#マーケティング #ブランディング #BGCとUGC

今回は、100 年の歴史を持つ花王のヘアケア事業が、市場シェア低迷という危機から這い上がった話です。

その転換点となったのが、BGC と UGC を戦略的に組み合わせた最適化でした。

BGC とは何か、そしていかにして苦戦から脱したのでしょうか?花王の取り組みにはマーケティングへの示唆がたくさんあります。

花王ヘアケア事業が取り組む 「BGC × UGC 最適化」 

日本のヘアケア市場において、約 100 年の歴史を持つ花王。しかし近年、1,400 円以上のハイプレミアム市場におけるシェアはわずか 1% に留まり、新興メーカーの台頭に苦戦していました。

花王は事業変革が急務でした。そこで花王が選んだのは、従来のマス広告中心のマーケティングコミュニケーションから、BGC (Brand Generated Content) と UGC (User Generated Content) を戦略的に組み合わせた最適化への転換です。

花王は BGC と UGC それぞれの役割を明確に設計しています。

[BGC] ブランドの土台形成

BGC とは、Brand Generated Content の略です。

Brand とあるように企業やブランドが主体となって制作・発信するコンテンツのことです。例えば、テレビ CM やブランド広告、公式サイトの情報などが該当します。

BGC は 「ブランドの世界観」 や 「ブランドメッセージ」 を形成する土台として機能します。

新ブランド 「melt」 では、「休息美容」 というコンセプトを軸に、ブランドムービーを制作しました。

BGC の動画として、視覚的な世界観、ナレーション、音楽のすべてを通じて、「髪のケアを通じた心身の休息」 という一貫したメッセージを発信しました。従来の商品スペック重視から、生活者が感じる感情をゴールに設定する 「感性マーケティング」 への転換を象徴する BGC です。

では次に UGC について見てみましょう。

[UGC] 多様な視点での商品理解と興味喚起

UGC は User Generated Content です。

一般ユーザーによって作られ、SNS 等で発信されるコンテンツを指します。SNS での口コミやレビュー以外にも、ブログ記事、個人の YouTube 動画などが代表例です。

UGC には商品の 「特徴理解」 や 「興味関心」 を高める役割があります。

今回の事例で注目したいのは、花王が UGC を戦略的にハンドリングしている点です。何百人ものインフルエンサー全員のコンテンツに目を通し、それぞれの個性や支持層を分析。「その人ならではの文脈」 に沿って、表現や切り口を個別に提案しています。

例えば、シャンプーブランド 「melt」 の場合、香りに特化して語る人、テクスチャーを重視する人、使用シーンを描写する人と、発信の切り口はインフルエンサーごとに多様です。しかし、「休息美容」 という melt のブランドコンセプトに一貫性があるため、どの切り口からでも最終的にブランドの核となるメッセージに着地します。

これが企業からの BGC ではない一般ユーザーの発信である UGC で実現できるのは、花王の BGC で 「休息美容」 と明確に提示した melt の世界観があるからこそです。

BGC と UGC の組み合わせが生む相乗効果

BGC と UGC を組み合わせることによって、相乗効果が生まれます。

認知と信頼の両立 - 「知っている」 から 「信頼できる」 へ

花王が発見したのは、売上と最も相関が高い KPI が 「SNS のオーガニック投稿数」 だったことです。

出典: MarkeZine

消費者からの自然な投稿であるオーガニック投稿を生むには、まずブランドが認知されていなければなりません。ここで機能するのが BGC です。新ブランドの発売時に BGC による認知獲得施策を展開し、「聞いたことがある」 「見たことがある」 という初期認知を形成します。

次にインフルエンサーを活用した UGC 施策の展開です。

消費者は 「実際に使った人が良いと言っている」 という第三者による信頼のシグナルを受け取ります。さらにその投稿に触発された購入者が自らの SNS でオーガニック投稿を行うこともあるでしょう。

BGC と UGC が連鎖し、循環によって 「知っている」 から 「信頼できる」 、そして 「買ってみたい」 へと消費者心理が進んでいきます。

メッセージの多様化 - 世界観の統一と表現の多様性

BGC と UGC の組み合わせは、メッセージの 「統一性」 と 「多様性」 を両立させます。

BGC ではブランドコンセプトを明確に定義し統制された形で発信し、UGC ではブランドの軸を保ちながらも多様な表現が展開されます。

消費者のライフスタイルや価値観が多様化する中、BGC で軸を示しつつ UGC で多様なブランドへの 「入口」 を用意することで、より多くの人に自分ごと化してもらえます。

花王の新しいシャンプーブランドの 「THE ANSWER」 では、UGC で 「塗り洗いに感動した」 という投稿が複数見られたことをきっかけに、「塗り洗い」 に特化した BGC を新たに制作しました。

消費者からの UGC から得た洞察を BGC に還元し、さらにその BGC が新たな UGC を生むという循環が、メッセージの多様化と深化を実現しました。

情報接触機会の増加 - 思い出されやすさの向上

BGC と UGC が複数のチャネルで展開されることにより、生活者がブランド情報に触れる機会が増加します。

BGC レイヤー (YouTube 広告, SNS 公式アカウントなど) と UGC レイヤー (インフルエンサーのレビュー, 友人の投稿など) から、複数のレイヤーで情報接触が起こります。

重要なのは、それぞれの接触が異なる文脈と形で行われる点です。

BGC の洗練された映像美と UGC のリアルな表現が重層的に記憶に蓄積されることで、購買決定の瞬間に 「そういえばあのブランド」 と思い出される確率が高まることでしょう。

汎用化できる実践ポイント

花王ヘアケア事業の事例から、他の業界・企業でも応用可能な実践的な学びを抽出します。

BGC で広く話題づくりを行い、UGC でリアルな評価を補完する

BGC の役割はブランド認知とイメージ構築、UGC の役割は信頼性の付与と購買意欲の向上です。

花王は売上との相関を分析し 「SNS オーガニック投稿数」 が売上につながるという、最も重要な指標であることを突き止めました。

そこから花王は 「認知 → 興味関心 → 購入 → 体験 → 投稿」 という一連の流れを設計し、それぞれのフェーズで BGC と UGC がどう機能すべきかを定義しています。

他社が応用する際のポイントは、自社のカテゴリーと顧客において売上と相関が高い KPI は何かを特定することです。

注力顧客が利用するプラットフォームを見極め、情報を最適化する

花王は 「SNS でどう火をつけるか」 を最初から意識していました。

ただ単に SNS を使うのではなく、注力顧客層が実際にどのプラットフォームを使い、どんなインフルエンサーを信頼し、どのような情報を求めているかを詳細に分析しました。

何百人ものインフルエンサー全員に対して個別に表現や切り口を提案するという徹底ぶりです。これはインフルエンサーごとの文脈に合わせた情報の最適化です。

インフルエンサーに指示しすぎると広告感が強く出てしまい、BGC が弱く世界観が曖昧だと UGC もバラバラになります。この絶妙なバランス感が大事になります。

インフルエンサー・ユーザーとの関係構築で、信頼性の高い UGC を生む

花王は UGC の 「質」 にこだわります。

やみくもに投稿数を増やすのではなく、信頼性が高く発信者の熱意のこもった UGC を生み出すことを目指しています。

そのための鍵がインフルエンサーとの丁寧な関係構築です。インフルエンサーひとりひとりの理解に努め、「その人の個性」 と 「投稿で表現してほしいこと」 を適応させていきます。

ワンチーム体制で情報共有を密にし、迅速な意思決定を実現

花王は従来の縦割り組織から、開発初期段階から関係する部門がひとつのチームのように動く 「スクラム体制」 へと移行し、さらに社外のパートナー企業ともワンチームで連携する形を作りました。

出典: MarkeZine

スクラムの体制のメリットは、BGC と UGC の最適化に向けて PDCA をしっかり回せることです。

出典: MarkeZine

関係者全員が集まるレビュー会議で UGC 投稿の反応を読み合わせる時間を設け、全員で 「何が生活者に刺さっているのか」 を把握し、次のアクションにつなげます。このスピード感が競争優位を生み出します。

効果測定と分析で PDCA を回し、持続的成果につなげる

データドリブンな最適化の継続も成功の鍵を握ります。

花王では、このくらいの BGC と UGC があれば自然とオーガニック投稿が生まれてくるというラインが見えつつあるとのことで、経験とデータの蓄積で再現性が高まってきています。

最初から完璧な設計があったわけではなく、「計画・仮説 → 実行 → 測定 → 分析 → 改善」 の PDCA サイクルを回すことで徐々に精度が上がってきたのです。

大事なのは中間指標を設定し因果関係を解明している点です。また UGC をソーシャルリスニングのツールとして活用し、どの表現が刺さっているかという洞察を BGC に還元することで、BGC の精度も上がります。

BGC と UGC を統合するマーケティング

花王ヘアケア事業の変革は、マーケティングコミュニケーションへの示唆を与えてくれます。

企業が一方的にメッセージを送る時代から、企業と生活者が共創しながらブランドを育てることへのヒントです。

BGC は企業の声、UGC は生活者の声。2 つの声が調和し共鳴することによって、ブランドという単なる商品以上の存在になります。

100 年の歴史を持つ企業が、新しい時代のマーケティングに挑戦し、結果を出している。その思想と実行力は希望を与えてくれます。

まとめ

今回は、花王ヘアケア事業の BGC × UGC 最適化の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 企業発信の BGC でブランドの世界観という土台を形成し、生活者発信の UGC で多様な視点から具体的に語り直すことで、リアルな評価を補完する
  • 売上と相関が高い KPI を特定し逆算して役割分担を設計することで、各フェーズで最適な施策を実行し効果を最大化する
  • 注力顧客が利用するプラットフォームやメディア、影響を受けるインフルエンサーを見極め、それぞれの文脈に合わせて情報を個別最適化することで共感を生み出す
  • 生活者の反応を即座に次の施策に還元する高速 PDCA サイクルを実現する
  • 企業が一方的にメッセージを送る時代から、企業と生活者が共創しながらブランドを育てる時代になると、BGC と UGC を戦略的に組み合わせることで効果的なマーケティングコミュニケーションを展開できる