#マーケティング #言語化
マーケティングの本質を、一言で説明できますか?
意外と難しいですよね。ビジネスの世界で、マーケティングほど重要でありながら、その本質を一言で表現することが難しい分野はないでしょう。
ビジネスでは 「起業」 「事業」 「営業」 といった用語は一般的によく使われますが、マーケティングを表す 「◯業」 はありません。これはなぜでしょうか?
この疑問を出発点に、今回はマーケティングの本質に迫りたいと思います。新しい視点で見えてくるマーケティングの姿に、きっと新たな気づきがあるはずです。
ぜひ一緒に考察を深めていきましょう。
「◯業」 の世界
まず 「◯業」 という表現について見ていきましょう。
日本語には、「業 (ぎょう) 」 という漢字を使って様々な産業やビジネスを表現することができます。
主要な経済活動を表す 「◯業」
まずは、経済活動を表す代表的な言葉をいくつか挙げてみます。
- 産業: 産業は広義な用語で、あらゆる経済活動を包括します。製造業からサービス業まで、社会の経済活動全般を指します
- 商業: 物やサービスの売買、流通に関わる活動です。小売や卸売がこれに該当し、経済の循環を支える役割を果たします
- 工業: 原材料を加工して製品を作り出す活動です。製造業や建設業などが含まれ、経済の生産性を支えます
- 農業: 農作物を育て食料を生産する産業です。近年では、持続可能性や食の安全性の観点からも注目されています
- 漁業: 海洋資源を活用する産業です。水産物の社会に供給するだけでなく、海洋環境の保全にも重要な役割を果たします
- 林業: 森林資源の管理と活用を行う産業です。木材の生産のほかに、環境保全や生態系維持にも関わります
ビジネスに関する 「◯業」
では次に、ビジネスに関する 「◯業」 を見てみましょう。
- 創業: 新しく事業を始めることを指します
- 起業: 新しい会社や事業を立ち上げることです
- 企業: 事業の企て、生産・営利の目的で事業を経営すること。一般的には会社を指す意味で使われる
- 事業: 営利を目的とした継続的な経済活動を指します。企業の中核を成す活動であり、多岐にわたる業務を含みます
- 営業: 顧客との直接的な接点を持ち、商品やサービスの販売を行う活動です。ビジネスの最前線で売上に直結する役割を担います。
少し話の寄り道をすると、興味深いのは 「創業」 と 「起業」 の微妙な違いです。
創業は伝統や歴史を感じさせ、大企業の始まりを語る際によく使われる印象があります。一方の起業は個人やスタートアップがビジネスを立ち上げる際によく使われるイメージです。
もうひとつ言葉でおもしろいのは、「営業」 です。
日本語の営業は英語では sale のことで、商品やサービスを売ることを指したり、販売部門のことを営業部と呼びます。しかし、営業という漢字は 「業を営む」 と書くので、英語の sale よりも business のほうが訳が正確なように思えます。
Sale という売ることは 「業を営む」 の中のひとつの活動にすぎないはずが、日本語では営業が売ることの意味で使われるのは興味深いです。
マーケティングを 「◯業」 で表現すると?
あらためて注目したいのは、マーケティングのことを直接指す 「◯業」 が日本語では存在しないことです。これは、マーケティングの多面的な性質ゆえからでしょう。
それでは、もしマーケティングを 「◯業」 と一言で表現するとしたら、どのような漢字が適切でしょうか?これを考えることで、マーケティングの本質を新たな角度から捉える良い機会になります。
ここでは10個のマーケティングを表す 「◯業」 を考えてみます (いずれも造語です) 。それぞれがマーケティングのどのような側面を表現しているかを順番に見てみましょう。
- 市業 (しぎょう)
市場を意味する 「市」 を用いることで、マーケティングが本質的に市場を対象とした活動であることを強調しています。市場調査、市場分析、市場開拓など、マーケティングの基礎となる活動を表現しています
- 経業 (けいぎょう)
マーケティングは企業の経営に直結することを表現したものです。マーケティングは戦略立案から実行まで、経営と事業の幅広い活動を包括します
- 顧業 (こぎょう)
「顧客」 を中心に据えたこの表現は、マーケティングがお客さんを起点にする活動であることを示しています。お客さんの置かれた状況、ニーズやウォンツ、何に価値を見出しているかの価値観などを理解し、顧客理解にもとづいた活動をすることがマーケティングです
- 価業 (かぎょう)
お客さんへの 「価値」 をつくり出すことがマーケティングの重要な役割であることを強調しています
- 魅業 (みぎょう)
お客さんを 「魅了」 する活動としてマーケティングを捉えた表現です。ブランディング、広告コミュニケーション、製品デザイン、価格設定など、マーケティング 4P の要素でお客さんの心をつかむ活動がマーケティングです
- 繋業 (けいぎょう)
企業と顧客、製品とユーザーを 「繋ぐ」 という役割をマーケティングが担っていることを表しています。繋ぐのはお客さん同士という場合もあります (例: ファンコミュニティ)
- 宣業 (せんぎょう)
広告などの 「宣伝活動」 に焦点を当てています。プロモーションや広告によるマーケティングコミュニケーションです
- 伝業 (でんぎょう)
商品の魅力、得られる顧客価値、ブランドの世界観を 「伝える活動」 としてマーケティングを捉えての言葉です
- 集業 (しゅうぎょう)
お客さんを 「集める活動」 を担うマーケティングを表しています。集客やリードジェネレーション (見込み顧客の創出) など、マーケティングは新規顧客の獲得によってビジネスを成長させることに貢献します
- 啓業 (けいぎょう)
新たな価値観やカテゴリー、商品の使い方を 「啓蒙」 し、市場を健全に育てる役割をマーケティングが担っていることを示しています
「◯業」 に見るマーケティングの本質
ここまで、マーケティングを表す 「◯業」 を10個を順に見てきました。
ちなみにの話ですが、10個の中からもし1つだけ選ぶとすると、私なら 「市業」 を選びます。理由は、マーケティングは英語では Market に ing がつく Marketing と表記するので市業という言葉が一番近いと思うからです。
さて、あらためて10個のマーケティングの造語を俯瞰すると、浮かび上がってくるのはマーケティングの活動には多面的で複合的な性質があるということです。
効果的なマーケティングは、
- 市場を深く理解し (市業)
- 経営や事業に直結する戦略を立案・実行し (経業)
- 顧客ニーズに真摯に向き合い (顧業)
- 真の価値を創造・提供し (価業)
- 魅力的に製品やブランドを提示し (魅業)
- 顧客との強い関係性を構築し (繋業)
- 効果的にメッセージを広告やプロモーションによって発信し (宣業)
- 重要な情報や価値観を伝え (伝業)
- 新規顧客を獲得し (集業)
- 新しい価値観や製品カテゴリーを普及させる (啓業)
という活動の総体となるのがマーケティングなのです。
これらの側面は互いに密接に関連し合い、相乗効果を生み出します。
例えば、市場理解 (市業) にもとづいて戦略を立て (経業) 、また、顧客ニーズを理解し (顧業) 、それに応える価値を定義します (価業) 。
顧客価値を魅力的にお客さんに示し (魅業) 、広告等のコミュニケーションによって効果的に伝え (宣業と伝業) 、お客さんを集めます (集業) 。そして、お客さんとの長期的な関係を構築し (繋業) 、新しい価値観を啓蒙 (啓業) することで市場そのものを拡大していくのがマーケティングです。
このように、マーケティングは単なる販売促進活動ではなく、ビジネスの成功に不可欠な戦略的活動の集合体なのです。
普遍的なマーケティングの役割
マーケティングを表した 「市業」 などの造語によって言語化し、マーケティングを見つめ直すことで、多面的な性質と本質的な重要性が浮き彫りになりました。
マーケティングには、これらの要素を取り入れ、統合的なアプローチを取ることが求められます。
今後、ビジネス環境が変化し、デジタル化や AI の進化が進んだとしても、お客さんに価値を提供し、企業と社会の持続的な成長を実現するという企業の使命は変わりません。
そして、そのためのマーケティングの役割は引き続き重要です。AI などの新しい技術を活用し、「市業」 や 「顧業」 、「価業」 などの意味が示すマーケティングの本質を忘れることなく、常にお客さんと市場の変化に適応し続けることで、マーケティングはビジネスへの成功に貢献できます。
まとめ
今回は 「◯業」 という言葉に注目し、マーケティングを表す造語をいくつか言語化することによって、マーケティングの本質とは何かをあらためて考えてみました。
最後にポイントをまとめておきます。
- マーケティングを 「◯業」 という造語で表現することで、マーケティングの役割を捉えることができる
- 例えば、「市業」 では市場を中心に捉え、「顧業」 では顧客起点を強調し、「価業」 のように価値の創造する活動。ブランドや製品を 「魅業」 のように魅力的に提示しお客さんの心をつかむ
- また、「集業」 や 「繋業」 のように、顧客を集め、長期的な関係を築くことも求められる。そして 「啓業」 のように新たな価値観や価値をお客さんに啓蒙し、市場そのものを育てる役割も持つ
- このようにマーケティングは販売促進活動にとどまらず、「経業」 とも表現できるように経営に直接的に結びつく包括的な概念。市場理解、顧客ニーズの把握、戦略立案、価値創出、ブランディング、顧客関係構築など、様々な要素が相互に関連し合い相乗効果を生み出す
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