#マーケティング #戦略 #BtoB
今回は BtoB (法人向けビジネス) の話です。その中でもメルマガを使ったコミュニケーションを取り上げます。
BtoB のメールマーケティングでは、配信を増やすほど見込み客との接点は増えます。その一方で、送りすぎれば配信停止が増えてしまい、将来使える顧客リストを自ら減らしかねません。
ユーソナーは、年間の配信施策数を 23% 増やしながら、平均配信停止率を約 3 割下げました。配信先の決め方や KPI の設定、成果を生んだ工夫があります。
今回はユーソナーの事例から、実務で使える戦略の判断軸を考えます。
ユーソナーの BtoB メールマーケティング
ユーソナーは、国内最大規模の法人データベース 「LBC」 (LBC: Linkage Business Code) を提供する会社です。1,250 万拠点の企業情報を持ち、BtoB マーケティングの企業情報データベースとして多くの企業に使われています。
そんなユーソナー自身が、自社のメールマーケティングでどんな成果を出したのか、具体的に見ていきましょう (参考情報) 。
攻めながら守った数字
ユーソナーが公開した数字はシンプルです。
年間の配信施策数は前年比 123% に増えました。それでいて配信停止率は前年比 70.3% 、つまり約 3 割減っています。さらに、一時的に上がっていたチャーンレート (解約率) は 2025 年 12 月末時点で過去最低の 0.21% まで改善しました。
背景にあったジレンマ
一般的にメールマーケティングには、リードという見込み顧客を新しく獲得しても、メールを送るほど既存のリストから人が抜けていくという問題があります。
ユーソナーは、その構造を 5 万件の見込み顧客リストを持つ企業を例に説明しています。毎月 1,200 件の新規リードを獲得し、月 10 回メールを配信するというケースです。
仮に 1 回の配信停止率が 0.2% なら、5 万件への配信で約 100 件が配信停止になります。月 10 回なら単純計算で約 1,000 件です。
せっかく月 1,200 件の新規リードを獲得しても、その大部分が配信停止によって相殺されます。新規リードの獲得コストには目が向きやすい一方で、メール配信によって失うリストの価値は見落とされやすいわけです。
戦略の本質は 「やらないこと」 にある
ここであらためて、戦略とは何かを整理しておきましょう。
戦略とは、目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。もう少しビジネス的に言えば、目的達成のためのリソース配分の方針です。リソースとは人・物・金のことで、個人で言えば時間やエネルギーです。
ここで重要なのは、戦略の肝が 「やらないこと」 にあるという点です。何をやらないかが明確だからこそ、残ったやることにリソースを集中できます。戦略をつくるのは 「やらないこと」 を明確にするため、と言ってもいいくらいです。
戦略として 「あれもこれも」 と考えうる全てに手を出すのは、戦略的ではありません。戦略の要諦は、意志を持って何を捨てるかにあります。
戦略は 「あれもこれも」 ではなく 「あれかこれか」 です。A or B という選択をする。算数で言えば、足し算ではなく引き算をする発想です。
この視点でユーソナーの事例を見直すと、成果の構造が見えてきます。
ユーソナーに見る 「3 つのやらないこと」
ユーソナーが決めた 「やらないこと」 は、大きく 3 つあります。セグメント設計、目標数値の追い方、そして成果の定義です。それぞれで引き算をしています。
「送りたい人を選ぶ」 をやらない
引き算の 1 つ目は、顧客セグメントの発想転換です。ここがユーソナーの事例でおもしろいところです。
通常の顧客セグメント設計は、届けたい相手を絞り込むところから始まります。製造業の営業部長向けにセミナーを開くなら、売上規模や業績、役職で条件を絞るでしょう。ところが厳密に絞りすぎると、母数という人数規模が足りず集客できません。
ユーソナーが取ったのは逆の発想でした。送りたい人を選ぶのではなく、送りたくない人を除くというものです。足し算で条件を積み上げるのではなく、引き算で対象外を決めるわけです。
ただし、やみくもに絞るのではなく、製造業の営業向けセミナーでも、マーケティング部門や経営企画、卸売業からの参加ニーズがあれば歓迎します。そのかわり、明らかに無関係な経理部門や病院などは配信先から外します。
資産を傷つけてまでの短期成果を取らない
2 つ目の戦略の要素は、短期成果と資産毀損のトレードオフに対する向き合い方です。
よくありがちなパターンは、セミナーに 50 人集めるという目標が上から降ってきたとき、配信先を広げることです。母数を増やせば、申込数は確保できます。
ところがその背後で、300 件の配信停止が起きているとしたらどうでしょうか。見かけ上は目標の数字を達成していても、顧客リストは 300 件ぶん傷んでいます。今月の申込数を取るために、来月以降ずっと効いてくる資産を削っているという皮肉な構図です。
ユーソナーは、このトレードオフに明確な判断をしています。資産を傷つけてまで短期の数字は取らないという姿勢です。この判断軸があるから、配信先を安易に広げないという選択ができます。
リード数が増えても、受注や継続を毀損するならやらない
3 つ目のポイントは、そもそも何を成果と呼ぶかの定義です。
今回の事例では 「マーケティング部門の指標」 と 「経営の指標」 という 2 つの視点がありました。前者はリード数 (見込み顧客の件数) や申込数、後者は売上や ARR (年間経常収益 (Annual Recurring Revenue) ) 、そして解約率です。
ユーソナーの経営層が見ているのは、後者の経営指標です。ただしマーケティング部門の指標を否定しているわけではありません。
リード数も申込数も必要であり、営業からも求められている指標です。ただ、それらが経営指標とつながっていることが重要です。見込み客のリード数が増えても、その先で受注率や継続率を毀損しているならやらない、という話です。マーケティング部門の数字だけで完結する施策は、経営から見れば成果とは呼べません。
引き算の戦略が生んだ成果
3 つの 「やらないこと」 を決めた結果、ユーソナーは守りと攻めの両方で成果を出しています。
守りの成果 - 配信停止率 3 割減
配信施策数は前年比 123% になったにもかかわらず、平均配信停止率は前年比 70.3% まで下がりました。
ポイントは、送らない人を決めたからリストが守られたという順序です。送らない相手を明確に決め、配信対象から除くという引き算の設計が、顧客リストの毀損を防ぎます。
攻めの成果 - 守ったリストが攻めを成立させた
守りの成果は、攻めの成果につながります。
顧客リストが傷んでいないということは、メールでアプローチできる人がしっかりと残っているということです。配信停止を減らすことで、マーケティング資産である顧客リストを守れます。
守った顧客リストを使い、ユーソナーは 「グループ攻略」 という施策を走らせています。グループ攻略とは、資本関係や本支店関係を使って、1 社をフックにグループ内に提案を広げるやり方です。
通常のメール配信でのアポ獲得率は 1% 以下ですが、ユーソナーは平均 2.08% 、最大で 7.57% を記録しました。引き算で守った土台があるから、施策が刺さります。
戦略的なマーケティングとは何か
ユーソナーの事例から、戦略的なマーケティングとは何かを考えます。
やることの前に、やらないことを決める
戦略的なマーケティングは、施策の豊富さでは決まりません。捨てる意志の強さで決まります。
いきなり 「何をやるか」 から考えると、施策は無限に広がります。SNS もやる、ウェビナーもやる、メールも送る、広告も出す。足し算で積み上げていくと、リソースは分散し、どれも中途半端になってしまうでしょう。
一方で 「何をやらないか」 から考えると、限られたリソースの投下先がシャープになります。ユーソナーは 「送らない」 「資産を削ってまで稼がない」 「経営指標とつながらない成果は追わない」 というのをやらないこととして決めました。やらないことが明確になったからこそ、やるべきことにリソースを集中できます。
守るものを決めることが、攻める力になる
戦略とは、施策をあれもこれもと増やすことではありません。資産を傷つける行為をやめることは、立派な戦略です。
マーケティングの現場では、攻めの施策は目立ちますが、攻めすぎて資産が削れていく状況は見えにくいものです。
ユーソナーはそこに気づき、顧客リストの価値を下げる活動をやめました。守るものを決めたから、攻める力が発揮できます。引き算は攻めを成立させるための土台であり、戦略そのものなのです。
まとめ
ユーソナーの BtoB メールマーケティングの事例を取り上げ、学べることを見てきました。
学びのポイントをまとめておきます。
- 戦略の肝は 「やること」 ではなく 「やらないこと」 にある。意志を持って捨てるから、残ったものにリソースを集中できる
- 引き算の発想は、セグメント設計から成果の定義まで、あらゆるレイヤーで効く
- 守るものを決めることが、攻める力につながる