#マーケティング #顧客インサイト #価値提案
推し活を楽しむ人なら誰もが抱える 「推し活グッズがあふれる」 という悩み。その切実な声に寄り添い、発売直後に爆発的なヒットとなった家具があります。
今回は、なぜその家具が人々の心を動かしたのか、その裏側にある 「顧客インサイト」 について紐解いていきます。
LOWYA 「OSHITERU」
出典: PR TIMES
家具ブランド LOWYA (ロウヤ) が新たに世に送り出したのが、推し活専用の収納家具 「OSHITERU」 です。
2023 年 10 月の発売からわずか 8 日で 3 カ月分の在庫を完売し、2025 年 10 月末時点で累計約 14,000 台を売り上げるヒット商品となりました。
OSHITERU の特徴は、推し活グッズを収納することに特化した徹底的な設計です。
出典: 日経クロストレンド
可動棚は 3.2cm 刻み 23 段階で調整可能、引き出しにはペンライト専用の格子状仕切り、扉の裏にはうちわやタオルを収納できるスペース、そして本体上部には 「祭壇」 を設置。これまで 「なんとなく置いてきた」 という推し活グッズすべてに居場所が与えられます。
OSHITERU のヒットの背後にあるのは、推し活に励む人たちの 「顧客のインサイト」 を的確に捉え、価値提案につなげたことです
顧客インサイトとは何か
まずは、顧客インサイトとは何かです。
インサイトとは
そもそものインサイトですが、語源から遡ると、インサイト (Insight) とは、in (中に) と sight (見る) という 2 つから構成され、「中を見る」 というニュアンスを持つ言葉です。
ビジネスの文脈では、インサイトの意味は 「データや情報、観察を通じて得られる対象への深い理解や洞察のこと」 です。
顧客インサイトとは
インサイトに 「顧客」 をつけるのが 「顧客インサイト」 です。顧客インサイトとは、「お客さんを動かす隠れた気持ち」 です。
顧客インサイトはお客さんの表面的な言動からはうかがい知れない、深層心理や潜在的な奥にある心理を指します。
普段はお客さん本人も意識することはありませんが、何かのきっかけで見せられたり言われたりすれば、「心のスイッチボタン」 をグサッと刺され、思わず買いたくなる行動につながる気持ちです。
顧客インサイトには、深さの度合いがあります。
- 深さレベル 1: 本人は気づいているが、社会や業界が気づいていない。こんなものが欲しいのに 「何でつくってくれないんだろう?」 という状態
- 深さレベル 2: 本人はうすうす感じているがうまく言語化できていない。何だかモヤモヤしているといった状態
- 深さレベル 3: 本人も気づいていない。自分のインサイトを突くものを目の前にしてはじめて、「こういうものが欲しかった!」 となる状態
OSHITERU が捉えた顧客インサイト
推し活専用収納家具の OSHITERU は、これら 3 つの深さレベルにおいて、顧客インサイトを的確に捉えた商品でした。
それぞれのレベルで、どのようなインサイトがあり、OSHITERU はどう応えたのか、詳しく見ていきましょう。
[深さレベル 1] 本人は気づいているが解決されていない不満
OSHITERU が捉えたのは、推し活当事者が日常で感じていた構造的な不便さです。これらはユーザー自身が自覚していたものの、家具業界はニッチすぎると見なしていた不満でした。
そのひとつは、ペンライトがライブのたびに増えるというものです。推し活を続けていると、グッズは増え続けます。既存の家具では対応できず、管理不能になっていきます。
OSHITERU の対応は、可動棚を 3.2cm 刻みで 23 段階で細かく調整可能にし、棚板を半分構造にして奥行きを変えられる設計にしました。推し活グッズがどんどん増えること前提とした設計です。
インサイトの 2 つ目は、推しのうちわが大きくて棚に入らないという問題です。うちわだけいつも部屋の端で行き場がない、推し活をしていない人には理解されないイライラです。
ここにも OSHITERU は扉の裏にうちわ専用ホルダーを新設し、行き場のないうちわを正式に居場所として認めました。
インサイトの 3 つ目は、アクリルスタンド (アクスタ) は高さが合わない棚が多すぎるというものです。高さが数 cm 違うだけで、推しが入らないというストレスです。
OSHITERU は、開発段階で推しジャンル別のグッズ構成を徹底的に調査し、高さと耐荷重を最適化。アクスタが美しく立つ棚という視点を取り入れました。
ここまでのインサイトをまとめると、普通の収納棚では推しグッズが収まらず、なんかしっくりこないという不満です。
通常の家具は本棚や雑貨収納としてしか設計されていません。一方の OSHITERU は推し活体験を具体的な寸法・構造に翻訳し、推し専用家具という新カテゴリーを創出しました。
[深さレベル 2] 言語化できていない 「モヤモヤした葛藤」
深さレベル 2 のインサイトは、「推しをグッズ見たいし、あがめたい。でも時には隠したい」 という、どこか矛盾する心理です。
推し愛を全開にしたい一方で、例えば来客や家族に見られることへの微妙な気恥ずかしさがあります。推しと日常のバランスを無意識に求める気持ちです。この矛盾した心理は、本人も明確に言語化できていないレベルです。
推しグッズを、常に眺め、あがめたい欲求は、本体の棚の上にもうひとつ小さなオープン棚を設置することで気持ちを満たしました。あたかもそれは 「祭壇」 のようで、本体の扉を開きっぱなしにすれば収納全体がより大きな祭壇となります。
来客などの際に一時的に隠したい場合には、扉を閉めれば、生活空間になじむシンプルなデザインの家具として、オタクの雰囲気を消すこともできます。
これが実現できたのは、推し活ユーザーに細かくヒアリングを重ねて開発していったからでしょう。
[深さレベル 3] 本人も気づいていなかった 「無自覚な欲求」
最も深いレベルのインサイトは、商品や動画などを見て初めて 「これこそ自分が欲しかったものだ」 と気づく領域です。
今回のケースでは、推し活に 「正式な居場所」 をつくりたいという深層心理です。
本当は、推しと自分の関係をもっと丁寧に扱いたい。グッズを適当に置いておくのではなく、大切に飾りたいという気持ちです。しかし、それを言葉にすることはできておらず、推し活者自身も、自分がここまで求めているのかはっきりとは認識していなかったわけです。
OSHITERU の対応は、単なる収納家具にとどめず、推し活の居場所づくりを提案、SNS 動画で推し棚デビュー体験を提案しました。欲しかったのは収納ではなく、この体験だったと初めて気づく瞬間を見せたのです。
Instagram に投稿したストーリー動画の紹介動画は、わずか 2 日で 100 万インプレッションに達しました。
コメント欄には 「これこれ!まさにこれを探していた!」 という共感の声があふれました。
OSHITERU が提案したのは、収納家具ではなく推し活を尊重する暮らしの形でした。この深層欲求は、商品を見るまで言語化できていませんでしたが、目の前に実際のものを見て、その瞬間に 「心のスイッチボタン」 が押されたのです。
3 つの深度レベルを統合したマーケティング戦略
OSHITERU の事例で注目したいのは、3 つの深さレベルの顧客インサイトを、すべて 1 つの商品に統合したことです。
カスタマージャーニーとの連動
出典: 日経クロストレンド
OSHITERU はそれぞれの深さレベルのインサイトをカスタマージャーニーの各段階で効果的に訴求しました。
- 認知段階 (SNS) : インサイトだった不満を可視化。ペンライトがぴったり立てられる、うちわもすっきり収納と具体的に示した
- 検討段階 (Web) : 不満やモヤモヤに応える詳細情報を提供。サイズ表、動画、利用イメージで本当に使えるかを確認できる環境を整えた
- 体験段階 (店舗) : 見せたいけど隠したいという矛盾を、実際に扉を開閉して確かめられる場を提供
- 購入・共有段階 (EC・SNS) : 推し活に正式な居場所をつくるという体験価値が、購入者の SNS 投稿を通じて広がり、次の購入希望者の共感を呼ぶ好循環を生み出した
顧客インサイトを捉える組織体制
OSHITERU の成功を支えたのは、インサイトを発見し、形にする組織体制でした。
開発の起点は、社内で実際に推し活を楽しむ 30 代前後の女性社員 2 人の声でした。推しのグッズを収納するためにちょうどいいものがない、という提案から、プロジェクトは動き出しました。当初はニッチすぎるのではと却下されかけましたが、開発担当者が今こそやるべきだと後押ししました。
その後、推し活経験を持つ社員 9 人が部署を超えて集まり、推し活プロジェクトを結成。多様な推しを持つメンバーが、自らの体験をもとに徹底的に議論しました。
当事者意識が高く、熱意のある部門横断のチーム体制が、顧客インサイトを余すことなく拾い上げ、通常は 1 年かけて開発するところ、プロジェクトチームの熱量を反映し、着手からわずか半年後のスピード発売を可能にしたのです。
顧客インサイトに応えるということ
OSHITERU の成功からマーケティングの観点で学べるのは、顧客インサイトには深さがあること、そして重要なのは、3 つの深さレベルのインサイトを統合し、相手の心理に寄り添った商品開発やマーケティングにつなげることです。
OSHITERU は、ただの収納棚ではなく、推し活者の 「こんなのが欲しかった!」 という心のスイッチボタンを見事に押した商品でした。その成功の背景には、顧客インサイトにグサッと刺さる緻密な開発とマーケティングがありました。
あなたのビジネスでも、顧客の明確な不満、モヤモヤした葛藤、無自覚の欲求の 3 つのインサイト深さレベルを意識してみてください。そこに、新しい価値を生み出すヒントが隠されているはずです。
まとめ
今回は、LOWYA の推し活専用の収納家具 「OSHITERU」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- インサイトは 「中を見る」 というニュアンスを持ち、データや情報、観察を通じて得られる対象への深い理解や洞察のこと
- 顧客インサイトは、「お客さんを動かす隠れた気持ち」
- 顧客インサイトには 3 つの深さレベルがある。深さレベル 1 は本人が気づいている不満だが企業は対応していないもの、レベル 2 は言語化できないモヤモヤした葛藤、レベル 3 は本人も気づいておらず見せられて初めて気づく無自覚の欲求
- 顧客自身も気づいていない深さレベルのインサイトは、体験を可視化することで初めて顕在化する。説明より先に見せることで、心のスイッチボタンを押すことができる
- 商品認知から店舗での体験まで、インサイトに寄り添った一貫性のあるカスタマージャーニーを設計する
- 担当者の熱量や当事者ならではの視点、顧客起点に貫ける組織体制が、お客さんの心に響く価値を生み出す


