#ジョブ理論 #イノベーション #AI

日本では昭和後期から平成初期、テレクラ、伝言ダイヤル、ダイヤル Q2 といった電話を使ったサービスが広がっていました。

令和の今ではもう見かけませんが、当時の人々が本当に求めていたものに目を向けると、現在のマッチングアプリや SNS、デジタルコンテンツとのつながりが見えてきます。

今回は、電話からネット、そして AI へとサービスがどう移り変わってきたのかを変遷をたどります。そこから、未来について考えてみます。

電話一本で、出会い、つながり、楽しんでいたアナログ時代

日本では昭和後期から平成初期にかけて、電話を使ったサービスが次々と登場しました。

代表的なものが、テレクラ、伝言ダイヤル、ダイヤル Q2 です。今のスマホ世代には名前すら馴染みがないかもしれませんが、昭和から平成の当時は電話が人と人、人と情報をつなぐインフラでした。

テレクラは「テレフォンクラブ」の略です。男性が店舗の個室で電話を待ち、女性が店の外から電話をかけ、つながった相手と会話する仕組みでした。原始的ないわゆる「出会い系」です。1 号店は 1985 年に新宿・歌舞伎町にできたとされています。

その後に広がったツーショットダイヤルでは、店舗へ行かなくても、自宅などから電話をかけて知らない相手と 1 対 1 で話せるようになりました。テレクラで生まれた「知らない人と電話で出会う」という体験が、店舗の外へ広がった形です。

「伝言ダイヤル」は 1986 年に NTT が始めたサービスです。音声を録音し、別の人が後から聞けるため、同じ時間に電話口にいる必要がありませんでした。知らない相手に向けてメッセージを残し、反応を待つ使われ方も広がりました。

「ダイヤル Q2」は 1989 年に NTT が始めた情報料回収代行サービスです。0990 から始まる番号に電話すると、有料の情報や番組を利用でき、その料金を電話料金と一緒に支払えました。占い、情報提供、娯楽など幅広いコンテンツに使われました。

3 つを大きく分けると、次のようになります。

  • テレクラ・ツーショットダイヤル: 普段は接点のない相手と出会える
  • 伝言ダイヤル: 自分の都合のよい時間に誰かとつながれる
  • ダイヤル Q2: 欲しい情報やエンタメを、その場で利用して楽しめる (料金の支払いが簡単に済む) 

電話からネットへ。変わったのはサービスの形だった

人が求める「ジョブ」から見ると、昔と今がつながる

テレクラの利用者が求めていたのは、テレクラを使うこと自体ではありません。普段は接点のない相手と出会い、会話をし、気が合えば関係をつくることでした。

伝言ダイヤルなら誰かとつながること、ダイヤル Q2 なら欲しい情報や娯楽をその場で利用することが目的です。

ここで役に立つのが「ジョブ」という考え方です。ジョブとは、ある状況で人が成し遂げたい進歩を指します。

たとえば「出会いたい」という気持ちをもう少し具体的にすると、「普段の生活では接点のない相手と知り合い、自分に合う人との関係をつくる」という進歩が見えてきます。人は、その進歩を遂げるために商品を雇います。

ジョブを遂行するために雇われる商品やサービスを、ここでは「ワーカー」と呼びます。

ネットは、同じジョブをもっと手軽に、速く、効率よく遂行した

インターネットとスマホの普及によって、3 つの系統には新しいワーカーが登場しました。

  • 出会いたい: マッチングアプリ
  • つながりたい: SNS、掲示板、オンラインコミュニティ
  • 情報・娯楽を楽しみたい: 動画・音楽配信、ゲーム、ニュース、各種サブスクリプション

テレクラでは店舗まで行き、いつ電話が鳴るかわからない状態で待つ必要がありました。それがマッチングアプリなら、自宅からプロフィールや写真、趣味などを見ながら相手を探せます。

伝言ダイヤルでは音声を順番に聞く必要がありました。SNS なら検索やおすすめから興味の近い人を探し、投稿への反応や DM から関係を深められます。

ダイヤル Q2 では電話と音声が中心でした。今は映像、音楽、ゲーム、文章などをスマホから好きな時間に利用でき、決済まで端末の中で完結します。

アナログからデジタルへの移行では、時間、場所、探索、決済などの制約が減り、同じジョブをより手軽に、速く、効率よく遂行できるようになりました。

AI は「最適なものを探す」から「最適なものをつくる」へ

では、次に AI がワーカーとして入ってくると何が起こるのでしょうか?

ここには、現在のデジタルサービスを高度化する変化と、サービスの前提を変えるような非連続な変化の 2 段階がありそうです。

AI で最適なものを探す

まず起こるのは、今ある選択肢から自分に合うものを探す精度が上がることです。

出会いなら、プロフィールや好み、会話などから相性のよい相手を AI が探す。つながりなら、自分の関心や置かれている状況に合う人やコミュニティを見つける。コンテンツなら、その時の気分や目的に合う作品を選ぶ、といった使い方です。

現在もレコメンドの仕組みは広く使われていますが、AI が個人の文脈を深く理解できるようになれば、「選択肢を並べる」から「今の自分に合う候補を絞り込む」方向へさらに進むでしょう。

この段階では、マッチングアプリ、SNS、動画配信など現在のワーカーが残っていて、AI はその裏側に入り、探す手間や選ぶ負担を減らします。

AI が最適なものをつくる

AI の可能性をもう一歩広げると、既存の選択肢から探す必要さえなくなる世界が見えてきます。

「出会える」や「つながれる」というジョブなら、AI が自分に合う人間を探すだけでなく、過去の会話や関心を覚え、自分のことを理解した話し相手や相談相手として、AI 自体がつながる相手にもなり得ます。AI 彼女や AI 彼氏のように、AI 自体が関係を築く相手になる世界です。

「情報・エンタメを楽しむ」というジョブでは、変化がさらに想像しやすいでしょう。何万本もの動画から作品を選ぶ代わりに、「今の気分に合う 30 分の物語」「自分の知識に合わせた学習コンテンツ」「自分の選択で展開が変わるゲーム」を、その場で生成できます。

ワーカーとしての AI は、既存サービスの効率を上げる役割から、ジョブを遂行する相手や体験まで生成する役割へ広がっていくでしょう。

未来を見るなら、変わらない「ジョブ」と変わる「ワーカー」を分けて考える

AI による未来を考えるとき、今ある商品やサービスに AI 機能を追加する発想から始めると、現在の延長線上で未来像を描くことになります。

一方、非連続な未来を考えるには、次のような順番からジョブ視点で問いを立てるといいです。

  1. 顧客は、その状況でどんな進歩を成し遂げたいのか
  2. そのジョブを遂行するために、今は何をワーカーとして雇っているのか
  3. 今のワーカーでは、どんな不便や妥協、未充足ニーズが残っているのか
  4. AI がゼロからこのジョブを担うなら、どんなワーカーになり得るのか

最後の問いでは、AI に「今のサービスをどう便利にするか」と訊くより、「今あるワーカーを前提にしなければ、このジョブをどう遂行できるか」と考えるほうが発想を広げやすくなります。

テレクラを前提にしていたら、現在のマッチングアプリは描きにくかったでしょう。同じように、今あるマッチングアプリ、SNS、動画配信を固定したまま未来を描くと、AI の可能性もその延長に収まりやすくなります。

未来のサービスを考えるときは、まず人がどんなジョブを遂行したいのかを捉えます。そこから、そのジョブを担うワーカーが AI によってどう変わり得るかを考えると、今のサービスの形に縛られずに発想できます。

まとめ

  • 昭和後期 ~ 平成初期には、テレクラ・伝言ダイヤル・ダイヤル Q2 が、「出会う」「つながる」「情報やエンタメを楽しむ」ための手段として使われていた
  • ネットとスマホは、同じジョブをより手軽に、速く、効率よく遂行できるワーカーへとサービスを進化させた
  • AI は最適な相手や情報を探すことを効率化し、その先では AI パートナーや個人向けコンテンツなど、ジョブを遂行する相手や体験までつくる可能性がある
  • AI 時代の未来を考えるときは、顧客のジョブと現在のワーカーを分け、「AI がゼロから担うならどうなるか」と問い直すことで、今の延長線上にはない非連続な未来を発想しやすくなる

ジョブは変わらない。変わるのはワーカーのほうです。