#マーケティング #リブランディング #パーセプションチェンジ
自社の主力商品、最近の売上はいかがでしょうか?もしかしたら、長年愛されてきた商品なのに、時代の変化とともに陰りが見え始めていませんか?
今回は、カシオの腕時計シリーズ 「CASIO Collection」 の変身の秘密に迫ります。
この事例から学べる 「パーセプションチェンジ」 を掘り下げ、ビジネスに活かせるヒントをお届けします。
Casio Collection (チープカシオ)
Casio Collection は、カシオ計算機が展開する腕時計シリーズです。
製品の特徴
CASIO Collection の元をたどれば、1970年代から存在します。長年にわたり日本の中年男性を中心に支持を集めてきました。130以上のモデルを擁し、価格帯は2,200円から15,000円弱と、手頃な値段です。
Casio Collection の特徴は、シンプルで実用的な機能、高い信頼性、そして軽量なモデルにあります。製品ラインナップは多岐にわたり、時計の盤面はデジタル表示だけではなくアナログ表示のモデル、さらにはスポーツ向けやポップなデザインのモデルまで幅広くあります。
中でも、1991年に発売された F-91W-1JH は、シリーズを代表する長寿モデルです。F-91W-1JH の重さはわずか 21g という軽さが魅力のひとつとなっています。
リブランディング
実は以前は CASIO Collection というシリーズ名ではありませんでした。かつての名称は 「スタンダードウオッチ」 でした。
カシオは2021年にリブランディングを決行し、スタンダードウオッチの各モデルを 「Standard」 「For Sports」 「POP」 の3つのいずれかに分類し、名称を CASIO Collection に変更したというのが経緯です。
ファッションブランドとのコラボレーションや、カプセルトイ版の発売など、新たな展開も見せています。
Casio Collection シリーズは、若者の間でも人気を集めるようになりました。
ネットでは 「チープカシオ」 、あるいはそれを縮めた 「チプカシ」 という愛称で親しまれています。
学べること
では CASIO Collection の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
ここではキーワードを 「パーセプションチェンジ」 として掘り下げていきます。
パーセプションチェンジ
マーケティングにおける 「パーセプションチェンジ」 とは、お客さんが商品やブランドに対して持つ 「認識や価値を変化させること」 です。
商品の本質的な価値や使い方に関するお客さんの理解を書き換えることを目指します。パーセプションチェンジに成功すれば、市場でのポジショニングを確立できるだけではなく、新規市場への開拓、商品のライフサイクルの延長にもつながります。
CASIO Collection のパーセプションチェンジ
カシオの 「CASIO Collection」 (チープカシオ) の事例は、このパーセプションチェンジの成功例です。
従来のカシオの 「スタンダードウオッチ (CASIO Collection のリブランディング前のシリーズ名称) 」 は、主に40 ~ 50代の中年男性向けで、実用的な腕時計として認識されていました。手頃な価格で、腕時計として必要最低限の機能を備えた 「おじさんの腕時計」 というイメージです。
しかし、ここ最近で若者の間で人気を集めるようになり、そのイメージは変わりました。
パーセプションチェンジができた要因
カシオの CASIO Collection がパーセプションチェンジを実現できた要因は、以下のように分析できます (参考記事) 。
自然発生的なトレンドの活用
2010年代初めから、ファッション感度の高い若年層が SNS を通じて CASIO Collection の魅力を発信し始めていました。
カシオはこの自然発生的な事象をとらえ、トレンドとなるよう促進する戦略を取りました。
流通チャネルの拡大
2020年頃から、ZOZOTOWN やビームス、アーバンリサーチなど、若者向けのアパレル関連サイトや店舗での CASIO Collection の取り扱いを拡大しました。
若者たちの目に触れる機会が増え、ファッションアイテムとしての認知が広がりました。
戦略的なリブランディング
2021年には 「スタンダードウオッチ」 から 「CASIO Collection」 へとブランド名を変更。「Standard」 「For Sports」 「POP」 の3カテゴリーに分類しました。
リブランディングにより商品ラインの見え方が一新され、消費者にとってわかりやすく、選びやすいものとなりました。
既存の強みの再解釈
カシオの 「スタンダードウオッチ」 のシンプルで実用的な機能、信頼性の高さ、手頃な価格といった従来の特徴を、「CASIO Collection」 では若者向けに再解釈しました。
具体的には昔ながらのアナログさを、むしろ今の時代では新鮮でクールなものとして打ち出したことで、そのユニーク性さあか抜けしないデザインが響いた若者は、"外し感覚" でファッションに取り入れるようになりました。
多様な製品展開
若者の支持の高まりに応じて、デジタル時計とアナログ時計、見た目もカラフルなもの、スケルトンモデル、他にはカプセルトイ版の発売など、若者の興味を引く新しい製品シリーズを展開しました。
学びの汎用化
それでは、カシオの事例から得られる示唆として、マーケティングへの汎用的な学びを整理して終わりにしましょう。
環境変化や消費トレンドに注目する
今回のカシオの話は、消費者の生活環境、流行やトレンド、価値観の変容などの生活者の現状と変化を察知することの重要性を教えてくれます。
そして、変化に敏感になるだけではなく、積極的に自ら取り入れる姿勢が大事です。
既存の強みを新しい文脈で再解釈する
たとえ商品そのものは変わらないとしても、商品の魅力を今までとは異なる側面からとらえ、新しい文脈で再解釈することでビジネスの機会を見出せます。
新しい顧客層にアピールする切り口を探ることで、新たな市場を開拓できる可能性もあります。
顧客接点の重要性
商品という 「売り物」 に加え、販売される場所や顧客接点を変える 「売り方」 でもやれることはあります。
お客さんとの接点が変われば、商品やブランドへの認識、ひいては価値イメージも書き換わります。
ブランディングへの果敢な挑戦
長年築いてきたブランドイメージであっても、時代や市場の変化に合わせて、ときには再構築する勇気が必要です。
既存顧客と新規顧客の両方への訴求
従来のお客さんを維持することも大事ですが、それと同時に新しいお客さんを常に増やす取り組みもまた重要です。既存顧客と新規顧客という二兎をあえて追い、バランスの取れたアプローチが長期的な成功につながるでしょう。
段階的なアプローチ
商品やブランドへのパーセプションチェンジは一朝一夕には実現されません。カシオの事例は、長い期間で培ってきたブランド資産を活かしつつ、時代の変化に合わせて柔軟に戦略を変えていくことの重要性を示しています。
パーセプションチェンジによって、ブランドや商品に新たな命が吹き込まれ、持続的な成長につながるのです。
まとめ
今回は、カシオの腕時計シリーズの 「Casio Collection」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- マーケティングにおける 「パーセプションチェンジ」 とは、お客さんからの認識や価値イメージが変わること
- カシオの 「CASIO Collection」 は、パーセプションチェンジの成功例。従来は中年男性向けの実用的な腕時計として認識されていたが、リブランディングや SNS を効果的に使うことで、若者の間で人気になり、ブランドイメージが変わった
- カシオの事例から学べるのは、① 環境変化や消費トレンドへの察知と対応、② 既存製品の特徴の新しい文脈での再解釈、③ ブランディングの果敢な挑戦、④ 既存顧客と新規顧客のそれぞれの文脈に合った訴求
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