投稿日 2013/01/20

やりたいか、やりたくないか:財政破綻をした夕張市長を目指すという決断




火中の栗をひろう。このことわざは、他人の利益のために危険をおかすことの例えとして用いられます。


四面楚歌での決断


当時、東京都職員を自ら退職し、人生においてある決断をした1人の若者はまさにこんな覚悟だっだと思います。

その決断とは、事実上の財政破綻をし財政再生団体となった夕張市の市長を目指すというものでした。都職員の退職金はゼロ、仮に市長に当選したとしても年収は安定していた東京都職員の時よりも200万も下がる見込みでした。

夕張市長にそもそも当選するかどうかもわからない状況でした。選挙に勝つのに必要と言われる三バン、① 地盤:地元有力者とのつながり、② 看板:知名度、③ 鞄 (お金) を持ち合わせていませんでした。選挙に落ちれば無職です。
投稿日 2013/01/19

シェール革命から考える人類とエネルギー

変化の激しい世の中です。画期的な技術や仕組みで○○革命と呼ばれることも多いですよね。いろんな革命と表現される中で、個人的に注目しているのが「シェール革命」です。

■シェール革命とは

まずは、そもそものシェール革命とは何かについて。エネルギーの世界の話で、シェールにはシェールガスとシェールオイルの2つがあります。地下深くにあるシェール(頁岩)の隙間に存在する天然ガスがシェールガス、石油がシェールオイルのことです。

何が画期的なのかと言うと、シェール層の岩盤を破砕しガスや石油を取り出す技術がアメリカで開発されたことで、採掘不可能とされた大量の天然ガスや石油が現実的なコストで新たに採掘できるようになったことです。

世界の約4割のシェールガスはアメリカにあるとされており、アメリカはシェールガスの取り出しについて独占的な知財権で固め、発掘から精製までの全ての工法を確立しています。現在はアメリカは石油も天然ガスも輸入国ですが、石油は2030年代に、天然ガスは10年代後半~20年代には輸出国になると言われています。

■シェール革命の影響

シェール革命に注目している理由は、一言で言えば世界のパワーバランスを変える可能性を持っているからです。

最も大きな変化はアメリカの中東産油国依存が下がること。これにより、アメリカの世界戦略に変化が起こります。歴史的にアメリカは中東には多大なコストをかけて安定化を図ってきました。例えばサウジアラビアが典型で、現在のサウジはアメリカの支援を受けたサウード(サウド)家が建国した絶対王政国家です。支援する理由は石油というアメリカの自国の利益を確保するため。

ところが、シェール革命により自国で天然ガスや石油エネルギーがまかなえるとなると、中東に依存する必要はなくなります。これまでアメリカは「世界の警察官」として指導的な役割を担ってきました。その背景の1つにあったのがエネルギー戦略。米国の中東の戦略的な位置づけが変わる影響は大きいと思います。

産油国である中東諸国にしてみると、最大の顧客であったアメリカが離れていってしまうことになります。結果、原油の輸出先は中国などにシフトします。そうなると、中東諸国への中国の影響が大きくなり、原油を運ぶコースであるシーレーンの防衛にも中国は力をより入れるようになっていく。

シェール革命の影響はロシアにも及びます。ロシアは今までは豊富な天然ガスを輸出することで経済を支えていましたが、アメリカのシェールガスによりロシアの優位性はなくなってしまう。豊富な資源を経済成長の原動力にしてきたロシアは危機感を募らせているのです。

■現代社会とエネルギー

今回のシェール革命の話であらためて思うのが、エネルギーの重要性だったり影響の大きさです。エネルギーって、普段の私たちにとっては空気のようなあって当たり前の存在です。スイッチを入れれば電気はつくし、元栓をひねればガスが出てくる。ガソリンで動く自動車が走り、電気で走る電車で移動も簡単にできます。

現代人の生活はあらゆるモノに囲まれています。食品、衣服、家・建築物、紙、ガラス、化学・薬品、道路・鉄道、車・船舶などのありとあらゆるもの。これらの生産や輸送のために膨大なエネルギーが使われています。日本の場合、モノの生産に全エネルギー消費の約半分が、輸送や配送も含めると全エネルギー消費の3分の2だそうです。参考:書籍「エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う」(石井彰 NHK出版新書)

現代文明の特徴として、①都市部への人口集中と、②それを支える高度に組織化された社会システムです。都市部に人口が集中するので、人々に必要な食料を都市部だけでつくりまかなうことはほぼ不可能です。そこで、都市の外部で食料が生産され日々運ばれてくる。生活に必要な資源供給も同様です。上下水道や道路網など私たちが当たり前に使っている社会システムを維持するためにもエネルギーが使われます。

都市部への人口集中とそれを可能にするこうした高度な社会システムを支えているのがエネルギーです。私たちの生活は大量のエネルギーを消費することが前提で成り立っています。安くて安定した大量のエネルギー供給がなければ、私たちの暮らしは一日たりとも維持できないくらいエネルギーに依存しているのです。

■人類とエネルギー

人間も含め動物は、1つの個体が1個体分のエネルギーを獲得/維持することができて、初めてその動物は長期での生存が可能になります。「必要エネルギー=獲得エネルギー」と均等になっている状態。もし「必要エネルギー>獲得エネルギー」という不足が続けば個体数が減りやがては絶滅、「必要エネルギー<獲得エネルギー」の余裕があれば個体数は増加します。

人類の歴史を振り返ると、狩猟⇒定住農耕の変化によって、1人当たり食料エネルギー生産が向上しました。それまでの狩猟生活では1人あたり1人分の食料エネルギー獲得だったために長らく人口は定常状態にあったのが、農業が導入され安定的に食料が獲得でき、1人で1人分以上の食料が得られるようになったのです。

これは何を意味するかと言うと、全員が農業をやらなくても人類は生きていけるようになったということ。農業に従事しない余剰人口が生まれたのです。支配者はこの余った労働力を活かし、例えばピラミッドとかの建設に当てたり灌漑などの土木工事に活かすようになります。

その後の産業革命によりこの流れは加速しました。より効率のよい石炭というエネルギーが大量に使えるようになり、余剰人口がますます増え、それが新たな財やサービスを生むという好循環。これが世界規模で起こった結果、現代の高度な文明に発展したのです。土台となっているのが、エネルギーの大量消費化と効率利用の追及です。

人類の発展は、エネルギーの大量消費化と効率利用の追及の歴史でもあります。

エネルギーの大量消費化について。人類史において、文明化の段階は大きくは農業開始、産業革命、現在の情報革命です(このあたりの話は「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」という本がおもしろかったです)。エネルギー消費で見ると、農業社会に比べ産業革命により3~4倍に増加、さらに産業革命開始時と現在では、エネルギー消費は40倍に増えているのだそうです。(もちろん、この間に人口も増えているので当然社会全体でのエネルギー消費は増えるわけですが、一人当たりエネルギー消費で見ても4倍と増加している)

エネルギーの高効率化について。産業革命前はエネルギー源の主流は薪炭でした。産業革命で石炭が使われるようになり、その後はより効率のよい石油にエネルギー源に移り変わります。エネルギーの効率さを比較するために使われる「エネルギー算出/投入比率」という指標(1単位のエネルギーを取り出すのに何単位のエネルギーが必要になるかという比率)。産業革命以前の主流エネルギー源だった薪炭ではこの比率が2~3倍だったものが、石炭で40~50倍まで効率がよくなりました。石油では中東などの巨大油田ではなんと100~200倍ともなるようです。

参考:書籍「エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う」(石井彰 NHK出版新書)



人類はエネルギーをうまく利用することで、多様な食料の安定確保、衛生状態の劇的な改善、衣料や暖房による生活レベルの向上、医療技術/制度の発展、等々で、乳幼児の死亡比率低下、長寿化が実現され、産業革命以降で人口は爆発的に増えました。


 出典:国連人口基金東京事務所・改
 図引用:DIPROニュース

★  ★  ★

シェール革命は、100年や200年に1回あるかないかの革命とも言われています。あれだけグリーンニューディールを叫んでいたオバマ大統領。ここ最近あまり聞かなくなったのはシェールガス/オイルが背景にあります。

シェール革命はアメリカ発の出来事ですが、エネルギーの話は世界中でつながっているのでグローバルで影響します。中東、中国/ロシアなどの新興国、アフリカ諸国、ヨーロッパ、もちろん、エネルギーの大半を輸入に頼っている日本も例外ではありません。

日本では「エネルギー問題=原発をどうするか」にフォーカスされがちです。本来は、エネルギー源の組み合わせの見直し、供給源の安定確保、二酸化炭素削減の環境問題としての側面、発送電のネットワークをどうするか、などの視点に加え、世界ではどんなエネルギー潮流が起こっているかも注目しておきたいと思っています。


※参考情報

シェールガス|Wikipedia
2013年、シェールガス革命で世界は激変する|東洋経済オンライン
エネルギー大変革 ~岐路に立つ日本の資源戦略~|NHKクローズアップ現代
シェール革命とはいうけれど|Newsweek斜め読み(池上彰)
米政府、天然ガス純輸出国となる予想時期を前倒しへ=EIA高官|ロイター




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投稿日 2013/01/13

注目しているGoogle Nowから考えるGoogleの描く未来

グーグルが提供するサービスで注目しているのがGoogle Nowです。

■Google Nowの特徴

Google Now(グーグルナウ)とはパーソナルアシスタント機能で、スマホなどの端末内のユーザー情報をもとに、そのユーザーが今必要であろう情報を提示してくれます。端末内のカレンダー情報、天気や交通状況、ユーザーのウェブ履歴などの複数のデータを連携/統合することで実現しています。

イメージとしては、カレンダーに目的地も含めて予定を登録しておくと、現在地と目的地への所要時間が提示され、駅や空港に着くと、現在時刻から次の便の出発時刻などを知らせてくれます。ユーザー自らが検索するのではなく、グーグルナウがユーザーにその時に必要な情報を提示するのが特徴です。

Introducing Google Now|YouTube


ちなみに、Google Nowの紹介ページには「Google Nowは必要な情報を必要なときに提供します」(Google Now gets you just the right information at just the right time.)と書かれています。なお、Google Nowが使えるのはAndroid 4.1以降の端末です。

冒頭で「Google Nowに注目している」と書きましたが、その理由はGoogle Nowはこれまでのグーグル提要サービスに比べて、一歩踏み込んだものだと思うからです。

比較として検索サービスとGoogle Nowを考えると、検索サービスは受け身なスタンスであるのに対し、Google Nowは能動的な性格を持っています。ユーザーがグーグルで何かを検索する際には、まず始めに検索キーワードを入れて、その後にグーグルが検索結果を返します。一方、Google Nowの特徴はユーザーがこれから必要であろう情報をGoogle Nowが判断し、ユーザーが聞かずとも知らせてくれるということ。

検索は欲しい答え(知りたい情報)をユーザーがすでに想定しているのに対し、Google Nowはユーザーが欲しいであろう情報を先回りして提示するのです。例えるならば、
  • 検索は、ユーザーが「こんな色でこれくらいの大きさの花を見つけてきて」と頼み、それに一番近い花を森の中から探し出す
  • Google Nowは、頼まれる前にユーザーの好みに応じて、「あなたが今欲しい花はこれだよね」という感じでGoogle Now自らの判断で森の中から探してきてくれる
というイメージ。

■Googleとユーザーの関係

この例えにもあるように、ポイントは「ユーザーの好みに応じて」の部分。Google Nowは、ユーザーのことをカレンダー情報、現在地や目的地、天気予報などのデバイスにあるいろんなから判断しています。

グーグルの強みはユーザーデータを広範囲に大量に集めていて、それを活用していることにあると思っています。イメージはこんな感じ↓


  • グーグル提供サービスを、ユーザーが利用すればするほど便利になる
  • グーグルも集まってくるユーザー利用情報を、①提供サービスのさらなる改善、②収益の柱である広告に活用する
ことで、ユーザーとグーグルの間で良い循環ができているのです。ここはグーグルの本質的な部分だと思っています。

で、これまではユーザー情報の収集は、どんな検索をしたか、どのウェブページを閲覧したか、Gmail、等々で、オンラインを中心にした情報でした。それに対してGogole Nowはスマホやタブレットに付いている機能なので、ユーザー情報取得範囲はオフラインにも広がります。モバイルの利用データを使える意味は大きいんですよね。

■Googleのさらなる挑戦

「そうそう、今欲しいのはこの情報なんだよね」。必要な情報をユーザーが検索しなくても、スマホがその時その時で欲しい情報を提供してくれる。

Androidを持っていないのでGoogle Nowを日常で体験したことはありませんが、自分の欲しい情報を言わなくても見せてくれるようになれば便利な機能だと思います。Google Nowというパーソナルアシスト機能が、自分にとってなくてはならないものになるかもしれません。

グーグルの狙いはまさにここで、ユーザーがどれだけグーグル提供サービスに「依存」してくれるか。依存すればするほど、それだけユーザーはグーグルを使うことになり、ユーザーデータも集まってきます。それをグーグルは広告という収益に変えることができる。グーグルの強固なビジネスモデルです。

PCをベースにしたオンラインの世界で、このモデルを築けたからこそ今のグーグルがあるわけですが、今後はこのモデルをスマホなどのモバイルや、ネットの外側のオフラインの領域でも構築できるのか。グーグルの未来を構成するカギの1つがGoogle Now。それと、グーグルが開発中のウェアラブルコンピューターの1つであるGoogle Glassです。

Google Glassも個人的にかなり注目しているプロダクトで、グーグルが描く未来の1つのカタチだと思っています。以下のYouTubeにあるイメージが実現される日もそう遠くないかもしれないですね。

Project Glass: One day...|YouTube



※参考情報

Google Now
Introducing Google Now|YouTube
Google Now - Boarding pass card|YouTube
Google、Android のGoogle Now をChromeブラウザに組み込みへ|engadget 日本版
Project Glass: One day...|YouTube


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。