#マーケティング #愛 #本
毎日を忙しく過ごす中で、本当に大切なものを見失っていないでしょうか?
大切な人とのつながり、日々の食事といった当たり前のことの大事さは、つい忘れがちになります。
2025年の本屋大賞受賞作 「カフネ (阿部暁子) 」 は、喪失を抱えた二人の女性が 「食」 によって心を通わせ、再び生きる力を取り戻す 「愛」 の物語です。
この小説は 「食べることは生きること」 というメッセージを通して、私たちに本当に大切にすべきものを問いかけます。
本書の概要
物語は、最愛の弟を亡くした主人公・野宮薫子と、弟の元恋人・小野寺せつなという、本来なら関わることのなかったかもしれない二人の女性を中心に展開します。
薫子とせつなが、家事代行サービス 「カフネ」 での活動と 「食」 を通じて、悲しみの中から新たな関係性を築き、再生していく姿を描きます。
本のタイトルにもなっている 「カフネ」 とは、ポルトガル語で 「愛する人の髪にそっと指を通す仕草」 を意味する言葉です。作中では、せつなが所属する家事代行サービス会社 「カフネ」 の名前としても登場し、物語全体のテーマを象徴します。
物語の構成は、家事代行サービスのカフネが様々な事情を抱える家庭を訪れるエピソードで一話完結のような要素を含みつつ、薫子の弟の春彦の死に残された謎、そして薫子とせつなの関係性が徐々に変わっていくという物語の中心となる軸が、巧みに織り交ぜられる形で進行していきます。
本書のキャッチコピーである 「一緒に生きよう。 あなたがいると、きっとおいしい。」 、また、紹介文にある 「やさしくも、せつない。 この物語は、心にそっと寄り添っている。」 という言葉が示す通り、喪失という重いテーマと向き合いながらも、人と人とのつながりの温かさや希望を感じさせてくれる作品です。
小説 「カフネ」 は2025年の本屋大賞を受賞した作品です。
多くの読者の心をつかみ、本屋大賞という栄誉に輝いたのは、喪失、孤独、社会的なプレッシャーといった現代を生きる多くの人々が共感しやすい苦悩を描きながらも、最終的には希望、人とのつながり、心の癒し、そして愛といった普遍的なことを中心テーマにしているからでしょう。
テーマと学べること
では、小説 「カフネ」 のテーマや、読んで学べたことをいくつかご紹介します。
「食べることは生きること」
カフネでは 「食」 が物語の中で重要なテーマとして描かれます。
食事は身体に必要な栄養を摂り、コミュニケーションを円滑にする手段、相手へのケアを表現する方法であり、心を慰めるもの、そして人と人とを結びつける絆そのものとしても大切な役割を果たします。
小説での食への豊かな描写は、「食べることは生きること」 という本書の根幹をなすメッセージを体現します。
また、「誰かのために食事を用意することが『好きだよ』って伝えること」 という描写は、食を通じた愛情表現の深さや温かさを示します。
主人公の薫子や、家事代行サービス 「カフネ」 の依頼者たちが、心身のバランスを崩した状態から、再び温かく栄養のある適切な食事を取り戻していく過程は、生きる力を回復していく様子を丁寧に描きます。
寄り添うことの意味。ケア、支援、共感の形
小説での物語は、様々な形のケアを描き出します。
自暴自棄になっていた主人公の薫子へのサポート、カフネ依頼者へのせつなや薫子による料理や掃除といった日常生活へのケア、家事代行のカフネというサービス自体が持つ社会的な支援機能です。
食事や清潔な部屋の住居空間といった基本的な望みを満たすことが、いかに人間の尊厳と精神的な安定に不可欠であるかに気づかされます。
ケアや支援では細やかな配慮が丁寧に描かれ、本のタイトルである 「カフネ (愛しい人の髪に優しく指を通す仕草) 」 が象徴する、穏やかで思慮深く、寄り添うようなケアのあり方と重なります。
家族の再定義とつながり。疑似家族という選択
カフネという小説は、血縁だけにもとづいた家族観に対して、静かに疑問を投げかけます。
主人公の薫子と、弟の元恋人であるせつなの関係は、共通の喪失体験と、お互いを支え合う関係性にもとづいて築かれる 「疑似家族」 のような形へと発展していきます。二人のこうした関係以外にも、同性愛パートナーという関係も、社会的にはまだまだ容易に認知されにくいつながりとして描かれる場面もあります。
小説でのストーリーは、予期せぬ形で出会った人々が、深く意味のある絆を形成していく可能性を示し、現代社会における多様な家族のあり方を肯定的に描きます。
生きづらさの描写と社会問題への問いかけ
家事代行サービス 「カフネ」 を通じて、この小説は現代の日本社会が抱える様々な問題に光を当てています。
経済的な貧困、不妊やその治療、児童虐待、社会的な孤立、親や配偶者への介護による負担、合わない価値観の押し付け、女性蔑視、メンタルヘルス、LGBTQ+ の人々を取り巻く環境などです。これらの描写は、登場人物たちが直面する具体的な生きづらさによって、読者に社会の構造やあり方への問いを投げかけます。
従来の家族制度や公的支援だけでは対応しきれない現代社会に対する課題への対処です。個々人の活動だけにとどめず、地域や社会レベルでの理解と寄り添いの姿勢にもとづいた支援の必要性を示唆します。
読んでの所感
では最後のパートでは、小説 「カフネ」 を読んでの所感です。
当たり前の大切さへの気づき
本書からの 「ちゃんと食事を食べよう」 「大切な人を大切にしよう」 というメッセージは、当たり前のことの価値を、あらためて思い出させてくれます。
日々の忙しさに追われていると、つい疎かにしてしまいがちな基本的なことです。薫子やせつなの立場や状況を追体験すると、その当たり前を守り、慈しむことが、日々の生活や人生においても土台になると思わされます。
小説を最後まで読んだ後には、読者は 「自分にとって本当に大切な人は誰か」 「その大切な人を自分は大切にできているだろうか」 と、人間関係や振る舞い、生き方について考えさせられます。
小説タイトル 「カフネ」 と、物語やテーマとのつながり
「カフネ」 という、耳慣れない響きを持つポルトガル語の言葉は、小説全体のテーマと美しく響き合います。
カフネの意味は 「愛する人の髪にそっと指を通す仕草」 ですが、カフネという行為が内包する優しさ、安心感、愛情は、物語の中心にある癒しや共感にも結びつきます。
物語では、登場人物がカフネの意味通りに相手の髪に指を通す場面が描かれるシーンもあります。タイトルが持つ意味を小説のストーリーの中で具体的に体現しています。
日本の社会問題や人間関係を描写する物語に、あえてポルトガル語のタイトルでカフネを選んだことは示唆的です。
優しく寄り添うケアというテーマを強調すると同時に、言葉にしにくい、あるいは日常の中について、見過ごされがちな大切な存在への価値のことを、読者にあらためて認識させる効果を持っているように感じられます。
まとめ
今回は、小説 「カフネ (阿部暁子) 」 を取り上げました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 小説 「カフネ」 は、弟を亡くした女性と弟の元恋人が絆を深める物語。2025年の本屋大賞受賞作品
- ポルトガル語で 「愛する人の髪にそっと指を通す仕草」 を意味する 「カフネ」 というタイトルは、物語のテーマである愛、優しさと寄り添うケアを象徴する
- 「食べることは生きること」 というメッセージを読者に投げかけ、食事が人とのコミュニケーションや愛情表現として描かれ、生きる力の回復と結びつけられている
- 当たり前の存在の大切さを再認識させられ、「大切な人を大切にする」 という価値観について問いかける
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