#マーケティング #購買プロセス #消費者心理
SNS を何気なくスクロールしている時、友人の投稿を眺めている時、コンビニで商品棚の前を通りかかった時――。
買うつもりはなかったのに、気づけば商品ページをタップしていた、買いものカゴに入れていた、という経験はないでしょうか。
こうした偶然に見える購買行動の裏側には、実は法則が隠れています。今回は、ボストンコンサルティンググループ (BCG) が提唱する、購買プロセスで働く 3 つの力について見ていきます。
従来のマーケティングモデルが見落としていたもの
マーケティングではこれまで、消費者は 「認知 → 興味 → 検索 → 購入」 という直線的なプロセスをたどると考えられてきました。
テレビ CM を大量に流し商品の認知を獲得し、検索連動型広告で購入に導く。このアプローチの前提は、リーチをし表示回数が多ければ多いほど、影響力も大きくなるというものでした。しかし BCG の調査は、この前提に疑問を投げかけます。
認知から購入までのプロセスも、中身の解像度を上げると、消費者は複雑な行動を取っているものです。
出典: BCG
BCG が指摘したのは、現代の消費者行動がストリーミング、スクローリング、サーチング、ショッピングという重なり合う 4 つの行動に分散しているということでした。
出典: BCG
顧客接点で購入に影響を与える 3 つの要素
そして BCG が提示したのが、消費者や顧客と企業との接点 (メディアなど) において、購入に与える影響を与える人間的な 3 つの要素です。
注目 (Attention)、関連性 (Relevance)、信頼 (Trust) です。
BCG によると、消費者がその瞬間に払う注目の度合い、メッセージや広告などの情報が消費者のニーズに応える関連性の度合い、そして、その情報を誰が伝えている人、企業やブランドに対する消費者の信頼度です。
では、3 つの要素を順番に見ていきましょう。
「注目」 が生まれる瞬間
購買プロセスの始まりは、多くの場合 「回遊」 から始まります。明確な目的を持たず、SNS をスクロールしたり、店内を歩き回ったりする。この一見無駄に見える行動こそが、注目が生まれる土壌を作っています。
■ TikTok での 3 秒の引っかかり何百本もの動画を流し見している中で、ある料理動画の最初の 3 秒で手が止まります。そんな簡単に作れるのという驚きが、無意識のスクロールを止めさせます。これは、無数の情報の中からあなたの 「注目」 を獲得した瞬間です。
■ コンビニの新商品棚での立ち止まり仕事帰りにコンビニに寄り、もともとは飲み物だけを買うつもりでした。しかし、スイーツコーナーを通りかかった時、見たことのないパッケージデザインの商品に目が留まります。鮮やかな色使いや、新発売という文字が、あなたの足を止めさせました。
■ インスタのストーリーズでの指の停止友人のストーリーズを次々と見ている中で、あるインフルエンサーの投稿で思わず指が止まります。彼女が着ているワンピースの雰囲気が、何か気になる。この 「ちょっと待って」 という直感的な反応が、注目の始まりです。
従来のマーケティングでは、どれだけ多くの人に届いたかが重視されてきました。しかし、重要なのは無数の情報の中で 「手を止めさせる力」 「目を向けてもらう力」 です。
ストリーミング、スクローリング、サーチング、ショッピングをしている回遊中の消費者の注目を獲得できなければ、どんなに優れた商品でも存在しないのと同じなのです。
「関連性」 が生む自分ごと化
注目を獲得した後、次に重要になるのが 「関連性」 です。
関連性とは、「この情報は自分に関係がある」 「自分のニーズに応えてくれそうだ」 と感じる感覚です。関連性がなければ、注目はすぐに消え去ってしまいます。
■ まさに今の自分のための商品という発見長時間のデスクワークの後で肩こりを感じた休憩の時に、インスタで流れてきたマッサージ製品の広告。「デスクワークで凝り固まった肩に」 というコピーを見た瞬間、これ、まさに自分のことだと感じます。商品情報が自分の文脈にピタリとハマった瞬間です。
■ コミュニティ内でのあるある共感料理好きのコミュニティで、「みじん切りが面倒すぎる問題」 という投稿を見つけます。わかると共感した直後に目にした、「これを使ったら便利すぎた」 とキッチン用品のシェア。自分と同じ悩みを持つ人の解決策だからこそ、関連性が高いと感じます。
■ ライフステージに合った提案との出会い子育て中の親が、YouTube で育児動画を見ている時に流れる知育玩具の広告。「2 歳児の好奇心を刺激する」 という訴求が、今まさに 2 歳の子どもを持つ自分の状況と一致します。タイミングと内容の両方が、関連性を生み出します。
購買プロセスでは、誰に、どんな文脈で、どのタイミングで情報を届けるかという設計が、関連性を生み出します。
関連性は、消費者が 「これは自分のための情報だ」 と感じる瞬間に生まれます。その感覚は、コミュニティや個人の文脈に深く根ざしたものです。
「信頼」 による購入の最後の一押し
注目を獲得し、関連性を感じても、まだ購入には至りません。最後に必要なのが 「信頼」 です。
信頼は 「この人が言うなら間違いない」 「この情報は信じられる」 という確信を生む力です。
■ 信頼するクリエイターの本音レビューいつも見ている YouTuber が、スポンサーなしで 「これ本当に良かった」 と語る動画。これまでも正直なレビューをしてきた実績があるため、その言葉には重みがあります。企業の広告ではなく、信頼できる人からのおすすめだからこそ、購入を決断できます。
■ 友人のストーリーズでのリアルな使用感親しい友人がストーリーズで新しいスキンケア商品を紹介。「使って 3 日目だけど、マジで肌の調子良い」 という飾らない言葉と、すっぴんでの自撮り写真。広告モデルの完璧な肌ではなく、身近な人のリアルな体験と言葉は信頼できます。
■ コミュニティ内での複数の肯定的な声あるガジェット系のコミュニティで、新しいワイヤレスイヤホンについて複数の人が 「音質良い」 「コスパ最高」 と投稿。一人だけの意見ではなく、信頼できるコミュニティ内で評価が一致していることが、購入への確信を強めます。
信頼は一朝一夕には築けません。だからこそ購買プロセスにおいて、信頼が得られれば強力な購買の後押しとなります。情報が溢れる中で、私たちは 「誰から」 の情報かを重視するようになっています。
マーケティングへの示唆
では、BCG の調査からの示唆を考えてみます。
3 つの力が連動して購買を生む
ここまで見てきた 「注目」 「関連性」 「信頼」 は、それぞれ独立して働くのではなく、連動して購買行動を生み出します。
たとえば、こんな流れを考えてみましょう。
TikTok をなんとなく次々にスクロールしてぼんやり眺めている時、料理好きのインフルエンサーの動画で手が止まります。包丁いらずで野菜が切れるという便利グッズの紹介でした。
そういえば、いちいち野菜を切るのが面倒で料理から遠ざかっていたと、自分の状況とリンクします。コメント欄を見ると、同じように料理好きのフォロワーたちが 「これ使ってる」 「本当に便利」 と盛り上がっている様子。
このインフルエンサーはいつも正直なレビューをする人で、過去に紹介された商品も実際に良かった経験がありました。この人が言うならという安心感と、コミュニティ内での評判の良さが後押しとなり、商品ページへのリンクをタップします。
値段も手頃で商品レビューも良かったのでそのまま購入しました。
後日商品が届き、実際に使ってみると期待以上の便利さ。料理のハードルが下がり、自炊の回数が増えました。この感動を友人に伝えたくなり、ストーリーズで 「これ便利でおすすめ」 とシェアします。
あなたの投稿を見た友人にとって、今度はあなたが 「信頼できる情報源」 となり、新たな購買プロセスが始まります。
インプレッションの 「質」 の重要性
購買プロセスにおける注目・関連性・信頼は、私たちが日常的に経験している人間的な感覚です。
- 何気なく SNS を眺めている時に手が止まる瞬間 (注目)
- これ、まさに自分のための商品だと感じる瞬間 (関連性)
- この人が言うなら信じられると思う瞬間 (信頼)
これらの重要な瞬間となる 「モーメント」 が連動することで、偶然に見える購買行動が生まれているのです。
BCG が示したように、リーチの高さと印象度合いは必ずしも比例しません。
出典: BCG
ここにマーケターに課せられた新たな役割があります。
それは、単に広告でリーチをとり、インプレッション数 (表示回数) を買うのではなく、見せたい相手である注力顧客の 「印象」 をしっかりと残すことです。どれだけ多くの人に届いたかだけではなく、どこまで深く影響を与えたかです
従来の直線的なマーケティングモデルから脱却し、注目・関連性・信頼という 3 つの力を理解することがまずは大事です。消費者にとって価値ある出会いと体験を提供することにもつながります。
マーケターに求められる視点の転換
では、こうしたマーケティングを実践するために、何が必要でしょうか。
BCG による 2,000 人以上のマーケターを対象とした調査では、80% の企業がまだ AI 導入の初期段階にある一方、20% の先進的な AI 採用企業は、同業他社より 60% 高い収益成長を報告しています (参考情報) 。
成功している企業は、直線的な単純な購買プロセスモデルやリーチ第一主義から脱却し、注目・関連性・信頼を最大化する思考へと転換しています。そして、ここに AI を活用することで、個別の消費者の購買経路に合わせたアプローチを実行しています。
具体的には以下のような取り組みが必要です。
- コミュニティ単位で設計する: 注目・関連性・信頼の 3 つの力は、特定のコミュニティや界隈の中でこそ最大限に発揮される
- 偶然の出会いを戦略的に設計する: 回遊中の消費者が、自然な形で商品と遭遇できる機会を増やす工夫が必要
- 文脈に溶け込む情報設計: 一方的な広告ではなく、コミュニティの文化や興味関心に自然に溶け込む形で情報を届ける
- 信頼の連鎖を生む仕掛け: 購入後の満足感を誰かに伝えたくなる仕掛けを入れることにより、信頼の連鎖が生まれる
次の 10 年のマーケティングは、リーチと影響力の複雑な相互関係を習得できる者のものになるでしょう。
まとめ
今回は、BCG が提唱する購買プロセスで働く 3 つの力について見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 従来の 「認知 → 興味 → 検索 → 購入」 という直線的なモデルは崩れ、現代の購買は 「サーチ・ストリーム・ショッピング・スクロール」 が重なり合う非線形なものになっている
- リーチ (表示回数) は注力顧客への影響力を保証しない。重要なのは顧客接点での 「注目 (Attention) 」 「関連性 (Relevance) 」 「信頼 (Trust) 」 の 3 つの要素
- 注目は無数の情報の中で 「手を止めさせる力」 。回遊中の消費者の注目を獲得できなければ、商品は存在しないのと同じ
- 関連性は 「この情報は自分に関係がある」 と感じる感覚。コミュニティや個人の文脈に深く根ざしている
- 信頼は 「この人 (企業) が言うなら間違いない」 、最も強力な購買の後押し。情報が溢れる中で、人は 「誰から」 の情報かを重視する
- マーケターは、インプレッション (表示回数) を稼ぐことよりも、いかに心に残る印象を設計することが求められる


