#マーケティング #ブランディング #コラボ
ブランドはどうすれば心に残る存在になれるのでしょうか?
ヒントを与えてくれるのが、玩具と化粧品という異業種が手を組んだコラボ商品 「KATE LICCA (ケイト リカ) 」 です。
子どもの記憶に残る原体験としてブランドを刻み込むこのコラボ商品には、強いブランドをつくるための示唆が詰まっています。いかに未来の顧客づくりにやっていくか、詳しく見ていきましょう。
化粧品とリカちゃんのコラボ 「KATE LICCA」
KATE LICCA (ケイト リカ) は、タカラトミーの 「リカちゃん」 と花王の化粧品ブランド 「KATE」 のコラボ商品です。
2025年4月に発売された、リカちゃん史上初の化粧品ブランドとのコラボ商品です。価格は5940円で、人形用のリップやアイシャドウでメイク遊びができます。
基本セットには、リップ2色 (レッド, オレンジ) と、アイ & チーク3色 (ピンク, ブルー, ブラウン) が付属しています。
メイクのバリエーションも豊富です。大人なブラウンメイク、キュートなピンクメイク、クールなブルーメイクといった様々なスタイルが楽しめます。また、デラックスバージョンでは、メイクパクトにミラーが追加され、アイ & チークカラーが計5色になるなど、さらに本格的です。
リカちゃん人形と言えば、上品なお嬢様イメージがありますが、KATE LICCA は一線を画し、大人っぽい、ギャルっぽいビジュアルです。ヘアスタイルも大人っぽい感じです。
KATE LICCA へのメイクは水で濡らしたティッシュで簡単に落とせるので、繰り返し遊べます。人間の肌と違いクレンジングや乳液などのお手入れは不要で、手軽にメイクができます。
では、 KATE LICCA の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
花王 KATE 側のメリットに焦点を当てて見ていきます。
特別な体験からのブランド構築
KATE にとって KATE LICCA は一過性のコラボ商品ではありません。
小学生を化粧品の 「エントリー世代」 として捉え、リカちゃんとのコラボにより、人生で初めて手にする本格的な化粧品ブランドとして 「KATE」 を位置づけようとしています。
これはブランディングの観点から、若年層への早いタイミングでのアプローチとなります。
ブランドとは
あらためて、ブランドについて見ていきましょう。
ブランドとは 「顧客からの好ましい感情が伴った商品やサービス」 です。好ましい感情とは、好き・共感・満足・誇り・憧れ・応援する気持ちです。これらの感情が深いほど強いブランドになります。
ブランドを算数の数式で表せば、「商品 + 感情 = ブランド」 です。
マーケティングでのブランドは 「お客さんの頭の中にある価値イメージや信頼」 と捉えます。つまり、ブランドは企業側が直接コントロールできるものではなく、顧客の心の中に形成されるものなのです。
化粧品ブランドでは、資生堂なら 「美の追求」 、SK-II なら 「高級感と効果」 といったように、それぞれ異なる価値イメージと感情的な結びつきを持っています。
ブランドのつくり方
では、こうした強いブランドはどのようにつくられるのでしょうか。
マーケティングの文脈でブランドとは、顧客の頭の中にある価値イメージでした。
この意味で、売り手や提供者側はブランドを直接管理することはできません。あくまで間接的に相手に働きかけをして顧客に商品・サービスへの感情移入をしてもらい、頭の中にブランドが結果としてできるようにします。
商品やサービスがブランドになっていくプロセスを整理すると、次のようになります。
- 商品やサービスのことを知ったり使う (ユーザー体験)
- 体験から好ましい感情が生まれる
- 感情移入から商品・サービスへの価値イメージができる (ブランド化)
このように 「体験 → 感情 → 価値イメージ → ブランド」 という流れが重要です。
まず、消費者やお客さんが商品を実際に使ってみるという 「体験」 があります。その体験が期待を超え、「楽しい」 「嬉しい」 「感動した」 といったポジティブな 「感情」 を呼び起こします。
そして、その感情が積み重なることで、商品や企業に対して特別な 「価値イメージ」 が形成され、それが強力な 「ブランド」 へと育っていくのです。優れたブランドを構築するには、まず質の高い顧客体験を提供することが不可欠です。
リカちゃん人形でのメイクからのブランド体験
ブランド構築のプロセスを、今回の KATE LICCA に当てはめてみましょう。
KATE にとって、化粧品に初めて触れる機会をリカちゃん人形を遊ぶような子どもの年齢という早いタイミングにしたことには、戦略的意図があります。
子どもにとって、リカちゃん人形で遊ぶ時間は特別なひとときです。そこに 「自分で化粧品を使ってメイクをする」 という、大人への憧れを満たす新しい体験が加わります。しかも、それは本物の化粧品ブランドである KATE の世界観に触れる体験です。
この特別な原体験によって、子どもたちの心の中には KATE に対して、「楽しい」 「大人っぽい」 「かっこいい」 「自由になれる」 といった、ポジティブな感情が生まれることでしょう。
YouTube や Instagram 、TikTok などの影響もあり、小学生のうちからメイクに関心を持つ子どもも普通にいる状況において、KATE LICCA のリカちゃん人形でのメイク体験は強力です。KATE LICCA は、そんな子どもたちの 「大人になりたい」 という普遍的な欲求に応える、うってつけの存在になります。
こうして年齢の早い時期に形成された KATE への好ましい感情や価値イメージは、子どもたちの頭や心の中にブランドとして残ります。その後の彼女たちが中高生や大人になったときの化粧品選びに影響を与えることでしょう。
将来、彼女たちが自分で化粧品を選ぶ年齢になったとき、数あるブランドの中から KATE を選ぶ確率は高まることが期待できます。彼女たちの頭の中には、すでに KATE というブランドが 「子どもの頃に夢中になって遊んだ、憧れの楽しいブランド」 として強くインプットされているからです。
このときの選ばれ方は 「KATE でいい」 という消去法的なものではなく、「KATE がいい」 という積極的で能動的な選択になります。言葉の上では 「で」 と 「が」 という一文字の助詞の違いに過ぎませんが、マーケティングの観点から見ると、この差は天と地ほど大きいのです。
商品やサービスに対して、「これでいい」 は他に良いものがなければ選ぶという妥協の選択とも言えますが、「これがいい」 は、他の選択肢を退けてそれを選ぶという強い意志の表れです。
KATE は、リカちゃんという絶大なブランド力を持つタカラトミーとパートナー相手として組むことにより、未来の顧客の心の中に、かけがえのないブランド体験を刻み込むことを狙いました。異業種コラボが生み出す、ブランド構築戦略です。
まとめ
今回は、花王とタカラトミーのコラボ商品 「KATE LICCA」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドとは、お客さんからの好ましい感情 (好き, 共感, 満足, 誇り, 憧れ, 応援) が伴った商品やサービス。顧客の好ましい感情が深いほど強いブランドになる
- 体験がブランドをつくる。「体験 → 感情 → 価値イメージ → ブランド」 の流れででき、質の高い顧客体験を提供することがブランド構築の出発点
- ブランドは顧客の頭の中にある価値イメージ。企業はブランドを直接つくることはできず、質の高い顧客体験を通じて間接的に働きかける必要がある
- 将来の顧客となりうる 「エントリー世代」 に対し、早いタイミングで特別なブランド体験を提供することは、将来のファンを育成することにつながる
- 優れたブランド体験は、お客さんからは 「これでいい」 という妥協の選択ではなく、「これがいい」 という積極的な指名買いを促す
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