#マーケティング #ビジネスモデル #長期視点
ビジネスを分析する上で、ビジネスモデルを解像度高く捉えることは有効です。
今回は 「カラオケまねきねこ」 の躍進を、独自のビジネスモデルから読み解いていきます。
カラオケまねきねこ
出典: カラオケまねきねこ
出典: カラオケまねきねこ
コシダカホールディングスが運営するカラオケチェーン 「まねきねこ」 が、カラオケ業界で存在感を示しています。
2025 年 8 月期のカラオケ事業の業績は売上高 671 億 6200 万円で前年比 9.7% 増、営業利益は 124 億 500 万円で前年比 7.9% 増を記録しました (参考情報) 。これはコロナ禍以前の 2019 年比で見ると、売上高は約 1.9 倍、営業利益は約 2.7 倍という大幅な成長です。
店舗展開も積極的です。2025 年 10 月時点で 700 店舗を超え、業界 2 位のビッグエコー (約 500 店舗) を大きく引き離しています。
特筆すべきは、コロナ禍の最中でも出店ペースを落とさなかったことです。2021 年 8 月期には営業利益で 80 億円弱の赤字を計上する厳しい状況でしたが、2023 年までに約 200 の出店に踏み切りました。
カラオケ業界は 2020 年前後まで大手ブランドが拮抗する構図が続いていましたが、コロナ禍を機に勢力図が大きく変化し、まねきねこがカラオケ市場のリーディングカンパニーとしての地位を確立しつつあります。
「まねきねこ」 のビジネスモデル
カラオケまねきねこの躍進の背景には、どのようなビジネスモデルがあるのでしょうか。5 つの要素に分解して見ていきましょう。
[注力顧客] 戦略の起点となる顧客設定
まねきねこが明確に定めた注力顧客は、10 代後半から 20 代前半の若年層、特に高校生と大学生です。
この顧客設定が、戦略全体を貫く重要な起点となります。
従来のカラオケ業界では、高校生や大学生は客単価が低く、スタッフの対応も大変だという理由で、積極的にターゲット顧客とはされてきませんでした。しかし、まねきねこは、あえてこの非効率と見なされていた若年層に真正面から注力したのです。
高校生や大学生に共通するニーズは、
- 少ないお小遣いでも気軽に楽しめる場所がほしい
- 誰にも邪魔されず、自由に過ごせる 「たまり場」 となる居場所がほしい
- 歌うことだけが目的じゃなく、推し活や SNS に上げる動画撮影も楽しみたい
- コスパのよい長時間滞在ができる空間を好む
といった特徴が挙げられます。
まねきねこの注力顧客は、ただ単に歌うだけを目的としてカラオケに来店するのではなく、時間を自由に過ごせる安価な居場所がほしい若者だったのです。
この顧客設定が、すべてビジネスモデルをつくる出発点となり、以降の 4 つの要素からのビジネスモデル設計へとつながっていきます。
[競合] カラオケ店だけが選択肢ではない
注力顧客が高校生・大学生であることを起点に考えると、お客さんにとっての競合も大きく広がります。
まねきねこが本当に向き合った競合は、ビッグエコーやシダックスといった他のカラオケチェーンだけではありません。
若者が放課後や休日に時間を過ごす場所として選びうる、すべての選択肢が競合となります。具体的には、ファストフード店、カフェ、ゲームセンター、友人の家、カラオケアプリ、推し活スポットなど、さらには、オンラインゲームや SNS (デジタル上の居場所) です。
まねきねこが向き合ったのは、同じ価格帯で時間をつぶせる場所としての競合でした。カラオケ業界で勝つという狭い競争ではなく、若者が放課後や空き時間にどこで時間を過ごすかという広い競争に挑んだということです。
この競合認識の違いが、顧客価値の設計に大きく影響します。カラオケという枠に囚われず、若者の居場所としてのポジションを確立することで、他のカラオケチェーンとは異なる土俵で戦うことができます。
[顧客価値] 歌う場所から自由に過ごせる場所へ
競合がひしめく 「放課後の居場所」 という土俵で選ばれるために、まねきねこが提供した顧客価値は、「友達と気兼ねなく自由に遊べる、圧倒的にコスパの良い個室」 です。
詳しく見ると、次の 3 つに集約されます。
第一の価値は 「若者にとって圧倒的に使いやすいコスパの良さ」 です。
カラオケまねきねこには、2 人以上の高校生は室料が無料になる 「ZERO カラ」 、大学生・短大生・専門学生向けに週末以外の 18 時以降フリータイムでドリンクバーが無料になる 「まふ (まねきねこのフリータイム) 」 といったプランを展開しています。
これは、「君たちは特別だ」 というメッセージであり、高校生のアプリ会員数が約 160 万人、全国の高校生の 2 人に 1 人以上が登録するほどです。
第二の価値として 「持ち込み自由で多目的利用が可能」 もあります。
カラオケまねきねこは、カラオケの個室への飲食物の持ち込みを解禁しました。例えば、コンビニで買ったお菓子でパーティーができるなど、カラオケ料金とは別に飲食物を注文して追加でお金を支払わなくていいという安心感が生まれます。金欠の若者にとってありがたい居場所となります。
第三の価値は、「歌うこととそれ以外の多様な体験価値」 です。
- VR ゴーグルを着用して歌える 「メタカラ」
- 自分が作った音楽の原盤でそのままカラオケで歌える 「本人音源カラオケ」
- 撮影機材を併設した専用ルーム
- 年間 50 近いアニメや VTuber とのコラボしたドリンクメニューやルーム
- 「桃鉄」 や 「スイカゲーム」 が遊べたり、WOWOW を視聴できる環境を整えた個室も用意
- Pairs (マッチングアプリ) とのコラボで、カラオケ店舗を 「若者の出会いと交流の場」 に転化。例えば渋谷本店で 20 代男女 40 人ほどが参加するマッチングイベントを実施
これらは、歌うこと以外にも多様なエンタメの体験を価値にしたものです。
カラオケまねきねこの顧客価値は、カラオケという枠に収まらない、友達と自由に遊べる、安価で気軽な最高の居場所を提供することにあります。
[事業能力] 顧客価値を実現する仕組みとリソース
カラオケまねきねこは、価値提案を実現し続けるために独自の事業能力 (オペレーションとリソース) を築き上げました。
1 つ目は、「逆境での出店力」 です。
コロナ禍で赤字を出しても出店を止めなかった胆力。多くの企業が撤退して物件価格が下がったタイミングで、居抜き物件や他社店舗を積極的に買収しました。「現状維持は衰退の始まり」 という企業文化が、この攻撃的な意思決定を支えました。
2 つ目は、「低コストかつ高い利益を生み出す運営モデル」 です。
カラオケは装置産業であり、一度部屋を作れば個室利用料はそのまま利益になります。「持ち込み自由」 にすることで、調理スタッフの人件費や食材ロスを削減。受付から会計の無人化レジも導入しています。
その一方で、居場所を求める若者が長時間利用することで、部屋の稼働率を高めました。
3 つ目は 「若者向け商品企画力とコラボレーション力」 。
アニメ、VTuber 、ゲームとのコラボレーション、本人音源の権利交渉など、エンタメ産業との交渉力・企画力は、まねきねこの強みです。年間 50 近いコラボを実現できる体制は、一朝一夕には構築できません。
そして 4 つ目は、「高速のトライ & エラーの文化」 です。
アニメコラボ、メタバース、スポーツ観戦など、当たり外れを気にせず次々と新しい施策を試す仕組みがまねきねこにはあります。このスピード感が、移ろいやすい若者の流行を捉え続ける源泉となります。
[収益モデル] 長期視点でつくられた回収設計
カラオケまねきねの収益モデルで特に象徴的なのが、先行投資としての 「ZERO カラ」 です。
高校生の平均客単価は 500 円前後とほとんど利益は出ませんが、成人後に客単価が 1500 円前後に上がることで回収する設計になっています。
- 高校時代: 室料無料でまねきねこに通う習慣と、楽しい思い出をつくってもらう (投資フェーズ)
- 成人後: 大学生や社会人になり、客単価が 1500 円前後に上がった彼らが戻ってくる (回収フェーズ)
カラオケまねきねこでは、これを 「カムバックサーモン戦略」 と呼ぶそうです。
稚魚を放流し、のちに戻る成魚を待つように、長期的な視野で実入りを考えていく作戦です。高校生の室料ゼロは、成人後の客単価 1500 円を買う先行投資なのです。
カラオケは差別化が難しく、一度慣れ親しんだ店を使い続ける傾向があります。
高校生のうちに 「カラオケまねきねこは自分たちの場所」 だと思ってもらえれば、他店への浮気を防げます。今の売上ではなく、ひとりのお客さんが生涯で落としてくれるお金 (LTV: ライフタイムバリュー) を最大化する設計です。
この長期視点があったからこそ、コロナ禍の赤字も 「未来への種まき」 として耐え抜き、現在の高い利益へとつなげることができたのです。
加えて、店舗数の拡大による規模の経済、稼働率向上による営業利益率改善、エンタメ施策による新たな利用動機の創出が複合的に収益モデルを支えています。
2019 年 8 月期から 2025 年 8 月期にかけて、店舗数は 546 店舗から 728 店舗に増えました。売上高は約 1.9 倍、営業利益は約 2.7 倍になっており、1 店舗あたりの収益が向上しています。これは単なる店舗拡大ではなく、収益モデル全体が機能している証拠です。
5 つの要素が連動した一体感
カラオケまねきねこの成功は、5 つの要素が連動した整合性のあるビジネスモデルになっていることにあります。
注力顧客を若年層と定め、競合を他の暇つぶし場所全般と広く捉え、顧客価値を自由で安価な友人と過ごせる居場所と設定。事業能力として攻め続ける文化と低コスト運営・高稼働率モデルを構築し、収益モデルでは若者の囲い込みから成人後に回収する長期的な設計を採用しています。
ビジネスモデルの 5 つの要素が、まるでパズルのピースのようにカチッとはまり、一貫したストーリーを描いています。だからこそ、競合他社は表面的な安さだけを真似しても、カラオケまねきねこのエコシステム全体を模倣することはできないでしょう。
まとめ
今回は、カラオケまねきねこの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 注力顧客: 顧客は誰か?注力顧客の設定がビジネスモデルの出発点となる
- 競合: 注力顧客が想定する選択肢 (自社以外の候補) 。必ずしも同じカテゴリーとは限らない。その状況で、お客さんが何かを解決したいと思ったその瞬間に、頭に思い浮かぶ全ての選択肢、同じような顧客価値を提供する存在が競合となり得る
- 顧客価値: 注力顧客にどのような独自の価値を提供するか。競合よりも相対的に優位な強み
- 事業能力: 顧客価値をどのようにして提供するか。必要な内部資源 (リソース) とプロセス (オペレーション) を含む
- 収益モデル: 生み出した顧客価値をどのように利益として獲得するか。収益モデルは持続可能性を確保する財務的な論理

