投稿日 2024/12/16

県庁おもてなし課 (有川浩) 。これぞ観光マーケティングのお手本となる小説

#マーケティング #観光マーケティング #本

今回は、小説をご紹介します。


 「県庁おもてなし課 (有川浩) 」 には、マーケティングへの学びが詰まっています。

お役所仕事から顧客中心主義への変化、地域ブランディングの実践、組織文化の変革など、ビジネスパーソンが直面する課題とその解決策が生き生きと描かれています。

小説から学べる実践的なマーケティング、ぜひ一緒に紐解いていきましょう。

本書の概要



有川浩さんの小説 「県庁おもてなし課」 は、高知県を舞台にした観光振興をテーマにした物語です。

ちなみに、著者の有川浩さんが実際に高知県から観光特使を依頼された際の実体験をもとに書かれています。

小説のあらすじ

物語は、高知県庁の観光部に新しく発足した 「おもてなし課」 に所属する主人公・掛水史貴 (かけみず たかし) が、観光特使の制度を提案してつくったことから端を発して話が進みます (ちなみに実際に高知県にはおもてなし課があるようですが、この小説は架空の話です)。

おもてなし課は、最初は型にはまったお役所仕事の連続でしたが、民間人の発想と行動力に感化されて、徐々に変わっていきます。

この小説では、個性豊かな登場人物がストーリーを彩ります。

おもてなし課から観光特使の1人として主人公に依頼された東京在住の作家・吉門喬介 (よしかど きょうすけ) 、県庁を早期退職して民宿を営みながら観光コンサルタントをする清遠和政 (きよとお かずまさ) の外部の2人、そして市民感覚を持ち利発なアルバイト女性・明神多紀 (みょうじん たき) が、「おもてなし課」 に化学変化を起こします。

当初は、おもてなし課の時間間隔が民間よりもとても遅く、市民や顧客感覚の欠如による殿様商売でした。しかし、縦割り、横並び、前例踏襲というお役所意識から少しずつ変わっていき、民間を巻き込んだ企画を進め、高知県の観光を活性化させることに挑んでいくという物語です。

主人公・掛水史貴とヒロイン・明神多紀の淡い恋物語もこの小説の見どころだったりします。

読みどころ

小説の物語の読みどころは、次の通りです。

高知県庁で新設された 「おもてなし課」 での若手職員の主人公の掛水史貴を中心に、お役所仕事と民間感覚の狭間で揺れる主人公たちの奮闘劇が描かれています。登場人物の人間像や内面についても興味深く読めます。

高知県の魅力

小説では物語を通じて、地域色豊かな描写から高知県の特色や魅力を知ることができ、自分も高知に行ってみたくなる気持ちになります。

地域振興と観光ビジネスへの再発見

高知県の観光振興に取り組む中で、行政と観光という構図が印象的に描かれます。地方活性化の難しさや、具体的な現実をリアルに書かれている点が特徴的です。

地元の人たちは気づいてなかった地域の価値を再発見し、多くの人々と共有していく過程が描かれており、地域振興や観光マーケティングについて考える機会を提供してくれます。

ビジネス (新規事業をつくる) への示唆


小説 「県庁おもてなし課」 は、ビジネスパーソン、特に新規事業開発やマーケティングに携わる方にとって、多くの学びがある作品です。

ここからは、マーケティングの視点から学べることを掘り下げていきます。

顧客中心主義の重要性

高知県庁の 「おもてなし課」 の取り組みは、当初はお役所意識が強く、前例踏襲や横並び、組織の縦割りに縛られた典型的な役所仕事でした。

しかし、主人公の奮闘や外部の有識者からのサポートも得る中で、少しずつ生活者や観光客という 「顧客起点の姿勢」 に変わっていきます。

自分たちのありたい姿として言語化した 「おもてなしマインド」 を中心に据え、地域の魅力を民間や外部の目線で再発見し、顧客ニーズに合わせて高知の良さを打ち出す重要性に意識が向くようになりました。

マーケティングとブランディング

おもてなし課での高知の特徴や魅力を見出していく取り組みは、観光マーケティングの好例です。

すでに今あるものの魅力を再解釈し、見せ方を変え、売り方を変えるという、視点の変換と既存資産の有効活用はまさにマーケティングです。地方観光マーケティングとはかくあるべしというのを小説の物語を通して学べます。

高知県の魅力を効果的に伝えようとする取り組みは、地域ブランディングの実践例です。製品やサービスの価値を効果的に伝えるブランディングの方法にも示唆があります。

組織文化の変革

小説 「県庁おもてなし課」 での役所感覚と民間感覚の間で揺れる主人公たちの奮闘は、組織文化の変革についても考えさせられます。

ビジネスでも新規の事業を成功させるには、既存の組織文化や慣習にとらわれず、柔軟な考え方、そして挑戦と行動が大事であることを学べます。

小説でのおもてなし課の若手職員たちが様々な障害に挑むプロセスは、新規事業開発における困難や挫折を乗り越えることへの勇気を与えてくれます。

外部視点とステークホルダーとの関係構築

小説の物語では、高知県の観光特使として招かれたひとりの人気作家の視点が、高知の新たな魅力の発見につながりました。主人公やおもてなし課のメンバーたちも、この作家の指摘やアドバイスによって、役所感覚から少しずつ民間感覚を持てるようになっていきます。

ここから学べるのは、組織や自分たちがやっているビジネスに 「外部の目」 を取り入れることの重要性です。外部の人やお客さん、異業種との協業が新たな価値を生み出すのです。

また、小説での行政、外部有識者、地域住民、観光客など、様々なステークホルダーの利害関係を調整しながら仕事を進める様子は、ビジネスにおけるステークホルダーのマネジメントの大切さを示しています。

まとめ


今回は、書籍 「県庁おもてなし課 (有川浩) 」 を取り上げ、マーケティングの視点から学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 小説 「県庁おもてなし課」 の物語を通して、顧客中心の重要性を学べる。主人公たちは当初、お役所意識に縛られていたが、外部の視点や民間の発想を取り入れることで、観光客という 「顧客起点の姿勢」 に変わっていく

  • 高知への観光客というターゲット顧客に向けた 「おもてなしマインド」 の構築や、高知県の魅力を再発見し、既存の資産を有効活用することでの新たな価値を生み出すアプローチはマーケティングそのもの

  • 小説で描かれる組織文化の変革と外部視点の獲得は、新規事業開発においても示唆に富む。既存の常識や慣習、やり方にとらわれず、柔軟な思考と行動を取ることが、成功のカギを握る


小説 「県庁おもてなし課」 は、地域振興や観光ビジネスというテーマで、新規事業開発やマーケティングに取り組む様子を爽やかに描いています。

ビジネスパーソンにとって、マーケティングの理論だけでなく、実践的な課題や解決策を物語を通じて学べる本です。

この小説は、2011年に 「ダ・ヴィンチ」 誌のブック・オブ・ザ・イヤー総合・恋愛ランキング部門で1位を獲得するなど、多くの読者から共感を得た作品です。地方創生や観光振興にビジネスやマーケティング視点で興味がある方はもちろん、心温まる人間ドラマを楽しみたい方にもおすすめの1冊です。


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。