投稿日 2024/12/08

結婚式場運営 CRAZY のマーケティング。顧客価値を再定義し、お客さんとの絆をつくる

#マーケティング #顧客理解 #価値創出

自社のお客さんの本当の望みをどこまで理解できているでしょうか?

よく陥りがちな 「お客さん表面的なニーズのみの把握」 から脱却し、お客さんと深い絆を築くためには、どうすればいいのでしょうか?

結婚式場 「IWAI OMOTESANDO」 を運営する CRAZY (クレイジー) は、独自の顧客理解アプローチをとっています。

今回は、クレイジーの事例から、あなたのビジネスに応用できるマーケティングへの学びを紐解きます。

結婚式場の企業 CRAZY


出典: CRAZY

CRAZY (クレイジー) は、東京・表参道にある結婚式場 「IWAI OMOTESANDO」 を運営する企業です。

クレイジーは2012年に創業し、定番の形にとらわれないユニークな結婚式を提供することを特徴としています。

クレイジーの結婚式は、新郎新婦とゲストが一緒に楽しむスタイルです。ケーキカットや余興などの一般的なイベントよりも、歓談やコミュニケーションを重視します。

クレイジーは、結婚式の口コミサイト 「ウエディングパーク」 で総合評価1位を獲得するなど、高い評価を得ています (参考記事) 。

学べること


ではクレイジーから、マーケティングの観点で学べることを掘り下げていきましょう。

お客さんの理解をどうやって進めるかという顧客理解、そしてお客さんへの価値実現に示唆があります。

クレイジー顧客理解のアプローチ

クレイジーの顧客理解は、一般的な結婚式場のそれとは異なるアプローチを取ります。

通常、来店した結構式を考えているカップルへ初回面談では、「何人くらい呼ぶか」 「お花をどうするか」 「料理はどんなイメージ」 など、具体的な要素をヒアリングします。ちなみに、業界ではこれを 「新規接客」 「新規営業」 と言うそうです。

一方のクレイジーは、初回の面会でこれらの具体的な話をすぐにはしません (参考記事) 。挙式サービスを売り込むことはせず、まずは挙式への本当の望みを掘り下げ、2人にとって他ではできない結婚式となることを目指します。

具体的な質問の前に、「結婚式という人生の節目をどういうものにしたいか」 や 「誰のためにやりたいか」 といった抽象的で感情的な価値につながるところから始めます。

挙式を予定しているカップルの2人にとって、最良の結婚式になることを最優先に考えてのことです。クレイジーは場合によっては、自社が運営する結婚式場の IWAI で結婚式を挙げない選択を勧めることもあるそうです。

このように、クレイジーは企業と顧客の関係でありながらも、ドライな関係になることはせず、人と人との関係性を築こうとしています。

顧客価値の定義

クレイジーは、初回面談からお客さんとの対話を大事にしています。

最終的には具体的な話はしますが、話題に挙げるのは後回しにし、まずは 「なぜ結婚式をしたいのか (Why) 」 、「誰のためにやりたいのか (Who) 」 、「何を提供するのか (What) 」 という、具体的なレベル (How) よりも上位概念から話を進めるのです。

たとえば 「結婚式という節目をどういうイベントにしたいか」 という問いかけによって、挙式を考えている2人が結婚式に対する思いや意図を深く考えるきっかけを提供します。

このアプローチにより、クレイジーはお客さんの深層心理に触れ、カップルにとって人生のパートナーとして立ち場になることを目指します。そして、お客さんの感情や希望に寄り添い、相手にとっての結婚の意味合いや求める価値を見出そうというわけです。

このプロセスにより、クレイジーはテンプレートのような型にハマった結婚式ではなく、その2人にしかできない人生の一大イベントとなる結婚式を実現するという価値をもたらすことにつながるのです。

顧客価値の実現

クレイジーは、お客さんの本質的な望みを理解した上で、具体的なサービスへ形にします。

一般的な結婚式場では、新郎新婦が高砂に座り、ケーキカットや余興が行われるのが通常です。しかしクレイジーではこれらを取り除き、式の司会者はいるものの、時間ごとに決まった出し物もイベントもほとんどありません。新郎新婦とゲストが一緒に楽しむスタイルを採用しています。


クレイジーが大切にするのは、新郎新婦とゲストが挙式の時間通りの進行を意識することなくゆっくりと歓談でき、コミュニケーションを取る時間です。参加者全員が結婚式を通じて深いつながりを感じることを目指しています。

クレイジーの価値創出のもうひとつの側面は、結婚式が終わった後や結婚式以外の場でもお客さんとつながりを持つことです。

クレイジーは結婚式の OBOG (過去にクレイジーで結婚式を挙げたカップル) と継続的にコミュニケーションを取り、毎月の活動報告やイベントの案内を配信しています。

他には 「パーラーイワイ」 や 「CRAZY のお昼ごはん」 といったイベントを開催。クレイジーの結婚式の OBOG や関係者だけでなく、SNS などを通じて興味を持った人も参加できる機会をつくっています。クレイジーのファンや共感者を増やし、さらなるつながりを創出しています。

以上のように、クレイジーの顧客理解、顧客価値の定義、価値実現のアプローチは、マーケティングの視点から見て参考になるものです。

お客さんの本当の望みを理解し、それに応えるような価値を提供することで、お客さんと深いつながりを築けるのです。

まとめ


今回は、結婚式場とサービスを運営するクレイジーを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ 顧客理解の深化: 顧客の 「なぜ」 を掘り下げる
  • クレイジーは、一般的な結婚式場のヒアリングのように具体的な要望をいきなり聞くのではなく、お客さんの結婚式に対する 「なぜ」 という根源的な動機を紐解く
  •  「なぜ」 を理解することで、お客さんの人生に寄り添うようなパーソナルな価値を提供することを目指している

✓ 顧客価値の再定義: テンプレートから脱却し、お客さんに合わせた価値を提供
  • 従来の結婚式における決まった形式にとらわれず、クレイジーは顧客理解にもとづいたお客さん一人ひとりの結婚式を特別なイベントにする
  • 本質的な顧客ニーズに合わせて結婚式という体験そのものを再定義し、新たな価値をつくる

✓ 顧客との長期的な関係構築: コミュニティ形成を通じた顧客エンゲージメント
  • クレイジーは結婚式後もお客さんとの関係性を継続し、コミュニティを形成することで、長期的な顧客関係を築いている
  • お客さんとのタッチポイント (接点) を増やし、継続的なコミュニケーションを取ることで、お客さんからのロイヤルティを高め、リピートにつなげる。新たな顧客獲得にも貢献する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。