投稿日 2024/07/22

ファンマーケティングは非効率。それでもカルビーがファンミーティングを重視する理由とは?

#マーケティング #コミュニティ #顧客理解

自社のビジネスにおいて、本当のファンとはどういう存在でしょうか?

熱心なファン層は顧客全体に占める割合は少ないかもしれませんが、その価値は計り知れません。

今回は、カルビーが注力するファンマーケティングを取り上げます。顧客ロイヤルティを強化しつつ、新しいお客さんの獲得にも乗り出し、ビジネスの長期的な成長への秘訣を探ります。

カルビーのファンミーティングの取り組み



カルビーは 「カルビーポテトチップス」 「かっぱえびせん」 「じゃがりこ」 などのロングセラーブランドを持つ、日本を代表する菓子メーカー企業です。

カルビーは、CX (カスタマーエクスペリエンス 顧客体験) の改革に力を入れており、マスマーケティングからの脱却と、ブランドへの愛着を深めるための新しい取り組みを進めています。

この一環として、2022年9月から 「ファンミーティング」 と称するイベントを開始しました。

工場見学や食べ比べ

初回の 「『ポテトチップス うすしお味』リニューアルお披露目会」 を皮切りにこれまで6回実施し、いずれのミーティングも30人ほどの参加人数に限定したイベントです。

別の 「かっぱえびせん」 のファンミーティングでは、カルビー広島工場が会場でした。工場見学を楽しんでもらうだけでなく、参加者がオリジナルのかっぱえびせんをつくる時間も設けました。

他のファンミーティングでも工場でつくりたての製品を食べてもらったり、製品の食べ比べをしてもらったりと、参加者の印象に残るような試食企画を実施しています。

参加者がブランド活動の一員に


手書き POP づくりに挑戦 (出典: 日経クロストレンド

また、「ポテトチップス 九州しょうゆ」 のファンミーティングでは、参加者自身が商品の POP (商品の情報や魅力を示して購入を促すために店舗に設置する販促ツール) を作成しました。

参加者が作った POP が実際の店頭に使われるなど、参加者もブランドの一員として活動する協同の機会を設けています。

たまたま同じテーブルになったファン同士でも盛り上がれたりと、イベントの満足度も高くなることでしょう。どのファンミーティングも、そのイベントでしかできない特別な体験をカルビーは提供しています。

自前運営へのこだわり

カルビーはファンイベントを自分たちで企画し、運営することにこだわっています。

外部の制作会社に任せれば派手な見栄えのいいイベントをつくれるかもしれませんが、それではファンは喜ぶどころか、逆に戸惑ってしまうと捉えているからです。ファンが抱くカルビーのイメージを崩さないためにも、企画から会場づくりまでカルビーの社員自らが担当します。

参加者にはファンミーティング参加によって、カルビーのメンバーの一員や仲間のように感じてもらい、熱量の高い人たちがより深くファンになってくれることを狙っています。

それでもカルビーがファンミーティングを重視する理由


ではカルビーの取り組みから、学べることを掘り下げていきましょう。

ファンマーケティングの対象顧客は全体のごく一部

ファンと言えるような商品やサービスへの熱量の高い 「心理ロイヤルティの高い人」 、または多く買ってくれる 「経済ロイヤルティの高い人」 は、全体に占める割合は多くはありません。

さらにその中で、今回のようなカルビーのファンミーティングに参加する人は、ファンの中でも限られた人たちです。つまり、ファンマーケティングが対象とする人は、人数規模で言えば全体のお客さんの中でもごく一部にしかすぎないわけです。

商品やブランド全体への売上増加の貢献を考えると、ファンミーティングに参加した人による売上増への寄与は、全体で見れば必ずしも大きくはありません。

しかし、それでもカルビーのような会社がファンミーティングを重視するのはなぜなのでしょうか?

ファンを深く理解できる場

直接的にはファンとの交流を通じて、心理ロイヤルティや経済ロイヤルティの維持または向上が目的です。

しかしそれだけではありません。ファンミーティングからは副次的な効果も期待できます。リアルな声や思いを通じてお客さんを理解することです。

具体的には、ファンからの商品に対する思いや、普段どうやって食べているか・使っているかのシチュエーションや利用シーン、食べることの意味合い、スナック菓子に求めていること、カルビーの商品に望むこと、実は感じている不満などです。

こうしたファンの気持ちや行動に加え、カルビーのお菓子やカルビー自体にファンになってくれたきっかけや原体験を聞くことができれば、お客さんについての貴重なエピソードやストーリー情報が得られます。

普段の食べ方、楽しみ方、カルビーの商品への顧客体験と心理から共通パターンを見出せれば、今はまだライトユーザーのお客さんに、これからファンになってもらえる示唆が得られます。未来のファンをつくるためのヒントがファンマーケティングを通じて獲得することができるのです。

ファンマーケティングを実施する意義

カルビーは熱量の高いファンとの直接的な関わりによってブランドの魅力をさらに高め、長期的な成長を目指しています。

イベント参加者の購買量が最大で参加前に比べて参加後で約 60% 増加するなど、消費者の購買行動にポジティブな影響を与えていることが確認されています (参考記事)。

ただし、参加者の1人ひとりの売上は伸びても、売上全体へのインパクトという意味では限定的というのが実際のところでしょう。

カルビーは、ファンミーティングを単なる販促イベントではなく、長期的な顧客関係構築のための投資と考えているのでしょう。そのため、売上への短期的なインパクトよりも、ファンとの信頼関係を築くことを重視しています。

カルビーのファンミーティングの取り組みは、直接的な売上への影響はまだ小さいものの、参加者の商品やブランドに対する理解と愛着を深めることで、中長期的な売上の支援につながると期待されています。

ファンミーティングでの特別な体験は、商品やブランドに対するファンの気持ちをより深くすることにつながり、記憶にも長く残るはずです。

参加者はカルビーの商品を想起する機会の増加にもつながり、中長期的にはブランドを支える存在になってくれることが期待できます。

そして、潜在的なファン層へのマーケティングにつなげられるところにも、ファンミーティングに取り組む意味合いがあります。

まとめ


今回はカルビーのファンミーティングへの取り組みから、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。


  • カルビーは、ファンミーティングを通じて高い心理 / 経済ロイヤルティを持つファンをさらに深く理解し、ブランドへの愛着を強化することを目指している。全体の顧客規模から見れば、熱心なファン層はごく一部に過ぎないが、長期的なブランド価値と売上の支援につなげたい考え

  • ファンとの直接の交流からは、商品やブランドに対するリアルな声や思いを聞くことができ、これらの情報は顧客理解への洞察につながる。また、参加者はイベントから商品やブランドに対する愛着を育み、記憶に残りやすくなる効果を期待できる

  • ファンマーケティングは、現在のファンだけでなく潜在的なファン層への展開も試みることで、未来のファンをつくる活動と位置づけるといい。ブランドの魅力を高め、長期的な成長を実現するための布石とする


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。