の変化は、競争領域を変え、拡大やときには縮小するため、新たなライバルとの戦いになります。その中でお客さんに自分ごと化される価値を提案することで、商品の競争力を高めることができます。ここに今回の教訓があります。
他の市場でもこのような顧客設定と顧客価値の再定義によって、戦略を見直し、新たな価値を提供することが求められます。
まとめ
今回は、コンビニの NewDays のおにぎり 「スゴおに」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- スゴおには、おにぎりに 「驚き」 や 「満腹感」 という価値を提供する存在になることで、おにぎりだけではなく、サンドイッチやカップ麺、お弁当などの異なるジャンルの食べ物ともお客さんから選ばれる争いをするようになった
- 女性向けシリーズの導入により、競争環境はさらに変化。20 ~ 30代の女性をターゲットにしたスゴおにを追加したことで、ヘルシー志向のサラダや軽食、低カロリー食品が新たな競争相手に
- ターゲット顧客と提供価値を再定義することで競争環境が変わる。競争領域は広がり、商品が選ばれる理由も多様化する
- 顧客視点で見れば、スゴおにはおにぎりとしてだけでなく、満腹感や楽しさなどの側面も選択理由になる
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