2013/01/27

ちゃんと役に立っている「働かないアリ」が教えてくれた3つのこと




アリと言えば働き者というイメージがあります。地面に目を向けて見れば自分より大きな虫を運んでいたり、律儀に列をつくっていたり。真面目というか愚直というか。イソップ童話のアリとキリギリスでも、アリはそういう象徴です。

ところが、様々な研究からわかってきたのは、働きアリの中には全く働いていないアリが存在しているということ。

ある瞬間だけを見ると、なんと巣の中の7割くらいの働きアリは何もしていないそうです。さらに、ずっと1つの巣を継続観察すると、全く働かないアリも1割くらいいるとか。もはや「働きアリじゃないやろ」と思わずツッコミを入れたくなります。

そんなことが書かれているのが「働かないアリに意義がある」という本でした。蟻の生態系の他にも蜂だったりと、昆虫社会の意外な特徴がわかりやすく紹介されています。時に私たち人間社会との共通点や違いも説明があり、身につまされる。虫たちも生きていくために集団をつくって、彼らは彼らの社会を形成している。奥が深いなと。

「働かないアリ」はなぜ働かないのか?


この本を読もうと思ったのは「なぜ働かないアリがいるのか?」を知りたかったからです。

まずわかったのは、働かないアリたちは「働きたくないから働かない」のではないそうです。働きたいけど動かない、というほうが正しいとのこと。ここは働くアリと働かないアリが存在する以下のメカニズムに関係しています。

アリやハチは「反応閾値」という機能を持っているそうです。反応閾値とは、行動を起こすのに必要な刺激量の限界値です。反応閾値という限界ラインを超えた刺激が与えられると行動に移せるけど、下回れば反応しないというメカニズムです。イメージとしては、刺激に対する反応の感度とか、仕事が入ってきた時にすぐに行動に移せるかどうかの腰の低さ、という感じ。反応閾値が低い=すぐ行動に移す、反応閾値が高い=行動に起こせない。

で、働きアリにはそれぞれが持つ反応閾値に個体差があるのです。例えば、人間が落としたクッキーのかけらを巣に運ぶという仕事があったとします。この仕事に対して反応閾値の低いアリAは反応し行動するけど、別のアリBは反応閾値が高いので同じ仕事なのに働かない(反応しない)わけです。つまり、反応閾値の高くて腰が重いアリが「働かないアリ」。

反応閾値の説明で納得感があったのは、「よく働くアリだけを集めてきても、結局その集団の中には働かないアリが一定数存在してしまう」こと。反応閾値はあくまで個体間での相対的なもので、よく働くアリの中でもやっぱりそれぞれが持っている反応閾値には差がある。だから、働くアリだけの集団内でも行動する・しないが現れ、一定数は働かない。

さっき書いた、「働かないアリは、働きたくないのではなく働けない」のも反応閾値に達せないと動けないから。自分の閾値を超えるような刺激(仕事)が入ってくれば、それまで行動しなかったアリたちも働くようになるのです。

働かないアリの存在メリット


働かないアリが一定数で存在するメカニズムは反応閾値の差によるものですが、次の疑問は、働かないアリが存在するメリットはあるのか?単純に考えると、働かないアリはゼロのほうが集団としてより多くの仕事ができる気がします。

ところが、アリたちの答えは逆なのです。全員が一斉に働くのではなく、あえて非効率性を保っている。理由はバッファーを持っておくこと。働かないアリ=余力、とみなしているのです。

人間の会社で例えると、日常業務で全メンバーがフルで対応していると、突発的な急ぎの仕事が入ったとたんに逼迫し、組織がまわらなくなります。それを避けるために、急な案件の対応ができるように普段からバッファーを持っておくイメージです。余力を持っておけば夕方くらいに「これ今日中にお願い」という営業メンバーから振ってきた仕事も残業することなく対応できる、これが働かないアリが存在するメリット。

他にもメリットがあり、各個体がそれぞれの反応閾値を持っていることで、上司の指示がなくても各自が仕事に反応し、組織全体で見ると仕事が効率良くまわります。実際に働きアリたちには特に上司のような仕事の振り分けや仕事量をコントロールする存在はいませんが、反応閾値の仕組みがあることで司令塔がいなくても労働分配ができているようです。

働きアリの中にも反応閾値の違いという個性があり、働かないアリも「余力」として存在意義がある。多様性を持っておくことでアリの社会はうまくまわってきた。なかなかおもしろいですよね。

働かないアリを会社に当てはめてみると


働かないアリの話は人間社会にも応用できるものです。組織においては、メンバーに個性があり多様性のあったほうがよい、という。各部署からエースだけを集めてきた組織よりも、メンバー間で仕事ができる/できないに差があったほうがチームとしては実はいいのかもしれません。

もちろん、サボろうとして働かないメンバーがいるのは話が違いますが、仕事ができるようになりたいと思っていても実際は失敗もするメンバーと、仕事はなんでもソツなくこなすメンバーがいるチーム。お客さんとのコミュニケーションが得意なメンバーがいて、データを集めてきたり分析が得意なメンバーなど、それぞれが別の強みを持っているチーム。

一見すると非効率だけど、長い目で見ると効率の良い組織だと思います。自分の得意な仕事があって、メンバーが互いに不得意なメンバーに知っていること・得意分野を教え合う。組織全体が底上げされ向上していく。常に全員がしゃかりきに働き余裕がない組織よりも、バッファーを用意しておいて緊急時にも対応できるチーム。確かに自分がその組織に責任を持つ上の立場だったとしたらこのほうが安心感があります。

個人のあり方に当てはめてみる


働かないアリの考え方は個人のあり方にも参考になると思っています。働かないアリの話からの示唆をあらためて整理すると、

  • 働かないという余力/バッファーを持っておく
  • 個性とか多様性が大事
  • 短期的には非効率でも長期では合理的

この3つを個人レベルに当てはめてみると、

働かないという余力/バッファーを持っておく:常に目いっぱいの状態よりも、ギアを1つ落としておく。余力を持っておくことで急なことにも対応できる。フルスピードにするのは本当に必要な時。仕事でもプライベートでも。見方を変えれば、自分で自分の限界をつくらないこと。いつでも1つ余裕を持っておく意識。

個性とか多様性が大事:自分は人と違っていてよい、という考え方。個性があることで組織全体に多様性ができてメリットになるのだから。

短期的には非効率でも長期では合理的:今やっていることがこの先に何の役に立つのかわからなくても、後からその経験が活かせることってよくあります。つまらない仕事でも、それをやっていたから今があるというか。同じ経験でも活かせるかどうかは、表面的な知識・スキルではなく、仕組みやメカニズムの理解だったりします。本質理解が重要。幹ができているのでいろんな花が咲かすことができる。

最後に


働きアリなのに「働かないアリ」がいる。なかなか奥の深い話でした。

アリたちも集団をつくって自分たちの社会を形成している。働かないアリという個性が、集団としては余力になっていて、非常時には活躍する。結果、社会全体が存続する。普段はなかなか目を向けない地面の中で、うまくできているこんな仕組みがあったのです。


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2013/01/26

ファブラボ4.0:人工物が生物のようになる未来世界

ロングテールやフリーミアムの概念を提唱したクリス・アンダーソンが次に注目しているのが「ものづくり革命」です。以前のエントリーでも取り上げましたが、Webの世界で起こった革命がモノづくりでも起こる、としています。参考:「MAKERS」書評:Web世界で起こった革命がモノづくりでも起こる未来は明るいのか?|思考の整理日記

クリス・アンダーソンの著書「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」は概念の説明が主でしたが、こちらの「FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる『つくりかたの未来』」という本は、事例を中心に書かれたものです。MITメディアラボの人気授業「(ほぼ)なんでもつくる方法」体験記、世界各地のファブラボの活動など、ムーブメントの最前線が紹介されています。

■ファブラボの4つの進化構想

「Fablife」のほうでおもしろかったのは、未来のものづくりの進化構想でした。

本書では、デジタル工作機械をシェアし実際に顔をあわせてつくるための知識・スキルの交換・共有を行なう工房をファブラボと呼んでいます。このファブラボの進化構想の段階として、1.0、2.0、3.0、4.0があると言います。
  • ファブラボ1.0:現在、取り組まれている3Dプリンタなどからものをつくる段階。素材があり、それを自分たちで加工しつくる
  • ファブラボ2.0:1.0では3Dプリンタなどの工作機械は市販のものを買うことになりますが、2.0では工作機械そのものを自分たちでつくれる段階。ファブラボは工作機械を使う場所から工作機械をつくる場所へ
  • ファブラボ3.0:つくったものの分解・組み立てができる。つくったものでも不要になれば自分たちで簡単に分解し部品に戻し、他のものにまた組み立てられるようになる。本書では「人工物の循環」と呼んでいる
  • ファブラボ4.0:もの自身が自律的に動き自らを「変形」、「分解」し「組み立てたり」するようになる。これはものを構成する最小単位にコンピューターと動力装置(アクチュエーター)が組み込まれることで実現される。ブログラムできる物質(Program Matter)とも呼ばれる。人工物が知能と駆動系を持つことでまるで生物のようになる

■ファブラボ4.0をイメージしてみる

興味深いと思ったのは、最後のファブラボ4.0。

生物のような人工物?それってどういうこと?というのがまず始めに思ったことでした。

イメージしやすいのは人工物が自らの色や形を、自らの意思で変えることです。色を変えるというのはカメレオンのように、建造物であればまわりの景観に合わせて変わる。完全に自らの意思ではなくとも、人の指示により色を変えることもできそうです。車であればホワイトがデフォルトだけど、その日の気分で黒やブルーにする、とか。

色が変わる以上にインパクトがあるのは、形状そのものが変わることです。自動車を例に取れば、乗車人数に合わせて軽自動車サイズから、SUVに自由に変えられるというイメージだと思います。走行する道路に合わせて、普通車からスポーツカータイプ、オフロードでは4WDになる、みたいな。これも人間が変更するようにコントロールできたり、車自らが判断して変わることもできるようになるのかもしれません。

形が物体自らの意思で変えられるということは、自己修復/再生ができるということです。人間も含め動物はケガをしても、ある程度の損傷範囲であれば細胞が再生し一定時間後に元通りの身体になります。ひざを擦りむいても放っておいたらかさぶたを経ていつの間にか傷が治るように、モノでも多少の損傷や故障であれば自らの判断で直せる。自己回復以上の破壊であれば死を迎える。ここまでのレベルになると、「人工物が生物のようになる」が少しリアルにイメージできます。

表面的には損傷がわからないようなレベルでも、私たちが新陳代謝を経て日々細胞が新しく生まれ変わるように、物体も人間には見えない範囲で時々刻々で構成要素を新しくできるようになるかもしれません。プログラムのバグがあれば、悪性ガンのような物体に悪影響を及ぼす構成要素が突然変異で生まれる、ということが起こるのかも。

★  ★  ★

ファブラボの進化構想で説明された4つの段階で、3.0まではまぁできそうだよね、という感じの印象でした(現実に技術的にできるようになりそれを低コストでの実現は、それはそれでハードル高いと思いますが)。

4.0は上記で見たように、3.0までとは別次元の世界だという印象です。知能と動力を与えられたモノがあたかも生物のように振る舞う。そもそも技術的に実現可能かもあるし、仮にできたとしてそれは社会に受け入れられるのか。なんかSF映画とかでありそうなテーマですが、技術/テクノロジーの話よりも、生物とは・人間とはの倫理的な議論を呼びそうです。未来では、クローン人間が普通にいて、人工物も生物のように振る舞う世界なのかもしれません。

こんな感じで「FabLife」という本に書かれていたファブラボの進化構想は色々と妄想できておもしろかったです。


※参考情報
「MAKERS」書評:Web世界で起こった革命がモノづくりでも起こる未来は明るいのか?|思考の整理日記


MAKERS―21世紀の産業革命が始まる
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2013/01/20

やりたいか、やりたくないか:財政破綻をした夕張市長を目指すという決断

火中の栗をひろう。

このことわざは、他人の利益のために危険をおかすことの例えとして用いられます。当時、東京都職員を自ら退職し、人生においてある決断をした1人の若者はまさにこんな覚悟だったんだと思います。

その決断とは、事実上の財政破綻をし財政再生団体となった夕張市の市長を目指すというもの。退職金はゼロ、仮に市長に当選したとしても年収は安定していた東京都職員の時よりも200万も下がる。

選挙に勝つのに必要と言われる三バン、①地盤:地元有力者とのつながり、②看板:知名度、③鞄(お金)を持ち合わせていない。夕張市長にそもそも当選するかどうかもわからない状況でした。選挙に落ちれば無職です。

もう1つ、東京都職員を辞し、夕張市長を目指す決断を決めかねることがありました。婚約者との結婚話がかなり進んでいたことです。すでに相手の両親には挨拶をすませ、ローンを組んで埼玉に買った家がある。自分の親も実家近くに息子が住んでくれることを喜んでくれている。

周囲も当然、反対の声しかなかったそうです。「馬鹿なことをするな」、「もう少し冷静になれ」、「休みを取って落ち着いて考え直せ」。

それでも、夕張市長を目指すという気持ちに至ります。「なぜ、そんな決断をしたのか」、これがやらなきゃゼロ!――財政破綻した夕張を元気にする全国最年少市長の挑戦 (岩波ジュニア新書)という本を読もうと思った時に浮かんだ疑問でした。

■やりたいか、やりたくないか

不安をあげればきりがなかったと思います。選挙に勝てるのだろうか、当選しても自分の生活はどうなるんだろう、結婚は、もし落選すれば無職になってしまう。市長を目指す夕張市は、日本一お金がない市とも言えるような事実上の財政破綻の状態にある。夕張は故郷でもなく、都庁から派遣され2年しか住んだことのない土地。

しかし、悪条件ばかりがそろっているのに、自分に「やりたいか、やりたくないのか」を問うた時、「やりたくない」という明確な答えがない自分がいたそうです。不安や心配は「やりたい」気持ちを邪魔しているだけなのではないか。そんな時に後押ししてくれたのが、英国元首相であるウイストン・チャーチルの言葉でした。
お金を失うことは小さく失うことだが、名誉を失うことは大きく失うことだ。しかし、勇気を失うことは全てを失うことだ
本書「やらなきゃゼロ!」の著者は現在の夕張の鈴木直道市長です。夕張市長を目指すという一大決心の後、苦難の道を経て2011年4月に市長に当選、現在に至ります。この本で印象に残っている内容の1つに、鈴木さんの決断があります。同世代ということもあり、もし自分が同じ状況だったらと置き換えると、とても大きな意思決定だと思いました。

何かを決める、特に自分のキャリアのターニングポイントになるような状況では、「できるか、できないか」を考えがちです。でも、そうではなくて、鈴木さんは「やりたいか、やりたくないか」という視点でした。そして「やりたい」と強く思った。チャーチルの言葉にあった勇気を決して失わなかったのです。



■市の財政破綻の現状:自治体が貧しくなるということ

「やらなきゃゼロ」という本に書かれている内容は、次の4つです(もくじがこの通りになっているわけではありません)。
  • なぜ夕張市長を目指すことにしたのか。著者の迷いや決断への経緯
  • 立候補から市長当選までの選挙活動
  • 夕張市長になってからの取り組み
  • 夕張市について。栄枯盛衰の歴史、財政破綻の現状
2007年3月に夕張市が財政再建団体に移行した時、夕張は353億円の赤字を抱えていました。この赤字額は、標準財政規模(自治体が裁量で使える財源)の8倍にものぼる規模。財政再建には歳出のカットと歳入の増加が必要で、夕張は「全国最低の行政サービス、全国最高の住民負担」と揶揄されるほど。行政サービスを徹底的に圧縮せざるを得ない状況なのです。

財政再生計画では毎年26億円の返済を17年間続けるというもの。夕張市の標準財政規模が50億円なので、家庭に例えれば500万の年収から毎年260万の借金返済が必要になります。食費や水道光熱費などの必要な生活費を確保しつつ。

なので興味深かったのは、夕張市の現状、すなわち自治体が財政破綻をするとどうなるのか。個人が貧しくなるというのはまだイメージができます。でも、市という自治体レベルで財政破綻となったら生活状況はどうなるのか。

歳出削減のため、公共サービスが削減されます。夕張市には小学校がたった1校しかないそうです。ところが、夕張市の面積は東京23区よりも広いのです(約1.2倍)。夕張では東京のように交通機関が充実しているわけではありません。夕張の小学生は通学にバスを使うそうです。冬には毎朝マイナス10度を下回るような寒さのなか。

除雪車の出動基準も厳しくなりました。市では積雪が一定レベルを超えれば除雪車を出し雪どけをしていたのですが、その基準が積雪10cm⇒15cmに変更。たった5㎝と思うかもしれませんが、夕張市は高齢者の割合が高いこともあり(高齢化率44%超)、除雪車が来てくれるかどうかは通院や買い物にも支障をきたすような影響の大きなものです。(なお、除雪車の出動基準はその後、積雪条件も考慮し柔軟に対応できるよう変更されたとのこと)

他にも市の職員の給与大幅カット、水道料金の値上げ、等もありました。自治体レベルで貧しくなるとは、このように今までは当たり前のようにあったものがなくなったり縮小されたり、あるいは値上げしないとやっていけないのです。

■夕張は日本のモデルケース

鈴木夕張市長が誕生して2013年の今年は3年目。本書では市長となってからの具体的な取り組みもいくつか紹介されており、夕張市のホームページでは政策の進捗上も公開しています。

ただし、夕張市の再生への道のりはまだまだ先は長い。財政を再建しつつ、一方で地域の活性化も図っていかなければいけません。財政再建を果たしてもその時に人々が住みよいところと思わなければ、なんのための再建かもわからなくなってしまう。そんな難しいかじ取りをしなければいけないのが現状です。

鈴木さんが東京都庁職員を辞めることを当時の石原慎太郎東京都知事に報告に行き、辞職し夕張市長を目指す言った鈴木さんに石原都知事から「お前はとんでもない勘違いやろうだな!」と言われます。

しかし、その後にこんな言葉をかけられたそうです。「いや、何事も勘違いから生まれる。後先を考えずにがむしゃらにやるうちに、当時は『勘違い』と言われていた『夢』が現実になる。裸一つで夕張に行く。そういうお前を俺は殺しはしない。」

鈴木さんの夢とは夕張という地を良くしたいという思い。これが人生の目標でもあり、市長としての目標と個人としての目標が一致しているそうです。

夕張の取り組みは、ある意味、これからの日本のモデルケースとも言えると思います。




2013/01/19

シェール革命から考える人類とエネルギー

変化の激しい世の中です。画期的な技術や仕組みで○○革命と呼ばれることも多いですよね。いろんな革命と表現される中で、個人的に注目しているのが「シェール革命」です。

■シェール革命とは

まずは、そもそものシェール革命とは何かについて。エネルギーの世界の話で、シェールにはシェールガスとシェールオイルの2つがあります。地下深くにあるシェール(頁岩)の隙間に存在する天然ガスがシェールガス、石油がシェールオイルのことです。

何が画期的なのかと言うと、シェール層の岩盤を破砕しガスや石油を取り出す技術がアメリカで開発されたことで、採掘不可能とされた大量の天然ガスや石油が現実的なコストで新たに採掘できるようになったことです。

世界の約4割のシェールガスはアメリカにあるとされており、アメリカはシェールガスの取り出しについて独占的な知財権で固め、発掘から精製までの全ての工法を確立しています。現在はアメリカは石油も天然ガスも輸入国ですが、石油は2030年代に、天然ガスは10年代後半~20年代には輸出国になると言われています。

■シェール革命の影響

シェール革命に注目している理由は、一言で言えば世界のパワーバランスを変える可能性を持っているからです。

最も大きな変化はアメリカの中東産油国依存が下がること。これにより、アメリカの世界戦略に変化が起こります。歴史的にアメリカは中東には多大なコストをかけて安定化を図ってきました。例えばサウジアラビアが典型で、現在のサウジはアメリカの支援を受けたサウード(サウド)家が建国した絶対王政国家です。支援する理由は石油というアメリカの自国の利益を確保するため。

ところが、シェール革命により自国で天然ガスや石油エネルギーがまかなえるとなると、中東に依存する必要はなくなります。これまでアメリカは「世界の警察官」として指導的な役割を担ってきました。その背景の1つにあったのがエネルギー戦略。米国の中東の戦略的な位置づけが変わる影響は大きいと思います。

産油国である中東諸国にしてみると、最大の顧客であったアメリカが離れていってしまうことになります。結果、原油の輸出先は中国などにシフトします。そうなると、中東諸国への中国の影響が大きくなり、原油を運ぶコースであるシーレーンの防衛にも中国は力をより入れるようになっていく。

シェール革命の影響はロシアにも及びます。ロシアは今までは豊富な天然ガスを輸出することで経済を支えていましたが、アメリカのシェールガスによりロシアの優位性はなくなってしまう。豊富な資源を経済成長の原動力にしてきたロシアは危機感を募らせているのです。

■現代社会とエネルギー

今回のシェール革命の話であらためて思うのが、エネルギーの重要性だったり影響の大きさです。エネルギーって、普段の私たちにとっては空気のようなあって当たり前の存在です。スイッチを入れれば電気はつくし、元栓をひねればガスが出てくる。ガソリンで動く自動車が走り、電気で走る電車で移動も簡単にできます。

現代人の生活はあらゆるモノに囲まれています。食品、衣服、家・建築物、紙、ガラス、化学・薬品、道路・鉄道、車・船舶などのありとあらゆるもの。これらの生産や輸送のために膨大なエネルギーが使われています。日本の場合、モノの生産に全エネルギー消費の約半分が、輸送や配送も含めると全エネルギー消費の3分の2だそうです。参考:書籍「エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う」(石井彰 NHK出版新書)

現代文明の特徴として、①都市部への人口集中と、②それを支える高度に組織化された社会システムです。都市部に人口が集中するので、人々に必要な食料を都市部だけでつくりまかなうことはほぼ不可能です。そこで、都市の外部で食料が生産され日々運ばれてくる。生活に必要な資源供給も同様です。上下水道や道路網など私たちが当たり前に使っている社会システムを維持するためにもエネルギーが使われます。

都市部への人口集中とそれを可能にするこうした高度な社会システムを支えているのがエネルギーです。私たちの生活は大量のエネルギーを消費することが前提で成り立っています。安くて安定した大量のエネルギー供給がなければ、私たちの暮らしは一日たりとも維持できないくらいエネルギーに依存しているのです。

■人類とエネルギー

人間も含め動物は、1つの個体が1個体分のエネルギーを獲得/維持することができて、初めてその動物は長期での生存が可能になります。「必要エネルギー=獲得エネルギー」と均等になっている状態。もし「必要エネルギー>獲得エネルギー」という不足が続けば個体数が減りやがては絶滅、「必要エネルギー<獲得エネルギー」の余裕があれば個体数は増加します。

人類の歴史を振り返ると、狩猟⇒定住農耕の変化によって、1人当たり食料エネルギー生産が向上しました。それまでの狩猟生活では1人あたり1人分の食料エネルギー獲得だったために長らく人口は定常状態にあったのが、農業が導入され安定的に食料が獲得でき、1人で1人分以上の食料が得られるようになったのです。

これは何を意味するかと言うと、全員が農業をやらなくても人類は生きていけるようになったということ。農業に従事しない余剰人口が生まれたのです。支配者はこの余った労働力を活かし、例えばピラミッドとかの建設に当てたり灌漑などの土木工事に活かすようになります。

その後の産業革命によりこの流れは加速しました。より効率のよい石炭というエネルギーが大量に使えるようになり、余剰人口がますます増え、それが新たな財やサービスを生むという好循環。これが世界規模で起こった結果、現代の高度な文明に発展したのです。土台となっているのが、エネルギーの大量消費化と効率利用の追及です。

人類の発展は、エネルギーの大量消費化と効率利用の追及の歴史でもあります。

エネルギーの大量消費化について。人類史において、文明化の段階は大きくは農業開始、産業革命、現在の情報革命です(このあたりの話は「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」という本がおもしろかったです)。エネルギー消費で見ると、農業社会に比べ産業革命により3~4倍に増加、さらに産業革命開始時と現在では、エネルギー消費は40倍に増えているのだそうです。(もちろん、この間に人口も増えているので当然社会全体でのエネルギー消費は増えるわけですが、一人当たりエネルギー消費で見ても4倍と増加している)

エネルギーの高効率化について。産業革命前はエネルギー源の主流は薪炭でした。産業革命で石炭が使われるようになり、その後はより効率のよい石油にエネルギー源に移り変わります。エネルギーの効率さを比較するために使われる「エネルギー算出/投入比率」という指標(1単位のエネルギーを取り出すのに何単位のエネルギーが必要になるかという比率)。産業革命以前の主流エネルギー源だった薪炭ではこの比率が2~3倍だったものが、石炭で40~50倍まで効率がよくなりました。石油では中東などの巨大油田ではなんと100~200倍ともなるようです。

参考:書籍「エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う」(石井彰 NHK出版新書)



人類はエネルギーをうまく利用することで、多様な食料の安定確保、衛生状態の劇的な改善、衣料や暖房による生活レベルの向上、医療技術/制度の発展、等々で、乳幼児の死亡比率低下、長寿化が実現され、産業革命以降で人口は爆発的に増えました。


 出典:国連人口基金東京事務所・改
 図引用:DIPROニュース

★  ★  ★

シェール革命は、100年や200年に1回あるかないかの革命とも言われています。あれだけグリーンニューディールを叫んでいたオバマ大統領。ここ最近あまり聞かなくなったのはシェールガス/オイルが背景にあります。

シェール革命はアメリカ発の出来事ですが、エネルギーの話は世界中でつながっているのでグローバルで影響します。中東、中国/ロシアなどの新興国、アフリカ諸国、ヨーロッパ、もちろん、エネルギーの大半を輸入に頼っている日本も例外ではありません。

日本では「エネルギー問題=原発をどうするか」にフォーカスされがちです。本来は、エネルギー源の組み合わせの見直し、供給源の安定確保、二酸化炭素削減の環境問題としての側面、発送電のネットワークをどうするか、などの視点に加え、世界ではどんなエネルギー潮流が起こっているかも注目しておきたいと思っています。


※参考情報

シェールガス|Wikipedia
2013年、シェールガス革命で世界は激変する|東洋経済オンライン
エネルギー大変革 ~岐路に立つ日本の資源戦略~|NHKクローズアップ現代
シェール革命とはいうけれど|Newsweek斜め読み(池上彰)
米政府、天然ガス純輸出国となる予想時期を前倒しへ=EIA高官|ロイター




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2013/01/13

注目しているGoogle Nowから考えるGoogleの描く未来

グーグルが提供するサービスで注目しているのがGoogle Nowです。

■Google Nowの特徴

Google Now(グーグルナウ)とはパーソナルアシスタント機能で、スマホなどの端末内のユーザー情報をもとに、そのユーザーが今必要であろう情報を提示してくれます。端末内のカレンダー情報、天気や交通状況、ユーザーのウェブ履歴などの複数のデータを連携/統合することで実現しています。

イメージとしては、カレンダーに目的地も含めて予定を登録しておくと、現在地と目的地への所要時間が提示され、駅や空港に着くと、現在時刻から次の便の出発時刻などを知らせてくれます。ユーザー自らが検索するのではなく、グーグルナウがユーザーにその時に必要な情報を提示するのが特徴です。

Introducing Google Now|YouTube


ちなみに、Google Nowの紹介ページには「Google Nowは必要な情報を必要なときに提供します」(Google Now gets you just the right information at just the right time.)と書かれています。なお、Google Nowが使えるのはAndroid 4.1以降の端末です。

冒頭で「Google Nowに注目している」と書きましたが、その理由はGoogle Nowはこれまでのグーグル提要サービスに比べて、一歩踏み込んだものだと思うからです。

比較として検索サービスとGoogle Nowを考えると、検索サービスは受け身なスタンスであるのに対し、Google Nowは能動的な性格を持っています。ユーザーがグーグルで何かを検索する際には、まず始めに検索キーワードを入れて、その後にグーグルが検索結果を返します。一方、Google Nowの特徴はユーザーがこれから必要であろう情報をGoogle Nowが判断し、ユーザーが聞かずとも知らせてくれるということ。

検索は欲しい答え(知りたい情報)をユーザーがすでに想定しているのに対し、Google Nowはユーザーが欲しいであろう情報を先回りして提示するのです。例えるならば、
  • 検索は、ユーザーが「こんな色でこれくらいの大きさの花を見つけてきて」と頼み、それに一番近い花を森の中から探し出す
  • Google Nowは、頼まれる前にユーザーの好みに応じて、「あなたが今欲しい花はこれだよね」という感じでGoogle Now自らの判断で森の中から探してきてくれる
というイメージ。

■Googleとユーザーの関係

この例えにもあるように、ポイントは「ユーザーの好みに応じて」の部分。Google Nowは、ユーザーのことをカレンダー情報、現在地や目的地、天気予報などのデバイスにあるいろんなから判断しています。

グーグルの強みはユーザーデータを広範囲に大量に集めていて、それを活用していることにあると思っています。イメージはこんな感じ↓


  • グーグル提供サービスを、ユーザーが利用すればするほど便利になる
  • グーグルも集まってくるユーザー利用情報を、①提供サービスのさらなる改善、②収益の柱である広告に活用する
ことで、ユーザーとグーグルの間で良い循環ができているのです。ここはグーグルの本質的な部分だと思っています。

で、これまではユーザー情報の収集は、どんな検索をしたか、どのウェブページを閲覧したか、Gmail、等々で、オンラインを中心にした情報でした。それに対してGogole Nowはスマホやタブレットに付いている機能なので、ユーザー情報取得範囲はオフラインにも広がります。モバイルの利用データを使える意味は大きいんですよね。

■Googleのさらなる挑戦

「そうそう、今欲しいのはこの情報なんだよね」。必要な情報をユーザーが検索しなくても、スマホがその時その時で欲しい情報を提供してくれる。

Androidを持っていないのでGoogle Nowを日常で体験したことはありませんが、自分の欲しい情報を言わなくても見せてくれるようになれば便利な機能だと思います。Google Nowというパーソナルアシスト機能が、自分にとってなくてはならないものになるかもしれません。

グーグルの狙いはまさにここで、ユーザーがどれだけグーグル提供サービスに「依存」してくれるか。依存すればするほど、それだけユーザーはグーグルを使うことになり、ユーザーデータも集まってきます。それをグーグルは広告という収益に変えることができる。グーグルの強固なビジネスモデルです。

PCをベースにしたオンラインの世界で、このモデルを築けたからこそ今のグーグルがあるわけですが、今後はこのモデルをスマホなどのモバイルや、ネットの外側のオフラインの領域でも構築できるのか。グーグルの未来を構成するカギの1つがGoogle Now。それと、グーグルが開発中のウェアラブルコンピューターの1つであるGoogle Glassです。

Google Glassも個人的にかなり注目しているプロダクトで、グーグルが描く未来の1つのカタチだと思っています。以下のYouTubeにあるイメージが実現される日もそう遠くないかもしれないですね。

Project Glass: One day...|YouTube



※参考情報

Google Now
Introducing Google Now|YouTube
Google Now - Boarding pass card|YouTube
Google、Android のGoogle Now をChromeブラウザに組み込みへ|engadget 日本版
Project Glass: One day...|YouTube


2013/01/12

あったらいいな:電子書籍で期待したいこんなサービス

Kindle Paperwhiteで電子書籍を読むことにもだいぶ慣れてきました。コンテンツがまだ十分ではない、速読には紙の本のほうがしやすい、などの電子書籍のデメリットもある一方で、メリットも感じています。例えば、
  • ストアから買ったその場でダウンロードされすぐに手に入る。紙の、購入⇒郵送⇒到着と比べて入手スピード感が違う
  • 本の気になった箇所を気軽にハイライトで残したり、ハイライトはWeb上のKindleページで一覧になっている
  • 混んでる電車ではiPod touchで読み、自宅ではKindle本体で続きを読める。デバイス間でつながる
など、電子書籍ならではの便利さがあります。

とはいえ、本が紙という物理的なモノから電子書籍というデジタル形式に変わったことの利便性はもっと出せるのではと思います。デジタルの特徴をまだまだ活用しきれていない。今回のエントリーでは電子書籍でこんなサービスがあったらいいのに、というのをいくつか書いてみます。



■紙で買った本は電子書籍でも提供される

現時点で一番期待したいのがこれのBook版です。Amazonがアメリカで開始したAutoRip。
アマゾン、CD購入でMP3も無料入手できる「AutoRip」を提供開始|CNET Japan

仕組みは単純だけどかなり魅力的で、AutoRip対応のCDを購入したユーザーにはMP3版が無償提供されるというもの。CDをアマゾンで注文すればその場で同じ曲がダウンロードでき、CDはその後に届きます。過去に購入したCDでも、AutoRip対象CDであればこのサービスが適用されるとのこと(ただし1998年以降に購入したものに限る)。

これは何を意味するかと言うと、アマゾンからその曲の「聞く権利」を買うことであり、「CDで買った曲はMP3でも同じように聞けますよ」ということ。ユーザーが買うのは曲そのものであり、本来はCDに入っていようがMP3だろうがメディアは関係ないはずなんですよね。CDなりデジタルのMP3なりはあくまで曲を届ける媒体でしかない。

で、アマゾンに期待したいのが同じ仕組みをぜひ本でもやってほしい。紙の本を買えば同じ本の電子書籍もダウンロードできるサービスです(電子書籍を買えば紙の本も無料で送ってもらえる、でもよいです)。もっと言うと、AutoRipでは過去にアマゾンでCDもMP3配布の対象で、これを電子書籍でもできるといいなと。これが実現されると、過去に買った紙の本がキンドルに入り、今持っている紙の本は大半は処分できる。本の中からちょっと何かを探す時でも検索が使えて便利になりそうなんですよね。

ただ、Mashableの記事によれば、CDで実現したAutoRipもBook版の適用は難しいのではとの指摘もあります。Why Amazon Won't Give You Free Digital Copies of Your Movies and Books|Mashable。主な理由は、
  • CDに比べて本の種類が多くその分対応が難しい
  • 出版社が受け入れない
  • 音楽ではアップルのiTunesなどのライバルがありAutoRipをやることで競争優位性を出せるが、本の分野では競争相手が少なく本でAutoRipをやるインセンティブが少ない

■電子書籍の読み放題プラン

携帯電話にはパケット利用の定額プランがありますが、同じ考え方が電子書籍でできるとおもしろいと思います。例えば月5,000円で電子書籍読み放題プラン。毎月5,000円を払えば何冊でも電子書籍がダウンロードできる仕組みです。読む本が少ない月は2000円で多い月は4000円、というようなダブル定額もあってもよさそうです。

他にも、例えば、毎月1000円で月に3冊まで、毎月3000円で月に10冊までのようなプランも。もし上限超えれば1冊ごとに課金するモデル。場合によっては広告を表示させる広告モデルも併用する。

これらの価格設定でペイできるかは運用形態がどうなって、コストがどれくらいとか、もっと精緻に詰めないといけないと思いますが、事業者側にとって毎月継続してお金が入ってくるビジネスモデルは、利用者規模とコスト削減から損益分岐を超えれば魅力があるように思います。もっとも出版社や著者との収益配分の問題など、全てのステークホルダーを満たすのにハードルがありそうですが。

■レンタルとか電子書籍図書館

電子書籍のレンタルサービスもできるかもしれません。期間限定で「読む権利」を買う。ダウンロードして一定期間後に自動削除される仕組みです。削除せずに残しておきたいニーズがあれば、追加料金を支払えば削除されずに端末内に保存しておくことができるor紙の本が買える、などの付帯サービスがあってもよさそう。

レンタルに関しては、究極は電子書籍図書館の実現だと思います。紙の本は図書館で無料で「貸出/返却」をしますが、同じ仕組みを電子書籍に適用すると、電子書籍を無料で「ダウンロード/削除」できることになります。

電子書籍はデジタル形式なので、物理的な保存場所も不要だし、そもそも紙で言う貸出は単にダウンロードに置き換わるので、貸出中という状態がなくなります。利用者だけのメリットを考えると、何冊でもダウンロードできるという夢みたいな環境です。さらには、手元の端末でダウンロードし、一定期間後に削除も自動でされるので、紙の本では貸出/返却のために図書館に足を運んでいるのが電子書籍図書館では不要になります。

ただ、レンタルや電子書籍図書館も実現にはハードルがあるとは思います。ユーザーにはメリットですが、本を提供する側である作家や出版社、あるいは町の書店だったりアマゾンなどにとっては受け入れられないでしょう。有料で売れていた電子書籍というコンテンツが公共の図書館では全部無料。提供側の各ステークホルダーは反対なはず。もし実現したとしても長期で見れば作家さんがお金を稼げなくなるのではれば書籍文化が衰退してしまうので、利用者にとっても最終的にはマイナスです。

よって、現実的には電子図書館といえどなんらかの制限が課されるはずで、例えば、
  • 電子書籍のコピーは図書館側ではできない(各図書館はファイル分の書籍購入が必要)
  • 図書館での保有分しかダウンロード/アクセス権付与(貸出)できない。例えば3ファイルなら貸し出しは3人までと、結局は本への「供給<需要」になり順番待ちが発生
  • 利用者のダウンロード/アクセス付与可能数は1日あたり○冊、月に○冊に制限
要するに、電子書籍でも紙の本の貸出/返却とかなり近い仕組みになるということです。

レンタル/貸出中のユーザー側でのコピー制限をどう付けるかも課題です。ファイル自体のコピーは防げるとしても、やろうと思えば端末で全てのページの画面キャプチャを取り、PDFでつなげば電子書籍が作れてしまいます。紙で同じことをやろうとすると全ページを印刷して本にするというコスト/紙資源が必要ですが、デジタルだと時間があり手間を惜しまなければ、紙ほどお金かからずにできてしまうんですよね。

■切り売り、まとめ買いディスカウント、福袋やキュレーション提供

電子書籍といデジタルならではの提供方法として、本の中から一部のみの切り売りもあってもいいかもです。本は全ての章を読む必要は必ずしもないので、欲しい3章だけその分値段を抑えて買う、というイメージ。

価格と手に入るコンテンツの調整は紙に比べてデジタルはやりやすいので、他にも、1~10巻までまとめて買うとディスカウント(1冊あたりの値段がお得に)、福袋のようなどんなタイトルの本が入っているかは開けてみるまでわからない売り方も考えられます。

福袋スタイルは、ビジネス、小説などのカテゴリーと、最近人気の本、定番のベストセラーなどを選べ、選択範囲で10冊とかまとめて買える仕組みです。ただし何が入っているかは買ってからのお楽しみ。福袋同様に中には読まない本も入っているかもしれませんが、トータルで見ればお得感が出るようにしておく。紙と違ってデジタルなので保存場所には困らないし、本当にいらなければ電子書籍を端末から消去してしまえばよいですし。

他には、作家や著名人が進める本が毎月一定数配信してもらえるキュレーションのサービスもよさそうです。月1,500円で○○さんが選んだおすすめ5冊が毎月送られてくる、みたいな。アパレルでは服のキュレーションサービスが出てきていているので、それの電子書籍版です。

★  ★  ★

今回のエントリーでは電子書籍でこんなサービスがあるとおもしろいのでは、というものを挙げてみました。すでにお気づきの方もいるかと思いますが、どれも他の分野では実際にある既存サービスを、電子書籍に当てはめてみたものばかりです。最初のアマゾンのAutoRipはCD、携帯電話のパケ放題やダブル定額プラン、ビデオレンタルや図書館の仕組み、精肉の量り売り/切り売り、福袋、キュレーションサービス、など。

アイデアについて書かれた名著に「アイデアのつくり方」という本があります。アイデア作成の基礎となる原理とは、アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない、と書かれています。

電子書籍でも世の中の既存アイデアを応用して、いろんなサービスができ、よりよい読書体験ができることを期待しています。


※参考情報

アマゾン、CD購入でMP3も無料入手できる「AutoRip」を提供開始|CNET Japan
AmazonのAutoRipサービスを早速試してみた―音楽CDを買うと自動的にクラウド版が提供される(日本にも展開予定)|Tech Crucn Japan
Why Amazon Won't Give You Free Digital Copies of Your Movies and Books|Mashable
電子書籍図書館は成り立つのか?|思考の整理日記


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2013/01/06

イチローが語った生き方に見る「勝ち続ける意志力」

2012年の12月29日に放送された NHK のプロフェッショナル 仕事の流儀は「イチロースペシャル 2012」と題した特別編でした。

12年シーズンのイチローは昨年からの不調が続いていました。7月にヤンキースに電撃移籍したものの、移籍後も以前のプレーは戻りませんでした。

■ イチローが語る「生き方」

そんな不振が続く状況で、イチローはあえてヒットしくいボールに手を出し、凡打を繰り返していました。

セオリーでは打ちやすい甘いコースの球を狙うものです。しかし、イチローはヒットにつながりにくい厳しいコースや相手投手の得意なボールを打とうとしていたのです。

「どうして難しいボールに手を出すのか」と聞かれたイチローは、次のように答えました。

2013/01/03

Kindle Paperwhiteを買って実感した電子書籍のメリット/デメリット、依存リスク

マーケティングでは「ドリルを買いにきた顧客のニーズは、本当はドリルが欲しいのではなく、壁に穴が開けること」という有名な例えがあります。

年末にAmazonの電子書籍端末Kindle Paperwhieを買ったのですが、この例えがそのまま当てはまると実感しています。電子書籍端末を買う顧客のニーズは、端末そのものが欲しいのではなく、「より良い読書体験」をすること。

読書体験が変わったのは単に電子書籍をキンドルで読むことだけではなく、①本を入手する、②読む、③保存する/再読する、という読書フロー全体で新しい体験になったことです。キンドル購入前の予想以上でした。

■本の入手で変わったのはスピード感

Kindle版の電子書籍をいくつか入手してみた感想として、購入⇒手元に届くまでのスピード感がこれまでの紙の本と全く違うことです。

紙の場合は当日配達だとしても半日程度のタイムラグがあります。キンドル版の場合は、電子書籍の購入ボタンを押すとキンドル端末やキンドルのアプリにすぐにダウンロードされます。この買ったらその場ですぐ読めるという感覚に慣れると、紙の本を買うスピードがとても遅く感じるようになるかもしれません。

■読みやすさは電子書籍よりも紙が優位

電子書籍をキンドル端末で読むことについて、iPhoneやiPadなどの液晶画面で読むことに比べるとKindle Paperwhiteは電子ペーパーを使っているので、かなり紙に近い印象です。さすがに紙と同等とまではいかないものの読みやすさの感覚としては、紙>電子ペーパー>>>液晶画面、という感じ。

ちなみに、ここで言う「読みやすさ」というのは、文字の読む早さ×理解度。キンドル購入前もiPhoneやiPadで電子書籍をいくつか持っていましたが、液晶画面で読むということにどうも慣れませんでした。色々と考えながら読む本であるほど、「紙のほうが良い」と感じたのです。

おそらく、理解度について「紙/電子ペーパーvs液晶画面」の違いは、以前に話題になった下記で指摘されていることではと思っています。プリントアウトした方が間違いに気づきやすいワケ|A Successful Failure

記事の趣旨は、紙/電子ペーパーを読む時と液晶画面で読む時とで脳のモードが異なり、
  • 紙/電子ペーパー:脳は分析・批評モードで働く。論文や技術書、教科書などを読むには適したデバイスであると言えるかもしれない。文章の校正を行う際にも有用だろう
  • 液晶画面:脳はパタン認識・くつろぎモードに。小説や詩などの感情に訴える作品を読む場合に適している可能性がある
ただ、キンドルも読むことへの課題はあると思っていて、ページをめくるスピードは紙のほうが断然早いです。キンドルは次のページへ進む時は電子ペーパー上で文字の書き換えが発生し、この切り替えスピードがまだまだ遅いです。自分の本の読み方は、まず全体をざっと眺める感じでページをめくっていくのですが、それが電子書籍だとやりにくいんですよね。ページをめくる操作性においては紙が優位です。このへんは技術的な問題なので今後は改善していくと思いますが。

■本の保存性はデジタルに軍配

本の保存性については、電子書籍の得意領域です。保存は、本に書かれている内容で気になった部分のメモ(ハイライト)だったり、メモ部分を後からすぐに確認できる検索性、デジタルなので物理的な保管スペースが不要である、など。

音楽鑑賞の世界では、ソニーのウォークマンが「音楽を外に持ち歩いて聴ける」という価値を提供し、アップルのiPodが「ポケットに1,000曲を入れられる」という価値をもたらしました。キンドルなどの電子書籍端末もそれと同じインパクトをユーザーが実感するようになるはず。入手した電子書籍コンテンツの数が増えるほど、メリットを感じるようになるのではないでしょうか。

■コンテンツがつながる心地よさ

①本を入手する、②読む、③保存する/再読する、の読書フロー全体で共通するキンドルの良さは、電子書籍の同期性にあります。Kindle版の電子書籍コンテンツは、キンドルというアマゾンの専用デバイスだけではなく、iPhoneなどのiOS向けやAndroid用のキンドルアプリでも読むことができます。同期性というのは、Kindle版電子書籍をダウンロードするとデバイス/アプリのどの環境でも読めて、読んだ途中の箇所もデバイス-アプリ間で同期されることです。

特に読んだ場所が同期するのが便利で、例えば出かける前は家でKindleで98ページまで読み、電車の中ではiPhoneで続きの98ページから180ページまで読む、帰宅後に残りを読み終える、みたいなイメージです。読むデバイスが変わる度に「さっきはどこまで読んだっけ?」と思い出して該当ページを探す必要がなく、異なるデバイスであたかも一冊の本のようにつながっている環境です。

■Amazonのビジネスモデル

以下の図は書籍「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」に出てくるアマゾンのビジネスモデルです。この図はアマゾンのジェフ・ベゾスCEOがアマゾンを始める当初から思い描いていたものだそうです。

注目したいのは、トラフィックの増大や低コスト構造などのアクションが全て「顧客の経験」に結びついていることです。つまり、アマゾンのベースなっている考え方はユーザー体験を重視するもの。

電子書籍で言うユーザー体験とは、快適な読書環境の提案/提供でしょう。アマゾンが電子書籍ビジネスでやったことは、キンドルの端末価格を安くし、今後はKindle版の書籍を増やし、キンドルからも本を買えるという使い勝手の良さ、などなど。あくまで顧客の読書体験のためで、これらの施策は一貫しています。

■プラットフォームに依存する利便性とリスク

Kindleという電子書籍デバイスを買ったことで、気づけば読書の多くの部分をアマゾンに依存することになりました。これまでは本を買う/届くの部分だけで、届いた後はアマゾンでも書店も買ったものは全て同じ「紙の本」。

それが、Kindle版の電子書籍を買うと本というコンテンツ自体もアマゾンの領域に入り依存することになります。①本を入手する、②読む、③保存する/再読する、の読書フロー全体でアマゾンに一元化される。全てが一本につながる利便性がある一方で、リスクもあるように思います。

電子書籍を購入してダウンロードした実感として、本を買ったというよりも「読める権利」を取得した感覚があります。お金を払った対価としてアマゾンから閲覧権限をもらうイメージ。ということは、アマゾンからIDが消えてしまったり、万が一アマゾン自体がビジネスをやめるようなことがあると、入手したコンテンツはどうなるのか、と。アマゾンに依存するリスクです。

この問題はプラットフォームプレイヤーの力が大きくなるほど出てくるもので、アマゾンに限らずGoogleやFacebookも同様です。預けているユーザーデータや利用サービスが多いほど、何かあった時のリスクも大きくなることに。

結局、「利便性>リスク」と判断してアマゾンなりグーグルを使っていくことになりますが、いずれは問題として顕在化するような気もします。


※参考情報
プリントアウトした方が間違いに気づきやすいワケ|A Successful Failure
ドリルを売ろうとしたSonyと、穴を開けるサポートをしたAmazon|思考の整理日記



Kindle版はこちら


2013/01/01

マーケティング3.0から考える2013年も大切にしたい人生観

フィリップ・コトラーが提唱したマーケティング3.0。

マーケティングの発展を三段階に分け、製品中心だった時代を1.0、消費者志向(顧客中心)の時代を2.0、そして価値主導になる時代が3.0としています。

書籍「コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則」に詳しく書かれていて、マーケ3.0における企業のマーケティングガイドラインは、
  • 企業のミッション
  • ビジョン
  • 価値
の3つが必要といいます。それぞれ、ミッション:なぜ(Why)、ビジョン:何を(What)、価値:どのように(How)と捉えることができます。

この3つのフレームは企業だけではなく個人レベルでもそのまま当てはまり、今回のエントリーでは新年なので人生観なんかを書いてみようと思います。
  • ミッション(Why):なぜ生きるのか
  • ビジョン(What):何をしたいか/成し遂げたいか
  • 価値(How):どのように生きるか

■ミッション(Why):なぜ生きるのか

なぜ生きるのか?これに対してはやや逆説っぽいですが、「死ぬために生きる」と考えています。人も含め生命のある全てのものに等しく訪れるのが死であり、自分自身もいつかは死を迎えます。「死ぬために生きる」というのは、自分の死が訪れた時に少なくとも精神的な充実・満足をもって息を引き取りたいという考え方です。

そのために、「今」を大切にしたい、と思っています。この考え方は人生観に近いものがありますが、これまでの「今」の積み重ねが今の自分で、「今」が積み重ねの先に未来がある。だからいかに「今」を一所懸命に生きるか。全ての「今」の合計が人生であり、「死」でもある。だから死ぬために生きる、と捉えています。

■ビジョン(What):何をしたいか/成し遂げたいか

生きる上で何をしたいのか。少し抽象的な考え方で、自分がいる今の世界vsもし自分がいない別の世界を比較した時に、どれだけ自分が存在するこの世界で、ちょっとでも自分が役に立つか、存在意義を出せるか、だと思っています。数式で表現すると、
自分がいる今の世界-もし自分がいない別の世界>0
引き算をした時に0より大きいというプラスになっていることが大事で、自分がいることで何かしらのプラスにもっていきたい。

プラス幅が大きければよいのですが、とはいえ歴史に残る偉業を成し遂げたいとかっていうレベルではなく小さなことの蓄積で良いとも思っています。例えば親孝行だったりの家族を大切にすること、友人/知人と楽しく過ごす、仕事でがんばって成果を出す、とか。

■価値(How):どのように生きるか

自分の中で大切にしている価値観は次の3つです。

「大切な人」を大切にする:大切な人って、自分にとっては存在が当たり前になってきたりします。親とかが典型で、いて当然な存在であるが故に、時として大切に扱わなかったりする。だから、「大切な人」をその通りに大切にしたい。親孝行だったり家族との時間を大切にするイメージです。

かっこよく生きる:男として人としてもかっこよく生きたいし、人からそう言われるというよりも自分自身で納得のいく生き方をしたいです。基準として持っているのが、自分が小学生くらいの子どもだった時に今の自分を見てどう感じるか、というもの。小学生の自分が「かっこいい」と思ってくれるような行動や選択を現在の自分がしたいと思っています。

常に成長し続ける:極端な話、死ぬまで何かしらの成長をしたいという思いです。なんていうか、生きている間はレベルアップをしていって、レベル99で死を迎えるのが理想だったりします。

★  ★  ★

2013年の1年を見通すうえで、自分の①ミッション、②ビジョン、③価値、という3つがあり、その先に今年の抱負や目標・やりたいこと、あるいはやらないことを決める、があると思っています。

昨年2012年は充実したいい年でした。今年もおもしろい1年になりそうです。




※参考情報
マーケティング3.0ってなんだろう?|In the looop


コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則
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多田 翼 (書いた人)