#マーケティング #利用シーン #市場創造

あの明治がヨーグルトで本気――

今回は、しょうゆをかける禁断の 「豆腐ヨーグルト」 がヒット商品に、という話を取り上げます。

この事例から、新しい市場を創造するためのヒントを紐解いていきます。

明治とうふ感覚ヨーグルト YOFU (ようふ) 

出典: ダイヤモンド・チェーンストア

明治の 「明治とうふ感覚ヨーグルト YOFU (ようふ) 」 は、夕食の一品として食卓に登場することを狙った新商品です。

従来のヨーグルトは乳酸菌の働きによる特有の酸味が特徴で、朝食や間食の需要に応えてきました。

ところが、YOFU は特別な乳酸菌を使用しているため、酸味は抑えられています。ほのかな酸味というレベルで、しょうゆやたれ、だしなどの塩味・うまみにマッチする設計です。

加えて、濃縮した乳原料をふんだんに使って発酵させることで、濃密な食感とまろやかでこくがある味わいに仕上げられています。

明治は、冷ややっこのようにネギやショウガ、しょうゆをかける食べ方を推奨しています。他にも、ゆずおろしポン酢やだししょうゆ、めんつゆ、あるいは塩とオリーブオイルなど、様々な食べ方が想定されています。ヨーグルトでありながら、白ご飯がある食卓で食中におかずとして味わうという新しい提案です。

初速は好調で、2025 年 10 月の販売数は計画比 140% 。最初は四国でのエリア限定発売とし、2026 年秋までの 1 年間のテストを経て、全国展開の可能性を探っています。

利用シーンを開拓しての市場創造

明治 YOFU が示すのは、成熟市場においてどのように成長するかです。

ヨーグルト市場は決して縮小しているわけではありませんが、朝食・間食という用途が固定化され、食卓登場頻度の上限が見えていました。

そこで明治が選んだのが、ヨーグルトが、いつ、どこで食べられるかという利用シーンそのものを問い直すアプローチでした。

この発想は、セオドア・レビットの 「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」 という顧客価値の本質論に通じます。消費者はヨーグルトという商品が欲しいのではなく、ある特定のシーンにおける価値を求めている。YOFU は、その価値提供の食べるシチュエーションを変えることにより、新しい市場を創造しようとしているのです。

未開拓の利用シーンを起点に価値を再定義する

市場には、まだ誰も気づいていない 「空白地帯」 が存在するものです。明治はそのギャップを見逃しませんでした。

夜のシーンへの着目

明治が発見したのは、「ヨーグルトの栄養価 (高たんぱく質・高カルシウム) 」 と 「それが使われていない時間帯 (夜の食卓) 」 という構造的なギャップでした。

この発想は、クレイトン・クリステンセンのジョブ理論における 「無消費との競争」 に該当します。

夜の食卓や夜食において、ヨーグルトは存在すらしていませんでした。つまり、競争相手は他社のヨーグルトではなく、狙った利用シーンにおいて 「何も食べないこと」 あるいは 「豆腐などの既存のおかずの一品」 だったわけです。

義務感から自由への転換

価値の再定義にあたってポイントになったのが、従来のヨーグルトが持っていた 「食べなければならない」 という義務感からの解放でした。

ヨーグルトは健康や腸活のために食べるという消費者文脈は、強い購買動機である一方で、楽しみや喜びとは距離がある動機でもあります。

明治は、調味料と組み合わせる豆腐感覚のように食べられるヨーグルトを提案することで、ヨーグルトを義務的な健康食品から自由に楽しめる食材へと再定義しました。

新しい利用シーンには 「そのシーン専用の価値再設計」 が必要

新しい利用シーンをただ打ち出すだけでは、消費者は手に取ってくれません。「夜の食卓」 に最適化された徹底的な作り込みがあるからこそ、消費者は食べてみようと思ってくれます。

YOFU が示しているのは、利用シーンにいかに適応するかの重要性です。

  • 酸味の大幅低減: しょうゆ・だし・薬味との相性を優先
  • 濃密な食感とコク: 冷ややっこの代替として食べられる質感
  • 栄養価の訴求変更: 豆腐と比べて同等以上の栄養価 (たんぱく質は同等、カルシウム 2 倍以上) 

特に酸味のコントロールがポイントでした。

ヨーグルトのアイデンティティとも言える酸味を抑えることは、一歩間違えればヨーグルトらしさを失ってしまうことにつながりかねません。しかし明治は、利用シーンへの適合を最優先し、特別な乳酸菌の採用という自社の独自技術で解決を図りました。

これは、シーンに合わせて商品と顧客価値を規定していったということです。

同じ商品でも、朝に食べるのと夜に食べるのでは、求められる価値は異なります。明治は、その違いを商品設計のレベルで徹底的に作り込み、YOFU を生み出しました。

新しい顧客にとって 「使いやすさ」 が大事になる

商品コンセプトが良くても、注力顧客の生活動線に馴染まなければ定着しません。

新しい利用シーンで新しい顧客を獲得するには、買おうと思ったり使おうとする時の心理的・物理的なハードルをなるべく下げる必要があります。

タイパ時代の 「手軽に一品」 という使いやすさ

YOFU の 「カップのまま、調味料をかけるだけ」 という設計は戦略的です。

  • タイパ (タイムパフォーマンス) 需要への対応: 調理不要で食卓に出せる
  • 献立の悩み解消: あと一品を 30 秒で完成させられる
  • 失敗リスクの排除: 調理をする技術はいらず、誰でも同じ味わい (価値) を享受できる

YOFU の注力顧客である 「おかず作りに悩む 30 ~ 50 代の主婦」 にとって、YOFU は日々の食卓づくりの負担を軽減する助かる存在です。

新規顧客獲得の 3 点セット

新しい顧客獲得には、次の 3 つが揃っていると効果的です。

  • 利用シーン (夜の食卓) 
  • 使い勝手の良さ (調理不要・即提供可能) 
  • 新しい価値 (手軽なおかず・高栄養)

こうした 3 つが揃って初めて、消費者の行動が変わります。裏を返せば、どれか 1 つが欠けても、既存の生活習慣、例えば夜ごはんの一品を豆腐にする、別のおかずを作るなどを変えることはできないでしょう。

売り場も利用シーンに合わせて再設計する

商品が 「どこで売られているか」 で、消費者が抱く使い方のイメージに影響します。

ヨーグルトである YOFU をスーパーやドラッグストアの 「豆腐売り場に置く」 という大胆な選択は、理にかなった戦略でした。

ヨーグルト売り場に置かれた YOFU は 「変わったヨーグルト」 ですが、豆腐売り場に置かれた YOFU は 「豆腐の代替品」 「新しいおかずの選択肢」 として来店客の目に映ります。

明治は、豆腐売り場は他の食品カテゴリーに比べて新商品が少なく、変化があまりないという洞察も重要でした。

  • 競争環境の選択: 激戦のヨーグルト売り場より、変化が少ない豆腐売り場のほうが目立つ
  • 売り場活性化への貢献: ひとつの商品が売れるのではなく、カテゴリーや周辺カテゴリーにも波及するという小売の課題に貢献するという提案で、棚を確保
  • 利用シーンの想起: 豆腐売り場にあることで、YOFU は 「夜のおかず」 という文脈が自然に伝わる

売り場の配置が、消費者の頭の中での商品の位置づけを決めます。

学びの一言

明治は 「美味しいヨーグルトを作りました」 ではなく、「夜の献立に悩み、栄養バランスを気にするあなたのための、手間なしの一品を作りました」 という提案を行いました。

たとえ成熟市場であっても、利用シーン (文脈) と顧客価値をセットで再定義すれば、未顧客 (ノンユーザー) を振り向かせ、新しい市場を創造できるということです。これが、YOFU から得られる学びです。

まとめ

今回は、「明治とうふ感覚ヨーグルト YOFU (ようふ) 」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 商品の価値と使われ方のギャップを見つけることが、新しい市場創造の起点になる。ギャップの発見には 「無消費 (まだ使われていないシーン) 」 に着目するといい
  • 新しいシーンには、既存商品をそのまま持ち込まず、そのシーン専用に徹底的に作り込んだ価値設計が必要
  • 新規顧客の獲得には、① 利用シーンの提示、② そのシーンでの使いやすさ、③ 新しい価値・うれしさの 3 点セットが重要
  • 売り場の配置が、顧客の頭の中での商品の位置づけに影響を与える。売り場は商品の 「使い方」 や 「役割」 を無言で語るメディアの役割を果たす