#マーケティング #試供品 #利用シーン
「試供品をバラまいて配るだけでいいのか?」 そんな疑問を持ったことはないでしょうか?
多くの企業が試供品を配布しますが、見込み客にただ手に取ってもらうだけでは効果は限定的です。
アース製薬の入浴剤ブランド 「BARTH」 が行ったユニークなキャンペーンは、この課題に対するヒントをもたらしてくれます。単なる商品サンプルでとどめず、ブランドの世界観と商品体験を融合させたマーケティングから、私たちは何を学べるのでしょうか?
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
入浴剤 BARTHの販促キャンペーン
日本国内の入浴剤市場で累計販売金額のシェア率1位を誇るのがアース製薬です。
アース製薬が、2023年3月にベンチャー企業 TWO (トゥー) から入浴剤ブランド 「BARTH」 を譲受しました。
BARTH の商品の中でも 「BARTH 中性重炭酸入浴料 BEAUTY (以下、バースビューティー) 」 は美容と健康に配慮した新商品として、従来の入浴剤市場に新しい風を吹き込もうとする存在です。
バースビューティーの販促キャンペーンが興味深かったです。
号外新聞 「The New Yoku Times」
キャンペーンの中心となったのは、「The New Yoku Times」 (ザ入浴タイムズ) と名付けられた号外新聞です (アメリカの新聞の The New York Times から "ニューヨーク" を "入浴" ともじっていておもしろいですね) 。
この新聞は白紙になっていましたが、よく見ると小さな文字で 「お風呂に浸かってよンで」 と書かれています。この指示に従い、湯船に新聞を浸けると、特殊印刷 (アクアフィック印刷) によって隠されていた文字が浮かび上がり、入浴に関する記事が現れるという仕掛けでした。
キャンペーンでは 「The New Yoku Times」 の新聞とともに、入浴剤の 「バースビューティー」 の試供品が配布されました。
商品特徴と利用シーンの融合
一般的には、試供品は商品を渡すだけという場合が多いですが、このキャンペーンは違いました。
注目したいのは、The New Yoku Times という号外新聞の内容がバースビューティーの使用方法と密接に結びついている点です。号外新聞という媒体から、商品の使い方や魅力を詳しく伝える工夫がなされていました。
新聞を読むために湯船に浸かる行為自体が、バースビューティーの推奨する使用方法 (15分間の入浴) を体験させる仕掛けです。新聞には 「頭までどっぷり浸かると、肌だけでなく髪までととのう」 といった具体的な入浴の方法や効果が記載され、商品の特徴を印象に残るように伝えています。
学べること
ではアース製薬の BARTH から、学べることを掘り下げていきましょう。
この事例から学びとしたいのは、試供品の配布を商品のサンプリングにとどめず、もう一歩深めた打ち手にできることです。すなわち、ブランドの世界観や商品の顧客体験を伝える機会として捉える重要性です。
商品価値の最大化
BARTH の号外新聞 「The New Yoku Times」 と試供品をセットに配った事例では、新聞を読んでもらい試供品を使った入浴という行為をキャンペーンの中心に据えました。
このアプローチの利点は、商品を配るだけでなく、その商品が最も効果を発揮するシチュエーションを消費者に体験してもらえることにあります。
バースビューティーの場合、入浴剤を湯船に入れ、ゆっくりとお湯に浸かり、さらに頭まで浸けるという具体的な使用シーンを The New Yoku Times の号外新聞の中で提案しました。消費者が実際に説明の通りに入浴をすることで、自然とバースビューティーという商品の魅力と顧客価値を最大限に感じ取ることができるわけです。
口コミ効果の創出
このキャンペーンは口コミ効果も狙っています。
The New Yoku Times には当たりくじが印刷されており、SNS で投稿することで賞品が当たるという仕組みが入っていました。
実際に、293件 (配布部数の 1.4% に相当) のユーザー生成コンテンツ (UGC) が投稿されました (参考記事) 。通常の試供品配布では得られない成果と言えるでしょう。
教育や啓蒙への波及
BARTH のキャンペーンは消費者への教育や啓蒙の観点からも効果的です。
一般的に、多くの消費者は商品の最適な使い方を知らないまま使用しています。しかしバースビューティーの事例では、The New Yoku Times というユニークな号外新聞から、商品の正しい利用方法を楽しみながら体験し、その結果として商品の特徴や使い方を学べるようになっています。
差異化からのブランディング
BARTH のキャンペーンは商品の差異化にも寄与します。
入浴剤市場では多くの競合商品が存在しますが、BARTH は 「15分間の入浴」 「頭まで浸かる」 という具体的な使い方を号外新聞から提案することで、他にはない入浴体験によって独自のポジショニングを狙っています。
さらに、キャンペーンはブランドの世界観を伝える役割も果たしています。
号外新聞を 「The New Yoku Times (ザ入浴タイムズ) 」 という遊び心のある名称にし、紙面も文字や絵があるだけではなく、白紙の新聞を湯船のお湯に浸すと文字が浮かび上がるという仕掛けは、BARTH のブランドの独自性やユーモアを打ち出しています。
ブランド全体のイメージ向上にも貢献するアプローチです。
学びの汎用化
ここまで見てきた BARTH のマーケティングは、他の商品カテゴリーにも応用できます。
たとえば、食品の試供品を配るなら、その商品を最もおいしく食べられるレシピ、他にどんなメニューを組み合わせるといいかの献立、食べるときのシーンまで一緒に入れて配布するといいでしょう。商品の価値を最大化するシチュエーションの情報も提供することで、より効果的なマーケティングになります。
BARTH の事例は、試供品をサンプリングの機会で終わらず、ブランドの世界観や商品の最適な顧客体験を伝える機会にする重要性を示しています。
商品そのものの品質はもちろんのこと、商品をどのように使うことで最大の価値と満足感を得られるかという情報は、お客さんにとって有益な情報のはずです。
たかが試供品ではなく、されど試供品。商品の魅力を最大限に引き出し、お客さんの心に刻まれるブランド体験を創出することができるのです。
まとめ
今回は、アース製薬の入浴剤ブランド 「BARTH」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 試供品配布を通じた体験型マーケティング: 試供品をただのサンプリングではなく、ブランド体験の機会として活用すると効果的。顧客接点での商品体験を深め、顧客価値の理解を促進する
- UGC を活用する口コミマーケティング: キャンペーンに SNS 投稿を促す工夫を入れることで口コミが生まれ、コミュニケーションを拡大する。お客さんを巻き込み、双方向のコミュニケーションとなることで、商品の認知度向上や話題性の獲得につながる
- 独自性を活かしたブランディングと顧客啓蒙の融合: 商品の具体的な利用シーンと方法を紹介することで、お客さんに商品価値を体験できる使い方を知ってもらえ、市場での差異化とブランド強化になる。顧客満足度の向上とブランドロイヤルティの構築に貢献できる
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