投稿日 2024/12/03

雪印メグミルクの 「さけるチーズ」 40年目の覚醒。市場リーダーの危機感からからのマーケティング

#マーケティング #顧客設定 #価値定義

雪印メグミルクの 「さけるチーズ」 は、商品力と高い市場シェアを持ちながら、マーケティング戦略を一から見直す必要に迫られました。

40年以上の歴史を持つロングセラー商品が、大胆な改革に踏み切った理由とは?そして、その結果はどうだったのか?

 「さけるチーズ」 の事例から、ブランドを成長させる秘訣が見えてきます。

雪印メグミルク 「さけるチーズ」 のブランド課題



雪印メグミルクの 「さけるチーズ」 は、国内のストリングチーズ市場で 90% 以上のシェアを持ち (インテージ SRI+ ストリング市場 2023年度販売金額) 、一強状態という独占した状況です。

しかし、その成長は主に商品力に依存しており、明確なマーケティング戦略が欠如していたことに課題感がありました (参考記事) 。

具体的には、さけるチーズの発売から40年以上が経過し、ブランドの強みやターゲット顧客の定義が不明確なままでした。消費者理解も不足しており、どんな人がどのような理由でさけるチーズを購入しているのかが分からず、マーケティング活動の方向性が定まらない状況に陥っていました。

これらの課題を克服するために、雪印メグミルクはさけるチーズのマーケティング戦略をゼロベースから見直す一大計画を開始しました。

さけるチーズのマーケティング


雪印メグミルクの 「さけるチーズ」 のマーケティングは、お手本のような事例です。

そこで今回は、次のマーケティングの全体像に沿って解説していきます。

  1. ターゲット顧客の明確化。例: ペルソナをつくり顧客像の解像度を高める
  2. 自社商品の選ばれている理由を掘り下げる。お客さんの視点になりお客さんは商品のどこに魅力 (お金を払ってでもほしいこと) を感じているのか
  3. 顧客視点で商品の顧客価値を言語化する
  4. その顧客価値をお客さんにどのように伝えるかのメッセージや訴求方法を考える
  5. ターゲットとするお客さんに選ばれる存在になり、お客さんに価値をもたらす


では順番に見ていきましょう。

ターゲット顧客の明確化

まず雪印メグミルクは、ターゲット顧客の明確化に取り組みました。

マーケティングを成功させるためには、購入するお客さんの詳細な理解が不可欠です。このため、雪印メグミルクは具体的なペルソナを設定し、ターゲット顧客の解像度を高めることに努めました。

ペルソナ設定のために、まず社員と消費者に対するインタビューを実施。社員インタビューでは、さけるチーズのブランドマネジメントに関わる担当者たちが、社内のヘビーユーザーである社員に詳しく聞きました。さらに、外部の消費者にもインタビューを実施し、メンバーが直接お客さんにデプスインタビュー (1対1形式のインタビュー) を行いました。

こうしたインタビュー調査から、「子育て中の共働き家庭の母親」 という具体的なペルソナが設定されました。37歳女性、正社員、時短勤務からフルタイム勤務に変更、世帯年収600万 ~ 800万円、夫と小学校1年生と3年生の子ども2人の4人家族という詳細なプロフィールが作成されました。

このペルソナを設定することで、マーケティング施策について意見が割れた際に 「この施策はこの人 (ペルソナ) に響くか」 という指針が得られました。

自社商品の選ばれている理由を掘り下げる

次に、自社商品の選ばれている理由を掘り下げることに注力しました。

消費者が 「さけるチーズ」 を選ぶ理由を理解するために、インタビューを通じてお客さんの視点に立ち、どの部分に魅力を感じているのかを深掘りしました。

インタビューから得られた発見は、さけるチーズが 「ヘルシーで楽しいもの」 として認識されており、そこにお客さんは価値を感じていることでした。

たとえば、「おなかをすかせて帰宅した子どもに、夕ご飯ができるまでの間に食べさせる」 「親も夕ご飯の準備をしながら片手で食べている」 といった具体的なシーンが浮かび上がりました。さらに、スナック菓子などを子どもに与えることにどこか罪悪感を感じる親が、さけるチーズなら 「ヘルシーな選択肢」 として支持していることが明らかになりました。

顧客視点で商品の顧客価値を言語化する

これらの調査結果をもとに、顧客視点で 「さけるチーズ」 の顧客価値を言語化しました。

さけるチーズの主なベネフィットを 「ヘルシースナック」 として位置付けられました。これにより、既存のチーズ好きの愛好家だけでなく、スナック市場からも新規顧客を獲得することを目指しました。

 「ヘルシースナック」 というベネフィットは、さけるチーズが健康的でありながら楽しいものであるというメッセージを強調しました。

顧客価値をお客さんにどのように伝えるかのメッセージや訴求方法を考える

顧客価値を効果的に伝えるためには、適切なメッセージと訴求方法への落とし込みが重要です。

雪印メグミルクはさけるチーズが提供する 「ヘルシースナック」 というベネフィットをどのように伝えるかを検討しました。さけるチーズが 「ヘルシーで楽しいおやつ」 であるというメッセージを伝えるために、以下のような整理をしました。

  • 健康的なおやつ: スナック菓子に代わる健康的な食べ物
  • 家族の時間を楽しく: 子どもが喜び、親が安心して与えられるおやつとして、家族全員が楽しめる
  • 簡単さ: 手軽に食べられる形状と、多様な食べ方ができる楽しさ


これらのメッセージを伝えるために、次のような訴求方針としました。

  • 感情に訴えるストーリー: 家族の絆や日常の楽しいシーンを描き、さけるチーズの価値を伝える広告
  • 視覚的なインパクト: パッケージデザインやビジュアルコンテンツを活用し、商品の特徴と魅力を強調
  • デジタルマーケティング: SNS やデジタル広告を活用し、ターゲット層に直接訴求する


これらのメッセージと訴求方法をもとに、具体的な施策を展開することで、お客さんに 「さけるチーズの価値」 を効果的に伝えることができます。

ターゲットとするお客さんに選ばれる存在になり、お客さんに価値をもたらす

さけるチーズはターゲット顧客に選ばれる存在になるために、雪印メグミルクは一貫したマーケティング施策を展開しました。

まず、テレビ CM では、家族の絆や日常の楽しいシーンを描き、「子どもが喜ぶおやつ」 としてのさけるチーズを訴求しました。


おなかをすかせて暴れる "はらぺこかいじゅう" にさけるチーズを渡すと、かいじゅうが子どもに戻り、うれしそうにチーズをさいて食べるというストーリーです。

さけるチーズが、子どもの喜ぶおやつとして選択肢になる様子を視覚的に示し、 「子どもが欲しがりそうだから試してみよう」 という認識変化を狙いました。

次に、お店での購入を促進するために、パッケージにも工夫をこらしました。


たとえば 「ボンバーさけチー」 というパッケージを全ラインアップに展開し、見た目のインパクトから 「これは子どもが喜んでチーズを食べてくれそうだ」 という認識を生み出すことを狙っています。店頭で消費者が実際に商品を手に取る機会を増やし、購買を促しました。

さらに、X を活用し、さけるチーズのさまざまな食べ方や楽しみ方を提案しました。さけるチーズへの 「いろいろなさき方や楽しみ方がある食べ物」 という認識を生み出し、さけるチーズでしかできないお試し体験をもたらしています。

加えて、スナック菓子を連想させるコンソメ味のさけるチーズを新たに用意しました。スナック菓子の定番の味であるコンソメ味を導入することで、おやつのシーンでの需要獲得も狙いました。

再購入を促進するために、複数個の購入でお得になるような価格政策も実行しました。ヘビーユーザーは、週末の買い物などでさけるチーズをまとめ買いすることが多く、「冷蔵庫の中にあると何かと使えるから、毎週の買い物リストに入れよう」 という習慣化を促しました。

こうした一連の施策により、2023年のさけるチーズの販売実績は、第4四半期で前年比 30% の売上を達成し、年間を通しても 13% 増加しました。ターゲットとする子育て世帯の新規顧客が増加し、ブランドのさらなる成長を実現したのです (参考記事) 。

* * *

雪印メグミルクの 「さけるチーズ」のマーケティングは、マーケティングの全体像に沿ったお手本のような好例です。

ターゲット顧客の明確化から始まり、顧客価値の言語化とそれを伝えるメッセージや訴求方法への落とし込み、そしてターゲット顧客に選ばれる存在になるための一貫した施策展開に至るまでが、きれいにつながっています。

まとめ


今回は、雪印メグミルクの 「さけるチーズ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  1. ターゲット顧客の明確化。例: ペルソナをつくり顧客像の解像度を高める
  2. 自社商品の選ばれている理由を掘り下げる。顧客視点になりお客さんは商品のどこに魅力 (お金を払ってでもほしいこと) を感じているのか
  3. 顧客視点で商品の顧客価値を言語化する
  4. その顧客価値をお客さんにどのように伝えるかのメッセージや訴求方法を考える
  5. ターゲットとするお客さんに選ばれる存在になり、お客さんに価値をもたらす


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。