#マーケティング #顧客体験 #ユースアベイラビリティ

NARS (ナーズ) のチークは通常サイズなら 5,060 円。ミニサイズなら 2,860 円です。

名古屋の @cosme STORE では、女子大学生のグループが 「えー、高くない?」 「でも、もともとは 5,000 円程度するんだよ。それに比べたら全然買える価格じゃん」 と話しながら商品を見ていました。

この 「それなら試してみようかな」 という気持ちをつくるのが、@cosme STORE (アットコスメストア) の 「ミニコスメ」 です。

今回はこの事例から、商品を思い出してもらい、買ってもらい、その先で 「使って良さがわかる」 ところまでを、マーケティングでどうつくるかを考えます。

アットコスメのミニコスメ

出典: @cosme

小売からの提案で広がるミニコスメ

ミニコスメとは、通常サイズよりも容量を小さくし、価格を抑えた化粧品です。

ミニコスメ自体は以前から @cosme の店舗などで扱われていました。アイスタイルリテールはメーカーにミニサイズ商品の販売を提案し、品揃えを広げてきました。

2025 年 3 月 5 日の旗艦店 @cosme TOKYO (原宿) のリニューアルでは、1 階の入口右側にミニコスメ専用コーナーを新設しました。プチプラからデパコス、韓国コスメまで約 50 ブランド、約 100 SKU が並びます。

ミニコスメコーナーは @cosme OSAKA、@cosme NAGOYA、札幌ステラプレイス店、金沢フォーラス店などでも展開され、公式通販の @cosme SHOPPING でも購入できます。

計画の 4 倍を売ったミニコスメ

@cosme TOKYO の約 10 平米のコーナーでは、2025 年 3 月 5 日から 31 日までの 27 日間に約 2,200 万円を売り上げ、販売個数は 1 万 5,000 個を超えました。初月売上は計画の 4 倍です。

ミニコスメには数百円台から数千円の商品があります。通常サイズでは購入を迷うデパコスも、ミニサイズになると 「この金額なら試してみたい」 という選択肢に入りやすくなります。

思い出せる、そして買える

ミニコスメが売れる理由を考えるとき、マーケティングの 「アベイラビリティ」 という考え方が役立ちます。

メンタルアベイラビリティ

メンタルアベイラビリティとは、お客さんが必要な場面で、そのブランドや商品を思い出しやすい状態です。テレビ CM や SNS、口コミなどを通じてブランドに触れる機会が増えるほど、購入を考えたときの候補に入りやすくなります。

ミニコスメコーナーには、NARS のチークやエスティ ローダーのスキンケアなど、知名度の高いブランドの商品も並びます。

名前は知っていて気になっている。いつか使ってみたい。そんな関心を持っていたブランドが、ミニサイズになって目の前に現れます。頭の中にあったブランドへの興味が、実際に商品を見る、手に取るという行動につながりやすくなります。

ミニコスメは @cosme STORE 自体の印象にも影響します。「アットコスメに行けばいろいろ試せそう」 「気になっているコスメを少しずつ使えそう」 というイメージが定着すれば、化粧品を探すときに店舗そのものを思い出してもらいやすくなります。

フィジカルアベイラビリティ

フィジカルアベイラビリティとは、お客さんが買いたいと思ったときに、商品を手に入れやすい状態です。店頭での見つけやすさ、在庫、店舗数、買いやすい価格などが関係します。

ミニコスメでは、価格が大きな役割を果たします。

ロート製薬は、2025 年 9 月 10 日発売の 「オバジ X バイタライズ リフトクリーム」 に先立ち、同クリームと化粧水、乳液のミニサイズを組み合わせた 7 日間分のセットを 2,200 円で販売しました。通常サイズの 3 点を揃えると合計 22,000 円です。

2 万円を超える商品には迷っても、2,200 円なら一度使ってみようと思う人は増えるでしょう。

NARS の 「ブラッシュ N」 も、2025 年当時は通常サイズが 5,060 円、ミニサイズが 2,860 円でした。名古屋店で女子大学生が話していた 「それに比べたら買える価格」 という言葉は、ミニコスメが果たしている役割をよく表しています (参考情報) 。

売り場にも工夫があります。@cosme TOKYO のミニコスメコーナーでは、ブランドを横断して商品が並びます。ドラッグストアの商品から百貨店系ブランドまでを一カ所で見比べられるため、目当ての商品が決まっていない人にも新しい商品との出会いが生まれます。

 「使ってわかる」 という第 3 のアベイラビリティ

ここまでのメンタルアベイラビリティは 「思い出せる」 、フィジカルアベイラビリティは 「買える」 状態でした。

私はここに、もうひとつ加えたいと考えています。それが 「ユースアベイラビリティ」 です。

ユースアベイラビリティとは

ユースアベイラビリティとは、お客さんが商品を実際に試して使い、その価値を実感しやすい状態をつくることです。これは私の造語です。

 「思い出せる」 「買える」 に続く、「使って良さがわかる」 というアベイラビリティです。

化粧品なら、自分の肌に合うか、使っていて心地よいか、続けたいと思えるかは実際に使う中でわかってきます。フルサイズを買う前に自分の肌で試せる機会があれば、商品を選ぶときの不安も小さくなります。

無料サンプルが抱える課題

化粧品には以前から無料サンプルがあります。ただ、もらったまま洗面所にしまい、結局使わなかったという経験がある人もいるのではないでしょうか。

1 ~ 2 回分のサンプルでは、良さを十分に感じにくい商品もあります。肌に合うかどうかを判断するために、もう少し長く使いたいこともあります。メーカー側から見ても、配った後に実際に使ってもらえたかを確認するのは簡単ではありません。

ミニコスメは 「試す」 を商品にした

ミニコスメは、有料だからこそ 「買ったから使ってみよう」 という気持ちが生まれやすくなります。さらに、1 ~ 2 回分のサンプルより長く使えるので、商品の良さを自分で確かめる時間も持てます。

先ほどのオバジ X のセットは 7 日間分です。2,200 円で 3 商品を 1 週間試し、自分の肌との相性や使い心地を確かめられます。そこで良さを感じれば、通常サイズ 22,000 円の購入にも納得感が生まれます。

ミニコスメは 「少量の商品」 であると同時に、顧客体験をつくる商品でもあります。価格を下げて試しやすくし、実際に使う時間をつくり、価値を自分で確かめてもらう。メーカーにとっても有料なので費用を回収しやすく、無料サンプルより続けやすい仕組みになります。

3 つのアベイラビリティをつなげる

アットコスメのミニコスメを 3 つのアベイラビリティで整理すると、次のようになります。

メンタルアベイラビリティは 「思い出せる」 状態です。@cosme STORE の 「いろいろなコスメを試せる場所」 というイメージが想起を支えます。

フィジカルアベイラビリティは 「買える」 状態です。見つけやすい専用売り場、手に取りやすい価格、ブランドを横断して比較できる品揃えがあります。

ユースアベイラビリティは 「使って良さがわかる」 状態です。ミニサイズを何度か使い、自分に合うか、本商品を買いたいと思えるかを確かめられます。

この 3 つがつながると、「思い出す → 手に取る → 使ってみる → 良さを感じる → フルサイズを買う → 継続して使う」 という流れが生まれます。良い体験が口コミで共有されれば、その体験が今度は別のお客さんのメンタルアベイラビリティを高めることもあります。

 「百聞は一見にしかず」 と言いますが、商品によっては 「百見聞は一体験にしかず」 です。商品の良さを説明するだけでなく、お客さん自身に使って確かめてもらえる状態までつくれるか。自社の商品やサービスでも考えてみたい視点です。

まとめ

  • メンタルアベイラビリティは、お客さんが必要なときにブランドや商品を思い出せる状態をつくる
  • フィジカルアベイラビリティは、思い出した商品を見つけ、手に取り、買いやすい状態をつくる
  • ユースアベイラビリティは、実際に使ってもらい、自分にとっての価値を実感しやすい状態をつくる
  •  「思い出せる → 買える → 使って良さがわかる」 までをつなげると、購入から継続利用、ファン化へ進みやすくなる