#マーケティング #組織開発 #本
逆境からの挑戦を描く小説 「ノーサイド・ゲーム (池井戸潤) 」 。
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物語は、私たちの仕事に応用できる実践的なビジネスへのヒントにあふれています。
この小説から学ぶ、組織づくりとマーケティングの実践方法をご紹介します。
本書の概要
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あらすじ
物語は、大手自動車メーカー 「トキワ自動車」 のエリート社員だった君嶋隼人が、上司に逆らい、左遷されるところから始まります。
君嶋が赴任したのは工場の総務部長です。そしてラグビー経験ゼロにもかかわらず、会社の社会人ラグビー部 「アストロズ」 のゼネラルマネージャー (GM) を兼務するよう命じられます。
かつては強豪だったアストロズは、今や成績不振で年間 16 億円の赤字を垂れ流す、トキワ自動車にとってお荷物チームでした。経営陣には廃部を求める声が渦巻いていました。
ラグビーのことをまったく知らない素人 GM の君嶋が、いかにしてこの逆境を乗り越え、チームを、そして会社を、さらにはリーグ全体をも変革していくのか。
本書はスポーツ小説にとどまらず、現代企業が直面する課題に対する洞察に満ちた、実践的なビジネスの教科書です。
章立ての構成
本書は全 3 部構成で展開されます。
第 1 部 「ファースト・ハーフ」 にはプロローグと第 1 章から第 5 章、そしてエピローグが収録されています。
続く第 2 部 「ハーフタイム」 を挟んで、第 3 部 「セカンド・ハーフ」 では再び第 1 章から第 5 章が展開され、最後に 「ノーサイド」 という章で物語が締めくくられます。
全体でラグビーの試合になぞらえた構成になっています。ビジネスの戦いもまた前半戦と後半戦、そしてハーフタイムの戦略修正があることを暗示しているかのようです。
ビジネスに学べるテーマ
小説のストーリーの中には、すぐに仕事に活かせる多くの学びが散りばめられています。
企業スポーツの存在意義と社会貢献
小説 「ノーサイド・ゲーム」 の物語の根底に流れるのは、「企業スポーツは単なるコストか、それとも未来への投資か」 という問いです。
君嶋がアストロズの GM に就任した当初、アストロズはお金を食いつぶすコストセンターのような存在でした。
トキワ自動車の経営陣が合理化の観点から赤字続きのラグビー部を廃止しようとする一方で、君嶋は企業スポーツが果たす社会的役割を主張します。
君嶋が描いた夢は明確でした。「オレの夢は、スタジアムを埋めた満員のお客さんに、アストロズの試合を観てもらうことだ」 と。
満員のスタジアムはチケット収入を生み、ラグビー部を興行として成立させるための絶対条件でした。
さらに君嶋は、より大きな社会的課題を提示します。「ラグビーの人気がなくなったら、将来、日本のラグビーは必ず弱くなる。ラグビーが好きで、ラグビーをやりたいと思ってくれる子どもたちがいなくなったら、どうやってラグビーを強化するんだ」 。
地域に愛されるチームを作ることは、企業のブランドイメージを向上させ、最終的にはトキワ自動車本体の事業にも好影響を与えます。君嶋のビジョンは、企業からのラグビー部への援助だけに頼るのではなく、主体的に自立し、地域コミュニティとの相互利益関係への転換を目指したものでした。
ノーサイドの精神
本書のタイトルにもなっている 「ノーサイド」 は、ラグビーで試合終了を意味すると同時に、「試合が終われば敵も味方もなくなり、互いの健闘を称え合う」 という、ラグビー特有の姿勢を象徴する言葉です。
ちなみに、この 「ノーサイド」 という表現は現在、ほぼ日本でのみ使われており、日本独自のラグビー解釈が本書の文脈で物語への重要な示唆を与えます。
物語のある場面で、ある人物が君嶋にこう語ります。
「最後には道を過 (あやま) らず、理に適ったものだけが残る。逆にいえば、道理を外れれば、いつかしっぺ返しを食らう」
道理を貫くという思想こそ、ビジネスの世界におけるノーサイドの精神です。
ビジネスにおいても、競合プレイヤーと激しく競争することは当然必要です。しかしそれと同時に、業界全体の健全な発展や公正な市場ルールといった共通の道理が存在することも認識しなければなりません。
それは、競合相手をリスペクトし、お互いに学び、倫理に反する手段で得た短期的な勝利よりも、誠実さや道理にもとづいた長期的な信頼を重視するという姿勢です。
小説では君嶋は目先の自チームの利益だけでなく、社会人ラグビーのリーグ全体の持続可能性という道理のために戦いました。争いがあっても恨みを残さず次に向かう潔さと公正さを重んじる態度は、ビジネスや人間関係においても求められることでしょう。
One for all, all for one が育む組織力
ラグビーでよく言われる 「One for all, all for one (ひとりはみんなのために、みんなはひとつのために) 」 は、ラグビーの精神を象徴する言葉として広く知られています。
しかし、この言葉はしばしば、個人の犠牲を強いる全体主義的なものとして誤解されます。
正しい解釈は、「One for All」 が各個人がチームに貢献すること、「All for One」 がチーム全体がひとつの目標に向かうことを意味します。つまり、個人の犠牲を強いる全体主義的なスローガンではなく、個の最大化とチームでのシナジーの創出を目指す組織論なのです。
小説では、アストロズの監督は、理想や理論を選手に押し付けるのではなく、選手一人ひとりの個性を最大限に活かすチーム作りを目指しました。
「チームは、個の集合である」 「戦術と才能のミスマッチは、結局のところ戦力のロスになる。逆に、選手の個性と戦術の歯車が噛み合えば、そこにはシナジーが生まれる」
リーダーの仕事は、既存のメンバーの能力を理解し、個々人の強みが最大限に発揮され、弱みが相互に補完されるような仕組みを構築することにあります。
個人の卓越性が集団の目標達成に貢献し、チーム全体がその個人のために一つの勝利という目標に向かう。このシナジーによって、アストロズは個々の力以上の結束力と実力を発揮する集団へと成長していきます。組織の力はチームワークという和によって何倍にも高まることを教えてくれます。
マーケティングへの学び
君嶋が断行したチーム運営改革は、マーケティングの観点からも示唆に富みます。
特にお客さんとの向き合い方において、読者は本質的な学びを得ることができます。
顧客起点となる 「顧客は誰か」
低迷するアストロズを立て直すにあたり、君嶋が着目したのは、「誰に試合を観てもらうべきか」 というマーケティングの問いでした。
君嶋はチームメンバーたちにこう言いました。「アストロズの宣伝のために街頭でチラシ配りでもするか? ただスタジアムが埋まればいいというわけではないんだ。重要なのは、我々が観てもらいたい人に来てもらうことじゃないか。じゃあ、誰に観てもらいたい」
この問いは、それまでの 「誰でもいいからスタジアムを埋めたい」 という不特定多数を対象としたマーケティングからの決別を意味します。
かつてのアストロズの運営は、とにかく観客席を埋めれば良いという発想でした。しかし君嶋は、本当に試合観戦に呼ぶべき人たちを注力顧客と定め、その層に響く施策を打つことが必要だと考えたのです。
君嶋が定義した注力顧客は 「地域の人たち」 でした。
「とにかく、地域の人たちとの接点を増やそう。ラグビー教室でもいいし、ボランティアでもいい。アストロズを応援してもらえるような雰囲気を作っていくんだ。まずはそこからだ。いままでと同じことをやっていては、同じ結果しか得られない。変えていこう」
「カネを積んでいい選手ばかり集めたって強くはならない。一時的には強くなっても長続きしない。そんなチームより、これから何十年と地元に愛されていくチームを作ることで成長していきたい。強くなるためには、人気がなければダメなんだ。自分たちの足でしっかり立てるように、努力してみようや」
注力顧客の中でも、特に子どもたちは重要でした。
子どもたちにとって、アストロズの選手たちは良き先生であり、人生の先輩であり、もしかすると生涯にわたる友人になるかもしれません。そして、保護者たちも同時に、アストロズを支える心強いファンとなるはずだからです。
君嶋の発案で、アストロズの選手たちは地域でラグビー教室を開いたり、ボランティア活動に参加したりするなど、チームメンバー全員で地元住民との交流を深めていきます。これらの活動は広報活動や慈善事業にとどまらず、アストロズと地域住民との間につながりを構築するための戦略的投資でした。
顧客接点と顧客理解
大切にしたい注力顧客を定義し、ファン形成への一歩を踏み出したアストロズ。
次に実行に移したのは、お客さんとの関係性を収益化し、アストロズという社会人ラグビー部を持続可能な事業モデルにための具体的な戦術でした。その手法は、ビジネスの D2C (Direct to Consumer) に通じるものでした。
君嶋たちは、アストロズの公式ホームページを立ち上げて情報発信や、チケット販売を開始。他にも公式 SNS も活用し、ファンクラブ組織も創設しました。
これにより実現したのは、従来の日本蹴球協会 (小説内での日本のラグビー協会) に依存した運営からの脱却でした。
協会の非効率な運営では、売れないチケットを投げ売りし、あるいはスポンサー企業に押し付け、せっかくスタジアムに足を運んでくれるファンのプロフィールを把握することもなく、集客にも無頓着でした。
そこで君嶋たちアストロズは全チケットを協会から安く一括で買い取り、自前のルートで販売する決断を下します。
自分たちのホームページやファンクラブによるチケット販売なので、どこの誰が、どんなチケットを購入したか把握できます。性別や年齢、職業まで把握し、例えばある試合の観客の男女比が 6 対 4 で、購入者の平均年齢が 32 歳であることもつぶさにわかります。
君嶋はこう語ります。「同じ観客数なら、どこの誰かわからない客より、素性のわかる客の方がはるかに価値が高い。彼らとつながることができるからだ。何がよかったか。何が課題か。チケットの値段はこれでいいか。リクエストはないか。ありとあらゆるフィードバックを得ることができる。その情報には、無限の価値がある」
この顧客理解が、意思決定の質を高めます。
顧客データにもとづき、アストロズはリーグ平均の約 2 倍となるチケット単価を実現しました。また、把握したファン層のデータをもとにスポンサーを絞り込み、広告収入でも収益を得ることができます。
アストロズで成し遂げたことは、親会社と業界団体という2つの 「B (企業)」 に依存していた組織を、エンドユーザーである 「C (消費者)」 と直接つながる、D2C というビジネスモデルの変革でした。
まとめ
今回は、書籍 「ノーサイド・ゲーム (池井戸潤) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 企業スポーツの存在意義と社会貢献: 企業スポーツはコストと短絡的に捉えるのではなく、ブランディング、地域の活性化や未来の競技人口を育てるための投資であり、ブランド価値や社会的信頼の源泉となりえる
- ノーサイドの精神: 対立や競争の相手でもベースには尊重し、公正さと誠実さを重んじる姿勢が長期的な信頼を生む。それが組織や業界全体の持続性につながる
- One for all, all for one の組織力: 個々人の強み・弱みを理解し、強みを活かし弱みを補い合う仕組みをつくる。チーム全体が相乗効果を発揮し、生み出す成果を最大化できる
- 顧客は誰か (顧客起点) : 顔の見えない不特定多数を相手にするよりも、誰に価値を届けたいのかという注力顧客を明確にする。大切にする注力顧客にフォーカスを当てファンや支持者を育てることが重要
- 顧客接点と顧客理解: お客さんと直接つながり、データやフィードバックを活用することにより顧客理解を深める
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